あらすじ
なぜ、韓国文学はこんなに面白いのか。なぜ『82年生まれ、キム・ジヨン』は、フェミニズムの教科書となったのか。世界の歴史が大きく変わっていく中で、新しい韓国文学がパワフルに描いているものはいったい何なのか。その根底にあるのはまだ終わっていない朝鮮戦争であり、またその戦争と日本は深くつながっている。ブームの牽引者でもある著者が、日本との関わりとともに、詳細に読み解き、その面白さ、魅力を凝縮する。
(「まえがき」より)
『最近日本で、韓国文学の翻訳・出版が飛躍的に増えている。この現象は、読者の広範でエネルギッシュな支持に支えられたものだ。読者層は多様で、一言ではくくれないが、寄せられる感想を聞くうちに、読書の喜びと同時に、またはそれ以上に、不条理で凶暴で困惑に満ちた世の中を生きていくための具体的な支えとして、大切に読んでくれる人が多いことに気づいた。(中略)韓国で書かれた小説や詩を集中的に読む人々の出現は、ここに、今の日本が求めている何かが塊としてあるようだと思わせた。それが何なのか、小説を読み、また翻訳しながら考えたことをまとめたのが本書である。』
【目次】
まえがき
第1章 キム・ジヨンが私たちにくれたもの
第2章 セウォル号以後文学とキャンドル革命
第3章 IMF危機という未曾有の体験
第4章 光州事件は生きている
第5章 維新の時代と『こびとが打ち上げた小さなボール』
第6章 「分断文学」の代表『広場』
第7章 朝鮮戦争は韓国文学の背骨である
第8章 「解放空間」を生きた文学者たち
終章 ある日本の小説を読み直しながら
あとがき
本書関連年表
本書で取り上げた文学作品
主要参考文献
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
今まであまりにも韓国の本を読んでこなかったので、この国の文学の歴史はどのようなものなのかを知りたくて手に取った。
第1章で、読んだことのある本「82年生まれキム・ジヨン」について書かれていたが、まずその本の解釈が私はあまりにも浅かったのだということに気づかされた。
この本は2016年に韓国で出版されているが、第2章以降、歴史をさかのぼって韓国文学が紹介されている。
文学はそれが書かれた時代の影響を受けるものなので、韓国の歴史がかなり深く説明されている。
例えば第2章では、2014年に起きたセウォル号沈没事故の詳細が書かれており、この事故が韓国人に与えた影響の深さがよく分かった。
当時のことは覚えているが、なぜこの事故が起こったのか、韓国政府がどのような対応をしたのかについてはよく知らないままだった。
IMF危機、光州事件、朝鮮戦争へと遡り、これらの時代の影響を受けている小説が数多く紹介されている。
とてもじゃないけれどすべてを読むことはできないが、各時代の小説を少しずつ読んでみようと思う。
Posted by ブクログ
読書案内のようなポップな内容かと想像して読み始めた。趣が違う。その実態は、韓国の歴史的背景から生まれる小説に対する重厚な考察本でした。
数々の歴史的な事件による社会や政治に対する鬱憤が、小説という形で昇華され次世代へと橋渡しとなっている。
記憶に残ってるセウォル号事件の掘り下げた考察から、全く予備知識がなかった朝鮮戦争とそれ以前の解放期間まで通底する韓国国民に蓄積している生きる力を感じることができた。
民主化したのが1987年って、ついこの間じゃない。
思ってたより現在の体制発足からまだ歴史が浅いのだな。K-POPや韓流ドラマのエンタメで享受している韓国感と、全く異なる側面による実態がある。本著で紹介された作品からそのダイナミズムを受け止めたいと思える。
著者の韓国文学に対する敬愛と理解の深さ、私たち読者へ伝えたいという熱意が全編を通して感じられる。導かれるような読書体験でした。韓国文学未経験でもおすすめ。
ハン•ガンがノーベル文学賞受賞したのちの増補版も出てるので、これから読む方はそちらをぜひ。
Posted by ブクログ
本当に読んで良かった。
韓国についてずっと勉強してきたがこんなにわかりやすい本はなかったと思う。
文学についてだけではなく、それを理解するために必要な背景知識が以前より増えた。
韓国語を勉強すれば韓国文学を読めるようになるかなと安易に考えていたところもあったが、単に言語の壁を越えたとしても、日本と韓国の間にこれほどまでに大きな、考えないといけない、考えられるべきことがあることも忘れてはいけないなと思った。
どうして自分が韓国文学にこれほどまでに吸い込まれるのかを明らかにしてくれた本だった。いつか自分も行動できるときがきたら良いなと思う。
우리 안에 진정한 평화가 깃들기를.
