あらすじ
ノーベル文学賞受賞作家の最新長篇!
作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。
済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も……
いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。フランスのメディシス賞、エミール・ギメ アジア文学賞受賞作。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
背中がゾゾゾとなるほどの、すごい読書体験だった。
雪国出身なのと、著者の描写の巧みさで、雪景色が手に取るように想像できた。
思いが強ければ、同時に遠くにも存在できる……認知できていないだけで、確かにそうなのかもしれない。
Posted by ブクログ
主人公がたどり着いたインソンの家にインソンは確かに現れて、小鳥もいたのだと思う。
インソンが語った島や母親たちの歴史にときに眉をしかめ、身震いした。
激しく表現される怒りより静かな怒りの方が深いことはままあるが、作者の筆を動かしたのはその静かな怒りと忘却を拒む強い意志に違いない。
ハン・ガンが描き出す美しく繊細で静謐な世界に浸るのはこの上ない喜びだが、詩のような美しい描写を続ける彼女の目は歴史の傷から逸らされることはない。
じゃあ、自分に何ができるのかというと、事実を知り悼むこと。
何処の国のできごとなのかとか、自分は何処の国の人間なのかなど関係ない。
わたしたちは同じ血の通った人間なのだ。
その同じ人間がした殺戮行為。
もはや歴史の傷に無関心ではいられない。
それはハン・ガンがこの本を通して教えてくれたこと。
Posted by ブクログ
「愛」についてのお話。
翻訳者の力もあるのだろうけど、表現が独特で文章が美しかった。
こちらでありあちらでもあり、この世でありあの世でもあり、現実であり夢でもあり、今であり過去でもある。象徴的に使われている(あとがきより)鳥や雪のように、寄るべなくふわりふわりと行きつ戻りつしながら話は進む。
私は映画で光州事件や軍事政権をちらりと知るだけだったので、済州島四・三事件はもちろん知らず、あまりの惨事に驚いたけれど、韓国人ならみんな知っているはずなので、事件の衝撃性はこのお話のメインではないんだよね。
兄の遺骨は見つからず、鳥も死んでたし、物語はちっともうまく進まないんだけれど、いろんな人が語るその語りの中に相手への深い深い愛情を感じる。
読み終わってみれば、(一度も明言されてないんだけれども、)愛してるよ、愛してるよ、愛してるよ、そればかりが後に残った。
※書いた後に他の人の感想も読んだら、私の受け取り方っておかしいみたいだ。仕方ない…
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞で話題になったハン・ガンの作品を2025年最初に読んでみました…
とにかく…すごかった←
#別れを告げない
幻想的で静謐な語り口で、一九四八年に済州島で起きた虐殺事件について掘り下げていく。人が人にたいしてなし得るもっとも残酷なことを、語り手の女性と、その友人は、生死の境があいまいな空間で話し続ける。
すごく不思議な世界観の中で残虐的な歴史が解説されていくのが…少し読みにくいと感じたりもしたけど…一回読んだだけではこの本の半分も理解出来なかったんだと思うけど…訳文がものすごく美しく…そして悲しくてせつなくて…こんな歴史があったんだなと…読めてよかったと思いました。