斎藤真理子のレビュー一覧

  • 光と糸

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    〜世界はなぜこれほど暴力的で苦痛に満ちている?
    と同時に、世界はなぜこれほど美しいのか?〜

    人間の暴力性に真っ向から向き合って、文章で戦うハンガンさん。
    世界が平和と反対方向に向かっているような気がしてならない今、読めてよかった。
    最初の方は2024年にノーベル文学賞を受賞したときの講演の全文。
    彼女がこれまで世に出した書籍がどういうプロセスで書かれたのかがわかって、またいろんな本を再読したくなった。
    中盤はエッセイ、そして後半は日記。
    庭木にアブラムシやハダニがついて、殺虫剤を噴霧したら全部枯れてしまったり、何匹もいたはずの虫が消えていて悲しんだり、花が咲いて喜んだり、花が咲かずに残念がっ

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    2026年02月09日
  • 「なむ」の来歴

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    斎藤真理子さんを木にたとえたら、と考える。
    がっしりと張った根は、古い地層に蓄えられた水を汲み上げ、揺らぐことはない。
    稠密に重ねた年輪に支えられた頼もしい幹に、背中を預けて空を見上げてみると、光を求めて両手をいっぱいに差し伸ばしたかのような梢が見える。
    そよ風と戯れて、さんざめく枝先は、どこまでも軽やかだ。
    見慣れた馴染み深い木であるが、僕の中で欅のイメージが重なる。
    この季節のキリッと冷たい空気のなかで、青空を背景に立つ裸木の凛とした佇まいもまた、彼女に似つかわしいように思えてくる。

    木にたとえたくなった理由は、もちろん本書のタイトルからの連想だ。
     “「なむ」とは韓国語で木を指す。本は

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    2026年02月08日
  • 別れを告げない

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    物語の根底に、1948年4月3日に発生した済州島四・三事件がある。
    李承晩政権下の軍・警察、そして駐韓米軍が、1954年までの6年間で約3万人の島民を虐殺した凄惨な事件だ。
    朝鮮半島が南北に分断されることに反対する民衆が、済州島で武装蜂起したことが事件の発端だった。
    その後、韓国が本格的な民主化を迎える1987年6月の民主化宣言までは、済州島四・三事件を語ることはタブーとされている。

    主人公の作家キョンハは虐殺に関する本を出版した後、原因不明の酷い目の痛みと胃痙攣に悩まされていて、精神的にも疲れていた。
    そんな時に友人の映像作家インソンは、キョンハが提案した木製オブジェを製作中に指を切断する

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    2026年02月06日
  • すべての、白いものたちの

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    多くの読者の感想のように、文体は散文詩のようで、読めば深い心の底にある思いに気づく。
    過ぎた者たちや風景の懐かしさだったり今手に取っているものもいつか消えていくという寂しさだったり、それが時間によって、傷が治るように次第に癒され、さまよっていた過去が浄化されていくことだったり。

    心の深層に隠れていたものを鮮やかに語り、それを読み解き、自分の中でとらえどころがなかった出来事や時間がすべてが過去になっていくという。通り過ぎて、ある、あったと思って生きていた時間はもうとうに過ぎ去っている。ということ。
    人すべてに通じる生きることの普遍は、身近にある白いものに託して、思い出す過去の、今も湧き上がる悲

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    2026年02月04日
  • 韓国文学の中心にあるもの

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    韓国の小説を主に取り上げている。小説というよりも、小説を通して、日本の敗戦後から朝鮮戦争、全の独裁、済州島事件、朴のクーデターからセマウル号までを説明したものである。増補では韓国の繁華街での圧死が描かれている小説を掲載しているものだと想像する。
     学生が韓国の現代史を知るのには最適な本である。

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    2026年02月03日
  • ギリシャ語の時間

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    はじめて読んだ韓国文学。
    韓国語とギリシャ語の、言葉の美しさを感じることができたけれど、掴みきれなかったというのが本音。
    きっとまた読み返すと思う。

