あらすじ
カワバタは胃ガンであった。手術の直後から、数年前に死んだ息子が自分をどこかに導こうとする囁きが聞こえ出す。格差社会、DV、売春――思索はどこまでも広がり、深まり、それが死の準備などではなく、新たな生の発見へとつながってゆく。発表されるや各メディアから嵐のような絶賛を浴びた、衝撃の書。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
すごい小説だった。
自分とは何か、何のために生きているのか、世の中の真実はどこにあるのか、何を信じればいいのか。
もっとも繰り返し問われるのは経済格差の問題。
小説の最後に、「胸に深々と突き刺さる矢」の正体が分かる。
でも、もしそうなら、私はその矢を抜くことはできないと思った。
その矢にとらわれることなく、「自分」という存在をあるがままに受け入れるのは難しい。
人は誰でも、過去にとらわれたり未来を想い描いたりするからだ。
そうでないと生きてはいけないと思う。
小説を通して、世界の真実を問うているのか、一人の人間の真実を問うているのか、運命の何たるかを問うているのか、愛の何たるかを問うているのかわからなくなってくるけど、多分すべてを読者に問いかけているのだろう。
内容盛りだくさんで非常に考えさせられるし、ストーリー展開自体も面白くて最後まで引き込まれる小説でした。
Posted by ブクログ
上巻は時間を掛けて、下巻は一気に読んだ。若くして癌を患って再発の可能性がある中で生きる雑誌編集長の主人公。彼の「生きる」という行為に対する根源的な問いかけに心を揺さぶられる。必然の今を生きることこそが「矢を抜く」ことになるのか。まだ自分の中で消化しきれていない。再読したい。
Posted by ブクログ
上巻よりも下巻の方が面白かったかも。
相変わらずの引用はちょっと難しい部分やくどい部分もあり、頭に入ってこないところもありましたが、カワバタがどのように救われていくのか追っていくのが面白かったです。
まさかDVから助けだしたユリエと一緒になっていくとは思いませんでした。
白石さんお得意のスピリチュアルな要素も双子に絡めて展開されていましたが、思わず納得しそうな感じでした。
Posted by ブクログ
非常にたくさんのテーマが盛り込まれてるけど、考えていることのすべてをまとめてもらっているかんじ。
まさに、揺さぶられる。
久々の衝撃。
ここから自分の考えを構築していくのが楽しいだろう、きっと。
Posted by ブクログ
結局人生に答えなんてない。
ただ一つ分かるのは今の自分の気持ち・考えなのだから、もっと自分に素直に生きよう。そして「今」という時間を大切にしよう。
この本を読み終えてそんなことを思った。
Posted by ブクログ
これから自分が搭乗する飛行機が墜落するとわかったとき、
自分だったら、どうするのだろうか。
その行動が意味することがわかっただけでも、
この作品が問いかけてくる内省の言葉はとてつもなく重い。
確かにフィクションではあるけれども、
現実の世相を反映していて、その現実に対する主人公の見識は、
社会批評に十分なっていると思う。
Posted by ブクログ
久々に上下巻にも及ぶ大作を読んだ。
でも「長い」というイメージはない。
この本は作者にとっての「哲学」なんだと思った。
編集者という職業柄をうまく使い、
時事問題・歴史問題・政治問題を絡ませながら
最後に「必然」とは何かという哲学に導いている。
主人公のカワバタをこういった哲学の道に引きずり込んだのは
生後3ヵ月でこの世を去ったユキヒコの死に他ならない。
その後の彼にとって過去や未来は存在しないにも等しいし、
結婚関係についても妻に愛人がいるとしっても取り乱すこともなく
第三者的立場から物事を見ているような感じ方だ。
【ココメモポイント】
・神が宇宙知性であり僕たち一人一人はその微小な部分だとするならば、巨人は
一体何を思惟しているのであろうか?また巨人は一体何を知りたくて思惟しているのであろうか?
