斎藤真理子のレビュー一覧

  • シリーズ「あいだで考える」 隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

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    著者は多くの朝鮮文学作品の翻訳者なので、興味を持って本書を手に取った。二つの文化の間で微妙に揺れたり、風が吹いたりするのを感じる、絶妙な心持ちを描いていて、その表現力に唸らされる。しかし本書はそれだけにとどまらず、朝鮮と日本の複雑な歴史関係を史実に沿って書いている。正直言って、ここまで関係の深い国だとは思わなかった。隣の国なのだから、知っていて当たり前なのに。ここに両者の複雑な関係が見え隠れする。本書を読めば、もっともっと朝鮮が好きになりることは間違いない。巻末のお勧め本のリストも嬉しい。

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    2025年08月01日
  • 別れを告げない

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    ページを開いた瞬間、まるで自分自身が壮絶な主人公の人生を生きることになったかのような錯覚に陥った。

    韓国現代史の中でも語られることを避けられてきた過去——済州四・三事件の痛ましい記憶である。ハン・ガンはその闇を見つめることを選び、真摯な眼差しで記憶の底から言葉を掬い上げた。その勇気と誠実な筆致に、深い敬意を表したい。

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    2025年07月26日
  • 回復する人間

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    ネタバレ

    肉体に受ける血の流れる傷の他に、罪悪感や後悔や喪失感も紛れもない傷。
    この本に収録されている七編の主人公や登場人物たちほどでなくとも、それらの傷は多くの人にあると思う。
    もちろん、私にも。
    読んでいて、登場人物たちの傷と共に自分の古い傷を改めて意識する。
    登場人物たちはたとえば表題となっている「回復する人間」ではタイトルどおり傷から回復するのだろうか?
    どうやって?
    目が離せなくなる。
    だが、彼らは必ずしも回復するわけではない、と私は思う。

    ただ、登場人物たちは自らの傷との向き合い方、折り合い方を通して私たちがそれぞれ持つ傷に寄り添う。
    傷を抱えたわたしに寄り添う。
    それは同じような痛みを感

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    2025年07月26日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    男の子だから、女の子だから、という生まれる前からの刷り込みで苦しむ女性たちのジレンマがすごくリアルに描かれていた。苦しんできた女性がさらに、平気で女性を下に見る息子、我慢する娘を育ててしまうというのもまた。
    身に覚えのある理不尽な言葉や出来事に憤りを感じるシーンもたくさんあったが、一方で女性たちの連帯も描かれていて、ジヨンとともに鼓舞されている気持ちになった。
    特に、「大人しくなるな、騒げ、元気出せ!」という母親の言葉が心に突き刺さって、すごく勇気をもらった。

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    2025年07月23日
  • 別れを告げない

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    1948年、韓国のリゾート済州島で島民10万人以上が虐殺された。一種の赤狩り?
    朝鮮戦争前の混乱期なのだろうが、この事実を初めて知った。
    この小説は、この事件?をベースに、現代に生きる女性たちが描かれている。
    ストーリーを描いてもピンと来ない。
    木工で指を怪我し入院した女性のために、自死を考えていた友人が
    雪深いアトリエに鳥にエサをやりに行くはめに。
    しかし鳥は死んでいて、彼女は母の幻影を見る、、、、
    母親は済州島虐殺の生き残りなのだ。
    先入観か、文章から韓国の「恨」を感じた。何かある。
    よくわからなかったが、なんだか心に残った。

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    2025年07月19日
  • ギリシャ語の時間

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    視力を失いつつあるギリシャ語講師と言葉を話すことができなくなってしまった女性。
    どちらもコミュニケーションにあってほしい機能が損なわれつつあったり、損なわれている。
    だが、目が見え、言葉を話すことができるからといって、わたしたちは互いを本当に理解し合えているのだろうか。
    その意味で、ギリシャ語講師もギリシャ語を学ぶ女性も他人ではない。
    繊細で美しくたおやかなハン・ガンの詩人の言葉で描かれるそれぞれの置かれている状況や胸のうち。
    それをたどりつつストーリーを追えるのはどこか贅沢なことに思える。
    問題は何一つ解決したわけではないし、二人もやはり分かり合えているわけではない、たぶん。
    にもかかわらず