    独特の作品世界には魅了された。

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    2026年01月31日
  • 光と糸

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    散文短編であるかのようだが ひと繋がりの作品でもあるように感じた 人が人を虐殺する恐ろしく血生臭い事件を掘り下げ自分も血を流しながら書いていながらも 世界はなんて美しいのだろうと感じてしまう そして日が当たらない北向きの小さな庭に鏡で光を当てその成長を見守る ハンガンという人にどんどん引き込まれてしまう

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    2026年01月31日
  • 声を出して、呼びかけて、話せばいいの

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    イ・ランさんとは生い立ちも境遇もまるで違うのだけれど、その世界の捉え方はものすごく腑に落ちる。本作は最初から最後まで死に満ちていて、ほとんどの章で涙をこらえられない。

    家父長制と男児選好思想に染まりきったイ一族の中にあって、「私は、自分の物語を世の中に示すことのできる狂女でよかった。だけどわたしだけではなく、お母さんの狂女の歴史もとても重要だから、広く世に知らせたい。」と言うランさん。そう、お母さんも本当にかわいそうなんだよ…。宗教に傾倒する理由が「聖書に出てくる唯一神=完全な父親像」で、宗教を持たないわたしでも深く納得してしまった。

    お姉ちゃんの死も本当にやるせない。ランさんは、長女病と

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    2026年01月31日
  • すべての、白いものたちの

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    かなり心にきた
    読んでた時の感情の起伏がめちゃくちゃ気持ちよくて幸せやった
    記憶消してもう一回一から読みたい
    間違いなく今まで読んできた小説の中でもトップに入ってくる
    大事な人たちにおすすめしたい

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    2026年01月27日
  • すべての、白いものたちの

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    すきだった。
    出産直後の話と死産の話で号泣してしまった。
    散文的だけど心にずしっとくる。
    読み返したい大切な本になった。

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    2026年01月24日
  • 未来散歩練習

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    民主化した韓国の現在が80年に起きた光州事件に対する高神大学の学生ムン・ブシクが中心として起こしたアメリカ文化院放火事件が契機となっていることの示唆とその緩やかな接点を「私」と「スミ」という二人の人物を通して描かれている。

    一つの作品の中に「私」と「スミ」の時間を曖昧な形で共存するように描くことは、小説でよくあるストーリーインストーリーのような入れ子構造でもなく、パノラマ写真のような異なる時間を並列に収める構造も独特で面白い。

    ユンミ姉さん、キム・ウンスクといったアメリカ文化院放火事件の実行犯も未来練習した人であり、本作の登場人物たちも未来散歩練習をしながら過去に未来散歩練習をした現在にい

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    2026年01月24日
  • 光と糸

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    8歳にしてあれほど胸を打つ詩を書けるとは。
    本の出版前に、ネット記事で偶然出会ったこの詩を、紙の本の上で眺められることが純粋に嬉しい。

    近頃はディストピア小説の話かと疑うほど、悲惨なニュースを目にすることの多い世の中だが、せめて平和を求める皆さんと金の糸で繋がっていたい。

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    2026年01月16日
  • 年年歳歳

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    “ハン・ヨンジンは赤ん坊との間隔がちょっと開いて初めて、相手と関係を結ぶことができた。子供をじっと見ていたい気持ち、次の表情や次の行動を不思議に思い、知りたくなる気持ち、子供のしかめっつらをかわいそうだな、かわいいなと思って見ていられる気持ち、寛大に対応してやりたい気持ち、忍耐力・・・・・・すべてはその間隔の後に来た。自分の母性にはそれを呼ぶもっと適切な名前が必要だとあるときハン・ヨンジンは思ったが、それは生まれつきのものではなく、その間隔と関係から学習され、形成されたものだった。”(p.64)