P.47
・二度と会うことのない人は、僕たちにとって「もうこの世にいない」との同じだ。
P.102
・子育てなんて一時的なものです。妻というのは、一緒に年老いていく相手です。
だが、彼女はそういう対象ではまったくないですね。
P.150
・体験や経験が人生の本体だとすれば、人間はなぜそういう本体の内容はどんどん忘れ、
折々で頭の中に詰め込んだ瑣末な知識はしっかりと憶えていられるのだろうか。
P.171
・他人のことを幸福だと思うので「あなたは客観的事実として幸福なのですから、
そのこと納得し決して不平不満を述べないようにしてください」と
押し付けてるのと同じだ。その本人の幸福とは何一つ関わりなんてないんだよ。
P.264
・僕たちは今の中にしか生きられない。歴史の中に僕たちはもうどこにもいないのだ。
過去の中にもこれからの過去の中にも僕たちはどこにもいない。
今、この瞬間の中にしかいない。この瞬間だけが僕たちなのだ。
時間に欺かれてはならない。時間に身を委ねたり、時間を基軸として計画を練ったりしてはならない。
そういう過ちを犯した瞬間、僕たちは未然のものとなり、永遠に自らの必然から遠ざけられてしまう。
P.317
Posted by ブクログ
上巻と同じように理屈の捏ね回しは続きつつも、物語も動き出してなかなかに面白い。ただ、突然逃亡犯を捕まえる展開になったり、政治家がスピリチュアルなことを言い出したり、意外な人の結びつきが合ったり、少し強引な雰囲気もあった。小説だからある程度は仕方ないけれど。
良くも悪くも濃厚でてんこ盛りな一種のカオスを恐れない実験的な小説だったと思う。
Posted by ブクログ
中村一文が書く人の一生についての話。今個人的にこの小説みたいなことばっかり考えて生きてるので、すごく身につまされる話だった。どこかのコミュニティに属していると、他人の利権争いや、他人の打算ありきで話をもちかけてこられて、すごくやりづらい。でも主人公が言っていた「必然」を意識する生き方は面白いので、俺も見習おうと思った。白石一文の書く主人公は皆、社会的に成功していて、お金にも困っていないけど、ひどく生きづらそうだ。この人の小説を読み終わったら、皆一様に生きづらさは抱えているんだなあと少し安心する。
Posted by ブクログ
これぞ白石一文というくらい、人生への考察に満ちた濃厚な小説だった。
過去も未来もない、あるのは現在だけだということ。
必然に従って生きるということ。
でも必然というのは誰がどうやって決めるのだろう。「必然だから仕方ない」という逃げ道になってしまわないだろうか。人生を大切に生きているようでいてどこか割り切った感じを主人公に覚えた。
それにしてもここまで主人公たちに「思考」させる小説も珍しい。引用の多さには少々辟易とさせられた。
それでもこの小説をクオリティを保っていられるのは白石一文のなせる業だと思う。
Posted by ブクログ
真理の追求の果てに心の解放が見えてくる。
難しい引用による読みにくさも有り、一枚一枚の話の積み重ねが、まるで修行のようだったが、この小説の中には、心に残しておきたい一節が沢山あった。誰でもがきっと一生のうちで響く時がくる気がする。自分も、余命がわかった時にもう一度読み返したい。そんな小説だった。とても良かった。
Posted by ブクログ
唐突な引用や不意に変わる展開が効果的で面白く、ストーリー運びの上手さと相まって最後まで一気に読ませられました。
ただ主人公の論理には非常に魅力的な部分もあれど、その偏狭さに段々頭痛がしてきます。すべての人の心に矢が突き刺さっているという前提のようで、彼の目を通すと非常に暗いサングラスをかけて世の中を見ている気分になります。他者に対する評価が大変厳しく、彼らに対する想像力や寛容性は殆どありませんが、ご自分には意外に点が甘く、持論には辻褄が合わない箇所も多々あります。結局自分の信条に固執するあまり多様性には狭量のようです。
恐らく議論を広げるため確信犯的に書いているのだろうけどそれにしても今一つ感じの悪い主人公だ、、、と思わせられるところは日本のミシェル・ウエルベック?巧いです。
これほどシニカルな人がどうやったら救われるのだろう、本人もあまり興味がないようだが果たして救われるのか?という興味を持ってラストに向かいましたが、彼の選択は他のと何が違ったのか、今一つ説得力に欠けます。あれが必然性なのでしょうか。ストーリーはともかく、思想的にこれだけの大風呂敷を広げてしまった後では結論が弱い感が否めません。
しかし、著者の今までの本もみなそうでしたが、共感はしないが読み進めてしまう、考えてしまう、という本で、きっとまた次作も手に取ってしまうことでしょう。
Posted by ブクログ
