斎藤真理子のレビュー一覧

  • ディディの傘

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    "まっ昼間から、恨めしくて、恥ずかしくて、涙が出たよ。そのとき私、たいがい驚いて、気がついたのさ、私が泣いてる、恥ずかしいのがわかるんだ、ああ生きてるなあと。そしたらこんどはそれが嬉しくて、涙が出て出てきりがなくて。生きなくちゃ、せっかくここまで生きたんだから最後まで生きてみようって確かに覚悟を決めたんだ……そうやってしっかりはっきり心が決まったのはあの恥ずかしさのおかげで、あれが私を生かしたの。"(p.22)



    "私は自分の答え方や考え方が子どもに及ぼす影響が怖い。"(p. 183)

    "大人になることは、恥ずかしさの後に来るんだよとキム・ソリは言ったよね。"(p.185)


    "ある人の言う常識は、その人が考えている面よりも、考えてない面を表すことの方が多く、その人が考えていないことはその人がどういう人間であるかをかなり赤裸々に示すもので、あなたはさっきあまりに赤裸々だったよと言ってやりたいんだよ。"(p.214)

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    2020年12月20日
  • ディディの傘

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    個人は個人で様々な考えや思い、問題を抱えて生きてる。
    それは大切な人を亡くしたことだったり、両親との隔たりだったり、性差、同性愛だったり、過去の運動や争いだったり。

    そういうものを胸に抱く個人にも、世の中の大きな流れは影響を与え、またその個人が、各々の抱えたものを持ち寄ってより大きな流れに響きあい、新しい流れを作っていく。時に後退しながら、時に迂回しながらも。

    韓国の現代、「セウォル号事故」「キャンドル革命」を背景に語られる、個人の「小さな記憶」と人々の歴史としての「大きな記憶」。
    今は過去となり、語られながら「記憶」は紡がれる。

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    2020年11月04日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    「チェ・ミジンはどこへ」:フリマ・サイトに自分が書いた本が出ていた。それも著者サイン本。他の本を五冊購入したら無料進呈と。どうしても誰がフリマに登録したのかを知りたい著者のイ・ギホは、出品者に直接取引を持ち掛けるが…。「ナ・ジョンマン氏のちょっぴり下に曲がったブーム」、「クォン・スンチャンと善良な人々」、「私を嫌悪することになるパク・チャンスへ」、「ずっと前に、キム・スッキは」、「誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ」、「ハン・ジョンヒと僕」。イ・ギホの短編集。どれも羞恥がテーマに。

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    2020年10月12日
  • ディディの傘

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    「d」と「何も言う必要がない」という2つの中編小説からなる。それぞれ独立はしているが、根底ではつながりあっている。
    これについては「あとがき」等で触れられている。

    「d」は「ディディの傘」という短編小説がもとで、その後幾度かの加筆、改変を経て本書に収録。
    「何も言う必要がない」は「d」執筆後に、筆者が社会情勢を前にある種の使命感をもって書いたものだという。

    韓国現代社会で次々に噴出する社会的不合理を前で、戦い、無力感に苛まれ、生活し、悩む人間の心境小説的な作品だ。
    読み通すのにけっこう体力が必要な小説だった。
    通常の小説の半分くらいのペースで読んだと思う。

    言葉一つ一つの意味、エピソードの暗示、人間関係の機微を読みとるのが難しいから。それは難解だというよりは、複雑さを偽ることなく表現しているから、と思う。
    次から次へと吹き出る韓国社会の不合理や矛盾を、正解と不正解、善と悪、男と女といった二分法で単純化することなく、目の当たりに感じた市民の感覚を大切に書き綴っている。
    矛盾、説明困難、矛先の向けようのない怒りや、どうしようもない無力感、学生運動の記憶、性の多様性を前に、苦労して苦労して紡ぎ出した言葉と感じる。この小説の難しさは小説の構造や言葉にあるのではなく、そういった人間感情の理解の難しさに起因する。

    現代社会(あるいは戦後社会も含め)を生きる韓国の市井の人々の心の中にある「つぶやき」を、集めたかのような、だから、その語り口は長い長いtweetのような錯覚を覚えた。

    この30〜40年くらいの間に韓国で起こった社会的事件を目の当たりにした人々のつぶやきを一つの物語にしたような。そして、韓国社会がそれに「いいね」したのだ。

    登場する年号と日付は韓国人の心に刻印されている。あまりにもいろいろなことがありすぎて、歴史の教科書のように重要な年号と日付が並び、もうそれらを一つのストーリーとしてまとめ、理解することを韓国社会が求めているのではないか。
    撤去民をめぐる事件と、セウォル号事故と、朴槿恵弾劾と…それ以前の戦後韓国史や学生運動も含め…一体何があったんだと。

    小説全体のプロットやディテイルは、残念ながら読後あまり記憶に残っていない。
    残っているのは、韓国現代史のストーリーだ。
    でもまあ、だから、それでもいいんじゃないか?

