【感想・ネタバレ】別れを告げないのレビュー

あらすじ

ノーベル文学賞受賞作家の最新長篇!
作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。
済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も……
いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。フランスのメディシス賞、エミール・ギメ アジア文学賞受賞作。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

「少年が来る」がどうしても読み進められなくて、迷ったけど、帯の文章の描写をじっくりと読みたくなって購入。幻影?のような内容の文章は苦手だけど、差し出されている事実の重さを読み続けていると美しい描写で救われていく。だから最後まで読めた。愛と痛みと忘れないことの話だと思った。解説までが一冊の本だと感じた

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

読んでよかった。

ごく個人的な感想。
こんなにも柔らかく感覚に染み渡るように「虐殺」のことを書けるのかと、「少年が来る」以上に鋭利で鮮烈で仔細にわたった描写に感嘆してしまう。歴史のことを書いていながら物語であることを諦めていず、出来事ではなく人を描くことに終始する姿勢には尊敬しかない。こんなふうに書けるんだと。そしてこの感覚的な作家が決して内省的な物語としてではなく現代社会と地続きの、今もなお人類というものが抱える悪魔的な部分として描き続けていることに、そしてそういう作家が評価されているということに、ほんの少しの光を見た思いだった。

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2025年11月20日

Posted by ブクログ

主軸になってる済州島3.4事件をよく知らないので、読みながら調べたら、書かれていることの重みが増した。
太平洋戦争の後に朝鮮戦争が起こったことは知っていたけど、朝鮮半島が今のように落ち着く(?)までにはかなり長い時間がかかったということが分かった。
最後はきれいな形で終わるけど、読後感はなにやら引きずります

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2025年11月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

背中がゾゾゾとなるほどの、すごい読書体験だった。

雪国出身なのと、著者の描写の巧みさで、雪景色が手に取るように想像できた。

思いが強ければ、同時に遠くにも存在できる……認知できていないだけで、確かにそうなのかもしれない。

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2025年09月30日

Posted by ブクログ

冒頭では、これが済州四・三事件につながるなんて思いもしなかった。
とかエラそうに書いてるけど、済州四三事件とかまったく知らなかったし。こんなに近い国なのに。
小説本編にも注意書きは多いが、「訳者あとがき」はほぼこの事件の経緯、解説。
本編より細かい字でみっしり。情報量とその内容の深刻さ、残酷さに圧倒された。
となるとウィキペディアとか見ちゃうよね。でまたドシッとくる。
タイトル「別れを告げない」は、作品中では映画のタイトルとして出てくるけど、「哀悼を終わらせない」という意味だと著者がはっきり述べているそう。
幻想的な場面展開も詩人ならではかな。
さすがノーベル文学賞受賞されただけある。
斎藤真理子の翻訳も素晴らしい。

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2025年09月14日

Posted by ブクログ

舞い散る雪が、死者たちの頬にうっすらと積もり、白く覆ってゆく。
等しく生者の頬にも降る雪は、刺すような痛みの感覚を残して、溶け去ってゆく。

痛みと熱が生の証というならば、死は痛みの喪失と引き換えに、無限の沈黙の中に消えるということなのか。
いや、例え肉体が凍りつき、もはや唇は閉ざされたままだとしても、死者には消えぬ痛みの記憶が残っている。
死者には、語るべき言葉がある。

だから、別れを告げない。
雪は溶けて海へと流れ、空に昇って雲となり再び一ひらの雪片として地上へ戻ってくる。
過去と未来は循環し、死と生は共にある。
そんな地点ををつなぐのは、悲しみと嘆きの言葉だけじゃない。
あなたにはわたしがいると、そう伝えてくれる絆が、ここには含まれているのだから。


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2025年09月13日

Posted by ブクログ

ページを開いた瞬間、まるで自分自身が壮絶な主人公の人生を生きることになったかのような錯覚に陥った。

韓国現代史の中でも語られることを避けられてきた過去——済州四・三事件の痛ましい記憶である。ハン・ガンはその闇を見つめることを選び、真摯な眼差しで記憶の底から言葉を掬い上げた。その勇気と誠実な筆致に、深い敬意を表したい。