-以下メモ-
まえがき
육이오について
最近日本で、韓国文学の翻訳・出版が飛躍的に増えている。不条理で凶暴で困惑に満ちた世の中を生きていくための具体的な支えとして、大切に読んでくれる人が多いことに気づいた。
第1章 キム・ジヨンが私たちくれたもの
キム・ジヨンという人物は四方八方からガードが固められている。この本では、小説らしからぬ統計数値などのデータが注釈として多用されている。それもまた、軍隊に行かない女はずるいと考える男性からの異論をあらかじめ封ずるための措置であり、このスタイルが選ばれたのである。
第3章 IMF危機という未曾有の体験
IMF危機の時期には、母たちや子供たちは父がいなくても回る世界を経験したのだ。
第4章光州事件は生きている
空き地に積み上げられたたくさんの遺体。追悼の前に、なかったことにされた死をまずあったことにする、死の可視化、死の回復というプロセスが必要になるだろう。
第8章 「解放空間」を生きた人たち
8月16日に統合戦争計画委員会(JWPC)が起案した「日本および日本領土の最終的占領」は北海道と東北地方全域をソ連が、九州中国地方を英国、四国を中国、関東・中部・近畿の本州主要部分を米国が占領するというものだった。
日本がポツダム宣言をただちに受諾しなかったことが、ソ連の参戦を招き、ひいては朝鮮半島の分割占領、南北分断をもたらした。そもそも、朝鮮半島の戦後処理をめぐる検討プロセスに朝鮮半島の人々が全く参加できなかったことは、まさに日本による植民地支配の結果である。
終章 ある日本の小説を読み直しながら
今の日本で、韓国文学が強い吸引力を持っていることは確かである。個々の作家、個々の作品というより、かたまりとしての韓国文学に惹きつけられる人がかたまりとして存在する。その人たちは一冊韓国の文学作品を読むと次々に読み、しばらくはそればかり読んでくれる。さらに自分でも読みたい、翻訳をしてみたいと語学の勉強を始める人も少なくない。
Posted by ブクログ
もっと韓国の文学作品に触れてみたくなった。胸が苦しくなる部分も多いけど、この本を読んでから韓国文学に触れたり再読すると、より深みある読書になると思う。
Posted by ブクログ
解放後(日本の「戦後」にあたる)の大きな出来事(解放、分断、済州、朝鮮戦争、維新、光州、IMF、セウォル、キム・ジヨン現象、等)について人々がどのような思いを持ってきたか。文学作品を紹介しながら、それらをたどっていく。それぞれの出来事が韓国の人々にどれだけインパクトのあることだったのかを教えられる。民主化前の出来事に関する部分は特にヘビーなので、現代から時代をさかのぼる構成にしたのは正解だったと思う。
Posted by ブクログ
著者の斎藤真理子さんは韓国文学好きに知らない人はいないだろう翻訳者で、日本における韓国文学ブーム立役者のひとり。
植民地支配、朝鮮戦争、南北分断、光州事件、IMF危機、セウォル号事故、女性問題...
非常に重く複雑な韓国の歴史を読みやすい文章で解説してくれている素晴らしい一冊。文学作品を通して現代の朝鮮半島の根底にあるものに触れることができる。不条理な暴力や歴史的経緯が、韓国文学に感じる抗ったり切り開いていく雰囲気に影響しており、自分も胸を打たれ心が震えるのだろう。
一度読んだだけでは到底理解できなくとも、本書は韓国文学を読むうえでの地図となる。紹介されている作品は次々手に取りたくなり、リーディングリストがさらに増えていく楽しみを得た。
文学好きのみならず、あらゆるKカルチャー好きにもおすすめしたい。
Posted by ブクログ
書評集を好んで読む。しかしこの本は書評集ではない。韓国と言う国、日本という国について、韓国文学という側面から描き出そうという試み。こころ、あるいはからだのどこかに重く沈み込む鎖のようだ。
Posted by ブクログ
2023.3
この3年で触れてきた本・映画のことや、その間色んな作品に触れながら自分なりに学んできたことを振り返っている。と同時に読みたい・観たい作品が増えていく。知りたいことが増えていく…(そして気付けばまた夜更かしをしている)
Posted by ブクログ
大げさにではなく、いままで抱いていた戦後のイメージが180度変わった。
通り一遍の韓国の歴史の本も読んでいたけれど、韓国と日本とでは、経験してきた歴史やそこから見える景色がこんなに違うのかと愕然とした。
この先、ドラマを見たりアイドルが兵役に行ったりするたびに、きっと本書の内容を思い出すと思う。
