加賀山卓朗のレビュー一覧
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私達の生活を歴史という観点から考察する、という趣旨。 正直、今年一の内容だった。
まず素晴らしいのはテーマの広範さ。愛の分類からはじまり、家族、仕事、料理、お金、死生観と、生活をめぐる多くのテーマがあり、これらの全体として生活がある事がよく理解できる。 また、章を分け、それぞれについて論じられている事で読み手が理解しやすい。 この手の話は論旨がハッキリせず、寄り道のように様々な事が語られがちなのだが、全体における部分として、それぞれ独立した構造になっている。
以下感想
読書の動機は生活について考察をしよう、というテーマに強く惹きつけられたからであり、これは現在の生活に疑問を抱いているという事でもあると思う。
東京の商社で働き、海外出張も多く、刺激的だが消耗も感じる日々に対し、他の選択肢、もしくは解釈もある、という事を感じたかったのだ。
そして、確かに読後の変化はあった。料理を食料としてではなく、ひとつの自己表現として楽しめるようになったり、家族との語らいの時間を取る事が今までより充実して感じられるようになったり。 東京の商社で働く自分から解放して人としての暮らしぶりを考えた時、根元的な幸せは日頃追求している利益や出世ではない、と感じる。
人としての幸せをトコトン突き詰めるなら、今のように都会の会社で働くという道ではなく、どこか田舎でひっそり暮らすのもアリかな、とも思う。 それでも、そういう生活に突入した自分を想像すると、きっと田舎の地元で燻っていた高校生時代のように、退屈になってしまうんだろうなぁと思い、同じ場に留まるのだ。
ちょうどいい距離感というのは難しいものだけれど、人としての根元的な幸せを満たせる田舎と、煌めき刺激的な都会暮らしのいいとこ取りをして生きていけたらいいなと思う。
なにやら自分にとっての新しいテーマを見つけられた気がする -
Posted by ブクログ
新潮文庫では、佐々木直次郎訳→中野好夫訳→加賀山卓朗訳(本書)と、3つの版が出版されてきたが、本書は非常に丁寧な良訳で感動した。
特にカートンの言葉づかいがすごく良い。彼の話す一言一言に、彼がどんな人間かがにじみ出ている。カートンの登場場面はいつでも胸がつまった。
あとがきを読むと、原文の構成や解釈、過去に出版された邦訳の訳文など丹念に研究した様子がうかがえ、特に最終章の”歴史的現在”をきちんと生かした訳になっているのが素晴らしい。中野訳ではこの部分が破壊され、抑制した中ににじむ感情の高まりや物語全体の余韻を全く感じることができず、佐々木訳に比べて非常な物足りなさを感じていた。
大好きな物語を素晴らしい訳で再び読めるほど嬉しいことはない。新訳刊行を心から喜びたい。(2016.2.24) -
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スパイ小説と言えばフレデリック・フォーサイスと、本書の著者である
ジョン・ル・カレなんだよね、私にとっては。しかもふたりとも実際に
スパイだった。あ、フォーサイスは協力者だっけ。
私の中の2大巨匠のひとりでるジョン・ル・カレも既に85歳だそうだ。その
人の回想録だもの。読むでしょ、やっぱり。
時系列になっていないので「自伝」と捉えて読むと読み難さがあるが、
全38章のそれぞれが短編小説を読んでいるような感じだ。
小説の取材の過程であった人々のなかでもPLOのアラファト議長との
邂逅はまるで映画のよう。尚、アラファト議長のヒゲは柔らかく、ベビー
ローションの匂いがしたそうだ。あぁ、触ってみたかったよ、議長のヒゲ。
イギリス最大の裏切り者キム・フィルビーの友人であり、同僚であった
ニコラス・エリオットとの会見の様子もあるし、『寒い国から帰って来た
スパイ』の映画化をめぐっての話、そしてイギリス諜報機関に在籍し
てた頃の話も少々。スパイだったから多くは語れないんだろうね。
最大の注目はル・カレの父親ロニーのことを綴った章だ。常習の詐欺師
にしてDV夫。この為、ル・カレとその兄の生母はふたりが幼いうちに家を
出てしまう。
ル・カレもお兄様も、きっと多大な苦労をしたに違いない。家庭環境を考え
たら相当に重い話なのだが、ユーモアを交えた筆致が読ませるんだよな。
各章がル・カレの人生の断片なのだ。それをパズルのように組み合わせて
いくと、彼の数々の作品が生まれる。
近年は小説から離れてしまっているが、昔々に読んだル・カレの作品を
引っ張り出したくなった。
