【感想・ネタバレ】サハマンションのレビュー

あらすじ

「世界でいちばん小さくいちばん異常な都市国家」である「タウン」。そこでは……。「口にしたり書いたり印刷したりしてはいけない単語があった。……歌ってはいけない歌があり、読んではいけない本があり、歩いてはいけない通りがあった」。その中で、「サハマンション」は「唯一の通路もしくは非常口のような場所だった」。そこには犯罪を犯して逃亡してきた者たち、「タウン」から排除された人々が流れついていた。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

最終章、ジンギョンが総理館に乗り込んで行くシーンは映画さながらだが、結局ウミもトギョンも生きていたのかどうかわからず、唐突な感じで終わるので不完全燃焼。
ただしサハマンションの薄暗い感じや湿度、物音、そこでの生活の描写とここに逃げ込まずにいられなかった人の背景などのストーリーと文体はとても引き込まれた。
チョ・ナムジュはもっと読みたい

■214号室、サラ
「ナプキンを出して鶴を折った。ナプキンとしては厚くてしっかりした紙で、気をつけて折ると十分に思い通りの形に折れた。以後、ヨナは夫に殴られるたびにナプキンで折り鶴を折った。一日に一個だけの日もあれば、三羽、四羽と折る日もあった。窓枠の上に一列に並べた折り鶴が百羽になった日、ヨナは夫から逃げ出した」

■714号、スーとトギョン
サハマンションの子どもたちを自主的に診療している女医のスー。賢く勇敢でユーモアもあるスーがあっけなく崩壊するさまが悲しい。
「みんなが、ええーって思わないかな? 全員で似たような生活してるのに、僕らだけそんなピカピカ生活をしたら?」
「それがピカピカなの? 水が出て寒さ暑さを防げるっていうのが? それはただの基本でしょ。どうしてずっとこんな不便な暮らしをしなくちゃいけないって思ってるの? 直しながら住もうよ。私たちがやったら、他の人たちも真似するよ」
スーの言う通りだった。トギョンを非難しているわけでもせかしているわけでもなかった。だがトギョンは心が辛くなった。
「ここで何も持たず、何もできずに暮らしていたら、そういう決心をするのは簡単じゃないんだよ。サハマンションの人たちがばかだからでも、怠け者だからでもないんだ」
「だから私みたいな人間が必要になるの。私はいろいろ持ってるし、いろいろできるし、あなたが好きだから」

■その他のひとびと
・ウンジン
 児童養護施設で育った女性。幼い頃から年下の子供の面倒を見るのがうまく、困難を乗り越えて保育士となりマンションを出るが感染症で亡くなる。チョークで地面に描く遊びを無限に知っていて、折り紙も数限りなく知っている彼女がなぜ死ななくてはならなかったのかと辛くなる

・花ばあさん
 昔、助産婦をしている際、無免許で少女の堕胎をほどこし、死亡させてしまったことからマンションに逃げ込む。ウミもウヨンも花ばあさんに育てられた

・ウミ
 大柄な身体を持つ女性。花ばあさんに育てられた。謎の研究室に定期的に通い、どうやら研究材料にされているらしい。交通費として支給されていたタクシー代を花ばあさんが使わずに自分の養育費に充てていたことに気づくシーンは切ない。

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2025年07月17日

Posted by ブクログ

架空の都市、超格差社会の「タウン」の中でもさらに最下層の人々が住む「サハマンション」。
職業選択の自由もなく、お金もなく、健康的な暮らしもなく、救いもなく。
そんな状況が、どこか本当にありそうで、いつかこんなことになる日が来るかもしれなそうで、心がひやっとします。
架空の国のストーリーだけど、韓国社会の生きづらさや日本での貧困や格差の問題、どこかつながってリアルに感じます。
それでも、暗くなりすぎないチョ・ナムジュさんの文章に救われつつ、こんな未来がこないことを願います。

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2024年06月08日

Posted by ブクログ

韓国文学に不慣れで登場人物の氏名だけではなかなか性別が見当付けられず、読むのに少し手間取ったが扱っているテーマには共感。欲を言えば、トギョンの描写がもう少し掘り下げられていたらと感じた。高齢者やハンディキャップを持つ人などの連帯の描写が全体的にディストピア小説と思えないほど良かった。

