寺地はるなのレビュー一覧

  • カレーの時間

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    デリカシーのない発言を連発して悪びれない昭和の男の悪いとこを煮詰めたようなクソジジイの祖父と、「男らしさ」が苦手で潔癖症の孫がいっしょに暮らす物語です。

    寺地さんの作品の好きなところは、許したくなかったら許さなくていい、嫌いなままでいい、他人の好意や想いを受け取らなくていい、と言ってくれるところです。
    たとえ、相手の事情が分かったからといって、許せたり好きになれる訳じゃない。
    他人には他人の物語があり、自分には自分の物語がある。

    そして、家族だから分かり合えるなんて幻想だよねと教えてくれる。
    誤解が解け憎しみ合っていた家族が最後に分かり合う…みたいな感動モノによくある大団円が訪れないことの

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    2025年08月16日
  • カレーの時間

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    ネタバレ

    孫である主人公からはどうしようもない老人に映る小山田義景という人間の生涯が、回想により徐々に実体を持って明らかになる構成に引き込まれた。
    読者は双方の考え方や生き方に共感や理解を覚えるが、当人同士は最後まで分かりあうことがなく、すれ違いを抱えたまま終わるのも良かった。
    お互いにわだかまり無く和解するという物語を予想していたが、清々しいまでに裏切られ、家族とはいえ実際のところは他人だよなぁ、という人間関係のやるせなさに、物語の美しさを感じた。

    そしてやはり、読後はカレーが食べたくなる、そんな一冊でした。

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    2025年08月16日
  • カレーの時間

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    「カレーの時間」というタイトルに惑わされてはいけない。まさに、解説の冒頭の一文通り。

    最初は桐矢と同じように否定的なおじいちゃんの言葉の使い方や言動は絶対相容れないなと私も思った。けれどおじいちゃん側から見えてくるとまた景色は違ってくる。おじいちゃんが決していい人だった、と見直すわけではない。ただ、知ることで理解できる部分もある、ということ。

    最後に単身赴任のお父さんが桐矢にいう言葉がすごく、よかった。それでいい。けど勿論変わることだってできるから。

    タイトル惑わされてはいけないけれど、タイトルからの期待通り読みながらカレーを食べたくなることは間違いない!

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    2025年08月14日
  • 雫

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    良書!!!
    とある4人の人生が、5年ごとにきりとられて、どんどん遡っていく。
    遡っていくごとに輝きを増す人もいれば、遡っていくごとに不安定さを増す人もいれば、ずっと変わらないように見える人もいればどこかのタイミングでグッと変わる人もいて、味わい深く読める作品だった。
    ただ総じて言えるのは歳を重ねることは悪くない、と思わせてくれること。

    2025.8.14
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    2025年08月14日
  • 希望のゆくえ(新潮文庫)

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    読み進めるほど、心が締め付けられていく。登場人物の抱える課題が次々と浮き彫りになると同時に、その痛みや葛藤が自分自身にも突き刺さってくる。
    人間には誰しも、良い面と悪い面がある。本来は混ざり合っているはずなのに、それを二極化させてしまうこと自体が、苦しみを生んでいる。自分にはグレーを許せるのに、なぜか他人には理想像を押し付けてしまう。それも無意識に。

    芦田愛菜さんが、「その人自身を信じているのではなくて、『自分が理想とする、その人の人物像みたいなものに期待してしまっているのかな』と感じて〜(略)」と語っていたけれど、この小説はまさにそれを物語に落とし込んだようだ。

    相手に期待してしまうこと

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    2025年08月13日
  • 雫

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    大切な人とふたりで歩くのが幸せな人も、たくさんの人に囲まれることに喜びを感じる

    人もいるだろう。でもわたしはひとりで歩くほうがいい。誰かとすれちがったら、笑顔で手を振る。そして、どうかご無事で、と祈る。

    地上に降り立つと、天気予報のとおりにまばらな雨がアスファルトを濡らしていた。深く息を吸う。肺を雨の香りで満たしてから、ゆっくりと吐き出した。

    晴れてよかった。人々は人生の折々でそう口にする。でも、わたしは雨の日が好きだ。 雨の雫は空から地へと降り注ぎ、やがてあつまり、川となり、海に流れつき、また空に帰に帰る。なにかが終わって、なにかがまたはじまる。傘を開いて、一歩踏み出した。
    今日が、雨

