【感想・ネタバレ】シソンから、のレビュー

あらすじ

《私たちの心には、“彼女”のかけらがあるから》

女性への暴力や不条理が激しかったころ、美術家として作家として、時代に先駆けて生きたシム・シソン。
ユーモアを忘れずにたくさんの仕事をし、二度結婚して四人の子供を育て、世の評判をものともしなかった人。
そんな〈家長〉にならい、自由に成長してきた子供と孫たちは、彼女の死後十年にあたり、ハワイでたった一度きりのちょっと風変わりな祭祀を行うことにするが……


『フィフティ・ピープル』『保健室のアン・ウニョン先生』のチョン・セランが贈る家族三代の物語。韓国で16万部を突破した待望の最新長編小説。


――20世紀を生き抜いた女性たちに捧げる、21世紀を生きる女性たちからの温かな視線。

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Posted by ブクログ

 作者チョン・セランは一九八四年生まれ(私は同い年)、この本が韓国で出版されたのは二〇二〇年、日本語版の出版は二〇二二年一月。私にとっては同時代感バッチリの小説だ。面白かった。
 タイトルのシソンは、シム・シソンというおばあちゃんの名前。訳者あとがきから彼女を紹介している部分を引用すると、「朝鮮戦争の中で家族を皆殺しにされたが、海外に渡って第二の人生を切り拓いた勇気ある女性。男性芸術家の暴力によって惨憺たる目に遭うが生き延びて、ユーモアを忘れずにたくさんの仕事をし、二度結婚して四人の子供を育て、世の評判をものともしなかったおばあちゃん。美術評論をはじめ数々の随筆を書き、各種メディアに登場しつづけ、日記が出版されるほどの有名知識人」という設定の架空の人物だ。特定のモデルはいないようだが、オマージュされている人物はいるようで、そのあたりはあとがき及び訳者あとがきに詳しい。これも興味深い。
 その女傑ともいうべきおばあちゃんが亡くなって十年経った今、が物語の舞台。長女のミョンヘが、「今年はお母さんの祭祀(チェサ)をハワイでやります」と妹・弟夫婦やその子どもたちに呼びかける。祭祀とは、日本でいう法事にあたるような韓国の伝統的な行事なのだが、たくさんの料理を作ったり細々としたしきたりに従ってそれを並べたりというシチ面倒くさい準備を、一族の女性たちが行う。そして儀式に参加するのは男性だけ、というものだそうで、シソンは存命中に「長女には、私が死んでも祭祀をするなんて了見は起こすなと言ってある」と発言し、メディアを沸かせた。祭祀をしないことだけでなく、長女に言ってあるという点も型破りなのである。息子もいるのに。
 かくしてハワイへの家族旅行及び祭祀が執り行われるのだが、シソンの子孫たち(韓国語ではシソンは「視線」を意味する言葉と同じ読みらしい…からシソンの子孫は駄洒落にはならない?)による弔い方が本当に素敵なのだ。一同がホテルに揃うと、ミョンヘは次のように発表する。
「命日の夜八時に祭祀を行います。十回忌に際して一度だけやるわけですが、古くさいお膳を整えるようなことはやりません。各自そのときまでに、ハワイを旅して嬉しかった瞬間、これを見るために生きてるんだなあという印象深い瞬間を集めてくることとします。その瞬間を象徴するものでもいいし、ものでなく、経験自体を共有するのでもいいんです」
 このあと、各々が自由に数日を過ごし、祭祀を行い、帰途に就くまでが小説の中身だが、彼らの独白やシソンの書き残した文章の断片の引用を通して、読者は二十世紀を生き抜いたシソンの半生をも知っていく。それが見せてくれるのは、現代を生きる子や孫(や私たち)が直面している問題の根っこでもあるが、でもそこにシソンがいたということ自体が、与えてくれる希望も見える。シソン個人がすごい人だったんだとか、その人の娘だから強いんだろうとか、そうとも言えるけれどそれだけでもない何かを、勝手にこちらが感じれば感じたもん勝ちだよね、なんて。
 文章表現もとても素敵で、読むのを止めたくなくてメモしなかったので覚えてないけれど、ハッとするフレーズがたくさんあった。他の作品も読みたい。

