斎藤真理子のレビュー一覧
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ノーベル文学賞を受賞した作家の本という事で読んでみる事に。喪失と寂しさを抱えた一人の女性が静謐な筆致で姉の事を想像しながら心の隙間をそっと埋めようとするとても優しい文章だった。
冒頭の母が最初に産んだ子供、つまり私の姉が生後たったの数時間で亡くなる描写に涙が止まらなかった。
「一人で子供を産んで産着を着せる。か細い声で泣くその手のひら程の赤ん坊を抱いて何度となくそうささやきかけた。初めは閉じていた赤ん坊のまぶたが1時間で嘘のようにぱっちりと開いた。その黒い瞳を見つめてまた呼びかけた。
「死なないでお願い」さらに1時間して赤ん坊は死んだ。死んだ子供を胸に抱いて横たわり、その体が次第に冷えていく -
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ハン・ガンの「すべての、白いものたちの」。
とても良かった。
生まれて2時間で亡くなった姉を思いながら書いた物語。
美しく、心に沁み入るような詩的な文章で、ひとつひとつの言葉が雪の結晶のように繊細ではかなげで、読んでいると心が静かに張り詰める感覚になる。
余白が多く、読み手に多くを委ねられているので、一文一文をどういう感情なのか、何を語っているのかを丁寧に心に落とし込み、沁み込ませながら読まなければならないのは少し労力がいるけれど。
第二章「彼女」を読んでいる途中で迷子になりそうで、一旦はじめから読み返してみて、それでなんとか物語の世界観をぼんやりとつかめたような気がした。 -
Posted by ブクログ
ハン・ガンの言葉は、純度の高い結晶のような透明感があるように感じる。文学に誠実に向き合い、文学、言葉の力を信じ、人間への信頼を模索し、人間の二面性について考え続けてきた、ハン・ガンの誠実さをこの一冊を通して感じることができる。
暴力によって、人間の尊厳が破壊されてきた歴史を描きながら、同時に、「愛とは」という問いを絶えず読者にも語りかけてきた。
私は、ハンガンの文学を通して、愛を与えられてきたんだとこの一冊を通して思った。ハンガンの誠実さ、人と人が繋がることができることを信じる強さ、文学によってそれを実現しようとする力を、ハンガンは文学を通して伝えてくれるように感じる。
「北向きの庭」「庭日記 -
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ノーベル文学賞を受賞した筆者の本の中で読みやすそうだったため、購入しました。この本の中では、当時22歳だったお母さんが家でいきなり破水し、連絡しようにも村に1台しかない電話があるお店まで歩いて20分もあるため、筆者のお姉さんになる方を一人で産んだが、2時間後に亡くなったというくだりが印象に残っています。お母さんは「しなないでおねがい。かぼそい声で泣く手のひらほどの赤ん坊を抱いて、何度となくそうささやきかけた。」とあります。私も生きていて欲しかったと思っています。(22P)
この本はどのページも文章が透明感に溢れています。スッキリとした気持ちになりたい方にお薦めします。 -
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過去が現在を助けることはできるか?
死者が生者を救うことはできるのか?(P19)
『光と糸』ハン・ガン
ハン・ガンさんの紡ぐ言葉は、
心を捻じ切られるような痛みに満ちていながら、
なぜか最後には、すべてが包み込まれるような静けさを残す。
暴力と涙が当たり前のように繰り返されるこの世界で、
彼女の描く世界だけは、どこまでも白く、静謐だ。
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国があり、人種があり、過去と未来がある。
そこには必ず境界が生まれ、諍いが生まれ、
そして虐殺が繰り返されてきた。
けれど本書を読んでいると、
「言葉」と「知ること」が、
その境界線を静かに滲ませていくように感じられる。
断絶の向こう側に、 -
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「お姉ちゃんの長女病」が心に残った。
全編を通して出てくる家族という呪いに力尽き果てた姉が印象的だった。
姉にはどうしても大好きな家族が必要だったけど、必死に守ってきたその家族は姉のことを搾取することしか考えていなかった。
本当に誰も正しく愛する術を学ばなかったし、持たなかったんだなと思う。
著者の素直な言葉から、これまでつけられた無数の傷から回復しようともがく思いがよく伝わってきた。愛すべき友人たちがどんどん失われていく箇所も壮絶だった。
著者の人生に穏やかな日が1日でも多く訪れてくれることを願ってしまうような、祈ってしまうような本だった。 -
Posted by ブクログ
著者の言葉遣いが好きです。
たとえば、マル(言葉)について。
p11 「マル」。この朝鮮語の音は日本語にはない。だから、くり返して発音するだけで、口の中にちがう風が吹いてくる。
昔から、この言葉を第二言語として学ぶ人は、口の中に起きる風に誘われて、気がついたらどこかちがう場所に立っていることが多かったのじゃないかと思う。
『目の眩んだ者たちの国家』を編纂したツン芸評論家のシン・ヒョンチョルは、あとがきにこんなことを書いている。
私たちが本を読む理由のうちの一つは、私たちが知らないことがあるということを知るためである。人が経験できる事件は限られているので、実際に感じられる感情も限られている。