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2024年02月27日

Posted by ブクログ

この作品、韓国史についてきちんとした知識があればより面白く読めるのだろうなと思う。やや上級者向け韓国文学のように感じたがそういう本こそ読むべきだし、訳者あとがきを読むとわかるように、隅々まで配慮され尽くした素晴らしい一冊なので、星4。

登場人物の機微の表現にはやはり感服させられるというか瑞々しい。これは訳者である齊藤真理子さんの力でもあるとは思うのですが、もはや二人のプロによる共同作業のパワーが強すぎて、どの作品を読んでも自分の心が今まで見たことのないような感情の動きをするのでいつも驚きます。

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2022年05月08日

Posted by ブクログ

37.

すごい。
自分の中に虚無感と力強い心をどちらも感じる。
現実世界の問題が物語に詰め込まれてる。
7年かけて書かれたという事実にも圧倒される。

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2021年10月07日

Posted by ブクログ

これは面白くなかった〜。これもチョ・ナムジュの作品なんだけど、近未来の架空の都市国家舞台にした連作短編なんだけど、設定も展開もやたら意味深で思わせぶりで、最後までほとんど何も語られない。そもそも物語として喜びを感じられるシーンが皆無だった。読んでて苦痛だったな。めちゃくちゃ時間かけてしまった。ボストンに持って行ったのにほとんど読み進められなかった。つまらなかった。

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2025年05月30日

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再読。
以前読んだときには、救いがなくただ苦しくて、どう受け止めればよいのかわからなかったが、この作品をもう一度読んでみて感じたのは、何かちょっとしたきっかけでこれが現実になりうるのではないかという恐怖だった。
現実になりうるというより、すでに私たちの現実としてのリアリティがあった。
自分が全く同じ経験をしたわけでなくとも、共感できずとも、なぜか理解できる。理解できてしまった。

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2024年06月24日

Posted by ブクログ


ディストピアというにはリアルすぎて。

超格差社会「タウン」の中でも最低層に位置し、差別される「サハマンション」の住民たち。
抵抗とケアの共同体。

トギョンの話は、ロマンスで、スキャンダルで、残忍な犯罪だった。

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2022年06月11日

Posted by ブクログ

あらゆる世界には影があり、それはユートピアでも同じ。
管理企業国家「タウン」の底辺に存在する「サハマンション」の人々の物語。

途中からビッグブラザーに対抗する感がでてきて、正直タウンの謎解きなんかない前半のが好み。

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2021年10月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

抑圧されたタウンの、階級の底辺でもがきながら生きる人々の話。
ひとつの国家が誕生し、それに立ち会った人々の苦悩と、国の外から逃れサハに行き着いた人たち。
そこで生まれた二世、三世にとっては当たり前の世界が、大人になるにつれ、寛容できなくなっていく様子。
サハの住民それぞれの視点で描かれる。
差別、偏見、抑圧の中で生きるサハマンションの人々のリアルが辛い。とてもフィクションとは思えない。どこの世界でも起こり得ることだ。
韓国での社会問題を多数組み込まれて作られた話という事で、作者の現代社会への問題提起を感じた。


全ての人々の話がラストに向けて繋がる訳ではなく、その世界のマンションの住人のエピソードとして書かれるのでまとまりのなさは感じてしまう。
その全部スッキリ描かれない事が、隣人感、リアルさを醸し出す要素なのかも知れない。

あと、韓国風の名前がその音だけでは男女の区別が付かないのは難しさを感じた。

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2021年08月31日

Posted by ブクログ

難しかった……超格差社会の底辺の人々の物語。視点と時間があっちこっち行くので、ちゃんと読まないと話のつながりがわからなくなる!
ただ階級が全てではないし、権威は見せかけで1人1人は心のある人ばかりだなとも思います。
貧困とかまで話を広げるならば、見た目や階級だけで評価してはいけないと思わされます。

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2021年07月28日

Posted by ブクログ

“「私たち、悪いことなんかしてないのにどうしてお互いすまながるのかな? 私に本当にすまないことしてるのは誰? 誰も私に謝らないよ。それが誰なのかもわからないし。だから私、このごろ悔しくてしょっちゅう涙が出る」”(p.88)

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2021年07月04日

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