斎藤真理子のレビュー一覧

  • 韓国文学の中心にあるもの

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    大げさにではなく、いままで抱いていた戦後のイメージが180度変わった。
    通り一遍の韓国の歴史の本も読んでいたけれど、韓国と日本とでは、経験してきた歴史やそこから見える景色がこんなに違うのかと愕然とした。
    この先、ドラマを見たりアイドルが兵役に行ったりするたびに、きっと本書の内容を思い出すと思う。

    戦後、朝鮮特需や韓国への罪悪感とともに戦後を乗り越えてきたという日本人の姿は、ヘイト渦巻く現代には見えなくなってしまっているけれど、たしかにもう少し昔の人たちは日本の戦争責任や反省をもっと普通に口にしたり書いたりしていた気がする。ごく最近読んだ茨木のり子さんのエッセイでも、日本が朝鮮を植民地化してい

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    2022年11月11日
  • 年年歳歳

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    すばらしい小説だった。
    家族であろうと語られないこと共有されないことはその人個人の中に無限にあり、それは誰にも侵せない。朝鮮戦争の歴史と個人の歴史が交差して、それぞれ個人の、その人だけの人生が浮かび上がってくる。
    軽い物語ではないけれど、未来に開かれた小説だと思った。

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    2022年08月27日
  • 韓国文学の中心にあるもの

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    韓国社会が経験する苦難に作家はどう向き合い、そうして生まれる作品を読者はどう受容してきたか、の一端が見えてくる。

    また、1960年は日本と韓国にとって分水嶺だったんだな、と。市民運動の成功体験と失敗体験は、その後の両社会における主権者意識にも根深い影響を与えたことが、比較によって鮮やかにわかる。

    そして、知れば知るほど日本について、自分について考えることを余儀なくされる。韓国社会の痛みや苦しみを「よその国」の出来事とするには、日本の関わりはあまりに深い。
    個人的に物心ついたとき既に日本は経済大国だったし、それを享受してきた自覚もあるが、その発展の礎には隣国の悲惨な戦争が含まれ、その戦争が今

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    2022年08月11日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    ネタバレ

    チェ・ミジンはどこへ
    ナ・ジョンマン氏のちょっぴり下に曲がったブーム
    クォン・スンチャンと善良な人々
    私を嫌悪することになるパク・チャンスへ
    ずっと前に、キム・スッキは
    誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ
    ハン・ジョンヒと僕
    あとがき

    全編を通して迫ってくるリアルな"恥"とやるせなさ。読み進めながら私小説に近い作風なのかな?と思っていたので、あとがきが沁みた。

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    2022年08月06日
  • 年年歳歳

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    「廃墓」「言いたい言葉」「無名」「近づくものたち」四つの短編からなる本書。登場人物の名前と関係は冒頭の人物図に詳しいが、忘れられないのはそのほかの名前の無い大勢の「スンジャ」達や韓国と日本の長きに渡る歴史。習慣や伝統と言ったちょっとしたエピソードに親近感を覚え、親世代への苛立ちや恐怖、いろんな感情で泣きたくなる。生き延びて著者のバトンを受け取った以上は、時代の記憶とキャンドルの灯を次世代へ渡していきたい。作家の言葉、訳者あとがきも含めて素晴らしい一冊。

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    2022年04月20日
  • 年年歳歳

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    植民地解放後、朝鮮戦争を経験し、苦難を背負い生きた世代。
    彼らの多くがスンジャ=順子という名前を持っていた。

    “従順”とか“順調”とか、そういう思いを込められていたのか、はたまた植民地時代からの流行りだったのか。

    彼女らと次の世代とが、語られる物語と語られない物語の間の余白に様々な思いを込め、それが読者の前に情念となり揺蕩う。

    ファンジョンウンはこの物語の中で決して声を荒げたりしない。

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    2022年03月27日
  • 声をあげます

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    「声をあげます」が抜群に面白かった。チョンセランと同時代に生きていることを、ハッピーに思う。高校生の頃、筒井康隆氏が大好きだったことを思い出した。SF、日本では懐かしい気のするジャンルだと思っていたけど、面白い。

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    2021年12月01日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    表紙とタイトルでほっこり系短編集なのかと思いきや、恥、羞恥心について胸を突かれるような物語たちだった。圧倒された。

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    2021年05月28日
  • アヒル命名会議

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    短編小説集には外れもあるけど、おもしろかった!
    珍しいサイズで珍しい横書きで進む、新世代価値観の物語。

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    2021年02月23日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    「イ・ギホの短編小説は一見とっつきやすいものが多い。だがその芯は意外に固い」と訳者解説にもあるとおり、とぼけたユーモアの漂う平易な文体でつづられていながら、厳しい倫理的な問いを突きつけてくる物語ばかり。それはこの短編集において作者が自分自身を、ひいては男性性を突き放す姿勢を貫いているからだと思う。
    「チェ・ミジンはどこへ」が特に良かった。電話越しの彼の非難の言葉は忘れられそうにない。

