斎藤真理子のレビュー一覧
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詩の素晴らしさに出逢わせてもらい星5。
この本を通して教えてもらったこと。↓
詩においては“美しい”とは、そのものの(あるものや事柄)について良さを表さない。台無しにする言葉でもある。
“美しい”と言う一言はかけがえのなさを表せる。唯一無二のそのものの様子やあらゆるどんな比喩を失うほどの完璧さを表すのだけれど。それ故にディテールや本来持つ個性を表現しないが故に大切な物を同時に失わせてる。
そこにこの言葉の素晴らしさと残酷さと完璧さが表現できる。とても深い想いを巡らせられている言葉だと感じました。
光に彩色色彩が。その様な表現の様。
ですが、私は“美しい”を知っています。
とても大切な -
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ネタバレハングルの文字を手がかりに韓国の歴史を説明している。イテウォンの事故についてはほんの僅かしか言及していないが、セウォル号の座礁事故では船長も船員も非正規雇用者であることは日本では報道されていない。また訓民正音については日本の井上角五郎の新聞でハングルを広めた役割は書かれていないものの、ハングルが使われるまでの中国語を使う役人の説明は詳しい。(従軍)慰安婦や朝鮮戦争での米軍相手の慰安婦やベトナムでのタイガー部隊やライダイハンは意図的に避けられている。また、日韓併合前の奴隷制度について書かれていないのは文学としての記録がないためであったのかもしれない。韓国における詩の重要性を認識することができるで
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死んだ姉と兄、今生きている自分。作者自身の過去をもとにした死と再生の散文小説。
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ノーベル文学賞をとったハン・ガンさんの本、初めて読みましたが、これには胸を打たれました。
もう初っ端からどくどく血が流れるような傷を見せてくる。
死と破壊、生と再生を、ものすごく澄み切った筆致で、針のように鋭い言葉で、詩のような文章で、読者の心を刺して刺して刺しまくる。
読んでいて胸に迫る内容と美しい文章が暴れ回って大変でした。ハン・ガンさんの本はほかにも読んでみようと思っているのですが、ちょっと次に手を伸ばすのを躊躇するような切れ味と重さでした。 -
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苦しい。けれど傷を見せてくれるように紡がれる言葉から目が離せない。私は幸運なことにとても死と暴力から遠い人生を今のところ歩んでいる。本当に大切な人を失ったことがまだなく、自分自身も一度も死にたいと思ったことがない。だからこそ、こうして身近な死をたくさん経験して、失いながらも生きる言葉にしてくれていることが本当にありがたい。
何より、「カッコの多い手紙」を読んで以降、ずっと猫のジュンイチのことが気がかりだった。
この本の目次を開いて、ジュンイチが先に眠ってしまったことを察して、まだ本文を一文字も読んでいないのに泣いた。最後の方の、恐らくジュンイチとの別れについて書かれているであろう箇所を読む -
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今まであまりにも韓国の本を読んでこなかったので、この国の文学の歴史はどのようなものなのかを知りたくて手に取った。
第1章で、読んだことのある本「82年生まれキム・ジヨン」について書かれていたが、まずその本の解釈が私はあまりにも浅かったのだということに気づかされた。
この本は2016年に韓国で出版されているが、第2章以降、歴史をさかのぼって韓国文学が紹介されている。
文学はそれが書かれた時代の影響を受けるものなので、韓国の歴史がかなり深く説明されている。
例えば第2章では、2014年に起きたセウォル号沈没事故の詳細が書かれており、この事故が韓国人に与えた影響の深さがよく分かった。
当時のことは覚 -
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ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン女史の作品。
構成は3章から成り、ファインフォトを掲載しながら抒情的な散文詩が次から次へ綴られる。
1章:私
「私」が生まれる前に、母は初産で女の子を産んでいた。
母は人里離れた官舎で、誰の助けも呼べずに8ヶ月の未熟児の娘を産んだ。
激しいつわりに耐えながら、母は白い絹布で産着を縫い合わせて準備していた。
その産着を生まれたばかりの娘に着せ、産声もなく産まれ出てきた娘に「お願い、死なないで、死なないで」と呼びかけ続ける。
「死なないで」の呼び掛けに、娘は数度だけ束の間瞼を開くのだが、力無く閉じてしまう。
そして母親の必死な願いも虚しく、誕生から2時間後に娘は -
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冒頭では、これが済州四・三事件につながるなんて思いもしなかった。
とかエラそうに書いてるけど、済州四三事件とかまったく知らなかったし。こんなに近い国なのに。
