加賀山卓朗のレビュー一覧
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「また罪を犯してしまったよ、ハドリー」博士は言った。「また真実を見抜いてしまった」
はい、このミス海外2024年版の1位『頰に哀しみを刻め』と同3位『処刑台広場の女』(こちらは未読)の翻訳者であり、現在ひまわりめろんの中でプチブレイク中の加賀山卓郎さん
なんとあのジョン・ディクスン・カーの翻訳も手掛けていらっしゃいました
翻訳者さんで選書するのを「通」だと思っているワタクシですので、早速かの有名な『三つの棺』を読んでみましたよ!
(『処刑台広場の女』はまだ読みません、焦らすね〜)
もちろん海外古典本格好きのワタクシが『三つの棺』を読んでないわけがありませんので、一応再読ということになりますが、前回は三田村裕さん訳でした
今回は「新訳」と銘打ったものだけあって、いや〜読みやすかった!ちゃんとは覚えてないけど三田村裕さん訳はもっと難解だった気がするな〜
今の子たちはほんと幸せよね
この幸せを活かしてどんどん読んでほしいわ古典ミステリー
もうすごいから
本作『三つの棺』も、もうすごいです
カーが生み出した名探偵のひとりフェル博士が活躍する密室殺人ものなんですが
マジで、マ!ジ!で!教科書です
あらゆる意味で密室殺人の教科書と言える作品で、これ読んだことない人は本格ミステリオタクとは認めてもらえません
本棚にこれない人は神保町にある社団法人本格ミステリオタク協会の会員資格を得られません
受け付けで追い返されます「こちとらボランティアじゃないんだよ!」とガチギレされます「非営利違うんかい!」言っても「税金払っとるわ!」とさらにキレられます
もう読むしかないわな『三つの棺』こうなる前に
次は加賀山卓郎さん訳何読もうかな〜(『処刑台広場の女』違うんかい!)
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すごい小説です。語彙量、筆力、描写力が圧倒的です。全てのエピソード、シーンが印象的です。
フランス革命の場面などには、残酷な描写がありますが、それが絵画的で美しいです。そしてそれゆえに冷たい恐ろしさを感じます。父娘の再会シーンや、カートンの告白シーンは感動的で、ロマンチックでもあります。ですがあまりにも描写がすごすぎて可笑しさもこみ上げてきます。そしてそれが過ぎるとまた感動がよみがえってくる感じです。
お気に入りの登場人物は、ジェリーです。愉快なキャラクターです。活躍の場面があるのですが、それゆえに悪事がばれてしまい、ロリーに叱られる場面はとても面白いです。また「へぇつくばる」かかあをバカにしていたのに、最終的には自分が「へぇつくばるよ」と言っているのが面白い。
序盤のエピソードが、終盤に絡んでくる展開も素晴らしいですが、やはり描写がすごいです。物事のそれ自体の周辺をぐるぐると描写しているうちに、その本質が徐々に浮かび上がってきます。直接そのものを描写するより、重層的に感じられて、エピソードやシーンがより印象的でした。すごい小説です。 -
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いわずとしれたディケンズ初期代表作。運命に翻弄される孤児オリヴァーの波瀾万丈な少年時代、そして出生の秘密。
何度も映像化されていて見たことはないのだが、救貧院で薄粥のお代わりを求めるシーンが有名らしい。読んでみるとこれはひどい。貧民救済施設といえど、人を人間扱いしていないじゃないか!以下、当時の貧困層と弱者虐待の実態、低俗な人間の醜さが描かれ、作者ディケンズの痛烈な皮肉と風刺の切れ味がすさまじいほどに冴える。そのなかで前半はオリヴァーの逆境と克服が繰り返されるスリリングな展開が続き、先が気になって仕方なかった。
次第に集まってくる多くの登場人物たちの個性や配置が魅力的かつ巧妙だ。特に窃盗団たちの描かれ方は本作最大の特徴ともいえ、犯罪小説的な側面もある。善人と悪人がはっきりしていて、それぞれの人間性の程度にふさわしい結末が用意されているので、非常に健全なカタルシスが得られた。ただ、その意味では境界線にいる、とある少女だけは別で、ラストの文章など作者も特別な目線を捧げているのが印象的だった。
主人公オリヴァーは純粋無垢な少年だが、ひたすら運命に翻弄されるだけで、そこから特に成長するというわけではない。加えてあまりに都合の良すぎる巡り合わせが続いたり、後半はオリヴァーを置き去りにした展開になるなど、本作にはいくつかの欠点も見受けられる。しかし、そんなことは気にしなくてもいいじゃない、と言いたくなるほどのエネルギーとスピード感に満ちた大作なのは確かだ。700ページオーバー、面白いので一気に読めます! -
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あなたにとって大切な守りたいものは何だ!
自動車修理工場を営むボーレガードにとってそれは家族、友、仕事、工場、父から引き継いだ愛車ダスターだ
彼は大切なものを守るために過去に足を洗った犯罪に再び手を染めてしまう
大切なものを守るための最後の犯罪になるはずだった…
しかし、そこで歯車が狂い出す!
彼の大切なもの…
守ることができたもの…
守ることができなかったもの…
本作の魅了のひとつは登場人物
特に主人公のボーレガードはカッコイイ!
彼を取り巻く妻のキアやいとこで友のケルヴィンも魅力的だ
もうひとはアメ車
ビュイック、カマロ、ノヴァ、キャデラック…
しびれるアメ車が次々に登場
そして、何と言ってもボーレガードの愛車ダスター
これらアメ車のカーアクションは必見だ!
