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恋人をなくした老婦人、閉ざされた未来を前に生き延びようとする若者……。ハン・ガン以後最も注目される韓国作家が描き出す、現代を生きる私たちの日常という祈り。
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Posted by ブクログ
すごかった。 今の社会で生きるままならなさというか、なんともいえない感情がクッキリとらえられていて…ありふれているけどみんな真正面から見ないようにしてる残酷さを、私たちの社会ってこうですよね、と目の前に差し出されるような感じの読書だった。
人の心の中にある、他人に話すことではないが影を落とすような出来事を淡々と聞いているような気持ちになった。小説を読むというより、他人の打ち明け話を聞いているような気持ちになる。 明るさは無いけど、とんでもない暗さでもない。
“適切な鎮痛剤を充分な量。それは常に、充分なお金があるときにだけ可能な話です。単なるお金じゃなくて、充分なお金。それが前提で、前提が整ってなかったらただ立って見てるしかないんです、間抜けみたいに。いつもそのことを考えておかなくちゃいけないの。それを想像して、余力を確保しておかなくてはなりません。人間...続きを読むらしさの条件は、余力の有無じゃないですか。”(p.218)
短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。 『上京』 語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費...続きを読む、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。 オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。 『ヤンの未来』 語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生と男たちが一緒にいる姿に嫌な感じを受けるが、何の対策もしなかった。そのままその女子高生は失踪した。 語り手は「行方不明者最後の目撃者で、何もしなかった人」として人目に晒されるようになり、女子高生の母親は一日中書店の前の階段で娘の写真を広げるホームレスのようになる。 語り手はそこから去った。 この話は誰にもしたことがない。 『上流には猛禽類』 語り手の女性が、ずいぶん前に別れた恋人チェヒとのことを思い出している。 チェヒの両親は北朝鮮からの避難民だったようだ。友人に騙されて巨額の借金を背負い、それでも逃げず、だがずっと貧乏ぐらし。子供たちは早く働き、チェヒの父はがんを患う。 そんな家庭だが、語り手は自分もこの家族の一員になるのだろうと思っていた。貧しく進学もできないが支え合っている家族。 だがチェヒの母は父への不満と怒りをずっと持ち続けていた。それが森林公園でのハイキングで露わになる。あまりにも人目を気にしない恥ずかしいふるまいをする両親、それを虚無の目で見つめるチェヒ。 そんなチェヒとはずっと前に別れた。 『ミョンシル』 老婦人ミョンシルは亡くなった恋人(なのかな?)シリーの遺品を引き継いでいる。出版されたことのない作家のシリーが何万冊もの本を遺したのだ。シリー語ってくれた物語。 ミョンシルは、万年筆を手に取りノートに向かう。 ==登場人物の性別が分かりづらかった。シリーは男性ですか?ミョンシルがちょっと痴呆症も感じられるので、彼女が思い出すことがいつのことなのかも曖昧な感じ。原文もそうなのか、私の理解力なのか(-_-;) 終盤の、哀しさを越えて静かな感じが良かったです。 『誰が』 ヒロインは静かな家を欲していてやっと手に入れた。それまでのつらい勤務、うるさい住居環境。無理したけれど、念願の静かなマンションに入ったのだ。 しかしドアを叩き理由のわからないことを喚く隣の中年女性がいる。夜になると上野回では女たちが大音響で大騒ぎする。ヒロインは爆発して天井に物を投げつけ続ける。 ヒロインは「クソ女」と呼ばれる。彼女自身が「迷惑おばさん」扱いになったのだ。 『誰も行ったことがない』 初めてのヨーロッパ旅行に出かけた中年夫婦。 かつて子供がいたが亡くしてしまった。それでも日々を送ってきたのだが、旅行の最中に少しずつズレが生じる。 