斎藤真理子のレビュー一覧

  • ギリシャ語の時間

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    本作のテーマは「言葉」。わたしたちは何気なく言葉を発したり文字を打ったりするが、言葉というものの重みがずっしりと感じられた。

    物語は視力を失いつつある古典ギリシャ語の先生と、言葉を失ってしまった受講生の女性が軸になる。人生で傷ついた人たちが、冷たい雨が降りしきる中、そっと肩を寄せ合うような様子が浮かぶ。ハッピーエンドではない。ただバッドエンドでもない。わからないもの、わかりあえないもの、わかりたくないものが曖昧かつ混沌に混じり合うこの世界を包み、読者に提示している。

    前編を通して静かな詩のような文章で構成されており、訳者の斎藤真理子さんの力も相まって、プロットをを一字一句しっかりと味わいたい気持ちにさせてくれた。

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    2026年06月01日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    韓国って日本に似てる。だけど、30年くらい後だと思う。男尊女卑とかは昔からの流れだろうけど、その意識から脱却するのに日本より遅れていると思う。
    今から10年前の時代を描いている章があったけど、その頃日本は子供を産まないのか、いつできるのか等の質問は既にご法度だったし。個人でも組織でも国でも、やはり余裕が無いと変わっていくこと、変化には対応しずらいのかなと思った。旧態のままでいることにしがみつくというか。
    後は、韓国のそれぞれの家庭があまりに男系を重視する日常過ぎて、気づかないうちに文化にまでなってしまっていたのにも驚きだと思う。

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    2026年05月22日
  • 別れを告げない

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    太平洋戦争後に韓国のチェジュ島で発生した虐殺事件をテーマに、サバイバーとなった女性の娘インソンとその友人キョンハ(本書の主人公)が島の過酷な歴史と被害に遭った家族の痛みを辿る物語。
    これまで読んだものの中で、こんなにも寒くて痛くて、深い悲しみを感じた小説は他にない。本当に。

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    2026年05月10日
  • 増補新版 韓国文学の中心にあるもの

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    初めて韓国に行ったので、旅行のお供に連れて行った。とても良いお供だった。
    改めて朝鮮半島の近現代の壮絶な歴史に触れ、それを下地にして成り立っている韓国文学の底力みたいなものを感じた。

    考えてみると韓国の民主化は80年代でつい最近のこと。それまで植民地時代、朝鮮戦争、軍事独裁政権…と苦難が続いた。日本に主権を奪われた植民地時代だけでなく、同じ民族同士で殺し合った朝鮮戦争、国が市民に銃を向けた独裁時代があった。
    私はいつも中国の近現代をみるとその凄まじさに圧倒されそれを乗り切ってきた人民たちに敬意を持ってひれ伏したくなるのだけれど、そしてそんな中国の陰に隠れてきたかもしれないけど、朝鮮半島もかなり負けず劣らずの歴史を歩んできたんだ、と気付かされた。
    特に著者の、「日本人は朝鮮戦争について全然何も知らない」という指摘はその通りで、私も御多分に洩れない。
    国土が戦場となり、北と南の支配域が目まぐるしく変わり、市民は「どちらに着くか」の踏み絵を踏まされ、それまでの支配者に従っていたら次の指導者が来た時に「裏切り者」扱いされ、何が正解で何が安全かわからない異常事態が何年も続いたなんて、全く知らなかった。
    そしてそのあとも、光州事件に代表される、軍が市民に銃口を向けるような独裁政権下での悲惨な事件がいくつも起こった。
    日本よりよっぽど苦難の戦後を歩いてきているんだ、その末に掴み取った今の社会なんだと思うと、ソウル中心部のただのツンとした大都市の表情が、少し違って見えるように感じた。
    こんな戦後を歩んでいたら、紹介されていたどれかの本の誰かのセリフであったように「あの時代に傷ついてない人なんていない」のだと思うけど、それと今の華やかで若々しいKPOPの乖離を不思議に思いもした。たとえばウォニョンやチェウォンやナヨンやウォンヒなどなど、私の大好きな可愛い女の子たちは、こういう歴史の上に自分も立っているという感覚をどれくらい持っているものなのかな。

    一つ本書の欠点を挙げると、筆者も最後に書いているように「重すぎる」こと。
    韓国文学に興味を持つと同時に重荷にも感じてしまった。これ全部背負って相当襟を正して読まないといけないのかな?と。絶対に歴史がついて回ってきて、単純に娯楽小説は存在しないのかな?とも不思議に思った。
    私はジェンダーの感覚がかなり鋭い方だと思うが、韓国フェミニズム文学にあまり触れてこなかったのは、なんというか直接的すぎて読む前から言いたいことはわかっている、という感じがしてしまうから。語弊を恐れずに言うと説教くささを感じてしまうから。
    本書に対しても若干それを感じた。
    けど日本も戦後の文学だって(例えばわかりやすいところで言うと司馬遼太郎や堀田善衛なんかがすぐ思い浮かぶが)説教くさかったなと思い至った。民主化が遅かった韓国ではまだ日本の「戦後」のような空気感がずっと続いているのかもしれない。やっぱり激烈な時代を抜けてきてしばらくの文学は直接的で説教臭くなるものなのかもしれない。