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    2025年07月17日
  • シリーズ「あいだで考える」 隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

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    ハン・ガンの『すべての、白いものたちの』を読んで、韓国語にとても興味を持った。”この本を読んで”というよりもっと初めの段階、”このタイトルを読んで”興味を持ったといった方が正しい。

    『隣の国の人々と出会う』は、『흰(ヒン)』の訳を『すべての、白いものたちの』とした翻訳者・斎藤真理子さんの著書である。正直なところ、翻訳についてのいろいろを知ることができるかな?と思っていたのだが、それは私の一方的な希望で、この本には、朝鮮の歴史的背景や日本との関係性、そしてそれらを踏まえての言語・文学などについて多く書かれていた。

    あとがきに、「シナモン抜きの水正果(スジョングァ)になってしまい反省している」

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    2025年07月06日
  • 別れを告げない

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    ネタバレ

    主人公がたどり着いたインソンの家にインソンは確かに現れて、小鳥もいたのだと思う。
    インソンが語った島や母親たちの歴史にときに眉をしかめ、身震いした。
    激しく表現される怒りより静かな怒りの方が深いことはままあるが、作者の筆を動かしたのはその静かな怒りと忘却を拒む強い意志に違いない。
    ハン・ガンが描き出す美しく繊細で静謐な世界に浸るのはこの上ない喜びだが、詩のような美しい描写を続ける彼女の目は歴史の傷から逸らされることはない。
    じゃあ、自分に何ができるのかというと、事実を知り悼むこと。
    何処の国のできごとなのかとか、自分は何処の国の人間なのかなど関係ない。
    わたしたちは同じ血の通った人間なのだ。

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    2025年07月01日
  • シリーズ「あいだで考える」 隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

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    ちょうど韓国語の勉強を始めた今、とても楽しんで読める
    一気読みしてしまった

    韓国語(朝鮮語)の背景から、日常会話でのフレーズの使われ方まで、テキストとは違う視点から学ぶことができる

    韓国語と日本語のあいだ
    というサブタイトルが、読む前と後では全く違う重みが違う

    読みたい本がまた増えてしまった

    挿絵がオシャレ

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    2025年06月28日
  • 回復する人間

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    どれもこれもリアルな傷を抱える女性たちが(ひとりだけ、普通の男性が出てくる)でてきて、それぞれの回復の過程が描かれている。
    回復仕切らない人もいるし、回復を拒む人もいる。
    だけど、人は自然状態で回復していく生き物なのだと感じる。
    生きることは痛いことなのだろう。

    短編「回復する人間」の文章が好きでした。
    文字で遊んでるというような、軽いのに重く静かで、圧巻でした。
    「火とかげ」の痛みと鮮やかな色を感じさせる物語も良かった。
    復活に色がないという着地も見事。

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    2025年06月24日
  • 別れを告げない

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    構成が面白い
    初めて読む形態

    夢なのか現実なのか死んでいるのか
    後半辺りがよくわからなかったけれど
    そんなことはどうでもいいくらい静かに衝撃を受ける
    文体がとても美しい

    『菜食主義者』は少し気持ち悪かった
    次は『少年が来る』を読みたい

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    2025年06月22日
  • フィフティ・ピープル[新版]

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    「背負ってさしあげますよ」「それはだめだよ」「体のでっかい孫が孝行していると思って、そうしてください」
    セフンのような思いやりを持ってこんな行動ができたなら。

    「ずっと差別されずに育ってきたから、差別を見たときにこれは差別だってすぐにわかるのよ。自分の持ってる資源でできることをやってるだけなのに、何だっていうの?」
    有能で責任感の強いソラの言葉に胸がすく思いがする。

    「おばさん、助けて」会ったこともない人だ。でも、ジョンビンのママなら助けてくれると思った。大人が必要だった。
    まだ幼いジョンビンとダウンの物語が優しくて切ない。