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    2020年09月29日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    "ときどき僕は考える。侮辱されているかもと思ったたけで屈辱を感じ、侮辱し返すという、そういう人生について。"(p.32)


    "それぞれの罪があり、それぞれの罰があるのだ。ひっくるめて眺めていれば、何もかも平べったく見えてくるばかりだ。罪はそのとき、くり返される。"(p.149)

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    2020年04月03日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    短編小説7編+あとがき
    心の奥底を覗いて目の前に表す,その心の動きが巧みに物語の中で展開する.お見事です.「恥」と言う概念,読みながら自分の中にも確かにるあると共感した.特に「チェ・ミジンはどこへ」と「あとがき」が良かったです.

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    2020年03月14日
  • すべての、白いものたちの

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    終始生と死の静かな気配が漂ってる
    まだ身近な生にも死にも触れてないので私にはわからないところが大きいのかな。
    でももし自分の母が私の前に死産した子の話をずっとしていたらと想像すると辛いな。
    私の生はその死の上に存在しているのだから、その子に生きていてほしかったと言われるたび自分の生を否定されている気持ちになるかもしれない。

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    2026年10月11日
  • 影犬は時間の約束を破らない

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    ネタバレ

    読んでいて、めっちゃ面白い!と思うときとそうでないときがあった。
    途中までシオンは男性だと思っていた。訳者の後書き的なものを読むと分かるが女性を「彼」と呼ぶ部分もあり分かりにくい。作中で注釈をつけてくれればよかったのにと思った。

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    2026年10月11日
  • すべての、白いものたちの

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    詩的な表現が多く、自分の中にある風景と時々重なったりして、読んでいて広がりを感じられた。
    「息」という文章が、この本のストーリー全体を引き締めているように感じた。「私」と「彼女」という表現でいくつかの読み方を並行して保持しながら読み進めていたが、「私たち」となったことで、そこだけ1つのストーリーとなったと私には感じられた。それが、最後に繋がっているような…人によって読み方や感じ方が違うので読んだ後の感想を話しあったりするのも楽しかった。

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    2026年09月29日
  • 私の女の実

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    ハン・ガンさんの初期の作品。少しわかりにくい部分もあったけど、深い文章も多く悲しみが裏にあるような気がした。

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    2026年09月26日
  • 私の女の実

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    隣国ゆえ精神性が似ているのか、日本語訳が滑らかだからなのか、日本の小説を読んでいる錯覚におちいる瞬間があった。生きづらさは万国共通だなと思った。

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    2026年09月24日
  • ギリシャ語の時間

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    私には難解だった。目の見えなくなる男性と、言葉が出なくなった女性の話。静かで言葉が美しく、喪失してゆく儚さや悲しさがしみわたる。その雰囲気の上部だけをさらっとなぞった読書をしたなあ…と。この物語の中に入りきれなかったなあという気がした。

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    2026年09月22日
  • アヒル命名会議

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    アヒルに名前を与えようと議論する神と天使とイエスとサタン。だがまるでそれはチンピラの兄貴分と下っ端の会話のよう。
    集合時間に間に合わず、青いアイシャドウを顔に塗りたくって、無理矢理ゾンビ映画のモブシーンに出演したら変に目立ってしまい、そこから人気が出てしまった役者。しかし、彼が望んでいるのは主演などではなく、エキストラを続けることだった、など。
    どこか滑稽でコメディー要素もありながら、少し哀しい短編集。

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    2026年09月17日
  • 私の女の実

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    暗く、物悲しい話が続き、半分くらいまでは読めたのですが、だんだん気持ちが乗らなくなって、後半は斜め読みしてしまいました…

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    2026年09月15日
  • すべての、白いものたちの

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    小説と詩の中間みたいな文章だった。姉の生を切実に願う一方、姉が生きていたら自分は生まれなかったかもしれない葛藤が一番印象に残った。

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    2026年09月11日
  • すべての、白いものたちの