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2025年07月26日

Posted by ブクログ

1948年、韓国のリゾート済州島で島民10万人以上が虐殺された。一種の赤狩り?
朝鮮戦争前の混乱期なのだろうが、この事実を初めて知った。
この小説は、この事件?をベースに、現代に生きる女性たちが描かれている。
ストーリーを描いてもピンと来ない。
木工で指を怪我し入院した女性のために、自死を考えていた友人が
雪深いアトリエに鳥にエサをやりに行くはめに。
しかし鳥は死んでいて、彼女は母の幻影を見る、、、、
母親は済州島虐殺の生き残りなのだ。
先入観か、文章から韓国の「恨」を感じた。何かある。
よくわからなかったが、なんだか心に残った。

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2025年07月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公がたどり着いたインソンの家にインソンは確かに現れて、小鳥もいたのだと思う。
インソンが語った島や母親たちの歴史にときに眉をしかめ、身震いした。
激しく表現される怒りより静かな怒りの方が深いことはままあるが、作者の筆を動かしたのはその静かな怒りと忘却を拒む強い意志に違いない。
ハン・ガンが描き出す美しく繊細で静謐な世界に浸るのはこの上ない喜びだが、詩のような美しい描写を続ける彼女の目は歴史の傷から逸らされることはない。
じゃあ、自分に何ができるのかというと、事実を知り悼むこと。
何処の国のできごとなのかとか、自分は何処の国の人間なのかなど関係ない。
わたしたちは同じ血の通った人間なのだ。
その同じ人間がした殺戮行為。
もはや歴史の傷に無関心ではいられない。
それはハン・ガンがこの本を通して教えてくれたこと。

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2025年07月01日

Posted by ブクログ

構成が面白い
初めて読む形態

夢なのか現実なのか死んでいるのか
後半辺りがよくわからなかったけれど
そんなことはどうでもいいくらい静かに衝撃を受ける
文体がとても美しい

『菜食主義者』は少し気持ち悪かった
次は『少年が来る』を読みたい

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2025年06月22日

Posted by ブクログ

作家のキョンハが悪夢を見るようになって旧友のインソンが住む済州島に会いに向かった。彼女の懇願に負けてオウムを助けるために無人の家に行くことになった。済州島の四・三事件を題材にした愛についての物語。インソンはその事件を忘れられない母の狂気の渦に巻き込まれそうになっている。そしてその渦にキョンハも連れて行かれ…。鳥達や雪片などの自然の美しさと対照的なのが人間の心の光と闇である。人間とはもともと残酷な生き物かもしれない。そして、過去を決して忘れないこと。それは自分以外のあらゆる存在を愛し赦すことから始まる。私が今まで読んだハン・ガンの小説の中で最も深く完成度が高い。それどころか今生きている作家の中でもずば抜けた才能を持った作家である。彼女の人間を観察する視線は冷静で愛に満ちている。人間の強さと弱さと真摯に向き合うこと。過去に別れを告げないこと。自分の中の狂気を受け止める大切さを私はハン・ガンから教わった。是非多くの方々にお読み頂きたい。

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2025年05月23日

Posted by ブクログ

韓国済州島というと観光地としてのイメージしかありませんでした。韓国の歴史、済州の歴史を知ってこそこの作品を理解出来るのだろうと思います。この作品の底流に流れるもの、シンシンと降り積もりつづく雪は単に空から降り積もっているのみならず、心の中にも積もり続けているんだろう。

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2025年11月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「愛」についてのお話。
翻訳者の力もあるのだろうけど、表現が独特で文章が美しかった。
こちらでありあちらでもあり、この世でありあの世でもあり、現実であり夢でもあり、今であり過去でもある。象徴的に使われている(あとがきより)鳥や雪のように、寄るべなくふわりふわりと行きつ戻りつしながら話は進む。

私は映画で光州事件や軍事政権をちらりと知るだけだったので、済州島四・三事件はもちろん知らず、あまりの惨事に驚いたけれど、韓国人ならみんな知っているはずなので、事件の衝撃性はこのお話のメインではないんだよね。

