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ノーベル文学賞受賞作家の最新長篇!
作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。
済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も……
いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。フランスのメディシス賞、エミール・ギメ アジア文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
原著は2021年発行。日本語訳は白水社から2024年4月に刊行。架蔵本は2025年12月刊の第17刷。訳者は斎藤真理子。
偏頭痛と胃痙攣に苦しみ、自らの遺書を書くために生きていると感じていた作家・キョンハのもとに、しばらく連絡を取り合っていなかった友人・インソンからの連絡が届く。故郷の済州島で小さな木工所を営んでいた彼女は、作業中に誤って2本の指を切断、何とか接合手術には成功したが、入院中は3分に一度、神経を殺さないため、接合した指を腐らさないために指を針で刺し続ける必要がある。彼女を見舞ったキョンハは、インソンのたっての頼みで、彼女が家に残してきた小さなインコ「アマ」が生きているかを確かめるため、雪の降る済州島に向かうのだった。――
「痛み」と「傷」、そして「影」が鍵語となった済州島における「4・3事件」と、それ以後の人々の生が想起され、想像されていく物語。1948年に逮捕・投獄された兄のことを想い続けたインソンの母のありようを通じて、大切な存在を失った人々が、もしかしたらそのひとはいまもなおどこかで生きているかもしれない、間一髪で死を免れ、死者の数の一人にはならなかったかもしれないと祈るその思いが、そのひとを、その存在を、遺族の前に呼び戻す。死んだはずの「アマ」が、入院中のはずのインソンがキョンハの目の前にあらわれ鳴いたり語ったりする展開は、かつてそこにいた死者たちと共に歩み生きるという憑在論的な主題を表現しているように思われる。
Posted by ブクログ
【人間が一番恐ろしい】
そもそもこの、済州島四・三事件のことを知らなかったから、まずネットで調べてから読んだ。独裁政治が人間に何をさせ、何を奪うのか。
戦争や権力の暴力というか圧力によって、人間が少しずつ崩れていくこともすごく恐ろしかった。
人が人を殺すのが戦争。それを正当化するのが独裁者。
国家の暴力によってどこにでもいる普通の人が少しずつ壊れていくことが怖くて悲しかった。
それと同時に、人は圧力の中で簡単に沈黙してしまうんだな、という不安というか恐怖のようなものも強く感じた。
だからこそ、独裁や暴力は絶対に繰り返してはいけないし、過去の悲劇を忘れずに考え続けることが大切だと思った。
『別れを告げない』というタイトルは、「忘れない」ということなんだろうなと思う。
ハン・ガンさんは先の『少年が来る』でも国家の暴走を静かに批判していたけれど、この悲劇を韓国だけのことではなく、全世界の人たちのこととして書いているんだと感じた。
そう考えると、日本も決して無関係ではないし、今の社会の中にも少しずつ不安を感じることがある。
「戦争反対」という声が上がること自体に怖さを感じるのは、それが当たり前ではない状況に近づいているのかもしれないと思うから。
二度と同じような悲劇を繰り返さないためにも、もっと歴史を知らないといけないし、まじめに考えないといけないなと痛感した苦しい読後感でした。
Posted by ブクログ
物語の根底に、1948年4月3日に発生した済州島四・三事件がある。
李承晩政権下の軍・警察、そして駐韓米軍が、1954年までの6年間で約3万人の島民を虐殺した凄惨な事件だ。
朝鮮半島が南北に分断されることに反対する民衆が、済州島で武装蜂起したことが事件の発端だった。
その後、韓国が本格的な民主化を迎える1987年6月の民主化宣言までは、済州島四・三事件を語ることはタブーとされている。
主人公の作家キョンハは虐殺に関する本を出版した後、原因不明の酷い目の痛みと胃痙攣に悩まされていて、精神的にも疲れていた。
そんな時に友人の映像作家インソンは、キョンハが提案した木製オブジェを製作中に指を切断する事故に遭ってしまう。
急遽ソウルの病院に搬送され、指の縫合手術を受けたインソンは、飼っているインコが死んでしまうと不安を募らせ、済州島のアトリエへ行って鳥を死から救ってくれとキョンハは切願される。
キョンハは仕方なく済州島に向かうのだが、その日はソウル、済州島ともに激しい吹雪で大雪の天候だった。
凍傷、遭難を覚悟する程の猛吹雪の中、何とかアトリエにたどり着くのだが⋯。
巻末に、訳者の斉藤真理子女史が詳細な済州島四・三事件を紹介している。
表題の『 別れを告げない 』の意味には、深い意味が込められていることに読書後気が付いた。
ハン ガン女史はインソン家族の体験を通じて、決して事件を忘れ去ることなく、哀悼の意を抱き続けるとの意だと理解した。
少々難しい物語だったが訳文も工夫があり、独特の美しさで綴られている。
ハン ガン女史は、人の心の痛みを物静かに、しかし力強く綴る能力に長けている作家だと思った。
Posted by ブクログ
舞い散る雪が、死者たちの頬にうっすらと積もり、白く覆ってゆく。
等しく生者の頬にも降る雪は、刺すような痛みの感覚を残して、溶け去ってゆく。
痛みと熱が生の証というならば、死は痛みの喪失と引き換えに、無限の沈黙の中に消えるということなのか。
いや、例え肉体が凍りつき、もはや唇は閉ざされたままだとしても、死者には消えぬ痛みの記憶が残っている。
死者には、語るべき言葉がある。
だから、別れを告げない。
雪は溶けて海へと流れ、空に昇って雲となり再び一ひらの雪片として地上へ戻ってくる。
過去と未来は循環し、死と生は共にある。
そんな地点ををつなぐのは、悲しみと嘆きの言葉だけじゃない。
「あなたにはわたしがいる」と、そう伝えてくれる確かな絆が、ここには含まれているのだから。
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