中島らも『人体模型の夜』集英社文庫。
大昔に読んでいるのだが、目出度く復刊したので再読してみることにした。
体の様々なパーツをテーマにした連作ホラー短編集の名作である。読んでみると内容を所々忘れていた。小気味良く、解りやすいので面白い。
中島らもというと、究極のアル中小説『今夜、すべてのバーで』、ホラー冒険小説の『ガダラの豚』などの傑作があるが、本作もまた傑作の1つに数えてもよいかも知れない。
『プロローグ 首屋敷』。不気味なプロローグ。エピローグで首屋敷の不気味な謎をどう回収するのか。頭のおかしい学者が造らせたという首屋敷と呼ばれる空家の地下室にたたずむ不気味にデフォルメされた人体模型。首屋敷が取り壊される前の最後の日に首屋敷に忍び込んだ少年が人体模型の胸元に耳を押し当てて聞いた奇妙な音。
『邪眼』。まるで実際に起きた怪異を描いたかのような小気味の良い短編。『邪眼』とは人に不幸をもたらす視線のこと。この時代であれば、まさかと衝撃を受けた結末も残念なことに今ではよくある話になってしまった。スリランカに赴任中の日本人商社マンの夫婦。メイドから妻の沙也加の胎内に悪魔が宿っていると言われた夫はメイドを解雇する。★★★★★
『セルフィネの血』。ミラージュのような二面性。物事には裏と表、二面背反があるのは世の常。長い旅の果てに主人公がたどり着いたセルフィネ島。天国のような島での暮らしを楽しむ主人公とナオミ。しかし、島の住人はここは天国などではなく、単に人が辛うじて暮らす場所だという。★★★★★
『はなびえ』。女性の怨念は恐ろしい。しかし、この短編に登場する男性も男性だ。鋭い聴覚と臭覚を持つ調香師の女性が、不動産屋のかつての恋人から紹介されたマンションに移り住むと、奇怪な音と臭いに苦しめられる。★★★★★
『耳飢え』。他人の秘密ほど興味をひかれるものはないが、興味もほどほどに。隣室を盗聴することを趣味に引越を繰り返す男の話。興味をひかれた隣の女性の部屋から聴こえる奇妙な会話の正体。★★★★
『健脚行 ―43号線の怪』。ほんのり悲しくも未来に光が見えるような短編。競輪選手を目指していた兄を交通事故で失った少年は自らも競輪選手を目指す。★★★★
『膝』。有り得るようで有り得ない不可思議な事実。この世にはまだまだ明らかにされない謎がある。手塚治虫の『ブラックジャック』に似たような話があったのを思い出した。真面目に働きたくない男が、一応の職業として人面瘡評論家を名乗る。男の元には時折、人面瘡を持っているから見てくれという人物が訪れるが、いずれも偽物ばかりだった。そして、ついに膝に本物の人面瘡を持つ人物が現れる。★★★★★
『ピラミッドのヘソ』。ピラミッド・パワーは、当時、まことしやかに語られていた未知の力。ピラミッドの模型の中にカミソリを入れると刃が鋭くなり、タバコやウイスキーを入れると味がまろやかになるという。本当かどうかは解らないが……二千億円を投じて新宿新都心にピラミッドを造った男。★★★★★
『EIGHT ARMS TO HOLD YOU』。未発表曲というと心が踊る。8本の腕と言えば……オチもその通りだった。ジョン・レノンの未発表曲が見付かる。その曲を元に盗作したミュージシャンの運命や如何に。★★★★
『骨喰う調べ』。墓地販売を巡る顛末。墓地を販売する不動産屋の男に起きた悲劇。鰯の頭も信心から。★★★★
『貴子の胃袋』。中国のスーパーに行くとカエルや亀の類いが普通に食料品として売られているのに驚く。蛇や犬、その他の野性動物の専門店もあり、本当に何でも食べる民族なのだなと思う。テレビで中国の狗肉料理を見てから肉類を一切食べられなくなった女性。★★★★
『乳房』。ブラックギャグのような本当のホラーのような。女性霊媒師による降霊会。現れた幽霊には乳房があった。★★★
『翼と性器』。皮肉の利いた短編。ラストには映画『エンゼル・ハート』にも似た恐怖も味わえる。天使に近付こうと性器を切除した産婦人科医が遭遇したものとは。★★★★
『エピローグ 首屋敷』。人体模型から12の物語を聞き終えた少年はもっと聞きたいと言うと……
本体価格640円
★★★★★