兄の遺骨は見つからず、鳥も死んでたし、物語はちっともうまく進まないんだけれど、いろんな人が語るその語りの中に相手への深い深い愛情を感じる。
読み終わってみれば、(一度も明言されてないんだけれども、)愛してるよ、愛してるよ、愛してるよ、そればかりが後に残った。
※書いた後に他の人の感想も読んだら、私の受け取り方っておかしいみたいだ。仕方ない…

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2025年11月10日

Posted by ブクログ

夏に読んだのに、自分の吐く息が白く思えた。見えないもの、二度とさわれないものを強く思うひとびとの眼差しに触れた。

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2025年10月22日

Posted by ブクログ

長いこと韓国語学習書のデザインしていたにも関わらず、済州島四・三事件を詳しく知らなかったので、恥ずかしくもあり、かなり勉強にもなりました。

友人インソンさんが制作した1948済州島モノクロドキュメント映画のシーンがかなり衝撃的なのか、トラウマのように回想する、主人公のキョンハ。

かなり高度な文学書だと思います。
現在と回想シーンを、いったりきたり、
現実と夢の中を、いったりきたり、
喋り言葉と心の言葉の境目がなく、
とにかく読み慣れるまで時間かかりましたが、キョンハの心の中と読み手側の心の中が少しずつ近づいていきます。

大事に飼われていた二匹の鳥、アミとアマ。
途中でアミが死んでしまったのはわかったのだが、アマがいなくなったタイミングがわからないまま。それと指を怪我して入院中だったインソンが、突然、森の奥の自宅に戻って来ていたのも不思議で、指の手術は無事だったのか疑問が残ります。

後半はインソンの父母、お祖母さんやおじさんの当時の済州島での話しが怖く、女性や子供も容赦ない出来事に言葉を失います。

最後の斎藤真理子の解説で、全体感が伝わってきました。もう一度読まないといけない本のようです。ていうか、ハンガンさんの文体はクセになります。

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2025年10月10日

Posted by ブクログ

4.3事件のことを何も知らなかったので衝撃を受けた。
同じ民族同士でこのような虐殺があったんだ。
日本でも何かがまかりまちがえば、同じようなことが起きるのかな。
今のように分断を誰かに意図的に煽られている状況だと、起こるのかもしれない。

地球に隕石が落ちて世界中が火の海になった時、鳥類だけが飛び続け生き残り。。という話がなぜか心に刻まれた。

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2025年09月23日

Posted by ブクログ

この本を手に取るまで、済州島四・三事件についてひとつも知らなかった。知らなかったことにショックを受けるような衝撃的な事件だった。

何も知らずに「済州島旅行行きたいなあ」なんて行っていた過去の自分が恥ずかしくなった。

第二次世界大戦で日本が負けた後、朝鮮の人々としては「やっと朝鮮半島でも独立国家をつくれる…!」と考えていた矢先に、ソ連とアメリカがやってきて、朝鮮半島を勝手に北と南の2つに分割して、社会主義と民主主義の国をつくった。
済州島の人々は、朝鮮半島の人々よりも独立の意思が強く、初めての南側だけでの選挙が行われることに反対して、350人程度が武装蜂起して警官たちを襲ったり、選挙をボイコットしたりした。
これに激怒したアメリカは、済州島民の大量虐殺を起こし、罪のない人たちが理由なく何万人も殺された。
その事実が何十年も隠蔽され、遺族の慰霊も許されず、真相究明がされたのは2000年に入ってからだった。

とてもじゃないけど楽しい読書体験ではなかったし、小説自体も断片的に色んなシーンが錯綜して、正直とても読みにくかった。

だけど、時間をかけて何とか読み終わったときには、とても胸が一杯になって、この本を手にとって良かったと思ってしまったので、高評価をつけざるを得ない。。

「別れを告げない」=「哀悼を終わらせない」
=「愛も哀悼も最後まで抱きしめていく決意」
という意味だという。

愛とは大事な人のことをずっと考えて、生きていても死んでしまった後も、近くにいても遠くにいても、すぐ側でずっと一緒にいるように感じることだと伝えているのだろうか?