困ったな。フレデリック・フォーサイスの自伝も買って積んである。きっと
こちらも面白いはずなんだよな。 -
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2008年9月12日午前9時15分、CNBCにテロップが流れた。「関係筋によると、リーマンの問題解決に公的救済はない模様」市場が開くとリーマン株は3.84$に下げる。6月頭に韓国産業銀行(KDB)からの出資受け入れを交渉していた時点ではまだ株価は30$でリーマンCEOのファルドは33%増の40$を主張した。7月21日にバンカメに持ちかけた際には株価は18.32$で少なくとも25$欲しいと主張したがバンカメにとってはただ同然で買えるのでなければ意味がなかった。リーマンの資産にはあまりにも不透明なものが多すぎたのだ。
9月4日にはポールソン財務長官はファニー・メイとフレディ・マックの救済を決め、その終末に両社はこれを受け入れ7日の日曜日に発表された。次はリーマンだ。この時点でファルドはこう言っている「ベア・スターンズですら1株10$だ。この会社はそれより安い値段では絶対売らないぞ!」。1株6.4$を提示していたKDBは手を引いた。9日にはJPモルガンがリーマンの一部を買いたたく可能性をほのめかす。この日の終値は45%安の7.79$。
10日リーマンは前倒しで第3四半期の決算発表を行った。改善計画では資産運用部門の55%を売却し、不良資産をスピンオフさせる。しかし、売却資産のポートフォリオは時価を反映させず新会社は時価評価の圧力を受けることなく、”みずから”が実態価値とかけ離れると考える価格以下での資産売却を強いられませんと続けた。リーマンを批判し続けてきたヘッジファンドマネージャーのアインホーンから見れば事態はもっとはっきりしている。リーマンは有害なゴミ資産の評価源を避けようとしている、いかようにも数字をでっち上げられるということだと。リーマン株は少し戻したがまだ解決していない問題がある。新会社には資金が必要だ。この時点でJPモルガンは手を引き最後に残った資金の出し手はバンカメかイギリスのバークレーズとなった。
13日土曜日、ポールソンがウォール街の全CEOを招集した。午後6時45分から始まった会議の冒頭でポールソンはこう言った。「週があける前に、何らかの解決策を見いださねばならない。公的資金注入はその答えではない。あなた達だけで解決してもらう。」買い手の2社は支援なしでは資金は出さない。その片方のバンカメCEOのケン・スミスもここにおり、参加者は全て状況を知っている。もしリーマンが倒れたら次はメリルリンチ、そしてモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス(GS)と破綻は連鎖する。この日のメンバーではないがAIGやGEも危ない。日本の銀行に対する公的資金投入は評判が悪かったがアメリカでも同様だ。共和党は納税者の負担が増えることに、民主党は企業の高給取りと経営者の救済に反対している。メリルもバンカメとの合併に意欲を見せておりもしバンカメがリーマンを助けたら今度はメリルが窮地に陥る番だ。7月にGS出身の財務次官ロバート・スティールがCEOに就任したワコビアも危ない。AIGの方は新たな損失が見つかり資金は600億ドル必要と見積もられた。
14日朝、イギリスのバークレイズはリーマンのバッドバンクに他の銀行が330億$融資すれば残りを買収することを表明していた。CEO達は拠出を決意しリーマンは救われるかに見えた。またメリルもGSから1株1桁価格なら買収される見込みがついた。しかしここで認識されてはいたが重視されていなかったイギリスの上場基準が待ったをかける。正式に取引が完了するまでの間リーマンに債務保証するには株主投票が必要であり、今日中に買収を決めるためにはイギリス政府から免除の承認がいる。しかしイギリス政府はアメリカの金融危機を持ち込むのを嫌い許可しなかった。なぜアメリカ政府が何もしないのにイギリス政府がリスクをとる必要が有るのか・・・
ついにプランBがスタート、連銀は貸し出し枠を拡大する準備を始めたがそれをリーマンに利用させるとモラル・ハザードが拡がるためその日の内にリーマンに破産申請させる必要が有った。政府に破産を強制する権限はないのだが。もはや時間も策も残されていないリーマンの取締役会はこの日の夜遅く破産を決定し、15日にチャプター11を申請した。その裏では1株29$と言う金融業界市場最高のプレミアでのバンカメのメリル買収が決まった。15日の記者会見では予想されたようにポールソンが返答に困る質問が来た。「ベア・スターンズは救済したのに、リーマンは救済しなかった理由は?」「連銀がAIGにつなぎ融資を行う理由は?」