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2023年05月14日

Posted by ブクログ

映像化希望!すごく魅力的なシム・シソン女史。その子孫(かけらたち)が10回忌をハワイで行うお話なんだけど、御膳に並べるのは食べ物ではなく…シソンが喜びそうなものを各々集めるという企画。家族とシソン女史のエピソードや関係性があたたかくて且つぶっ飛んでいて面白かった。

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2023年09月20日

Posted by ブクログ

音を「彫り上げる」
ヘリムが鳥を愛してて親族を鳥にたとえていくとこ好き
転んでもスケートやめなかったナンジョンの昔話、サーフィンを諦めずに続けてるウユンの姿思い出して母娘を感じる
ウユンが怪物のアイデアに思いを巡らせてる場面、ワクワクする
リリカ・ベーカリーのココパフ レナーズ・ベーカリーのマラサダ
28章シソンの飽きないことが才能の話が冒頭にあってウユンが波に乗れた話が続くのいいなぁ
ミョンジュンが塔作ったホノルル美術館のスポルディングハウス、2019年に閉館しちゃってるのね
末代になることもまた選択だと肯定してくれてるようでいい

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2023年06月03日

Posted by ブクログ

シソンの文章が所々に散りばめられ、群像劇として描かれている書き方が良かった。それぞれの人物像がリアル。ただ、なにか一つ物足りなかった。

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2022年07月13日

Posted by ブクログ

女性キャラクターが「男性性」を、男性キャラクターが「女性性」をあからさまに担わされているところがある。
本書のプロテストは「男性」に対するものにとどまっており、「男性性の称揚」自体は認めているように感じられてならない。

また、作者が「女性」という性にかなり肩入れしており、シソン一族の女たち=被害者vs外部男性=加害者の構造がはっきり分かれすぎているきらいがあるが、こうした二元論的な描き方はちょっと古臭くないか。

今のところ現代の男性ほどには意識しないでいられる自身の加害性を、女性(あるいはその他の性)もまた自覚せざるを得ない時代が来た時、はたしてこの作品はその時の人々の鑑賞に耐えることができるのだろうか…。

と、ちょっと否定的なことばかり書きましたが、魅力的なキャラクターのかき分けは見事で(特にジスとウユンのパートは清々しい気分になる)、一本気なところの感じられる作品でした。

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2025年11月11日

Posted by ブクログ

亡きシム・シソンの子・孫たちがハワイでの祭祀のために一同に会し、各キャラクターが語られる。三世代に渡る社会の問題や、奮闘して生き抜く女性の在り方など、心に刺さる言葉や場面が散りばめられていた。登場人物が多く、韓国名であるため、本文と家系図を行き来し集中を妨げるが、やはり韓国文化を理解したい欲は止められない。

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2023年01月15日

Posted by ブクログ

シム・シソンを弔うためにハワイでそれぞれが好きなことをする物語。いちばん好きなエピソードはパク・ジスとダイビング講師チェイスとの出会いから一緒にチリへ行くことになるところです、後日談を読んでみたい。エディ・アイカウの話もためになりました、これは実際に存在した人間の話ですが。

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2022年06月19日

Posted by ブクログ

シムシソンって実在の人物かと思ってしまった!各章の冒頭の引用文がそれっぽくて騙されたが、これって実は「魁‼︎男塾」の「民明書房刊」と同じであることに気づいたら笑ってしまった。なんだかハリウッド映画にありそうなほっこりする話。最初登場人物の名前が似ていて特徴つかめずとっつきにくいがわかってくると読みやすくなる。「フィフティーピープル」と同じで韓国人の名前に馴染みがないので活字からだとイメージしづらい。すごく面白い話というわけではないが、韓国の男尊女卑の文化が垣間見れる。

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2022年03月27日

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