戦後、朝鮮特需や韓国への罪悪感とともに戦後を乗り越えてきたという日本人の姿は、ヘイト渦巻く現代には見えなくなってしまっているけれど、たしかにもう少し昔の人たちは日本の戦争責任や反省をもっと普通に口にしたり書いたりしていた気がする。ごく最近読んだ茨木のり子さんのエッセイでも、日本が朝鮮を植民地化していたことを失念していて恥じ入る記述があったけれど、今あんなことを書こうものなら叩かれかねないもの…
セウォル号に関しては、政治や社会が正常に機能しなくなりつつある今の日本を予見しているかのような内容でゾッとした。民営化によって人命救助が十分にできなかったとか、船長は非正規雇用せだったとか、当時操縦していたのは新人だったとか。知床遊覧船の事故も、これを読み終えた直後に起きた梨泰院の事故も、根っこは同じな気がする。
Posted by ブクログ
韓国社会が経験する苦難に作家はどう向き合い、そうして生まれる作品を読者はどう受容してきたか、の一端が見えてくる。
また、1960年は日本と韓国にとって分水嶺だったんだな、と。市民運動の成功体験と失敗体験は、その後の両社会における主権者意識にも根深い影響を与えたことが、比較によって鮮やかにわかる。
そして、知れば知るほど日本について、自分について考えることを余儀なくされる。韓国社会の痛みや苦しみを「よその国」の出来事とするには、日本の関わりはあまりに深い。
個人的に物心ついたとき既に日本は経済大国だったし、それを享受してきた自覚もあるが、その発展の礎には隣国の悲惨な戦争が含まれ、その戦争が今も終わっていないということ、しかも日本においてそのことはほとんど意識されないということ。意識せずにいられる状況の中で、価値観や歴史認識が形成されているということ。そういったことと否応なく向き合うことになる本だ。
Posted by ブクログ
各誌における年末のまとめで取り上げられているのを複数回目にして、これは読んどかないとってことで。気持ち的にはブックガイドとして手に取ったものなんだけど、その実、初心者向けの韓国現代史の良い教科書。セウォル号事件はじめ、自分がほとんど知らないあれこれが提示されていて、隣国のことなのに…と忸怩たる思いにかられた次第。特に気になった下記著作からまずは手に取ってみて、少しずつでも理解を深めていきたい。
キムジヨン
こびとが打ち上げた小さなボール
少年が来る
Posted by ブクログ
韓国の文学について、韓国の歴史の中での大きなできごとを織り交ぜながら記述されている本。
セウォル号事件は知っていたが、ほかの事件やIMF危機、朝鮮戦争など、知らないことが多すぎた。ここまで悲惨なことが起きていたとは。
国の主導権を国自身が握れないことの恐怖、そして今なお戦争が終わっていないことの重大さ、 日本人はもう少し関心を持つべきだと思った。
Posted by ブクログ
東アジアで隣同士の国。日本と韓国。似た風土であるが、過去からの文化も違い、また歴史も違っている。その韓国の文学を最近から遡って日本からの解放までの時間軸で文学を論じている。沢山の読んでみたい本を紹介された。それらの本で少しでも韓国の風に触れたいと思う。
第一章:キム・ジヨンが私たちにくれたもの、第二章:セウォル号以後文学とキャンドル革命、第三章:IMF危機という未曽有の体験、第四章:光州事件は生きている、第五章:維新の時代と「こびとが打ち上げた小さなボール」、第六章:「分断文学」の代表「広場」、第七章:朝鮮戦争は韓国文学の背骨である、第八章:「解放空間」を生きた文学者たち、終章:ある日本の小説を読み直しながら。
Posted by ブクログ
隣国を知ることで、自国の特徴を知ってみようと、本書を取る。
が、本当にここまで悲惨な状況なのだろうか。文学では過剰に表現されるためなのか。
彼我の差を感じずにはいられない。
Posted by ブクログ
私だけかどうかわからないが、いやー、相当にヘヴィだった。
斎藤真理子が出てくるまで韓国の文学は金芝河くらいしか知らなかった。それが『カステラ』以降、なんでこんなに面白いの、力があるの、とぐいぐい読まされてきたが、いかに表面的だったことか。セウォル号事件や光州事件、そして朝鮮戦争などを今に至るまで背負い続けその影響下にあるからこそ(若い世代の作家まで含めて)の、力だったんだな、と思い至る。その重さ。読み終えて、ぐったりくたびれてしまった。面白いけど、重い本だと思います。そして確認したい本、読みたい本が増える。
Posted by ブクログ
セウォル号のところ読んで知らなかった事実が知れて…
亡くなった子供たちが可哀想でならない。
歴史の勉強にもなりました。韓国では戦争がまだ終わってないから6.25 韓国戦争と言って戦争が始まった日のことを言うのですね。1950年に戦争が始まったけど、1945年から既に分断していたとも。
沢山本の紹介があって読んでみたい本も増えました。