16日午後1時連銀の繋ぎ融資が受けられなければAIGは後数分でキャッシュ不足で破産するところまで追いつめられていた。AIGは世界的な金融システムの事実上の要であり、もし破綻すると世界中の金融機関のレバレッジを支えたCDSの保証が消えあらゆる銀行が資金調達の必要に迫られる。さらにAIGは世界中で8100万件の生命保険を発行しその総額は1.9兆$を越える。AIGの破綻は大恐慌を再来させかねない、まさしくTOO BIG TO FAILだ。連銀はAIGにLIBOR+8.5%と言う高金利で850億$を貸し付けたがその後のAIGのモラル・ハザードはオバマ大統領のボーナス奪還宣言によく知られている。22日には子会社の幹部が44万$を費やした高級リゾートでの会合を催し、翌年3月には幹部社員に対し1億6500万$のボーナス支給が発表された。
モルガン・スタンレーは東京三菱UFJからの資金提供で生き延びたがそれは90億$の小切手で10月13日午前7時53分に契約が締結され手渡された。偶々この日は日米ともに休日で電子送金が出来なかったのだ。19章の終わりにおそらく2度と現れない高額小切手のコピーが載っている。
ポールソンは9月19日に不良資産救済プログラム(TARP)を発表し、10月3日下院の再審議でようやく可決された。さらに銀行に直接投資できるようにウォーレン・バフェットのアイデアを取り入れて修正し10月13日午後3時に再びCEO達を招集した。とにかく各銀行に先ず資金援助を受け入れてもらう、そうしておかないとTARPを利用する銀行は危ないと狙われるためだ。午後6時23分までに各CEOは電話での取締役会を開きこの案を受け入れた。TARPの準備金は7000億$(70兆円)。2008年9月24日に成立した麻生内閣の景気対策が75兆円、09年度の当初一般会計予算が88.5兆円だ。
のちにポールソンはリーマンを救済しなかった理由を定期的に修正している。最初は警告のため、そして後にはその権限がなかったと。それでもバークレイズをつなぎ止める手は残っていたしモラル・ハザードがなくなったわけでもない。このように批判される部分はあるにせよよくこれだけの手を打ったものだ。ブッシュ大統領が全く金融システムを理解しておらず、ポールソン、ガイトナー、バーナンキ達に丸投げだったことは幸運だったのかもしれない。麻生政権の景気対策も使い道はともかく非常時の対策としてはもっと評価されるべきなのだろう。鳩山内閣のぐだぐだ進行が1年前に始まっていればと考えるとちょっと怖い。 -
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2008年9月12日夜ニューヨーク連銀にウォール街の銀行のCEOが集められた。議題はライバル会社であるリーマン・ブラザーズをどうやって救うか。政府の支援はない。5大投資銀行のうち最も弱く、最もリスクの高い(レバレッジの大きい)ベア・スターンズは既に倒れた。ウォール街の企業のレバレレッジは32倍、上手くいってる間はリスクをとればとるほど儲かり、幹部からトレーダーまで高給で他社に移籍されないように繋ぎ止めるのが当たり前だった。サブプライムローンなどの債券はひとまとめにされ、それから切り刻まれ、またまとめられてCDOという債券に仕立て上げられた。理論上はリスクを分散することで低格付けのCDOを組み合わせて出来上がったCDOは格付けが上がる。しかし、分散したはずのリスクはつながっていたためサブプライムローン市場の崩壊で金融システムそのものが崩壊の危機に陥った。レッドクリフの連環の計を思い出してしまったのだが鎖でつなげばそれぞれの船は安定し、悪天候でも船が沈んだり船が揺れて落ちたりするリスクは小さくなる。しかし一旦火の手が上がると鎖でつながれた船団全体が焼け落ちるリスクが高まることに気がついていなかった。
半年前の3月17日月曜日の朝5時リーマン・ブラザーズCEOのディック・ファルドは悪夢の週明けを迎えていた。金曜日に財務長官ハンク・ポールソンからビッグ・ファイブのベア・スターンズがこの終末に破綻することが告げられたからだ。しかもベア・スターンズは政府の支援付きでJPモルガンにわずか1株2ドルでたたき売られることが決まってしまっている。ひずみを見つけた空売り屋が狙う破綻のドミノの向け先は次に小さいリーマンだと言うことはわかっていた。市場が開くと同時にリーマン株は35%下落し、WSJのインタビューに応じた結果一旦50%下げた株は取引終了1時間前に上昇に転じ、結局19%安の31.75$で閉じた。
