斎藤真理子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。
『上京』
語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。
オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。
『ヤンの未来』
語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生と男たちが一緒にいる姿に嫌な感じを受けるが、何の対策もしなかった。そのままその女子高生は失踪した。
語り手は「行方不明者最後の目撃者で、何もしなかった人」として人目に晒されるようになり、女子高生の母親は一日中書店の前の階段で娘の写真を広げるホームレスのようになる。
語り手はそこから去った。
この話は誰にもしたことがない。
『上流には猛禽類』
語り手の女性が、ずいぶん前に別れた恋人チェヒとのことを思い出している。
チェヒの両親は北朝鮮からの避難民だったようだ。友人に騙されて巨額の借金を背負い、それでも逃げず、だがずっと貧乏ぐらし。子供たちは早く働き、チェヒの父はがんを患う。
そんな家庭だが、語り手は自分もこの家族の一員になるのだろうと思っていた。貧しく進学もできないが支え合っている家族。
だがチェヒの母は父への不満と怒りをずっと持ち続けていた。それが森林公園でのハイキングで露わになる。あまりにも人目を気にしない恥ずかしいふるまいをする両親、それを虚無の目で見つめるチェヒ。
そんなチェヒとはずっと前に別れた。
『ミョンシル』
老婦人ミョンシルは亡くなった恋人(なのかな?)シリーの遺品を引き継いでいる。出版されたことのない作家のシリーが何万冊もの本を遺したのだ。シリー語ってくれた物語。
ミョンシルは、万年筆を手に取りノートに向かう。
==登場人物の性別が分かりづらかった。シリーは男性ですか?ミョンシルがちょっと痴呆症も感じられるので、彼女が思い出すことがいつのことなのかも曖昧な感じ。原文もそうなのか、私の理解力なのか(-_-;) 終盤の、哀しさを越えて静かな感じが良かったです。
『誰が』
ヒロインは静かな家を欲していてやっと手に入れた。それまでのつらい勤務、うるさい住居環境。無理したけれど、念願の静かなマンションに入ったのだ。
しかしドアを叩き理由のわからないことを喚く隣の中年女性がいる。夜になると上野回では女たちが大音響で大騒ぎする。ヒロインは爆発して天井に物を投げつけ続ける。
ヒロインは「クソ女」と呼ばれる。彼女自身が「迷惑おばさん」扱いになったのだ。
『誰も行ったことがない』
初めてのヨーロッパ旅行に出かけた中年夫婦。
かつて子供がいたが亡くしてしまった。それでも日々を送ってきたのだが、旅行の最中に少しずつズレが生じる。
そして韓国政府が経済主権を喪失したというニュースが入る(1997年通貨危機を迎え、経済主権をIMFに委ねた)。彼らはそのまま旅行を続けるしかない。そして決定的な出来事。
『笑う男』
一人暮らしする男性がいる。なんか不思議な間取りで、リビングと台所と浴室と寝室が一列になっているんだって。寝室が一番奥なの?浴室じゃなくて?寝室から浴室・台所・リビングを通り抜けて玄関に向かう?
実家の母親は病気になり、父親は節約のため家を改築してとても汚く臭く醜くさせた。
男性は「なにもしない・無関心」で生きてきた。倒れた老人を見かけても素通りした。共に乗ったバスの事故でも恋人を抱き寄せなかった。今この住居で自分を単純化させて生きているのは、後悔を抱えているからなのか。
『わらわい』
冒頭の「私は笑いたくないんですが笑っています、しょっちゅう笑います毎日笑います、いまも笑ってるでしょ」という書き出しでなんかすごいの来たなーって感じです。
彼女はデパートの店員で、貧乏な暮らし、おとなしかった幼少期、死んだ母のこと、就職難、客からの強烈なクレームを語っていく。
その合間に「あなたは笑っていますか?どんなふうに笑うか詳しく教えてくださいよ、ねえ」というつぶやきが差し込まれます。
自分を大切なものだと思えないから、人からバカにされるのか。そんな仕打ちをされても困ったことに笑うのが止まらないんです。これが笑いなのでしょうか?こんなのを笑いというからおかしくなるんじゃないでしょうか。
ほら、私笑ってるでしょ。笑ってるのに。笑ってんだよ。
笑ってんだよ。 -
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ネタバレ「愛」についてのお話。
翻訳者の力もあるのだろうけど、表現が独特で文章が美しかった。
こちらでありあちらでもあり、この世でありあの世でもあり、現実であり夢でもあり、今であり過去でもある。象徴的に使われている(あとがきより)鳥や雪のように、寄るべなくふわりふわりと行きつ戻りつしながら話は進む。
私は映画で光州事件や軍事政権をちらりと知るだけだったので、済州島四・三事件はもちろん知らず、あまりの惨事に驚いたけれど、韓国人ならみんな知っているはずなので、事件の衝撃性はこのお話のメインではないんだよね。
兄の遺骨は見つからず、鳥も死んでたし、物語はちっともうまく進まないんだけれど、いろんな人が語るその語りの中に相手への深い深い愛情を感じる。
読み終わってみれば、(一度も明言されてないんだけれども、)愛してるよ、愛してるよ、愛してるよ、そればかりが後に残った。
※書いた後に他の人の感想も読んだら、私の受け取り方っておかしいみたいだ。仕方ない… -
Posted by ブクログ
