斎藤真理子のレビュー一覧

  • 誰でもない

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    喪失や絶望、苦悩を抱えて生きている現代の人々の姿を、寄り添うように、逆に突き放すようにも鋭い視点で描いた短編集。独特だけれど読みやすい展開や表現が癖になりそうな、面白く読めた短編集でした。

    「ヤンの未来」での突然目にした不幸を気に病みつづける女性の姿、「上流には猛禽類」の好きだけでは埋められない溝、「誰が」のユーモアとホラーテイストが両面となった畳みかけるような描き方、「誰も行ったことがない」で夫婦の辿る旅路の果てに待つ膨大な絶望の姿。

    どれもが幸せな物語とは言い難いけれど、やたらと重く悲劇的に描くのではなく、冷静な俯瞰的な視線と明快なテーマが描かれていて、すらっとした読みやすさがあるのも

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    2025年06月25日
  • 回復する人間

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    ハン・ガン氏の小説は少し曇天の澄んだ空気を持つ初冬の朝をイメージさせる。不安定で漠然とした「何らかのものたち」を柔和で静謐な文章で書き表していく。人と人とが織り成す関係を丁寧に解きほぐして再構築する文体が印象的。失ったものもしくは失いつつあるものからの回復。記述的ではないけど抽象的でもない。「回復する人間」と「火とかげ」が個人的好み。

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    2025年06月24日
  • 別れを告げない

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    韓国の第二次世界大戦後の歴史を感じることのできる本
    訳者あとがきがとても良い

    ゆくゆくの映像化を意識したのかな?と思われる小説
     

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    2025年06月25日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    ネタバレ

    大変読みやすく、面白いと言う表現は語弊があるけどとても満足度の高いものでした。作品全体を覆う閉塞感はジヨン氏のものなのか。時々涙が出そうになるくらい辛かった。最後の数行の仕掛けは秀逸で、救いの無さに思わずうおーっと声がでた。女性の社会的地位の低さは日本も似たところはあるだろう、だけど慣れてしまって気づかないことがどんだけあるだろう。
    救いはジヨン氏のお母さんが学歴もない中、家庭を切り盛りし商売を成功させ、アホボンな旦那に一撃かますとこ。ほんとカッコよかったね!

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    2025年06月09日
  • 別れを告げない

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    ログライン
    国家の暴力に晒された母の人生と、それを見つめ続けた娘。そして、その娘の声を受け取った作家が、自身の沈黙を破って語り始める。忘却に抗う、母娘と語り手の三重の時間を描いた記憶の文学。

    構成
    ◼︎起
    2014年夏、作家キヨンハは知人のドキュメンタリー映画監督・インソンからの連絡を受け、彼女の母親の死を通して「43事件」にまつわる記憶と向き合うことになる。

    ◼︎承
    4年間にわたり、療養中のインソンが送ってきた詳細な手紙・メール・記録を通して、暴力と喪失に晒された母娘の人生が浮かび上がってくる。

    ◼︎転
    インソンの死をきっかけに、語り手キヨンハは初めて自身の言葉で「語らなかった4年間」

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    2025年06月05日
  • 影犬は時間の約束を破らない

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    冬眠小説は素晴らしい。私が他にぱっと思いつくのは「ラピスラズリ」と「ムーミン谷の冬」ぐらいだけど。
    平易な一人称の文体がするっと身に馴染むようでいて、しかし私の頭からでは絶対に出てこないだろう言葉が出てくるたび、そのずれが世界に立体感や余白を生み出していく。例えば「言葉は怖くて、言葉は楽しい。脳は素晴らしく、私は脳がほんとに好きだ。」とか、他にも色々。解説で「誤差を含めて泡立てたようなふっくらした質感」と表現されているのがしっくりくる。ただ文章を読んでいるだけで心地よく、じんわりと回復していくような作品。