小説の形をとった自己啓発本、または新書みたいなもの。話自体は政治や企業の裏社会が露見される起伏が激しくないが、所々の引用が読みにくく、作者の考えにアジテーションされているような感覚に陥る。
過去や未来という矢を胸から引きぬき、今この瞬間に自らの必然によって導かれるなすべきことをなせ。
この文に貫かれるために小説のストーリーと引用が必要だった。刹那主義と一言では切り捨てることの出来ない
Posted by ブクログ
「そんなことより、もっとよく現実を見ろ。それがお前の仕事だ。問題なのは“過剰さ”ってやつだ。俺たちジャーナリストがこの世界で見逃してはいけないのは、過剰な不幸、過剰な貧困に喘いでいる人たちの姿だ。そのひとたちのために自分には何ができるのかを考えろ。俺たちにできることもやるべきこともそれだけだ。この世界がなぜこうも悲惨なのか、なぜこうまで残酷で非人間的なのか。つまりは問題や課題は一体何のために存在するのか、その一点に自分の能力を集中しろ。」う〜ん。上巻はけっこう面白かったんだけどな…。上巻からの進展が少ない。
Posted by ブクログ
この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下巻p316
「あなたはあなた自身をひたすらに見よ、と。あなた自身を常に見失わず、あなた以外のありとあらゆる存在に対して身構え、なすべきことをなせ、と。あなた以外のありとあらゆる存在を慈しみ慰めるために、いまこの瞬間に自らが欲することをなせ、と。あなたはいまここにしかいない。そのあなた自身があなたという必然の唯一の根拠なのだ、と。だから、たったいまあなたはなすべきことをなせ、と。」
語りたかった一言は結局、ここに収束するでしょう。ストーリーを書くことはふさわしくない。そういう内容だったと思う。主人公もほかの登場人物も、そして巻き起こる事件も素材でしかない。大切なのは素材ではなく本質だ、と感じた。
Posted by ブクログ
唐突に思える本やインタビューの引用から、主人公の思考へと移ったり、後で前の思考を思い直したりしながらストーリーが進む。
物事を多面的に見たり、ひとつのことを深く考えすすめるのが好きな人に向いてる本かも。
引用はどれも興味深くて考えさせられるし、ストーリー自体も自分が生きている世界と違う場所で生きている人たちが出てくるので面白く読むことができました。
この方の本は初めて読んだのですが、また別の作品も読んでみたいと思いました。
Posted by ブクログ
面白かった。というか飽きなかった。
白石一文らしい作品。
ドロドロの競争社会を生きているカワバタ。自らも汚く染まっている。
息子を幼くして亡くし、自らはガンに冒され、ヤケになっているのかすべてを諦めているのか。
それでも世界のあらゆる事象について思索を巡らせる。
長い引用には多少辟易させられたが、けっこう勉強になった。
ラストがあっさりし過ぎで物足りなさを感じるけど、読後感は良い。
フジサキリコはいったい何だったんだろう。
Posted by ブクログ
小説的過ぎる展開に多少面食らったけど、最後のほうで主人公が説く倫理観・人生観に共感する点が多々あり。ラストシーンも自分の好みでした。
ただ上巻の感想にも書いた通り、極度の性描写・暴力描写は必要ないかな。決して綺麗事が好きなのではなく、あくまでもバランスという事ですが。
Posted by ブクログ
本当にいつも最後がいい。
息するのも忘れるくらい
一文字一文字を追い、
まるでそこにいるかのような、
想像力を研ぎ澄ましてくれる描写。
自分を取り巻く不平等な世界、策略渦巻く社内人事、見せかけだけの夫婦関係、死。なぜ人は生きる。頭の良い川端は「必然」という考え方で全てをみようとしていた。運命なんかじゃないと。これまで読んだ作品の中で1番白石さんの世界観が強く盛り込まれていただけに、やや偏っているところもあり、気持ちが離れるところもあった。けれど、何より美しいラストで全てチャラ。救われた。再読したい良本。
Posted by ブクログ
物語の基軸となっている排出権絡みのスクープは、事件そのものの中身ではなく、これに関わる政治家との議論が要になっていく。政治というものをどう考えるか。より大きな理想を追い、小さな悪を受け入れるか。正面から考えれば偽善だらけの現状を変えることができるのか。
人の生き方そのものに問題提起する作品。言葉の端々にマッチョな思考回路が垣間見えるけれど、言わんとすることはとてもよく理解できる。一気読みだった。
Posted by ブクログ
意図的にミスリードして、肩透かしを食らわせる
ストーリーテリングが面白いけど
引用が多すぎて、理屈が理屈としてゴツゴツしすぎ?