コロラド大学の将校養成プログラムで弱いものいじめをする教官につっかかって放校処分になったファルドが上巻の主人公であり、雑用係のバイトとして入ったリーマンでスタートレーダーでAMEXに買収されるまでの8ヶ月間、クーデターを起こし会社のトップに立ったグラックスマンに見いだされた。94年にAMEXがリーマンを放り出した際ファルドはCEOに抜擢され後のCOOである盟友ジョー・グレゴリーとともにアグレッシブな取引でリーマンを成長させた。このグレゴリーの人事が後に色々問題を引き起こすのだが直感に従い、後にリーマンを救おうと奔走する債券部門のトップ、ハーバート・マクデイドを専門外のエクイティ部門に移動させ、ブロンド美人(写真を見る限り?キャリアウーマンっぽくはある)のエリン・キャランをCFOに据えた。キャランは実力を見せようと張り切るが元は税務が専門でプレゼンは上手かったが破綻間近のCFOとしては適任ではなかった。人情家で激しやすいファルドは人事には関わらず、後にはグレゴリーやキャランを切ることも上手く出来ない。リーマンに投資する機関投資家はいくつかあったが最終的にはファルドが主導権を握りたがり、リーマン株を高く売りつけようとしたが為に全てご破算になっている。拡大期には戦闘を走る魅力的なリーダーだったファルドには負け戦の殿軍の指揮は向いておらず、実際にリーマンが破綻する下巻では存在感を失っている。
金融危機を救おうとするポールソンはゴールドマンサックス(GS)のCEOからブッシュ政権に引き抜かれていたが、リーマンショック後にそこらにGS出身者がいたために批判を受けることになる。例えば下巻で救済されるワコビアのCEOロバート・スティールは7月まで財務次官で同じくGS出身だ。元財務長官のロバート・ルービンやポールソンが追い出したコーザインはニュージャージー州知事になっており、このクーデターに参加したジョン・セインはこの物語の中ではバンカメに救済されるメリルリンチのCEOだ。セインは911の当日GS本社にいた幹部のトップで不幸なことにその日だけGSのCEOとして仕事に就いた。
FRBのバーナンキ、ニューヨーク連銀のガイトナー、ビッグ・ファイブやシティ、JPモルガンといった商業銀行のそれぞれの立場で物語は進むがリーマンと並んで大きな位置を占めたのがAIGだった。AIGは会社の破綻に備える保険(CDS)を売り出し、大きな収益を上げていたが金融システムが破綻すると保険金の支払いは不可能になる。この本では「空売り屋」のヘッジファンドは名もなき悪役だが、マイケル・ルイスの「世紀の空売り」ではアンチヒーローとして描かれており、むしろ問題なのは無謀なレバレッジをかけてリスクを膨らませた投資銀行や破綻が足下に来ているのにCDSの販売をやめなかったAIGの方だ。原題の「TOO BIG TO FAIL」はリーマンではなくAIGに代表される複雑に絡まり合った金融システムそのものだが連鎖破綻を防ごうと資金注入すると、無謀なリスクをとった人達に高価な報酬を与えることになり、報酬を制限すると人員が逃げ出し問題の解決が遅れてしまう。政府としては何をどうしても批判は避けられない。
上巻で最も納得がいくのはオマハの賢人バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェットの投資哲学だ。投資相手を検討してもし疑問点が余りにも多ければ例え答えが用意されていても投資しない。わからないものには手を出さないに限る。複雑な債券化商品を売り出したCEO達は自社の資産の時価を計算することが出来ず方針を誤った。 -
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「証券かはリスクを減らし、流動性を高めると考えられていたが、現実に発生するのは数多くの機関と投資家が良かれ悪かれ密接に結びつく状況だった。」
リーマンブラザーズがいかに破滅していくのかについて多くの証言に基づき書かれたノンフィクションもの。
優秀な者たちによる駆け引きは面白く、私益を追求しすぎた結果として自分の利益すらもぶっ飛ばしてしまう環境を作る恐れがある危険な行為は、ほかの誰かが絶対に守るに違いないという確信がなければ行う事ができない。空売り。しかし、それが見捨てられたしまった場合、リスクテイカーはその最終決定機関を非難する。なんという強欲で私益中心なのか。
そのような私欲が渦巻く投資機関で働く事は、やはりとても面白いのだと思う。 -
