斎藤真理子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
原著は2021年発行。日本語訳は白水社から2024年4月に刊行。架蔵本は2025年12月刊の第17刷。訳者は斎藤真理子。
偏頭痛と胃痙攣に苦しみ、自らの遺書を書くために生きていると感じていた作家・キョンハのもとに、しばらく連絡を取り合っていなかった友人・インソンからの連絡が届く。故郷の済州島で小さな木工所を営んでいた彼女は、作業中に誤って2本の指を切断、何とか接合手術には成功したが、入院中は3分に一度、神経を殺さないため、接合した指を腐らさないために指を針で刺し続ける必要がある。彼女を見舞ったキョンハは、インソンのたっての頼みで、彼女が家に残してきた小さなインコ「アマ」が生きているかを確かめるため、雪の降る済州島に向かうのだった。――
「痛み」と「傷」、そして「影」が鍵語となった済州島における「4・3事件」と、それ以後の人々の生が想起され、想像されていく物語。1948年に逮捕・投獄された兄のことを想い続けたインソンの母のありようを通じて、大切な存在を失った人々が、もしかしたらそのひとはいまもなおどこかで生きているかもしれない、間一髪で死を免れ、死者の数の一人にはならなかったかもしれないと祈るその思いが、そのひとを、その存在を、遺族の前に呼び戻す。死んだはずの「アマ」が、入院中のはずのインソンがキョンハの目の前にあらわれ鳴いたり語ったりする展開は、かつてそこにいた死者たちと共に歩み生きるという憑在論的な主題を表現しているように思われる。 -
Posted by ブクログ
ハン・ガン作品から韓国文学に入り、こちらの作家も読むべしと聞いて読んだ。
どの短編も、大小様々の不幸に見舞われた人々の懸命に生きた物語が、淡々とした語り口で進んでいく。
ハン・ガン作品と比較することが適切かはわからないが、ハン・ガンさんが逃げようのない大きな不幸を描くのに対して、ファン・ジョンウンさんの不幸は直視を避けたり逃げたりできるくらいの大きさの不幸なだけに登場人物に選択肢があり、動けちゃうだけにその人間のありかたが湿度を持って立ち現れる感じがする。
淡々とした語り口の中に、どうしても胸に刺さる言葉が多く混ざってくる。共感できない主人公もたくさんいたが、どれも嫌いにはなれない痛さがある。
「上流には猛禽類」主人公の若さゆえの残酷さに、彼女の言葉には冷たい手で心が掴まれた気持ちになる。
「誰も行ったことがない」実子の死に疲弊した夫婦がそれぞれの傷つきを持ち出して知らない国を心許なく旅をしている姿には、一触即発の危うさがありずっと目が離せなかった。
物語の見せ方のうまい作家だと感じた。すごい感性。 -
Posted by ブクログ
斎藤真理子さんの訳と解説が素晴らしかった。
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“しばらくすると咽喉が乾いてきます。枕元に置いた水をーー深海のように落ち着きはらった冷水を飲みます。石英質の鉱石の匂いがして、肺腑に寒暖計を差し入れたように道ができるのを感じます。その冷ややかな曲線は、白紙の上に描こうとしたら描けるのかもしれません。”
“明日は一日、草花ばかり見て遊んで過ごそう、脱脂綿にアルコールを染み込ませてありったけの気苦労を拭き取ろうと、心に決めてみたりします。あまりに夢見がめちゃくちゃだからそんなことを思うのでしょう。草花が満開になる夢、原色版のグラビアの夢、絵本を読んでいるような楽しい夢を見たいのです。それができるなら夢を説明する爽やかな詩をさらさらと書き、七ポイントの小さな活字で配置するのもいいでしょう。”
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Posted by ブクログ
【人間が一番恐ろしい】
そもそもこの、済州島四・三事件のことを知らなかったから、まずネットで調べてから読んだ。独裁政治が人間に何をさせ、何を奪うのか。
戦争や権力の暴力というか圧力によって、人間が少しずつ崩れていくこともすごく恐ろしかった。
人が人を殺すのが戦争。それを正当化するのが独裁者。
国家の暴力によってどこにでもいる普通の人が少しずつ壊れていくことが怖くて悲しかった。
それと同時に、人は圧力の中で簡単に沈黙してしまうんだな、という不安というか恐怖のようなものも強く感じた。
だからこそ、独裁や暴力は絶対に繰り返してはいけないし、過去の悲劇を忘れずに考え続けることが大切だと思った。
『別れを告げない』というタイトルは、「忘れない」ということなんだろうなと思う。
ハン・ガンさんは先の『少年が来る』でも国家の暴走を静かに批判していたけれど、この悲劇を韓国だけのことではなく、全世界の人たちのこととして書いているんだと感じた。
そう考えると、日本も決して無関係ではないし、今の社会の中にも少しずつ不安を感じることがある。
「戦争反対」という声が上がること自体に怖さを感じるのは、それが当たり前ではない状況に近づいているのかもしれないと思うから。
二度と同じような悲劇を繰り返さないためにも、もっと歴史を知らないといけないし、まじめに考えないといけないなと痛感した苦しい読後感でした。
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Posted by ブクログ
ネタバレ初めての韓国の小説。翻訳だからなのか、文化なのか、独特の文章だったけど、読みやすかった。アメリカ人作家の小説を読んだ時のことを思いだした。「国民の恋人」という表現は韓国らしいと思った。
十一分の一
退廃的で耽美的。生き返った恋人を束の間あたたかい時間が流れ(回想の中では恋人になったという確たるシーンがあるわけではなく、雰囲気と様子からそれを感じ取り、再開の時に思いがちゃんと通じ合っていた、となったのがまた良い)、すぐあとに地球はほろびてしまう寸前の状態であることが読者に明かされ、ゾッとさせられる。そこが怖くもあり耽美的なところなのかも。
ミミズの話の「リセット」は想像すると気持ち悪いけど、映画のようなスケールの大きい話が読み応えあった。
メダリストのゾンビ時代恋人は結局ゾンビになってしまったけれど最後に主人公は助かる予感を残し、物語は終わる。あるワンシーンを切り取った印象深い終わり方だった。冬眠とか、ありそうだし、好きな人から倒していく、でもあの人は最後に取っておいたというのもありそう。
SFジャンルは多分ほぼ初めて読むけど、宇宙、科学、の印象があったがありえないけどあるかもしれない一つの世界という感じで想像できてしまうし近くにこんなこと起こるかもって思えた。
表題の声をあげます。は理不尽な場面設定なのに、ずっと優しい世界だった。 -
Posted by ブクログ
翻訳らしい短編集。何となくアーウィンショーを思い出した。一貫して痛みを伴う回復がテーマ。中でも「エウロパ」は印象的だった。主人公はトランスジェンダーの男性とライブハウスで歌うイナ。2人の夜の散歩の場面は秀逸。「火とかげ」は映画を観ているようだった。主人公は事故により両手とも効かなくなった画家。そして疲れきって絶望しているその夫。ある時友人の子供が飼っているトカゲがその両手を千切られてもまた生えてくる事を知る。
主人公が少しずつ希望を取り戻し生きていこうと決意してまた絵筆を取る過程が美しい。
全ての言葉が一遍の詩のような何とも言えない透明感に満ち溢れた一冊。