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    2021年01月22日
  • ディディの傘

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    「野蛮なアリスさん」「誰でもない」が大っ好きで今か今かと邦訳を待ち続けていた本作。読んでみると、これまでの作品と明らかにテイストが違う。テイスト?って言うのは適当じゃないか。例えば短編集の「誰でもない」は物語が太巻きだとすると最も米と具が詰まってておいしいところを、痛烈で切実なセンスで盛り付けてくれていたような作品だった。だが、本作は米粒一つぶ一つぶを確かめ疑いながら海苔に乗せてゆく様子を、読者もともに苦しみながら見守るようなそんな作品だ。ともに苦しむといっても、この作品は韓国の情勢、社会事情、街の様子、生活について実体験している人とそうでない人とでは入り込み方が違う。私にはその辺りに詳しくな

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    2020年10月02日
  • 誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

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    とても面白かった!

    不甲斐なくて、情けなくて、矛盾に満ちていて。ほんと、ダメ男を描かせると巧いなあ、この人。パワフルな不甲斐なさが可笑しい。

    セットになっている『私を嫌悪することになるパク・チャンスへ』と『ずっと前に、キム・スッキは』は、シーラッハのようだとも思った。

    何かしてあげたいと思っているのに何も出来なかったり、こんなことしたら情けないと思うのにやってしまったり、人はだれでも矛盾を抱えている。完璧な人などいない。

    矛盾やダメさを見ないふりしないで、向き合うこと。
    不可能だと気づくこと。確かに、そこからしか始まらないよね。

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    2020年02月05日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    ネタバレ

    韓国の小説にはいつも出会ったことがない言葉が書いてあって驚かされる

    本文より
    「〜子供をを産む母親には、痛みもしんどさも死ぬほどの恐怖も喜んで受け入れて勝ち抜けというのである。それが母性愛であるかのように。母性愛は宗教なんだろうか。天国は母性愛を信じる者のそばにあるのか。」

    あとがきより
    「キム・ジヨンさんは今も、ましにもならず悪くなりもせず、何かを選択することもそこを去ることもせず、問いかけもしないし答えもしません。答えを探すのは、小説の外を生きていく私たちの役目であるようです。」
    これ、どの小説に対しても同じこと言えるじゃんって、慄いた

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    2025年11月25日
  • すべての、白いものたちの

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    作家として親として妹として書かれたエッセイのようであり、亡き姉をその身に宿すためのフィクションでもある、とても不思議な小説だった。
    切実ながら白く爽やかでもあるその読後感は唯一。

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    2025年11月24日
  • 別れを告げない

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    韓国済州島というと観光地としてのイメージしかありませんでした。韓国の歴史、済州の歴史を知ってこそこの作品を理解出来るのだろうと思います。この作品の底流に流れるもの、シンシンと降り積もりつづく雪は単に空から降り積もっているのみならず、心の中にも積もり続けているんだろう。

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    2025年11月21日
  • 82年生まれ、キム・ジヨン

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    キム・ジヨンさんの半生を通して、韓国における女性への差別が表現されています。共感してしまえるのが、悲しかったです。そして、終わり方のあっけなさ、無関心さといったら。。

    出産前に退職する時のキム・ジヨンさんは、身近すぎて読んでいて苦しかったです。自分は、命を落とす可能性すらある出産で体がぼろぼろになり、慣れ親しんだ仕事も失う。男であるあなたは、と私も問い詰めてしまいそうです。

    相手は、そんな事を言うなら産まなければいい、と思うかもしれません。他人事なら私もそう思います。だから、そうは考えないパートナーと人生を歩みたいです。

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    2025年11月19日
  • フィフティ・ピープル[新版]

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    韓国の物語だからそんなに感情移入できないと勝手に思っていたが、読み終わってからその認識がいかに甘かったか考えさせられた。
    背景に持っている国や文化が違っても、私たちが直面している問題や考えにはさほど差がないことに驚かされたとともに、力強さ、そして非力さも感じた。
    私ごとだが、最近母親になったばかりで、今まで見たことがある作品を改めて見返した際、感情移入する登場人物が子供から母親に変わったことに自分自身困惑したことがあった。この本もきっと、私とともに成長してくれるのだろう、と感じた。

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    2025年11月17日
  • すべての、白いものたちの

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    自分の記憶にある白いものはなんだろうか。最初に見た白はなんだったか。そして印象に残った白はなんだったか。白い机、白い帽子、白い雲、白い歯。机も帽子も雲も歯も白いをつけると、白く染まっていく。白い黒はどんなイメージなのか。

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    2025年11月16日
  • ギリシャ語の時間

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    言葉を話せなくなった彼女とギリシャ語講師以外の登場人物や、物語の中での「私」や「彼女」が誰のことなのか、誰が語っているのか、その場面ごとになかなか把握できなかったこともあり、感想を書けるほど読み深めることはできなかったけれど、ハン・ガン氏の抒情的な世界の一端に触れる良い経験になった。

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    2025年11月15日
  • 誰でもない

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    短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。

    『上京』
    語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。
    オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。

    『ヤンの未来』
    語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生

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    2025年11月14日