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リーマンショック前後のウォール街で何が起こったのか。膨大なインタビューやメール、証言等を集め分析したもの。リチャード・ファルド(リーマンCEO)、ロイド・ブランクファイン(ゴールドマンCEO)、ウォーレン・バフェット、ジェイミー・ダイモン(JPモルガンチェースCEO)、ジョン・マック(モルガンスタンレーCEO)、ジョン・セイン(メリルリンチCEO)、ロバート・ウィラムスタッド(AIG CEO)など金融機関のトップに加え、ポールソン財務長官、バーナンキFRB議長、ガイトナーNY連銀総裁など政府関係者も実名で登場する。それぞれの信念、保身、怒り、疑念、友情、家族愛、裏切り、株主対策などが絡まって、
「その日」に向かって進んでいく。内容は複雑だか、時間をかけてじっくり読み進める価値がある。下巻が楽しみ。 -
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「ヒューマン・ファクター」。人間的要因、とでも訳しますか。
これは、大人の男性には堪らない小説でした。
手に汗握る、スパイ小説。紛れもないスパイ小説なんですが、そういう状況に置かれた男性の心理描写。葛藤。
銃の撃ち合いやら車の追っかけっこなんか、ゼロです。
後半は物凄い緊迫感。やめられないとまらない、でした。
1978年にイギリスで書かれた小説です。
書いたのは、グレアム・グリーンさんという人です。
グリーンさんは1904年生まれのイギリス人さん。1991年に亡くなっています。86歳くらいまで生きたんですね。
で、1930年代、つまり30歳前後にはもう、小説家として成功していたみたいですね。
そして、20代で共産党に入党。
この辺で、誤解してはいけないなあ、と思うのは。
1950年代くらい以降、スターリンさんが、隠しようもないくらい、相当な虐殺や警察国家をつくるまでは、
共産主義、というのは、世界中のインテリさん、理想主義者、ロマンある知識人的な若者たち、にとって、ある種の期待を込められる希望だった、ということですね。
で、第2次世界大戦が1945年に終了して、数年内に東西冷戦が始まるまでは、共産主義というのは、そんなに蛇蝎のように否定されるものではなかったはずです。
一方で、子供の頃からスパイ小説好きだったグリーンさんは、第2次世界大戦前から、MI6に入って、諜報活動、スパイをやります。
マジで、007の世界な訳です。
で、終戦直前くらいに辞職してます。
この辺、僕も不勉強ですが、若い人気作家が、同時にスパイでもあった訳ですね。
その後は、人気小説家として、不動の地位、死ぬまで続きました。
とは言え、一部の「スパイ小説ファン」「ミステリー愛好家」「イギリス文学ファン」以外には、そんなに知られてないですね。
名作映画「第三の男」の原作者でもありますが、これはグリーンさん本人が、「映画は素晴らしいけど原作はそうでもない」と発言しているそうです。
今回、読んでみたのは、大した理由でもなくて。
「娯楽小説読みたい気分だなあ。ミステリーっていうか、犯罪モノとか」
という気分と、
「丸谷才一さんが、褒めてたなあ。グリーンさん」
そして、
「読んだことのない作家を、外れるかも知れないけど、読んでみないとなあ」
という感じで。
で、外国文学は、翻訳が命。
これはほんと。
ぱぱっと調べて。
代表作らしく評判が良い。そして割と最近に新しい翻訳が出ている。電子書籍にもなってる。ってことで、「ヒューマン・ファクター」。
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主人公は、どうやら50代らしい男性の、カッスルさんです。
イギリスの情報部で働いています。
現場と飛び回るわけじゃなくて、ロンドンのデスクワークです。
アフリカなどの情報の受けや、その整理をやってます。
割に地味な仕事、地味な風貌、地味なブ男な感じ。
年下の部下デイヴィスと、実質ふたりの部署っぽい。
郊外に、妻と子と住んでいます。これがなんと、黒人妻、黒人の子。
カッスルさんは、諜報部員として南アフリカにいたんですね。
そのときに、スパイとして使った黒人女性に恋をして。
南アフリカですから。アパルトヘイトですね。白人が黒人と愛し合うなんて、えらいことなわけです。
色々あって、なんとか彼女を逃がして、自分も脱出。その辺りは全て、上司組織にも隠さず報告済みな訳です。問題なし。
さてこの、カッスルさんの部署の情報が、どうやらソ連側に漏れている、ということになります。
誰かが、スパイなんじゃないか?