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    2026年01月11日
  • 光と糸

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    ハン・ガンの言葉は、純度の高い結晶のような透明感があるように感じる。文学に誠実に向き合い、文学、言葉の力を信じ、人間への信頼を模索し、人間の二面性について考え続けてきた、ハン・ガンの誠実さをこの一冊を通して感じることができる。
    暴力によって、人間の尊厳が破壊されてきた歴史を描きながら、同時に、「愛とは」という問いを絶えず読者にも語りかけてきた。
    私は、ハンガンの文学を通して、愛を与えられてきたんだとこの一冊を通して思った。ハンガンの誠実さ、人と人が繋がることができることを信じる強さ、文学によってそれを実現しようとする力を、ハンガンは文学を通して伝えてくれるように感じる。
    「北向きの庭」「庭日記

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    2026年01月07日
  • 回復する人間

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    よしもとばななの「キッチン」は喪失をシェアすることで慰めをくれるけれど、ハンガンは違う。彼女は、ほら見て私もここに傷があるの、でも美しいでしょ、と静かに目を見つめて言ってくる。

    痛々しい。でもなぜか目を離せない。
    先を読むのが怖い。でも読まずにはいられない。

    傷は放っておいてもいい。でも、看過ごせない傷はじわじわと"私"を侵食し、やがて自分の一部になる。

    時間が解決する、とは本当だろうか。この世界には自然治癒力が働く場所と、そうでない場所がある。勝手に治る傷ばかりではない。自ら回復に向かっていくことで、人はしなやかに強くなっていく。

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    2026年01月05日
  • 光と糸

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    ノーベル文学賞受賞記念講演「光と糸」全文のほか、創作についてのエッセイ、5編の詩、光を求めて枝葉を伸ばす植物をめぐる庭の日記で構成される。

    創作のため、常に自問自答するための問いを立てていたというが、それよりもずっと昔の少女が愛についての詩を残していたということと、その問いは少女の詩に帰結するという気付きがいまのハン・ガンを作り上げたという。その気付きと庭仕事はどこか生命の営みとしてつながるように思う。美しい本だった。

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    2026年01月03日
  • 光と糸

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    過去が現在を助けることはできるか?
    死者が生者を救うことはできるのか?(P19)
     

    『光と糸』ハン・ガン

    ハン・ガンさんの紡ぐ言葉は、
    心を捻じ切られるような痛みに満ちていながら、
    なぜか最後には、すべてが包み込まれるような静けさを残す。

    暴力と涙が当たり前のように繰り返されるこの世界で、
    彼女の描く世界だけは、どこまでも白く、静謐だ。



    国があり、人種があり、過去と未来がある。
    そこには必ず境界が生まれ、諍いが生まれ、
    そして虐殺が繰り返されてきた。

    けれど本書を読んでいると、
    「言葉」と「知ること」が、
    その境界線を静かに滲ませていくように感じられる。

    断絶の向こう側に、

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    2026年01月01日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    半分くらいまで読み進めた時、もうしんどくて読むのをやめてしまおうかと思った。久しぶりにこんなに辛い小説に出会った。心が折れそうになっても、何とか結末まで頑張って読んでほしいです。

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    2025年12月30日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    恵まれすぎもしない悲惨すぎもしない、最大公約数的な韓国人女性の物語。日本人女性にも通じるものがあり、そして描かれ方がより私たちに諦念を感じさせるものだった。
    私は幸いに仕事でジェンダー差別を受けたことは無いが、日常生活の中で他人事とは思えない要素がたくさんあって胸が苦しくなった。
    この作品の中で抱いた諦念をそのまま現実に定着させないために、ひとりひとりが男や女であるよりも前に人間であるということを多くの人がこの作品を通して感じると良いなと思った。

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    2026年02月06日
  • 回復する人間

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    一つ一つの文が、とにかく美しい。なのに、ヒリヒリとして、切なくもなる。
    ハン・ガンの作品は、私を全く違う場所へと連れて行ってくれる。
    喪失感が襲ってきた時、きっとこの本で描かれていた人達を思い浮かべ、また歩き出すのだろう。

    青い石と火とかげが特に好き。

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    2025年12月21日