そして韓国政府が経済主権を喪失したというニュースが入る(1997年通貨危機を迎え、経済主権をIMFに委ねた)。彼らはそのまま旅行を続けるしかない。そして決定的な出来事。 『笑う男』 一人暮らしする男性がいる。なんか不思議な間取りで、リビングと台所と浴室と寝室が一列になっているんだって。寝室が一番奥なの?浴室じゃなくて?寝室から浴室・台所・リビングを通り抜けて玄関に向かう? 実家の母親は病気になり、父親は節約のため家を改築してとても汚く臭く醜くさせた。 男性は「なにもしない・無関心」で生きてきた。倒れた老人を見かけても素通りした。共に乗ったバスの事故でも恋人を抱き寄せなかった。今この住居で自分を単純化させて生きているのは、後悔を抱えているからなのか。 『わらわい』 冒頭の「私は笑いたくないんですが笑っています、しょっちゅう笑います毎日笑います、いまも笑ってるでしょ」という書き出しでなんかすごいの来たなーって感じです。 彼女はデパートの店員で、貧乏な暮らし、おとなしかった幼少期、死んだ母のこと、就職難、客からの強烈なクレームを語っていく。 その合間に「あなたは笑っていますか?どんなふうに笑うか詳しく教えてくださいよ、ねえ」というつぶやきが差し込まれます。 自分を大切なものだと思えないから、人からバカにされるのか。そんな仕打ちをされても困ったことに笑うのが止まらないんです。これが笑いなのでしょうか?こんなのを笑いというからおかしくなるんじゃないでしょうか。 ほら、私笑ってるでしょ。笑ってるのに。笑ってんだよ。 笑ってんだよ。
喪失や絶望、苦悩を抱えて生きている現代の人々の姿を、寄り添うように、逆に突き放すようにも鋭い視点で描いた短編集。独特だけれど読みやすい展開や表現が癖になりそうな、面白く読めた短編集でした。 「ヤンの未来」での突然目にした不幸を気に病みつづける女性の姿、「上流には猛禽類」の好きだけでは埋められない溝...続きを読む、「誰が」のユーモアとホラーテイストが両面となった畳みかけるような描き方、「誰も行ったことがない」で夫婦の辿る旅路の果てに待つ膨大な絶望の姿。 どれもが幸せな物語とは言い難いけれど、やたらと重く悲劇的に描くのではなく、冷静な俯瞰的な視線と明快なテーマが描かれていて、すらっとした読みやすさがあるのも不思議な感覚でした。
8つの短篇集。 韓国文学の、社会問題を描くのに深刻に重くなりすぎないタッチが好きなのですが、この作品は重苦しくなりそうなギリギリの読後感。 淡々と語る後の不穏な余韻。 老い、家族、雇用、労働者‥向き合って、描き出しているのがぐっと響きます。 特によかったのが、 『笑う男』。 心にずしんと響きます。...続きを読む 誰にでもある一瞬の選択、 とっさの行動が導く結果。 それが予期せぬ不幸を招いた時、ずっとその後悔を抱えて生きていくことになる怖さ。 その選択を一瞬で正しいものを選んだり、とっさに正しい行動ができるようにするためには、日々正しい行動や思考をを積み重ねて、心に余裕がないとできないような気がします。 すごく身の引き締まる物語。
ホラーじゃないのに読んでいるとゾワゾワとする。人間の仄暗い部分をずっと見せられているようでずっと居心地が悪いのに、懐かしい故郷の景色を見ているようでもある。 登場人物たちの後悔や失望が滲み出ていて、その描写が素晴らしかった。 大切な人を大切に出来なくなりそうな時に読んで欲しい短編集。
金、階級、貧富、親族、環境、などの様々な理由による壁やどうしようもなさが詰まっている。 国が違うので同じ感覚とならないところもあるが、それでも大きく人というくくりでみれば「あぁ、わかる」や「どうにかならないか」のオンパレードで閉塞感や息苦しさでつらくもなるが、実際の人生と同じくとまることはできない。
情景は、リアルに感じられるのに、そこと、ストーリーの繋がりを、汲み取るのが、私には、難しかった それでも、読み終わった後のなんとあわらしていいかわからない、気味の悪い感じ、虚無感?胸が、締め付けられるような痛みが、忘れられない
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誰でもない
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ファン・ジョンウン
斎藤真理子
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