って・・・みんな仕事がスパイですから、つまり、「二重スパイ」がいる・・・隠れている・・・。
さあ、それは。カッスルなのか。部下デイヴィスなのか。
罠。監視。不審。不信。不安。嘘。猜疑心。恐怖。
物語は、疑い迷う、上司たちの視点の章と、
疑われている一人である、カッスルの視点の章で描かれて。
#######ここからは、ネタバレです#######
上司たちは、部下デイヴィスが犯人、と状況証拠で判断、デイヴィスを暗殺しちゃう。
だけど、二重スパイは、カッスルだった。
カッスルは、妻をアフリカから脱出するときに世話になった友人がいた。
その人に本当に世話になった。
その男性は、共産主義者だった。
その人への友情義理から、ソ連側に情報を流していた。思想としては、全く共産主義じゃないけど。
そして、カッスルは恐れる。いつバレる。もうだめか。バレてるのか。バレてないのか。
デイヴィスが死んだ。もうこれ以上、情報を漏らしたら、自分が犯人だとバレる。引退しよう。
そんなときに、MI6の仕事で入った情報。
それは、そのまま許すと、アフリカの黒人たちに大変不利になる、米英の陰謀だった。
苦悩したが、それを、ソ連側に流すんですね。
もう、カッスルさんは、祖国も思想も大義名分も、その欺瞞性に倦んでいます。
ただ、黒人の妻と自分との、愛の共同体だけが、彼にとっての祖国なんですね。
それには、アフリカを、黒人を、見殺しにはできないんですね。
その情報を出した後で。
周辺の「連絡網」に異常が起こります。
もうダメか。妻子は、母の実家に、喧嘩したことにして去らせる。
さり気ない尋問に、職場の人が来る。ダメか。殺されるか。東側の救出は、あるのか。
結果、ぎりぎりタッチの差で、東側に救出、脱出、亡命。
モスクワで何とか無事暮らす。
だが、妻と子とは別れたまま。それが辛い。それが辛い。妻子もいずれモスクワに呼ぶ、と東側は約束してくれたのに・・・。
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と、言うお話です。
なので、ほとんどは、サラリーマン的な暮らしをしているカッスルさんの日常。
そして、サラリーマン的な暮らしをしながらも、二重スパイが誰なのか、考える、上司たち。
という、地味な状況。
全体の1/3くらいを過ぎて、多分そうだろうな、と思っていたけど、「カッスルが二重スパイ」と分かる。
●もう、そこからの、心理サスペンスが一級品。
●それから、敵味方を問わず。
諜報に生きて暮らす人々の、神経の疲れ具合。孤独感。不信感。寂寥感。この描写がまた、絶品で。
これは、ある意味、何の仕事をしていても、愛無き暮らしに忙殺されていれば、同じように当てはめれる心理。
●そして、そんなにクドくなく、語られ、展開される、世界観。
共産主義が正義でもない。
でも資本主義陣営が正義でもない。
黒人、という立場を通した時に見える風景。
仁義なき戦いの中で、主人公と妻が、守らなければならない、人としての最後の砦というか。
ヤクザ映画風に言うと、それでも捨てられない義理というか。
そして。
そんな主人公の周りで行われる、なんだかもう、手段と目的が数回転くらいこんがらがったような、
諜報戦。ゲーム。
いやあ、このジリジリした心理描写、圧巻です。脱帽です。
神なき孤独な街を往く男の背中、という意味では、男性のハードボイルド・ミステリー娯楽作なんですが。
とてもそれでは収まりきらない。
小説ならではの心理描写、サスペンス。
確かに、原作を手がけた映画「邪魔者は殺せ」「第三の男」に通じるテンション、焦燥感。
女性向きではないでしょうが、えらく、面白かったです。
丸谷才一さんの「快楽としてのミステリー」で確か知ったんですけどね。さすが丸谷氏。
ちなみに。
「半分、実話小説じゃないか」、という噂があるらしいですね。