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    ネタバレ

    正直、この手の詩的な本は苦手であるのだが、構成と視点の妙で興味深く読めた。
    特に二章は違和感を抱えたまま読み進めることとなるが、三章あるいは後書きや補足を読んで違和感を解ることができる。
    作者の母国語で白には「ハヤン」と「ヒン」の二種類あり、この本は「ヒン」の方だという情報を得ることで本書への理解は加速すると思う

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    2026年09月01日
  • すべての、白いものたちの

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    ノーベル文学賞を獲ったとのことでいつか読みたかった。
    散文調のエッセイのようなもの
    この原文を翻訳するのはさぞ難しいだろうなと思った
    韓国語がわかり、韓国語のまま読むことができればまた違ったんだろうな
    たしかに美しい文章ばかりだが、海外文学はやはりあんまりしっくりこない

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    2026年08月30日
  • 私の女の実

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    桜庭一樹氏の解説が秀逸。なかでも社会学者 申栄福のことば。
    「助けるというのは傘を差し掛けてあげることではなく、共に雨に打たれながら共に歩いてゆく共感と連帯の確認であると考えられます」

    作者はこの作品を通して、厳しい状況で傷ついた人々に対しそこから脱出することを共に考える手を差し伸べているのか。

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    2026年08月26日
  • すべての、白いものたちの

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    ハン・ガン『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳、河出文庫)読書ノート

    2024年ノーベル文学賞受賞作。韓国人として、アジアの女性作家としても初めての受賞である。

    書誌と構成
    原題『흰』(2016年)。65の短い断章。三部構成。
    「1 私」
    「2 彼女」
    「3 すべての、白いものたちの」
    白いものの目録から始まる。おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、こめ、なみ、はくもくれん、しろいとり、しろくわらう、はくし、しろいいぬ、はくはつ、寿衣。誕生から死までの弧を、白いものでなぞっている。

    語り手は破壊と再建を繰り返した街(ワルシャワを思わせる)に滞在する。母が22歳のとき一人で産んだ最初の子は、早産で二時間しか生きられなかった。タルトックのように色白の女の子だった。その姉が生きていたら、自分はこの世に生まれていなかった。「私」は自分の生を姉に貸し与える形で、この本を書く。


    感想
    Audibleとは相性がよくなかった。最初に聴いたときは、いくつかのエピソードのつながりがつかめず、もう一度聞き直した。断片が独立していて、音だけで追うと途切れやすい。
    それでも一回目から印象に残ったのが、「私は姉が欲しかった」の項だった。そこから全体がつながった。会ったことのない姉への、はっきりした欲求が、白いものの羅列を一つの祈りの方向へ向けた。あの箇所がなければ、ただ美しい断章の連なりで終わっていたかもしれない。

    印象
    自分の感受性を試されるようで、書きにくい本である。言葉は静かで凝縮されていて、白いものの質感は確かに残る。雪、塩、米、骨、霧、白い笑い。それぞれが短いながら独立した美しさを持っている。
    しかし、ノーベル賞を取るほど感動できたかと問われれば、微妙だ。詩的な完成度は認める。生と死のあわい、白の両義性(純粋さと喪、誕生と残骸)、破壊された都市と一度死んだ命の重ね方は、よく考えられている。それでも、胸の奥まで揺さぶられるというより、距離を置いて眺める感覚のほうが強かった。

    ハン・ガンの他の作品が持つ、身体の痛みや歴史の重さに比べると、こちらはより内向的で、個人的な層に降りている。それが美しくも、やや閉じている印象を与える。再聴してつながったあとでも、その感じは残った。

    読む(聴く)こと自体が、傷にガーゼを当てるような作業になる本だとは思う。ただ、自分にとっては、その作業が十分に自分のものになったとは言い切れない。

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    2026年08月21日
  • 私の女の実

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    息をのむほどに美しく
    どこかヒリヒリとした痛みが伴う
    圧倒的な文学の世界に酔いしれました♡

    ハンガンさん好きだわ〜♡



    表題作をはじめ収録されているのは
    生きることの息苦しさや
    人間関係のなかで傷を抱えた人々の
    静かな営みを描いた物語_

    ハンガンさんの紡ぐ言葉は
    とてもひんやりとしていて静謐…
    登場人物たちの「孤独」や「生」の痛みが
    リアルに胸に刺さりました!



    ある日突然
    植物になっていく妻を描いた世界観など
    現実と幻想のあわいを漂うような
    不思議で切ない余韻がたまらなく良かった〜!

    生きることは
    きっと傷を負うことと同義なのかも…
    これからもハンガンさんの作品を
    追いかけていきたいです♪

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    2026年08月20日