斎藤真理子のレビュー一覧
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喪失や絶望、苦悩を抱えて生きている現代の人々の姿を、寄り添うように、逆に突き放すようにも鋭い視点で描いた短編集。独特だけれど読みやすい展開や表現が癖になりそうな、面白く読めた短編集でした。
「ヤンの未来」での突然目にした不幸を気に病みつづける女性の姿、「上流には猛禽類」の好きだけでは埋められない溝、「誰が」のユーモアとホラーテイストが両面となった畳みかけるような描き方、「誰も行ったことがない」で夫婦の辿る旅路の果てに待つ膨大な絶望の姿。
どれもが幸せな物語とは言い難いけれど、やたらと重く悲劇的に描くのではなく、冷静な俯瞰的な視線と明快なテーマが描かれていて、すらっとした読みやすさがあるのも -
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ログライン
国家の暴力に晒された母の人生と、それを見つめ続けた娘。そして、その娘の声を受け取った作家が、自身の沈黙を破って語り始める。忘却に抗う、母娘と語り手の三重の時間を描いた記憶の文学。
構成
◼︎起
2014年夏、作家キヨンハは知人のドキュメンタリー映画監督・インソンからの連絡を受け、彼女の母親の死を通して「43事件」にまつわる記憶と向き合うことになる。
◼︎承
4年間にわたり、療養中のインソンが送ってきた詳細な手紙・メール・記録を通して、暴力と喪失に晒された母娘の人生が浮かび上がってくる。
◼︎転
インソンの死をきっかけに、語り手キヨンハは初めて自身の言葉で「語らなかった4年間」 -
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8つの短篇集。
韓国文学の、社会問題を描くのに深刻に重くなりすぎないタッチが好きなのですが、この作品は重苦しくなりそうなギリギリの読後感。
淡々と語る後の不穏な余韻。
老い、家族、雇用、労働者‥向き合って、描き出しているのがぐっと響きます。
特によかったのが、
『笑う男』。
心にずしんと響きます。
誰にでもある一瞬の選択、
とっさの行動が導く結果。
それが予期せぬ不幸を招いた時、ずっとその後悔を抱えて生きていくことになる怖さ。
その選択を一瞬で正しいものを選んだり、とっさに正しい行動ができるようにするためには、日々正しい行動や思考をを積み重ねて、心に余裕がないとできないような気がします。
す -
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低山の尾根から裾野に向かって、何千本もの黒い丸木が植わっている。雪が降り、次第に海の潮が満ちてきて、キョンハが立っている足下まで浸してくる。彼女は、その黒い丸木が全部墓碑なのではないかと思う。
キョンハがその悪夢を見るようになったのは、2014年の夏に、「あの都市で起きた虐殺に関する本(p10)」を出してから二か月近くが経った頃だったという。訳者あとがきによれば、「あの都市」というのは光州を指している考えられ、夢の話も著者自身の経験によるところから、自伝的な要素が強い作品だという。
物語は、その後、ドキュメンタリー映画を制作していたインソンという友人が、誤って指を切断してしまい入院したことをき -
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韓国文学へのガイドは、多くの場合、日本と朝鮮という2つの国の関係から語られることが多いが(もちろんそれは必要不可欠なことだ)、この小さくて美しい本で、斉藤真理子さんは、朝鮮の人たちが使う言葉を差し出しながら、その奥深さへと導いていく。話し言葉の「マル」、書き言葉である「クル」、そしてその奥から聞こえてくる「ソリ」、声。
植民地支配や軍事政権によって本心を語るための言葉を奪われ、大量死さえ重ねられてきた集合的歴史をもち、個々の身体においても容易に言葉にしがたい痛みを負ってきた隣の国の人たちが、だからこそ自らの手に取り戻そうと格闘してきた「マル」「クル」「ソリ」。それを表現しようとするのが韓国文学 -
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ネタバレ初韓国文学、初フェミニズム小説。
読む前はタイトルに惹かれただけで、フェミニズム文学とは知らなかったけど、読んでいくうちに日本でも同じようなことが起きているなと思った。
ネットでフェミニストはバカにされる対象だし、逆差別という主張はレディースデイ、レディース割への反論でも記憶に新しい。ミソジニー的な犯罪や発言は溢れかえっているし、2025年の今の日本でもホット。
なぜここまで性別で揉めるのかと考えると、解説にあるように自分にはない特権を持っていると捉えてしまうことが発端で、女性だけでなく多岐にわたるマイノリティへのヘイトの多くがこれ。
それってつまり、みんなが苦しんでいる証拠かなと。政治や経