キム・フィルビー、という名前でネット検索するとわかるんですが。
雑に言うとグリーンさんがMI6時代に、仕えていた上司さん。
この人が、MI6でかなーり偉くなったんですけど、実は共産主義者で、ソ連の二重スパイだった。
1950年代の英米のスパイ戦略は、モスクワに漏れまくっていたそうです。
で、ばれて、1960年代かな?にソ連に亡命したんですね。
その後は、モスクワでKGBで働いていた。
1988年か、そのへん、冷戦終結直前に逝去。
この人と、グリーンさん。
ゴルバチョフの雪解け時代にですね。
グリーンさんは何度かモスクワに行って。
再会してるんですね。
相当、仲が良かったみたいです。
面白いですね。
グレアム・グリーンさん、大人の味わいのある作家さんですね。
渋いです。
ジョルジュ・シムノンさんの、イギリス版っていう感じですね。
次々続けて読みたいわけではないですが、うん、四〇代から読み始めるくらいで、正しい作家さんだと思いました。
お子様にはね、渋すぎて。面白くないだろうなっ・・・と(笑)。
そんな、歳を取ることの旨み、を、味わえるのも、読書の快楽ですね。 -
Posted by ブクログ
綿密な取材と、掴んで離さない描写。エキサイティングな展開にぐいぐい引き込まれる。入りからやばい。
そしてダイモンは爆弾を落とした。朝起きてからずっと考えていたこと、彼の世界終末の日のシナリオだった。
「次の手順でいく」彼は続けた。「ただちにリーマン・ブラザーズの倒産に備えてほしい」間を置いた。「そして、メリルリンチの倒産」また間を置いた。「AIGの倒産」また間。「モルガン・スタンレーの倒産」最後にひときわ長い間を置いて、「そして可能性として、ゴールドマン・サックスの倒産に備える」
電話の向こうでいっせいに息を呑む音がした。
あと、経営幹部レベルのすごいとこ。
・電話はアシスタントがつないで、自分ではかけたり待ったりしない
・メールは後述筆記
・飛行時間短縮のためロシア上空飛行の許可を取りたいと言う -
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探偵小説の巨匠、ディクスン・カーの作品。
デスパード家当主マイルズ・デスパードが死亡した。かかりつけ医は自然死と判断したが、マークはマイルズの部屋の現状から、砒素による毒殺を疑う。果たして、確かにマイルズは砒素により殺されていたのである。
ヘンダーソン夫人がマイルズの部屋を隙見したときに見た、無いはずのドアを抜ける不思議な女性と思しき人影、霊廟に埋葬されたはずのマイルズの遺体が消失するという事件、そして、エドワード・スティーヴンズの妻マリーと19世紀初頭の毒殺魔マリー・ドブレーとの関係。オカルティックな雰囲気に包まれた事件は、意外な様相を呈し始める。 -
Posted by ブクログ
ネタバレまたスマイリーたちの活躍が読めるのは嬉しいけどル・カレじゃないし……と思っていたら、作者はル・カレの息子さんなんだと知り驚いた。
かなり本家に近い部分もありつつ、やっぱりちょっと違うなと思う部分もありつつ……でもそこまでの違和感もなくおもしろく読めた。
本家より道筋が真っ直ぐな気がしたし、アクションシーンもあったりで比較的読みやすかった。
なによりスマイリー、ギラム、ビル、ジム……懐かしい彼らにまた再会できたのが嬉しかった。
今作は『寒い国から帰ってきたスパイ』と『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(正しくは『鏡の国の戦争』のほうが先?)の間の話。
最低でも『寒い国から〜』は読んでおかないと、誰?何の話?となるようなところが多いと思う。
リーマスのことをそこまで引きずっていたとは……。
オチも本家らしい虚しさと切なさがある。
今後ももしスマイリーシリーズを書いてくれるようならまた読みたい。