    いずれにせよ韓国にこれまでより興味を持てたし、ハン・ガンはちゃんと読んでみようと思った。

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    2026年05月06日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    ネタバレ

    女子校出身、女性ばかりの職場で働いているからなのか女性だから損してると感じた経験は少ないけど自分が気づいていないだけで損をたくさんしているのかもしれない
    キムジヨンには幸せになってほしい

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    2026年05月01日
  • 光と糸

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    ノーベル賞の文学賞を得た韓国の韓江(한강)さんのエッセイ。光と糸はノーベル賞の受賞記念講演だそうだ。「菜食主義者」、「風が吹いている、行け」、「ギリシャ語の時間」、「少年が来る」、「別れを告げない」。のそれぞれを書きだした時の動機のような背景が書かれている。この本を読むことで韓江さんの思いを少しだけ感じられるのではないだろうか。

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    2026年04月21日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    82年生まれ、キム・ジヨン

    著者:チョ・ナムジュ

    子育て中に異常行動が表れた1人の女性患者のカウンセリング記録という形で進行していく小説。

    過去から現在に至るまでの韓国社会における女性差別の実態を告発するかのような内容で、フェミニズム本のような読み味だった。

    出生、進学、就職、所得、結婚、育児
    様々な点においての男女格差を極めて普遍的に描いており、その普遍さが薄い膜のように作品を纏い、とても不気味で恐ろしいものに感じた。

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    「でもさ、ジヨン、失うもののことばかり考えないで、得るものについて考えてごらんよ。親になる事がどんなに意味のある、感動的なことかをさ。それに、本当に預け先がなくて、最悪、君が会社を辞めることになったとしても心配しないで。僕が責任を持つから。君にお金を稼いでこいなんて言わないから」
    「それで、あなたが失うものは何なの?」
    「え?」
    「失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友だちっていう社内的ネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だから失うもののことばかり考えちゃうんだよ。だけど、あなたは何を失うの?」p149

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    女性として生まれたが為に、
    周りのみんながそうであるように、
    当たり前のように諦めなければいけない事はあって良いものなのだろうか。

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    法律や制度が価値観を変えるのか、
    価値観が法律や制度を牽引するのかと。p145

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    女性差別はどの国でも共通する重要なトピックであると同時に、その実態として掲げた理想との大きな矛盾が生じていることも再認識する必要があると感じた。

    それを象徴するかのような結末には本当に救いの無いどうしようもなさが集約されていた。そして解説を読んで、さらに恐ろしい著者の意図に震えた。
    これは決して他人事では無い。

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    2026年04月11日
  • ギリシャ語の時間

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    文字が美しかった。言葉が洗練されていた。だからこそ、ちょっと難しかったし、それが美しさを際立たせてると思ったし、面白かった。
    人と言葉をまぜまぜしてる2人が可愛かった。じぶんでも何言ってんのかわからん。

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    2026年04月10日
  • 「なむ」の来歴

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    韓国文学に興味があり、斎藤さんの訳本をいくつか読んでいたが、本書を読み、言葉やその背景にある歴史とその傷などを丁寧に扱う方だと再認識した。文中の引用や紹介している本たちも気になる。いつでもより深い興味を開かせてくれる方。

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    2026年04月04日
  • 曇る眼鏡を拭きながら

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    斎藤真理子さん曰く「編集は世界を作ること、翻訳は世界を歩くこと」。他人の世界を丁寧に歩いてこられたお二人だからこそ、言葉の扱い方/拾い上げ方、お互いの書簡の読み取り方が、とんでもなく細やかで心地よい。

    「塩食いの会」「ヴィーヴァ!藤本和子ルネサンス、ヴィーヴァ!」などのパワーワードが頻出する、藤本和子とリチャード・ブローティガン(わたしは文字のタトゥーを入れるとしたら、『アメリカの鱒釣り』の一節にしようと思っているので)の話を筆頭に、各々が担当された作家やお二人の育児話など、読み応えがありすぎる。

    あと、わかってはいたけれど、読みたくなる本の話題がドカドカ出てきて、リストがパンクしそう。

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    2026年04月03日
  • 「なむ」の来歴

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    特に好きなのは、三章「言葉と言葉の間で」。
    同じような年頃なので、「わかる、わかる」と思うところも多かった。
    静かで、鋭い。
    この本に出てくる詩を声に出して読んでみた。いい。
    若い時はわからなかった詩の良さが、わかるようになった・・気がする。