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    2025年08月13日
  • 水を縫う

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    読んでいて何度も心がスっと浄化されて救われるような作品だった。「普通」って何だろう。性別にとらわれることなく自分の好きなことを追求する姿って眩しいんだな。自分の気持ちに素直になって、嫌なものは嫌だ、やりたいことはやっていいんだよって伝えてくれた1冊。

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    2025年08月11日
  • 雨夜の星たち

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    面白かったですよ。特徴的な主人公がいます。
    激情的なことはないです。
    人の距離感とかがテーマかも。

    老人の病院送迎や、入院患者の見舞い代行という仕事をされてる人が主人公です。

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    2025年10月13日
  • 雨夜の星たち

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    自分も察することって苦手だなと思って本を読み始めたけど、主人公とは違うタイプかもと思った。私の場合、ただ勘が悪いだけだけど、主人公は深く考えた上で(無意識のうちに)そうなっている。もともとの性質であり、生きる術でもある感じがした。同じ苦手でも、そこに行き着く理由が違うのは、スポーツや絵だけでなく性格もなんだなーと思った。

    主人公と私は、察することをしない深度も違う。主人公は言われたことをやる、それ以外は(主人公のサービス精神が働くとき以外)やらない、ときっぱりしているところが、尊敬もありつつ、同じコミュニティにいたら上手くやれないのかもしれないと思った。自分は案外、暗黙の了解みたいなところを

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    2025年08月08日
  • 雫

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    この本を読んでる最中、他のノンフィクション本を読んでいた息子が「こういう日常を描いた話読むの苦手なんだよね」と言ってきて、「今私読んでるのまさに日常の話なんじゃないか‥フィクションだけど」と気付く。

    永瀬珠・雫・高峰・森の4人の同級生の物語。

    一章毎に5年前に戻っていく構成。
    少しずつ過去が解っていくのが面白かった。

    日常の話と言えば日常なんだけど、でもその中に人々の細かい感情の動きがあったり、優しさや希望が見えたり‥
    こういう日常の話も悪くないな‥と思った。

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    2025年08月05日
  • ほたるいしマジカルランド

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    ほたるいしマジカルランドの社員、社長のお話。それぞれに闇を抱えている感じ。
    でも、いま、季節柄、退職代行サービスのニュースをよく見るけれども、サービスされてしまう企業の方にぜひ読んでほしいと思った。売店のおばちゃん上がりの(まるで某ホテルの会長のような)社長が社員を見ているからこそ言えたことば。(引用参照)
    大阪北部の蛍石市にある「ほたるいしマジカルランド」は、願いごとを叶えてくれるという噂のあるメリーゴーラウンドが人気の老舗遊園地だ。ここで働くのは、どこか不器用で悩みを抱えた人ばかり。アトラクションやインフォメーションの担当者、清掃スタッフに花や植物の管理。お客様の笑顔のために奮闘する従業員

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    2025年08月05日
  • 架空の犬と嘘をつく猫

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    羽猫家はとても不思議な家族である。

    祖父は夢見がちでとても自由に生きている。
    祖母は適当な嘘をつくようではあるが、観察力はいちばんあって人を見抜く。
    父は浮気ばかりしている。
    母は心がこの世に留まっていない。
    2人の子どもの紅と山吹は、いつも誰かがいない家で成長していく。

    父と母のすれ違いは、紅と山吹のあとに生まれた青磁が4歳で亡くなってからだ。
    現実を見るように言う紅と優しい嘘をつく山吹。
    そんな我が子のことをわかっているのに愛情を向けない父や母。
    残酷でありながらも悲惨さを感じないのは何故なのかと。
    普通ではない家族のようで、だけど落ちていくほどではない…表現し難い家族である。

    大人

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    2025年08月03日
  • 大人は泣かないと思っていた