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2025年09月20日

Posted by ブクログ

人間が人間に何にしようが、もう驚きそうにない状態を通過しても、哀悼を終わりにしない。歴史の中で繰り返し続ける ジェノサイドについて、目を背けたくなるけれど、考えることをやめない。
今もまだ世界のあちこちで、いや これからの日本でだってあり得ること。苦しくとも、哀悼をやめない、問いかけ続ける、その大切さを感じた。

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

恥ずかしながら、本作を読むまで、済州島4.3事件のことは知りませんでした。夢なのか現実なのか分からない状態の中でのキョンハとインソンの語らいは淡々としているようでいて、心に深く染み入って来ます。作中で丁寧に描写されている雪の様子や、キョンハが思い浮かべる深海の様子とも深く重なるように感じました。読み進めるのは辛い内容であったけれど、この本を通じて事件のことを知れたことをありがたく思います。またこの事件に限らず、歴史上人が人に行ってきた残虐な行いを忘れないこと、過去のことにせず考え続けること(別れを告げないこと)の大切さを改めて感じることができました。

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2025年09月13日

Posted by ブクログ

済州島の虐殺について恥ずかしながらこの本で初めて知った 人間が大人や子供関係なく殺していくシーンが目に浮かんだ インソンの母が語る父の話 インソンが調べた事実 友達のキョンハがみた現実と過去が溶け合う不思議な光景に救いがあるのか

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2025年08月25日

Posted by ブクログ

恐るべき作品に出合った。まぎれもない世界文学。そして、現代的でもある。
全体を理解したとはとても思えないけれども、心に残る。
雪や鳥、痛み、悲しみ。
味わい深い名作。

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2025年08月05日

Posted by ブクログ

韓国の第二次世界大戦後の歴史を感じることのできる本
訳者あとがきがとても良い

ゆくゆくの映像化を意識したのかな?と思われる小説
 

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2025年06月25日

Posted by ブクログ

ログライン
国家の暴力に晒された母の人生と、それを見つめ続けた娘。そして、その娘の声を受け取った作家が、自身の沈黙を破って語り始める。忘却に抗う、母娘と語り手の三重の時間を描いた記憶の文学。

構成
◼︎起
2014年夏、作家キヨンハは知人のドキュメンタリー映画監督・インソンからの連絡を受け、彼女の母親の死を通して「43事件」にまつわる記憶と向き合うことになる。

◼︎承
4年間にわたり、療養中のインソンが送ってきた詳細な手紙・メール・記録を通して、暴力と喪失に晒された母娘の人生が浮かび上がってくる。

◼︎転
インソンの死をきっかけに、語り手キヨンハは初めて自身の言葉で「語らなかった4年間」と向き合い始め、母娘の経験を「自分の痛み」として引き受ける覚悟を持つ。

◼︎結
明確な別れの言葉は交わされぬまま、語られたもの・語られなかったものの両方を抱えた語り手は、静かに死と記憶に対してまなざしを向け続ける。

技法
・断片的構成:インタビュー形式、手記、回想が交錯する多声的語り。
・詩的で静謐な文体:激しい出来事を淡々と描き、行間を読ませる。
・メタフィクション的要素:記録と創作、語りと沈黙の関係を問い直す。
・語らないことの重み:物語の核心が「語られないこと」で構成されている点に独自性。


作品の売り
・国家暴力・歴史的悲劇に対して、喪と沈黙の倫理でアプローチ。
・ハン・ガンらしい、美しいが容赦ない言葉の選び方。
・死者と生者の境界に佇むような、他にない読書体験。
・「死」を騒がずに、しかし逃げずに見つめる姿勢が、読者に刺さった。


どうして売れているのか
・時代と合致した「喪の文学」だから
韓国民主化運動や国家暴力に対する国際的関心が高まるなかで、静かな視点から語る文学が支持された。
・「語ることの困難さ」への共感
多くの人が、「語れなかった悲しみ」「別れを告げられなかった経験」を持っており、それにそっと寄り添う作品となっている。
・国を越えた記憶と記録の普遍性
特定の事件に関する記録でありながら、どの国・どの時代にも通じる「喪失」の普遍性を帯びている。
・前作『菜食主義者』で築いた読者層+人権問題への国際的注目
ハン・ガンは英訳された現代韓国文学の中で最も有名な作家の一人であり、既存ファン+新規層がともに反応した。