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    2026年04月02日
  • ギリシャ語の時間

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    海外文学、翻訳作品に縁遠く、シドニィ・シェルダンの超訳ものまで遡らないと読んだ記憶がないです。
    翻訳作品は日本語が硬く感じてしまいリズムで読めないので苦手意識があります。
    ところが、この作品はその日本語の硬さが登場人物の孤独を際立ててとても冷たく感じマッチしているように感じました。
    最後二人の体温を感じる場面へのグラデーションの美しさと速度に映画を観ているような気持ちになりました。
    韓国ドラマはたまに観ますが文学は初めて触れたかもしれません。
    なんと美しい文章なんでしょう。
    少し難解なところもありますが「これぞ文学」という作品のひとつかもしれません。
    海外文学といえば欧米が舞台の作品を多く目にしますが、アジアの文学は舞台の湿度や温度も自然に想像できて読みやすいかもしれないと思いました。
    ハン・ガンさんの他の作品も読みたくなりました。

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    2026年03月29日
  • 回復する人間

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    肉体や心が傷ついた人たちが、そこから回復する過程が描かれている短編集。

    西佳奈子さんの「くもをさがす」に出てきた作品だったので手に取ってみた。

    家族関係、夫婦関係などで傷ついた人、社会から受け入れてもらえないマイノリティの辛さなど様々な傷を抱えた人達がどう生きて行くのかが描かれている。
    特に印象的だったのが、夫婦の関係と子どもへの関わり方への描写だ。夫の子育てへの非協力、夫婦としてのコミュニケーションの欠乏がリアル感を持って描かれていた。
    心や体に傷を抱えている人が読むと、気持ちが救われる作品。

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    2026年03月26日
  • ギリシャ語の時間

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    多少の難解さがあり、通読する根性が必要かもしれないが、文章の綺麗さ、表現の美しさで読み通せた。

    訳者さんが後書きで述べられている通り、複雑な構造(哲学や他の文学作品の知識があるほうが理解が深まる)を持ってはいるけれど、すべて理解できなくとも楽しむことはできる。

    個人的には、今まで出会ったことのない新たな文学作品に出会えてよかったな、と思うし、また著者の別の作品にも触れてみたいと思う。

    ただひとつ希望を付け加えるとしたら、原書の著者後書きも引用ではなく、丸ごと訳して欲しかったな…と残念な気持ちが残る。著者がどういう気持ちで記したのかを知りたかったな…。

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    2026年03月26日
  • 光と糸

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    人間の持つ愛と暴力に、書くという行為で立ち向かった際の苦しみが綴られている。『庭の日記』がよかった。途中に挟まれる写真も美しく、植物を愛していたことが伝わってきた。

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    2026年03月26日
  • 光と糸

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    文章から血が滴り落ちるようだった。
    暖かく生臭く、それでいて赤く美しい。

    こんな感性を持ち合わせて、突き詰めるように文章を書いていたらいつか彼岸に行ってしまいそうで怖くなった。
    さぞやこの世は生き辛かろうなぁ

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    2026年03月24日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    職場で男女差別を感じることが幸いにも殆どない。しかし、幼少期からのひとつひとつの出来事で、心に鎖ができていると思う。男性が先と、どこかで思っている気がする。

    でも、女性だけが被害者かというと違う。男性側も不公平感を感じているという視点が大事と思った。

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    2026年03月23日
  • 誰でもない

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    韓国が抱える社会問題が下地にその中で生きる人々を描いた作品
    IMF危機や都会で仕事をなくした人が田舎で職を探す、セウォル号沈没事故を思わせる水難事故などを織り込んで綴られる

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    2026年03月20日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    読んでてしんどくなる作品だった。でも内容は興味深いしもちろんストーリーとして良い。男女どちらも読むべき。
    韓国の文化をよく学べた本だった、一部フィクションもあるかもしれないけど。
    どの本よりも怖いしこんな世の中嫌だと思えるけど、日本でも身に覚えありそうなことばかりなのが余計しんどい。

    なんで女性というだけでレッテルを貼られて、中身を見てくれないんだろう。今はもう女性だから大学は行かなくて良いとかは言われない時代だけど、完全に男女差が無くなったわけじゃないよね。
    男女どちらも出産できるようにして、ほとんど身体の個体差もなくなれば、こんな嫌な世の中じゃなくなるんだろうか。

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    2026年03月14日
  • 光と糸

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    ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞記念講演や創作のことなど綴った書籍。とても辛い歴史を軸とした作品が多いのでご本人も精神的にとても辛いと思う。それでも、作品を世に出す意味、重要性を知っていらっしゃるから書かれるし、私たちもそれを読んで考えることができる。一つの作品に数年かかると書かれていた。それだけの思いが詰まった作品をこれからもずっと読み続けていきたい。

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    2026年03月13日