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    2025年06月04日
  • 回復する人間

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    登場人物たちはみな生きることに大層疲れている。生きていくことはなんて困難なことだろうと思った。それでも人間は回復する力がある。静かだが確かな力が。きっと自分にもあるんだと信じたい。自信はないけど。
    最後まで燃える心臓、フンザ、「黄色い模様のヨンウォン」など、主人公たちに力を与えるものがみな印象的で美しくとても素敵だった。ハン・ガンの文章はいつも映像が頭に浮かぶ。静寂で美しい時間だった。

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    2025年05月30日
  • 誰でもない

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    8つの短篇集。
    韓国文学の、社会問題を描くのに深刻に重くなりすぎないタッチが好きなのですが、この作品は重苦しくなりそうなギリギリの読後感。
    淡々と語る後の不穏な余韻。
    老い、家族、雇用、労働者‥向き合って、描き出しているのがぐっと響きます。

    特によかったのが、
    『笑う男』。
    心にずしんと響きます。
    誰にでもある一瞬の選択、
    とっさの行動が導く結果。
    それが予期せぬ不幸を招いた時、ずっとその後悔を抱えて生きていくことになる怖さ。
    その選択を一瞬で正しいものを選んだり、とっさに正しい行動ができるようにするためには、日々正しい行動や思考をを積み重ねて、心に余裕がないとできないような気がします。

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    2025年05月30日
  • 影犬は時間の約束を破らない

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    冬眠する人とそれを見守るガイドの話
    冬眠する人を見守りながら自分の人生や生活と向き合いつつ、淡々と毎日を過ごすガイドたちの時間がとてもひっそりと静かで心地良い。不思議とこれを読むと良く眠れる気がする。眠ることと散歩することを意識的にして物事を深く考えたり考えなかったりする時間を取りたくなったし、たまに読み返したくなるだろうなという本。寒い国出身の人が生み出す文章は淡々と静かでどこか切なくて好きだなと思う

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    2025年05月26日
  • 別れを告げない

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    低山の尾根から裾野に向かって、何千本もの黒い丸木が植わっている。雪が降り、次第に海の潮が満ちてきて、キョンハが立っている足下まで浸してくる。彼女は、その黒い丸木が全部墓碑なのではないかと思う。
    キョンハがその悪夢を見るようになったのは、2014年の夏に、「あの都市で起きた虐殺に関する本(p10)」を出してから二か月近くが経った頃だったという。訳者あとがきによれば、「あの都市」というのは光州を指している考えられ、夢の話も著者自身の経験によるところから、自伝的な要素が強い作品だという。
    物語は、その後、ドキュメンタリー映画を制作していたインソンという友人が、誤って指を切断してしまい入院したことをき

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    2025年05月20日
  • 別れを告げない

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     一つ一つの文章が繊細で美しく、常にじっくりと注意して汲み取らなければ、その言葉の奥にある凄惨な出来事を取りこぼしてしまうような感覚でした。全体の筋は分かっているのだが、この本に潜むものを咀嚼できたとは到底思えず、自分の読解力のなさと至らなさを痛感するばかりでした。でもそれはハン・ガンの作品が自分と合ってないというわけではなく、他の作品もさらに読みたくなったし、純粋にもっと深くまで理解したい・知りたいと思いました。何かを分かろうとすること、そして哀悼をやめずに繋がりを諦めないこと。そんなことを伝えてもらったような気がします。

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    2025年05月15日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    話題の本なのでチェック。読みやすいのであっという間に読み終えられると思う。

    韓国の物語ではあるが、日本とそう変わらないと思う。そして、ここでキム・ジヨンの遭遇する苦難はこのように“わざわざ文章化して発表されなければ「あたりまえ」とか「仕方ない」で片付けられるような透明なハードルであろう。

    俺は男だが、彼女らのことを追体験するように没入できた。

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    2025年05月06日
  • タワー

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    超超大型のマンション?というシチュエーションのアイデアがまずすごい。ありそうでなかった。
    そのシチュエーションを生かした短編ストーリーも、それぞれ角度が違って面白い。
    ディテールが細かく作られているのがよくわかる。
    読む人の想像力を掻き立てられて面白かった。