感想
初めてこんなにも繊細な文体、言葉の小説を読んだ。訳されている本、私自身の語彙力の少なさを承知のうえで、こんなにも言葉を検索しながら読み進めた小説はあまりなかった。それと、この本をまとめるのも難しい。けど、一言で言うなら「愛の物語」。これは作者も言っていた。「この本を一言で紹介するなら、それは愛の物語だ」と。私自身もそれに納得した。

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2025年06月05日

Posted by ブクログ

低山の尾根から裾野に向かって、何千本もの黒い丸木が植わっている。雪が降り、次第に海の潮が満ちてきて、キョンハが立っている足下まで浸してくる。彼女は、その黒い丸木が全部墓碑なのではないかと思う。
キョンハがその悪夢を見るようになったのは、2014年の夏に、「あの都市で起きた虐殺に関する本(p10)」を出してから二か月近くが経った頃だったという。訳者あとがきによれば、「あの都市」というのは光州を指している考えられ、夢の話も著者自身の経験によるところから、自伝的な要素が強い作品だという。
物語は、その後、ドキュメンタリー映画を制作していたインソンという友人が、誤って指を切断してしまい入院したことをきっかけに、彼女の家へとキョンハが向かうことになるという風につながっていく。しかし、友人の家で見たのは、これもまた夢なのか、現実なのか分からないような、インソンその人の姿であり、彼女が語る彼女の家族にまつわる済州島での虐殺事件の物語だった。

作家による他作品や、済州島、光州での虐殺の歴史について知らない自分としては、ここで語られている物語を、実際にあった歴史と結びつけることは難しかった。だからなのか、一番印象的だったのは、韓国の負の歴史とでも言える虐殺について語り、作品としようとした二人の女性の痛々しい姿だったように思う。
キョンハとインソンに共通するのは、本と映画と媒体は違えど、過去に何らかの虐殺を作品として描いたということだった。キョンハは、それによって悪夢を見るようになり、偏頭痛と胃痙攣に悩まされるようになる。
インソンは、その映画を作ったことで、キョンハのような痛みを得るようになったわけではない。ただ、物語の冒頭で彼女は、自分の木工工房の電ノコで、誤って2本の指を切断してしまうという事故を起こしていた。傷口を腐らせないように、3分起きに針で傷口を出血させなくてはいけないという苦行のような治療を受けながらも、彼女がキョンハに頼んだのは、済州島の自宅で飼っているインコに水と餌をやってほしいということだった。キョンハは、その頼みを断りきれず、生死の境を彷徨いながら、インソンの家まで辿り着く。そして、そこで見たのは、ソウルの病院にいるはずのインソンで、彼女は、自分の家族にまつわる済州島虐殺の歴史について語りだす。

痛ましい記憶を語ることと、語る人間の身体の痛みが重なりあっていることが、とにかく刺さる。物語全体の読み方が全く定まらないながらも、これは、痛みを語ることは痛いという物語なのだと、真っ先に感じた。たとえそれが、自分とは無関係の過去の歴史の人々の痛みであったとしても。
読み終わったとき、軽々しく、歴史上の人々の苦しみを語れなくなる一冊だった。

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2025年05月20日

Posted by ブクログ

 一つ一つの文章が繊細で美しく、常にじっくりと注意して汲み取らなければ、その言葉の奥にある凄惨な出来事を取りこぼしてしまうような感覚でした。全体の筋は分かっているのだが、この本に潜むものを咀嚼できたとは到底思えず、自分の読解力のなさと至らなさを痛感するばかりでした。でもそれはハン・ガンの作品が自分と合ってないというわけではなく、他の作品もさらに読みたくなったし、純粋にもっと深くまで理解したい・知りたいと思いました。何かを分かろうとすること、そして哀悼をやめずに繋がりを諦めないこと。そんなことを伝えてもらったような気がします。

