あらすじ
ソウル、釜山、沖縄、旭川。治療としての〈冬眠〉が普及した世界の、眠る者と見守る者。やがて犬たちが、人々を外へと導いてーー。世界とはぐれた心を結び直す冬眠小説集。
すべての疲れた人たちへーー。
未踏の文学を切り拓く作家による、
韓国と日本を舞台にした冬眠小説集の誕生!
・冬眠は、健康診断とカウンセリングを経て開始する。
・万一に備えて冬眠者を見守るガイドが必要になる。
・ガイドは、信頼できる人にしか任せられない。
・冬眠者の多くが、はっきり記憶に残る夢を見る。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
美しくて飛躍してて詩みたいな文章から成る小説。
女性を「彼」と表記するのが正直最初は誤字かと思って、次に作者の個性かと思って、でも解説を読むと韓国語においては元々性差表現が少なく、評論や報道記事では女性を「彼」と書くのは不自然なことではなく、そして文芸作品でも女性に「彼」を使う作家が増えているということで、性差表現に慣れきっている自分の感覚が照射されるようだった。
Posted by ブクログ
冬眠小説は素晴らしい。私が他にぱっと思いつくのは「ラピスラズリ」と「ムーミン谷の冬」ぐらいだけど。
平易な一人称の文体がするっと身に馴染むようでいて、しかし私の頭からでは絶対に出てこないだろう言葉が出てくるたび、そのずれが世界に立体感や余白を生み出していく。例えば「言葉は怖くて、言葉は楽しい。脳は素晴らしく、私は脳がほんとに好きだ。」とか、他にも色々。解説で「誤差を含めて泡立てたようなふっくらした質感」と表現されているのがしっくりくる。ただ文章を読んでいるだけで心地よく、じんわりと回復していくような作品。
Posted by ブクログ
冬眠する人とそれを見守るガイドの話
冬眠する人を見守りながら自分の人生や生活と向き合いつつ、淡々と毎日を過ごすガイドたちの時間がとてもひっそりと静かで心地良い。不思議とこれを読むと良く眠れる気がする。眠ることと散歩することを意識的にして物事を深く考えたり考えなかったりする時間を取りたくなったし、たまに読み返したくなるだろうなという本。寒い国出身の人が生み出す文章は淡々と静かでどこか切なくて好きだなと思う
Posted by ブクログ
韓国の手芸ポシャギを連想するような淡い色彩の表紙が印象的な本作は、身体的・精神的回復を目的とした医療の一環として長期の休暇で冬眠をする患者と、その様子を終始見守る冬眠ガイドとの共同生活を描いている話の連作になっているが、実際には冬眠ガイドという職業は存在しないのでSF的短編集と言えよう。人間も古の時代では、食料のない季節に冬眠していただろうという説はあるようだが、絶望と疲弊に満ち溢れた日常生活を送っている現代人にも長期の休養は必要だ。でも、薬による長期間の睡眠は体に良くないのでは?と心配になったが、寒い季節が苦手な自分は冬眠願望はあるので、一度経験してみたい。巻末の訳者あとがきで触れているように、パク・ソルメの描くこの不思議な世界は、睡眠と散歩と友情が大切なものだということを感じさせてくれている。冬眠者を見守りながら、散歩したりランニングしたり読書をしたり編み物をしたりというゆったりした時間を過ごせる冬眠ガイドという仕事は、時間拘束があるため終始緊張感はあるものの、自分の心をじっくりと見つめ直す時間もありそうで、意外と魅力的な仕事かもしれない。不安定な現代社会だからこそ創造された職業だと思う。タイトルにある「影犬」という言葉は初めて目にしたが、犬を大事にするお国柄なのか、もうこの世にいない犬の影法師が、心の病んだ人間の側に寄り添ってくるという。影犬と散歩して、ゆっくりと呼吸を整えることで、自分の心と時間の関係を修復できるという話が、とても素敵だ。韓国都市の地名と食べ物がたくさん登場して、現地に行った気分にもなったし、札幌や旭川が舞台になっている話は、日本人の自分には情景が浮かびやすかった。著者の他の作品にも触れて、パク・ソルメの世界を深掘りしたい。
(登場人物)ホ・ウン:歯科医、7年前も冬眠経験者、猫のチャミと同居、
先生(私とホ・ウンの大学時代の担当教員):温陽でも会ったが、20年以上一緒に暮らした奥さんと離婚して20代の弟子と再婚し子供を授かり、釜山に暮らしている。
テシク:私が温陽でガイドをしている時に近所のグラウンドでランニングをしている時に知り合ったガイド仲間。元サッカー選手だったが負傷のために選手を辞め、ソウルの大学の大学院でリハビリ学を勉強している。背は若干高めで痩せ型だが平凡な体型で、もの静かな印象。何年かぶりに会ったシオンからガイドを頼まれた。
テイン:テシクと8歳違いの兄。ガイドの資格をとって間もないテシクに、勤続10周年の長い休暇で旅行に行った後の冬眠ガイドを依頼した。
キム・シオン:職場が近かったテシクの冬眠ガイドを務めてその後も二人でよく会っていた。春には韓国を離れてカナダにしばらく住むことになっていた。
Posted by ブクログ
医療行為として冬眠がとれるようになり、冬眠者を見守る「ガイド」という職が生まれた社会が舞台。といってもSF小説ではなくて、ちょっとした会話とか動物のしぐさとか風景のことがふわりふわりとか書かれている、装丁のほんの少し黄味がかった淡いシアンのような地色の短編小説。カルグクス(包丁麺)とかタコ炒めといわしの包みご飯(ミョルチサンバプ)とか豆腐トゥルチギとか、おいしそうな韓食がしばしば登場するのがたまらない。
P58 こういう冗談は冗談でしかないのに、なぜ、口の外へ出してみるといい気分になるのだろう?完全に冗談だとわかっていても、ほんのちょっと、三秒くらい、誰かが私にこのマンションをあげると言ってくれるところを脳のどこかが想定するのだろう。言葉は怖くて、言葉は楽しい。脳は素晴らしく、私は脳がほんとに好きだ。
P169 当時も今も韓国は、さっさとやれない人やぼーっとした人には過酷な国だけど、孫樹はさっさとできない法、私はボーっとしているほうだった。ぼーっとしているのにどうしてさっさとやれたの?と聞かれるかもしれないが、時々そういうこともあると思う。