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Posted by ブクログ
ハン・ガン作品から韓国文学に入り、こちらの作家も読むべしと聞いて読んだ。
どの短編も、大小様々の不幸に見舞われた人々の懸命に生きた物語が、淡々とした語り口で進んでいく。
ハン・ガン作品と比較することが適切かはわからないが、ハン・ガンさんが逃げようのない大きな不幸を描くのに対して、ファン・ジョンウンさんの不幸は直視を避けたり逃げたりできるくらいの大きさの不幸なだけに登場人物に選択肢があり、動けちゃうだけにその人間のありかたが湿度を持って立ち現れる感じがする。
淡々とした語り口の中に、どうしても胸に刺さる言葉が多く混ざってくる。共感できない主人公もたくさんいたが、どれも嫌いにはなれない痛さがある。
「上流には猛禽類」主人公の若さゆえの残酷さに、彼女の言葉には冷たい手で心が掴まれた気持ちになる。
「誰も行ったことがない」実子の死に疲弊した夫婦がそれぞれの傷つきを持ち出して知らない国を心許なく旅をしている姿には、一触即発の危うさがありずっと目が離せなかった。
物語の見せ方のうまい作家だと感じた。すごい感性。
Posted by ブクログ
短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。
『上京』
語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。
オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。
『ヤンの未来』
語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生と男たちが一緒にいる姿に嫌な感じを受けるが、何の対策もしなかった。そのままその女子高生は失踪した。
語り手は「行方不明者最後の目撃者で、何もしなかった人」として人目に晒されるようになり、女子高生の母親は一日中書店の前の階段で娘の写真を広げるホームレスのようになる。
語り手はそこから去った。
この話は誰にもしたことがない。
『上流には猛禽類』
語り手の女性が、ずいぶん前に別れた恋人チェヒとのことを思い出している。
チェヒの両親は北朝鮮からの避難民だったようだ。友人に騙されて巨額の借金を背負い、それでも逃げず、だがずっと貧乏ぐらし。子供たちは早く働き、チェヒの父はがんを患う。
そんな家庭だが、語り手は自分もこの家族の一員になるのだろうと思っていた。貧しく進学もできないが支え合っている家族。
だがチェヒの母は父への不満と怒りをずっと持ち続けていた。それが森林公園でのハイキングで露わになる。あまりにも人目を気にしない恥ずかしいふるまいをする両親、それを虚無の目で見つめるチェヒ。
そんなチェヒとはずっと前に別れた。
『ミョンシル』
老婦人ミョンシルは亡くなった恋人(なのかな?)シリーの遺品を引き継いでいる。出版されたことのない作家のシリーが何万冊もの本を遺したのだ。シリー語ってくれた物語。
ミョンシルは、万年筆を手に取りノートに向かう。
==登場人物の性別が分かりづらかった。シリーは男性ですか?ミョンシルがちょっと痴呆症も感じられるので、彼女が思い出すことがいつのことなのかも曖昧な感じ。原文もそうなのか、私の理解力なのか(-_-;) 終盤の、哀しさを越えて静かな感じが良かったです。
『誰が』
ヒロインは静かな家を欲していてやっと手に入れた。それまでのつらい勤務、うるさい住居環境。無理したけれど、念願の静かなマンションに入ったのだ。
しかしドアを叩き理由のわからないことを喚く隣の中年女性がいる。夜になると上野回では女たちが大音響で大騒ぎする。ヒロインは爆発して天井に物を投げつけ続ける。
ヒロインは「クソ女」と呼ばれる。彼女自身が「迷惑おばさん」扱いになったのだ。
『誰も行ったことがない』
初めてのヨーロッパ旅行に出かけた中年夫婦。
かつて子供がいたが亡くしてしまった。それでも日々を送ってきたのだが、旅行の最中に少しずつズレが生じる。
そして韓国政府が経済主権を喪失したというニュースが入る(1997年通貨危機を迎え、経済主権をIMFに委ねた)。彼らはそのまま旅行を続けるしかない。そして決定的な出来事。
『笑う男』
一人暮らしする男性がいる。なんか不思議な間取りで、リビングと台所と浴室と寝室が一列になっているんだって。寝室が一番奥なの?浴室じゃなくて?寝室から浴室・台所・リビングを通り抜けて玄関に向かう?
実家の母親は病気になり、父親は節約のため家を改築してとても汚く臭く醜くさせた。
男性は「なにもしない・無関心」で生きてきた。倒れた老人を見かけても素通りした。共に乗ったバスの事故でも恋人を抱き寄せなかった。今この住居で自分を単純化させて生きているのは、後悔を抱えているからなのか。
『わらわい』
冒頭の「私は笑いたくないんですが笑っています、しょっちゅう笑います毎日笑います、いまも笑ってるでしょ」という書き出しでなんかすごいの来たなーって感じです。
彼女はデパートの店員で、貧乏な暮らし、おとなしかった幼少期、死んだ母のこと、就職難、客からの強烈なクレームを語っていく。
その合間に「あなたは笑っていますか?どんなふうに笑うか詳しく教えてくださいよ、ねえ」というつぶやきが差し込まれます。
自分を大切なものだと思えないから、人からバカにされるのか。そんな仕打ちをされても困ったことに笑うのが止まらないんです。これが笑いなのでしょうか?こんなのを笑いというからおかしくなるんじゃないでしょうか。
ほら、私笑ってるでしょ。笑ってるのに。笑ってんだよ。
笑ってんだよ。
Posted by ブクログ
喪失や絶望、苦悩を抱えて生きている現代の人々の姿を、寄り添うように、逆に突き放すようにも鋭い視点で描いた短編集。独特だけれど読みやすい展開や表現が癖になりそうな、面白く読めた短編集でした。
「ヤンの未来」での突然目にした不幸を気に病みつづける女性の姿、「上流には猛禽類」の好きだけでは埋められない溝、「誰が」のユーモアとホラーテイストが両面となった畳みかけるような描き方、「誰も行ったことがない」で夫婦の辿る旅路の果てに待つ膨大な絶望の姿。
どれもが幸せな物語とは言い難いけれど、やたらと重く悲劇的に描くのではなく、冷静な俯瞰的な視線と明快なテーマが描かれていて、すらっとした読みやすさがあるのも不思議な感覚でした。
Posted by ブクログ
8つの短篇集。
韓国文学の、社会問題を描くのに深刻に重くなりすぎないタッチが好きなのですが、この作品は重苦しくなりそうなギリギリの読後感。
淡々と語る後の不穏な余韻。
老い、家族、雇用、労働者‥向き合って、描き出しているのがぐっと響きます。
特によかったのが、
『笑う男』。
心にずしんと響きます。
誰にでもある一瞬の選択、
とっさの行動が導く結果。
それが予期せぬ不幸を招いた時、ずっとその後悔を抱えて生きていくことになる怖さ。
その選択を一瞬で正しいものを選んだり、とっさに正しい行動ができるようにするためには、日々正しい行動や思考をを積み重ねて、心に余裕がないとできないような気がします。
すごく身の引き締まる物語。
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