小説本編にも注意書きは多いが、「訳者あとがき」はほぼこの事件の経緯、解説。
本編より細かい字でみっしり。情報量とその内容の深刻さ、残酷さに圧倒された。
となるとウィキペディアとか見ちゃうよね。でまたドシッとくる。
タイトル「別れを告げない」は、作品中では映画のタイトルとして出てくるけど、「哀悼を終わらせない」という意味だと著者がはっきり述べているそう。
幻想的な場面展開も詩人ならではかな。
さすがノーベル文学賞受賞されただけある。
斎藤真 -
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舞い散る雪が、死者たちの頬にうっすらと積もり、白く覆ってゆく。
等しく生者の頬にも降る雪は、刺すような痛みの感覚を残して、溶け去ってゆく。
痛みと熱が生の証というならば、死は痛みの喪失と引き換えに、無限の沈黙の中に消えるということなのか。
いや、例え肉体が凍りつき、もはや唇は閉ざされたままだとしても、死者には消えぬ痛みの記憶が残っている。
死者には、語るべき言葉がある。
だから、別れを告げない。
雪は溶けて海へと流れ、空に昇って雲となり再び一ひらの雪片として地上へ戻ってくる。
過去と未来は循環し、死と生は共にある。
そんな地点ををつなぐのは、悲しみと嘆きの言葉だけじゃない。
あなたにはわた -
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一度読んだだけでは到底理解は出来ない。
視力を失っていくギリシャ語講師(男)の回想と
ある時から言葉を発することが出来なくなったギリシャ語受講生(女)の回想が続いて行く。
冒頭と結末が同じなので二人がいかに交わっていくのかという話ではあるのだが、恋愛模様とは全く違う。
哲学論と詩のような文体が入ることにより、物語より深い不思議な体験を味わえる。
始めはそれが、読みにくいし、全く理解出来ず苦痛だったのが、慣れとともに心地良くなり次第には独特な言葉の禅体験をしたような晴れやかな気持ちになっていた。
傷を抱えた者が世の中に馴染めず、かといって落としどころを見つけて合わせて生きていくのも苦しい。
二分 -
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ネタバレ寝る前にちょっとずつ読むのに適してるなぁって感じ。1個1個話は短いけど深いから一気に読むのは違うなぁと。
この本は物語と詩が合わさったように書かれていて、自分は詩を読むのが得意じゃないけどこの本は読むことができた。
1個1個の物語の内容を自分に当てはめたりして感性が研ぎ澄まされ過ぎてしまって苦しい。息がしずらい感じ
あとがき読む前まではそう思ってたんだけど、最後の方の解説を読むと物語の内容が全然違う!ひとつひとつが独立してる詩なのかと思っていたら全て繋がっていて物語だった。
新しいものに出会いました。
これは本だからこそ得られるものだなと思いました。 -
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読みながら少したじろぐ。なぜハン•ガンさんは、異郷のゆかりもない僕に対して、抱え込んだ孤独を、疼き続ける痛みを告白するのかと。
僕には、受け止めるだけの度量も、分かち合う優しさもないというのに。
だが、彼女は決して弱音を吐いて、己の傷や悲しみを嘆き訴えているのではなかった。
むしろ、誰からも助けの手が差し伸べられなく、独りで耐えるしかない痛みに押し潰されたときでさえも、消え去ることのない強さが人の内には秘められている、そう静かに告げていたのだ。
人は自らの意志で、身体や生活を律して前へ進んでいるいると思い込んでいるけれど、果たしてそうだろうか。
心がたとえ悲しみを求めていても、
理性が抑 -
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K-POPアイドルが好きだ。男女問わずかっこいい。
発祥国の韓国への憧れがある。未だ訪れたことはない。
文化的で華やかな一面を第三者として享受している。
でも、本書のような暗い影を知ることは韓国という国の本質的な理解には必要だろう。
主人公のキム・ジヨンは私より少し上の世代。ほぼ同じ時代を過ごしてきた彼女が受けている社会からのネバっとした抑圧・無自覚な蔑み。10代-30代の中でそれぞれの年代に起こる確かな違和感。男性優遇、私生活と仕事、出産と育児。あからさまな表層的な差別があるのではなく、受け入れるしかないだろうという雰囲気によってなし崩し的に選択肢を失う。
昔話ではなく現在進行形の問題。 -
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中動態。プラトンのイデア論。使われていない言葉のギリシャ語(言葉の古層の比喩か)。目が見えなくなる男性。言葉を失った女性。若き日の初恋の破綻(男性)。裁判で負け子どもを手放す(女性)。ドイツから韓国に、母親と妹との別離、距離を隔てた地での親友(男性を愛している?)の死(男性)。ドイツでは異物としての視線にさらされる(男性)。その二人はソウルのカルチャースクールのギリシャ語講座で教え・教えられる関係にある。
なんという複雑に錯綜した構造の小説だろう。執筆に2年間かかったのも頷ける。
離別を経験し、見えなくなり、発声ができなくなっているからこその出会い(溶け合い)。
そして、この二人を描写し