    客観的で、でも細やかで、人間の善意のようなものが51人の物語を

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    2025年06月16日
  • シリーズ「あいだで考える」 隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

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    星6つつけたい…

    以前読んだときは、あまりぴんと来なくて、途中でやめてしまったのだけれど、
    最近韓国文学を読み出して、韓国語や韓国の文化、歴史背景、現代のことにも興味が出てきてから読むと、内容がすいすいと入ってきた。

    韓国には、昔の加害者側として、どこか後ろめたいけれどどうにもできない、みたいな、何も知らない顔してK-POPや韓国グルメにはしゃいでいるのはどうなんだろ、、みたいな気持ちがあって、
    もっとちゃんと韓国の辛い部分も理解してから、本当に仲良くなりたい大事なお隣さんだと思う。

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    2025年06月15日
  • 誰でもない

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    すごかった。
    今の社会で生きるままならなさというか、なんともいえない感情がクッキリとらえられていて…ありふれているけどみんな真正面から見ないようにしてる残酷さを、私たちの社会ってこうですよね、と目の前に差し出されるような感じの読書だった。

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    2025年06月15日
  • すべての、白いものたちの

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    白い、は、生と死に近い色。白い小石は、波で削られて、丸く、少し透けて見える。それは、今まで傷ついたからだ。その小石を、誰かが拾い、机の引き出しにしまうこと。ときおり、光にすかして、またそっと引き出しに戻すこと。そういったことで、救われる傷もあるような気がした。

    生と死のはざま、あわい。そこで揺らいでいる者たち。私は、死ぬことについてよく考える。そのあとに、すこし生きることについて考える。生きることと死ぬことを考えるではなく、私にとっては、死ぬことを考えた後で、生き続けることについて思うの。

    白く笑っていた、という言葉は、静かに耐えながらそれでも笑っていようと決めた人の笑みのことをいうらしい

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    2025年09月17日
  • シリーズ「あいだで考える」 隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

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    数々の韓国文学の翻訳や「韓国文学の中心にあるもの」などの著作で知られる著者のエッセイ。韓国語の音、表記、発話そして詩についてたいへん読みやすく、かつ興味深いエッセイであった。
    ハングルの表記や発音の特徴など知識として少しは知っていたが、韓国文学の翻訳者の視点で語られるのはもう少し深い話だった。
    そして詩や小説が韓国の現代史や政治そして何度も起きた不幸な出来事と絡み合っていることを知ることができた。
    一方、日本の現代作家や詩人は日本の今日的問題に向き合っているのだろうかという疑問が浮かんだ。
    韓国語を少し勉強してみたくなった。

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    2025年06月08日
  • 未来散歩練習

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    この人の書くものに流れる空気感が好きだ。

    その心地に身を任せて読んでいるうちに、韓国の抱える決して古くない歴史を知り、日本の今の生きづらさにも通じるように感じ、このお隣の国のことをもっと知りたいと思い

    この作品はまた再読したいし、他の韓国文学も色々読みたくなった。

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    2025年06月08日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    (キム・ジヨン)という一人の患者のカルテという形で展開された、一冊まるごと問題提起の書である。女性であることの生きづらさがひしひしと伝わってきます。韓国も日本以上に男尊女卑が激しいのだなと感じました。続きが気になる終わり方でしたが、それも本書の良さだと思いました。

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    2025年06月01日
  • 回復する人間

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    静かで落ち着いた美しい文章なのに鋭利な刃物を突きつけられているよう。読みながら心のどこかがヒリヒリした。「左手」はとても怖かった。印象に残る短編が詰まっている。

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    2025年06月01日
  • 誰でもない

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    人の心の中にある、他人に話すことではないが影を落とすような出来事を淡々と聞いているような気持ちになった。小説を読むというより、他人の打ち明け話を聞いているような気持ちになる。
    明るさは無いけど、とんでもない暗さでもない。

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    2025年05月31日