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    2025年05月05日
  • シリーズ「あいだで考える」 隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

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    韓国文学へのガイドは、多くの場合、日本と朝鮮という2つの国の関係から語られることが多いが(もちろんそれは必要不可欠なことだ)、この小さくて美しい本で、斉藤真理子さんは、朝鮮の人たちが使う言葉を差し出しながら、その奥深さへと導いていく。話し言葉の「マル」、書き言葉である「クル」、そしてその奥から聞こえてくる「ソリ」、声。
    植民地支配や軍事政権によって本心を語るための言葉を奪われ、大量死さえ重ねられてきた集合的歴史をもち、個々の身体においても容易に言葉にしがたい痛みを負ってきた隣の国の人たちが、だからこそ自らの手に取り戻そうと格闘してきた「マル」「クル」「ソリ」。それを表現しようとするのが韓国文学

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    2025年05月04日
  • 回復する人間

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    短編集。
    明るくなる前に
    回復する人間
    エウロパ
    フンザ
    青い石
    左手
    人とかげ

    危うさと脆さ、ギリギリのラインに立つ人、どの作品にも痛みがあり苦しい。でも、なんだろうか。生への思いが強く静かに届いてくる。

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    2025年05月02日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    すごくわかる、共感する
    韓国の文化が知れておもしろい
    子を持つこと、働きながら子供を育てること、いまタイムリーに自分が悩んでいるところだから刺さることが多かった
    解決はしない問題。

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    2025年04月22日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    タイトルは聞いたことがあったが、今回読書会の課題図書、という縁があって読むことができた。たいへん身につまされ、身になるよい小説。題材はフェミニズムだが、多くの社会システムによって弱者にされてしまっている人たちの告白ともとれる。やはり不寛容さには不寛容さで臨むべきだが、トランプのアメリカが究極の不寛容さを炸裂させている中、少しずつ良くなってきた世界がまたも弱者を増やす方向に動いていることに、心を痛めている。考え、行動し続けるしかないですね。

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    2025年04月19日
  • 未来散歩練習

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    「来てほしい未来を思い描き、手を触れるためには、どんな時間を反復すべきなのか。」
    ふわふわとしていて不思議で、読んでいるとコーヒーを飲みたくなるし、美味しいものを食べたくなるし、散歩に行きたくなる。散歩をしながら、過去とつながっている今、今とつながっている未来、私はどんな未来を練習しているのかと考えたくなる。現状に満足できていなくても未来には希望を持つことができるようになりそうな気がした。

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    2025年04月13日
  • 回復する人間

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    ネタバレ

    初めての韓国文学で、初めてのハン・ガン。
    静謐な文体。読むうちに心が沈黙して、無我の境地になる。喪失からの静かな、みずからはそれと気づかないほどの細い細い糸のような回復。希望がほんのりと差し込んでくる。
    「時間とは流れるものではないのかもしれない」(p.141「青い石」)
    「私たちももともとはああだったけど、そのあとにいろいろプログラムされて、本来の状態を忘れて暮らしてるんじゃないかと思うわ」(p.261「火とかげ」)
    失ったものは取り戻せないけれど、それを置いてきた時間にいつでも戻れる。そこから回復の一歩を踏み出す。

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    2025年04月09日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    ネタバレ

    初韓国文学、初フェミニズム小説。
    読む前はタイトルに惹かれただけで、フェミニズム文学とは知らなかったけど、読んでいくうちに日本でも同じようなことが起きているなと思った。

    ネットでフェミニストはバカにされる対象だし、逆差別という主張はレディースデイ、レディース割への反論でも記憶に新しい。ミソジニー的な犯罪や発言は溢れかえっているし、2025年の今の日本でもホット。
    なぜここまで性別で揉めるのかと考えると、解説にあるように自分にはない特権を持っていると捉えてしまうことが発端で、女性だけでなく多岐にわたるマイノリティへのヘイトの多くがこれ。
    それってつまり、みんなが苦しんでいる証拠かなと。政治や経

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    2025年04月01日