韓国語原書『사냥한 폭력의 시대』
生活の底の方にじっとりと横たわっているけれども見て見ぬふりをしてやり過ごしている、そういう悪意や諦めをすくい上げたような短編集。全体的に重たくて、わかりやすい救いもないし明るい読後感ではないが、こんなふうに生活は続いていくし人間は暮らしていくものだよなという妙な納得があった。こういう痛みをちゃんと見て書いてくれる作家は信頼できて好きだ。
"사람에게는 사람이 필요하다. 원망하기 위해서, 욕망하기 위해서, 털어놓기 위해서."(p.216『안나』)
"예의 바른 악수를 위해 손을 잡았다 놓으면 손바닥이 칼날에 쓱 베여 있다. 상처의 모양을 물끄러미 들여다보다가 누구든 자신의 칼을 생각하게 된다."(p.249 『작가의 말』)
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読んでよかった。
在日コリアンという言葉は知っていたけれど、韓国にルーツのある人がたくさんいて、日本の植民地支配が関係しているのだろうなぁくらいにしか思っていなかった。
外国人登録制度によって、日本国籍にさせられたコリアンの人々が「朝鮮」籍(特定の国家を指すものではなく、出身地を表す記号。北朝鮮のことではない)や「韓国籍」になり、さらに日本は北朝鮮を未承認国家としていることから、朝鮮籍の人は事実上の無国籍状態または国籍未確認の状態であるということに衝撃を受けた。
今ほど2つの言語と文化が好意を持って歩み寄った時代はないが、今ほど露骨に敵意や憎悪を直接的・継続的に向けられる時代もなかった、というのも重要な記述だと思った。
困っていない人は、困っている人の気持ちは分からない。社会的弱者や少数者の気持ちが分からない。踏み躙った側は、踏み躙られた側の気持ちが分からない。
ということをきちんと頭において、学習して、想像しなければならない。
様々なことを知る上でも読書は大切だと感じた。
前半の、マル(言葉)、クル(文・文字)、ソリ(声)についても興味深く読んだ。世宗大王の『訓民正音』読んでみたい。
韓国で詩が愛されていること、k-pop原論、興味がわいてきた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ最終章、ジンギョンが総理館に乗り込んで行くシーンは映画さながらだが、結局ウミもトギョンも生きていたのかどうかわからず、唐突な感じで終わるので不完全燃焼。
ただしサハマンションの薄暗い感じや湿度、物音、そこでの生活の描写とここに逃げ込まずにいられなかった人の背景などのストーリーと文体はとても引き込まれた。
チョ・ナムジュはもっと読みたい
■214号室、サラ
「ナプキンを出して鶴を折った。ナプキンとしては厚くてしっかりした紙で、気をつけて折ると十分に思い通りの形に折れた。以後、ヨナは夫に殴られるたびにナプキンで折り鶴を折った。一日に一個だけの日もあれば、三羽、四羽と折る日もあった。窓枠の上に一列に並べた折り鶴が百羽になった日、ヨナは夫から逃げ出した」
■714号、スーとトギョン
サハマンションの子どもたちを自主的に診療している女医のスー。賢く勇敢でユーモアもあるスーがあっけなく崩壊するさまが悲しい。
「みんなが、ええーって思わないかな? 全員で似たような生活してるのに、僕らだけそんなピカピカ生活をしたら?」
「それがピカピカなの? 水が出て寒さ暑さを防げるっていうのが? それはただの基本でしょ。どうしてずっとこんな不便な暮らしをしなくちゃいけないって思ってるの? 直しながら住もうよ。私たちがやったら、他の人たちも真似するよ」
スーの言う通りだった。トギョンを非難しているわけでもせかしているわけでもなかった。だがトギョンは心が辛くなった。
「ここで何も持たず、何もできずに暮らしていたら、そういう決心をするのは簡単じゃないんだよ。サハマンションの人たちがばかだからでも、怠け者だからでもないんだ」
「だから私みたいな人間が必要になるの。私はいろいろ持ってるし、いろいろできるし、あなたが好きだから」
■その他のひとびと
・ウンジン
児童養護施設で育った女性。幼い頃から年下の子供の面倒を見るのがうまく、困難を乗り越えて保育士となりマンションを出るが感染症で亡くなる。チョークで地面に描く遊びを無限に知っていて、折り紙も数限りなく知っている彼女がなぜ死ななくてはならなかったのかと辛くなる
・花ばあさん
昔、助産婦をしている際、無免許で少女の堕胎をほどこし、死亡させてしまったことからマンションに逃げ込む。ウミもウヨンも花ばあさんに育てられた
・ウミ
大柄な身体を持つ女性。花ばあさんに育てられた。謎の研究室に定期的に通い、どうやら研究材料にされているらしい。交通費として支給されていたタクシー代を花ばあさんが使わずに自分の養育費に充てていたことに気づくシーンは切ない。 -
Posted by ブクログ
喪失や絶望、苦悩を抱えて生きている現代の人々の姿を、寄り添うように、逆に突き放すようにも鋭い視点で描いた短編集。独特だけれど読みやすい展開や表現が癖になりそうな、面白く読めた短編集でした。
「ヤンの未来」での突然目にした不幸を気に病みつづける女性の姿、「上流には猛禽類」の好きだけでは埋められない溝、「誰が」のユーモアとホラーテイストが両面となった畳みかけるような描き方、「誰も行ったことがない」で夫婦の辿る旅路の果てに待つ膨大な絶望の姿。
どれもが幸せな物語とは言い難いけれど、やたらと重く悲劇的に描くのではなく、冷静な俯瞰的な視線と明快なテーマが描かれていて、すらっとした読みやすさがあるのも不思議な感覚でした。