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2025年05月15日

Posted by ブクログ

壮絶な内容でした。だけど、「少年が来る」よりはずっと読みやすかったです。そう感じるのは、私にいくらかの残酷性への免疫ができたからでしょうか。しかし……人が人に対してここまで残酷になれるのかと、けれども朝鮮の有り様を考えたら、元はひとつの国だったのだと韓国の歴史に同情することしかできませんでした。
語のはじめは、まるで絵画でも眺めるような静けさがあり、美しさがありました。
星を4つにとどめたのは、私が人としてこの本を受け入れることができない意気地の無さかもしれません。
後世まで受け継がれるべき本と思いつつ、こうした苦しみを読むことが、私自身堪え難かったから。
読むには、心身整えて肝を据えておく必要があります。

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2025年05月05日

Posted by ブクログ

何万人もの民間人が虐殺されたという韓国の暗い歴史である済州島四・三事件への無知と、場面が色々と展開し繊細な自然描写が多用される詩的な文体も相俟ってかなり読み辛い小説だった。
役者の後書きを見て時代背景を理解してから読んだ方が没入しやすいかも。

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2025年11月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ノーベル文学賞で話題になったハン・ガンの作品を2025年最初に読んでみました…

とにかく…すごかった←

#別れを告げない
幻想的で静謐な語り口で、一九四八年に済州島で起きた虐殺事件について掘り下げていく。人が人にたいしてなし得るもっとも残酷なことを、語り手の女性と、その友人は、生死の境があいまいな空間で話し続ける。
すごく不思議な世界観の中で残虐的な歴史が解説されていくのが…少し読みにくいと感じたりもしたけど…一回読んだだけではこの本の半分も理解出来なかったんだと思うけど…訳文がものすごく美しく…そして悲しくてせつなくて…こんな歴史があったんだなと…読めてよかったと思いました。

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2025年10月17日

Posted by ブクログ

読解力と集中力が無いと理解出来ないと思う、多分私は半分くらいしか理解出来てない。あと単純に歴史についての知識不足でした。ただ読んで良かったとは思う

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2025年06月09日

Posted by ブクログ

2024年のノーベル文学賞受賞ということで、韓国の作家さんはあまり読んだことがないのもあり、読んでみた。

初めに言っておきたいのだが、「かなり持っていかれる」ので、疲れていたり、沈んでいたり…はもちろんだけれど、そもそも痛いことやグロいことが苦手という方は、慎重に手に取った方がいい、と思う。

めの2ページあたりまでで、実は数ヶ月読むのをやめていた。なんとなく、感じるのよね…読書が好きな方ならわかると思うけれど、本から吹いてくる風のようなもの…それがどんな種類で、それを受けると自分がどうなるか…匂い、重み、後味…

なかなか簡単ではないです。

作者のハン・ガンさんが自ら語ったところによると、「別れを告げない」という言葉の意味は「哀悼をやめない」ということだそうです。

実際に作中では、「さようなら、という言葉自体を言わないってこと?」それとも「別れるという行為自体をしない」ということ?

という問いかけもあります。

なるほど…亡くなった人々、犠牲になった人々への「哀悼をやめないという決意」…つまり、ずっとずっと考え続け、痛みも苦しみも生きている限り抱き続けるよ、という決意の表明、なのか、と。
そこが理解できると、この物語りがぐっと近づくと思います。ただ、根底にあるのは生半可な「愛」ではありません。

大切な人、愛する人を亡くしても、いつまでも愛することを辞めないよ、と言うのは簡単ですが、その痛みを忘れない(哀悼を終わらせない)のは、苦しいもの。

その苦しみが、生きることに火を灯し、前へ進め、と叱咤してくれるまでの道のりの、なんと過酷なことか。。。

下敷きには韓国の歴史的な事件がありますが、作者本人は単なる歴史小説ではなく「究極の愛の物語り」だと語っています。

だとするならば、激烈な痛み(そのものでもあり、比喩的でもある)を伴う、凄まじい決意だな、と感じました。

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2025年05月23日

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