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    ネタバレ

    ど田舎を舞台とした人々の連続短編集。
    主人公の翼から始まり、お隣さん、親友、母親、同僚…とさまざまな人の視点から描かれている。

    最初はヒューマン系特有の感動させようとしてる雰囲気が微妙かもと思っていたが、登場人物の性格を読者側が理解するにつれて楽しめる仕様。
    読後に「うわー、この章が良かったな」っていうのはぶっちゃけ無いんだけど、でも読んだことを後悔するような作品では無い。
    おそらく、田舎特有の噂が一瞬で巡る閉鎖的なところとか、亭主関白的な前時代的なものの考えとかに妙な納得感があって読み進めてしまうのだと思う。

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    2025年08月01日
  • ガラスの海を渡る舟

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    ネタバレ


    すぐそこにある日常のお話だからこそ、寺地さんの小説を読んだあとには必ず、自分の価値観や視点にほんのわずかなようで大きな変化がある。変化というか、知っていたはずなのに忘れていたことを思い出させてくれるような感じだ。

    周りに馴染むように、いじめられないように、「普通」が正しいと思って生きてきた。
    私は普通に生きることが得意だと思っていたし、苦痛ではなかった。それなりにいろいろなことができて、怒られることは滅多になかったし、褒められることも多かった。だけど、大人になってから、苦しくなった。自分は何者でもなくて、なににもなれない。何もかも中途半端で、いつの間にか普通の社会人として生きることもできな

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    2025年08月01日
  • わたしたちに翼はいらない

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    前に読んだこの著者の本と同じく不思議な雰囲気の話でした。最初は誰が誰なのかよく分からず、さほど多くもないのに登場人物の一覧を付けてくれよ思いながら読んでいました。復讐劇が始まってからは集中度が高まり、最初と最後の女の子3人組もその母親たちもちゃんと誰なのか分かりました。少し難しく、ストーリーや結末に納得出来ない点もありましたが途中からは一気読みでした。読後感はもやもやが残りあまり良いとは言えません。それほど目立つ子供ではありませんでしたが、私も中学生の頃が最も自分の未来を明るく感じていたと今思います。

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    2025年08月01日
  • ガラスの海を渡る舟

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    兄の台詞で、故人を忘れて前を向こうとするべきではない、その生と死にとことん向き合うべきだ。というのがとても印象に残っている。
    羽衣子にも共感しやすく、物語が一貫していて良かった。

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    2025年07月30日
  • いつか月夜

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    サイン本。夜は不安や悩みが膨らんでモヤヤンになったり、急に走り出したくなる気持ちが痛いくらいわかる。實成が夜に歩くのを好きなように色んな気持ちや事情を抱えた人たちが寄り集まって夜歩く。話しながら、無言でも、ただ歩く。そしてまた1人、1人と去っていく。それだけなのにそれだけじゃなくて、すごくしっとり心に入ってくる。ただ、伊吹の依存性には危うさと怖さを感じて少し嫌悪感。彼女が手放せて良かった。「わたしのさびしさは、わたしのもんや」と笑って言い切る實成の母の言葉があまりに格好良くその強さがすてきで憧れてしまう。

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    2025年07月29日
  • いつか月夜

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    大津出身、大阪で印刷会社に勤める實成冬至は4人兄弟の末っ子。父を亡くしてから家族の様子も少し変わり、自分の不安のようなものを紛らすように夜の散歩に出かける。かつての交際相手、そのアパートの管理人、後任の会社の女性とその同居の少女、と再会あるいは出会い、徐々に夜の散歩仲間が増えていく。謎の隣の部屋の住人、ほのかに恋心を抱く幼馴染などとの交流とその中から感じる社会の違和感などを、細やかに綴っている。
    静かに流れていく物語が心地よく、共感することの多い小説だった。

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    2025年07月26日
  • ガラスの海を渡る舟

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    羽衣子の気持ちに共感し道の言葉にしびれました。
    みんな同じなんてことはなくて特別でふつう。
    少し息が軽くなりました。

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    2025年07月24日
  • 希望のゆくえ(新潮文庫)

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    自分のことも身近な人のことも親しい人のことも本当ってなんだろう
    知る、分かる、なんて言葉では表せない

    誠実と希望の兄弟も互いのことが分からない
    弟が失踪した理由も分からないけど
    探して、分かろうと、知ろうとする
    それ自体が大事なことなのかな、と思う

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    2025年07月23日