小説としてはどうなんだろう?
Posted by ブクログ
先の読めない展開が読んでいる間ずっと楽しめた。引用も多くて社会やら人間やらについて考えさせられる仕掛けにもなっている。ただ個人的は突き刺さる矢はなかったかな。
Posted by ブクログ
結局最後までトーンは変わらず。
これをどう評価するかは読むときの心理状態に大きく左右されるだろうな。
少なくとも今の自分とは明らかにスタンスが違う点が多かったものの、かといって一刀両断に斬り捨てるほど否定するものでもなく…
まあ、一つの考え方を知ることができたという印象かな。
Posted by ブクログ
主人公川端はやり手の雑誌の編集長。大物代議士の不正追求、不倫、不治の病、グラビアアイドルとの奇妙な出会いを経て、少しずつ人生の歯車が狂いはじめる。待ち受ける真実は・・。生、死、愛という究極のテーマに果敢に挑む恋愛小説。この作品の特徴は二つ。一つは、求道的な禅問答を繰り返すことで、愛への真理を追求していること。そして、モーパッサン始め過去の偉人たちの言葉を引用することでより、結論に正当性を与えること。小説というよりは、哲学新書。新たなる小説の境地を描いた作品。唯一無二の周五郎賞作品です。
Posted by ブクログ
上巻はよかった
下巻はちょっとくどくて読み飛ばしてしまった
主人公の考え方もちょっと偏っている気がするけど、こうゆう人もいるいる!という感じ(多分自分の考え方と少し違うだけ?)
うーん、残念
Posted by ブクログ
表題「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」。
その「矢」とは一体何か。
生と死を、未来と過去を、日本社会と資本主義を、引用を交えながら
激しく、叩きつけるような筆圧で描かれています。
そのメッセージ色が濃すぎるため
しばしば物語が置き去りになりますが
差し引いても、その熱に触れられて良かった。
今、なすべきことをなし、丁寧に生きる。
ハードな生き方ですが少しでも近づければと。
現代経済学者、岩井克人氏の
「二十一世紀の資本主義」と合わせて読み直したい作品です。
Posted by ブクログ
白石一文の作品というと、イケメンでリッチなエリートかキャリア・ウーマン系女性が恋愛して不倫して無茶して、というパターンで、面白いのだけどどの作品がどの題名だったかなかなか区別がつかない、というイメージだった。
しかし、この作品は基本パターンは似たところにあるが、いろんな著名人の名言を引用し、かつリッチ男が社会主義的・所得の再配分とか主張するのなど新しい感ありあり。ストーリーも面白いのだけど、結局何が言いたいのが良くわからないのが玉にキズか。
Posted by ブクログ
このほんは何故パワープッシュされているのかよくわからなかった。タイトルには厨二心を惹きつけるなにかがあるのは感じるが(というか実際ひきつけられた。)
実際、中身を厨二病をこじらせたまま大人になった「資本主義って」「政治家なんて」「オトナとかって」という作家自身が伝えたいメッセージであふれていて、少しこっぱずかしい感じがした。
お話としては、登場人物を延々に混乱し続ける分かり辛さにはなんとも言えないことに加え、結末もなかなか唐突だった。
しかしながら、説教くさく、ストーリーとして大きな展開があるわけでもないのに、きちんと最後まで導く表現力と文章力は秀逸。また読みたい作家かと言われれば、少し距離を置きたい感じがするが、それでも売り出すだけの理由がある作品。なのだろうな。