中島らものレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
以前読んだ童貞アンソロジーのエッセイがすっかり私のお気に入りになった中島らもさん。
どんな本を書いている作家なんだろう?と調べてみたらまずすぐ目についたのがこちらで、曰く「すべての酒飲みに捧ぐアル中小説」。
20年近く前に出版されているんだけど、ちょうど昨年の12月に文庫が新装版になっていて、このタイミングと言いどこか私を呼んでいるかのようだった。というかきっとこの小説読んだすべての酒飲みがそう思ったことでしょう。
冒頭でいきなり緊急入院宣告を突きつけられているのは、とっくに肝臓が悪くなっていることを知りつつも酒断ちできなかった主人公の小島容。なんと飲酒量は毎日ウィスキーを一本!
同室の愉快な患者たちとの交流、横暴な医者による健康管理、シラフで現実と向き合う憂鬱、アルコールに恋い焦がれる底なしの欲求が、ユニークかつ軽妙な文章をもって綴られていく。
小島容が読んだという設定で「アルコール依存症」について書かれた様々な資料からの引用もたくさんあり、医学的知識や精神病理学的知識が深まってまるでアル中治療のための贅沢な副読本のような仕上がりになっていた。おかげで少し知識が増えました。アル中は慢性的自殺。
生きるか死ぬかの瀬戸際にいる小島容くんには悪いけれど、とにかく至るところで共感しすぎて面白かったのでいくつかご紹介。
・おれがアル中の資料をむさぼるように読んだのは結局のところ、「まだ飲める」ことを確認するためだった。
・これらの人々を眺める安心感と、こういう「ひとでなしのアル中」どもが、河ひとつ隔てた向こう側にいて、おれはまだこっち側にいるその楽観とを得るために、おれは次から次へとアルコール中毒に関する資料を集めた。ついには「アル中の本」を肴にしてウィスキーをあおる、というのがおれの日課にさえなった。
・アル中になるのは、酒を「道具」として考える人間だ。この世からどこか別の場所へ運ばれていくためのツール、薬理としてのアルコールを選んだ人間がアル中になる。
・酒の好きな奴がよく冗談で、“いや、私はもうアル中ですから”なんてことを言うだろう。本人は自分がアル中ではないと信じてるからそういう冗談も言えるんだ。ところが、冗談じゃないわけだな、これが
・バナナの皮ですべって転んでいる男と、それを見て笑っている男が、同時におれの中にいるのだ。苦痛に対する耐性を得るために、無意識のうちに自分をふたつに裂いたのかもしれない。このふたつの存在は互いを毛嫌いしているが、唯一、泥水の中にあってだけ重なり合ってひとつのものになった。このふたつが溶解し合ったときにだけ、そこからほんものの怒りや悲しみがたちのぼってくるのだった。泥酔していないときのおれは、苦笑いだけが得意な、いわば感情喪失症者だった。
・「飲む人間は、どっちかが欠けてるんですよ。自分か、自分が向かい合ってる世界か。そのどちらかか両方かに大きく欠落してるものがあるんだ。それを埋めるパテを選びまちがったのがアル中なんですよ」
・酔うというのは、体が夢を見ることだ。
いちばん最後の、天童寺さやかとバーを訪れるシーンもすごくよかった。
私もお酒はほどほどに!……とは思ってるけどね。酒飲みの友達と乾杯してこの本の感想を交換し合えたら楽しいだろうな。はやくコロナ終息して欲しいと、こんなに強く思ったの初めてかもしれない。 -
Posted by ブクログ
朝日新聞日曜版だったかで毎週楽しく読んでた記憶がある。
なかでも、次の作品は西原さんの挿絵(神様がいいよとゆうまで生きるのが人間の仕事なんだとおばあちゃんが言った。)とともに印象深く覚えてた。
努めて落ち着いたトーンで書いてあるのだけど、別のエッセイを読むと、親友の自殺で落ち込んていた頃の作品のようで、何とも言えない。
P76
お題
結局死ぬと思うと何もかもむなしい
答えの最後の3行
個の細胞はちっぽけな存在ですが、その一生の中には必ず一度か二度「生きていてよかった」と思う瞬間があります。それは明日かもしれないし、三十年先かもわかりません。だからとりあえず今日はご飯を食べて明日まで生きてみることが大事なのです。 -
Posted by ブクログ
映画にしろ小説にしろ、ごくたまにだが、「いつまでもこの世界の中で遊んでいたい」という気持ちにさせる作品に出会うことがある。そういう作品がはらむ世界には、空気の中にその作品だけが持つ独特のフレイバーがあり、それが自分の生理に同調するのである。
田辺聖子さんの著書の解説にらもさんが書いた文章だけれど、これがスゴク気に入った。
いつまでもこの空気を吸って駘蕩とした気分で滞在を続けたい。もとの世界に帰りたくない。
わかるなぁ。これが我々の世代でいうところの「ビューティフル・ドリーマー」的な、あるいはエンドレスエイト的な、つまり終わらない学園祭的な無限ループ世界への憧れに続くのではなかろうか。