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1937年に発表された小説ということで、もはや古典といっていい作品のようですが、まったく古臭さを感じることなく(もちろん新訳版ということもあるでしょうが)、グイグイと読み進めることができました。
情報は小出しにされ、些細な疑問ですら解決しないまま物語は進んでいきます。これ、どういうことなのかな?とモヤモヤが払拭されないまま、次々と新たな事態に突入。更なる謎や疑問が追加される展開に、もう翻弄させられっぱなし。うまい。この絡みあった糸をはやく解きたくて、頁を捲る手がとまりませんでした。
舞台は現代なるも、題材が近世フランスの魔女裁判、ということで、独特の雰囲気が醸しだされています。日本の怪談話のように、不気味で、刺激的で、興味が駆り立てられる。先述のモヤモヤした展開と非常にマッチしていて、この独特の雰囲気を楽しむことができました。
そして何より、わずか5頁の最終章の存在感。こりゃ名作ですわ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ裏家業の運び屋から足を洗って、真面目に自動車整備工場を営んでいる主人公ボーレカード(バグ)。しかし、同じ町に大きな同業者の工場ができ、経営難に陥り、裏家業にもう一度足を突っ込まざるを得なくなる。
貧困と犯罪、家族のしがらみ。抜け出せない過去、黒人と白人それぞれの格差社会と交錯する差別…。前世紀から続くアメリカのやるせない社会問題を背景に、ぶっとびカーチェイスシーンを織り交ぜて描くアクションノアール小説。
スピード感といぶし銀的渋さの両立。古い器に新しい酒を入れる手法の模範例ともいえる傑作。
日本もここまで貧困化し、都市圏と圏外の生活や文化がかけなはれている現状、よそ事と笑えない小説だと思う。貧しさは心の余裕をなくし、犯罪や差別や社会不安を育み、結果的に社会だけでなく個人をむしばむんだと思う。 -
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序文だけでもうすっかり心つかまれてしまった。
大人による、大人のための文章。
これよ、これ! こういうのが読みたかったのー! と、私の脳みそ含むからだ全部が喜んでいるのを感じた。
もともと、ミステリや探偵小説の類はあんまり好きじゃないから、ジョン・ル・カレの作品も「ナイロビの蜂」しか読んだことない。
でも、これまで読んだ推理小説は読んだ端から忘れていって、ほぼ頭の中に残っていないけど、「ナイロビの蜂」だけは、割と心の深いところに沈殿していて、読み終わった後もよく思い出します。
小説があんまり良かったので、映画もすぐ見たほど。(そして、映画も悪くはなかったけど、小説の方がだんぜん良かった)
この回想録を読んで思ったけれど、この人の文章スタイルが非常に私好みなんだろうと思う。たぶん。
ある出来事について語るとき、「その出来事のどこを切り取るか」っていうのは人によって全然違うと思うし、それによって話がどこへ向かうか、というのも全く変わってくると思うのだけれど、この人の視点とか切り取り方、それによって導かれる結論が、私は本当に好きだと思った。
それはもう序文から現れていて、タイトル「地下道の鳩」の由来となったル・カレの子供のころの記憶の話もそう。あとの方の回想で出てくるメンフクロウのエピソードとセットでとても印象的。
ただ、残念なことに、私の知性がル・カレに全くついていけていないせいで、この素敵な序文の最後の文章を読んで、え、と思った。
「この光景がずっと私の心に焼き付いている理由は、私自身より読者の方がわかるのではないだろうか。」
・・・え・・・すみません・・・私にはわかりません・・・(涙)
ああ、でも、こんな風に、いちいち全部説明しないクールなところがとてもとても好きなんです。(と、珍しく熱く愛を語る)
読んでいて、ぎょっとしたところがあった。
ナチス狩りに携わっていたジャーナリストを取材した時の話。
もちろん、ナチス狩りということが戦後ずっと広く行なわれていたことは私も知っているけれども、私はずっと、ナチス狩りは裁判にかけるために行われているのだと思っていた。
そうじゃなくて、復讐が最大の目的で、裁きを受けさせるためではない、と知って驚愕してしまった。(もちろん裁判に持ち込まれた人もいたとは思うが、ここではそうではないケースが出てくる)
そのナチス狩りの様子(=要するに殺人)について淡々と語るジャーナリストとの会談場面――
「こちらの仕事の説明をしている暇がないこともあった、とマイクは言う。そうなるとわれわれは、たんに彼らを殺して去った。時間があるときには、どこかへ連れていって説明した。野原や、倉庫に。泣いて罪を告白する者もいれば怒鳴り散らす者も、命乞いをする者もいた。ほとんど何もできない者も。(中略)
”われわれ" と言いました? "われわれ" とは具体的に誰ですか。あなた――マイク――自身も復讐に加わっていた? それとも、もう少し一般的な "われわれユダヤ人" という意味で、あなたはたんにそのひとりということですか?
マイクは、私にはよくわからない "われわれ" を使いつづけ、別の殺しの方法を説明する」
この「よくわからない "われわれ"」がなんかじわじわ怖い。
このエピソードのそこを切り取るル・カレがさすがだ、と思った。
ほかにも、ソ連崩壊直後の完全に混乱したモスクワで「保険屋が来たせいで従業員が出社しなくなってしまった」という、そこだけ聞いてもまったく意味の分からないエピソードもそうだったが(もちろん、読めば意味はわかります)、私という人間は、本当に「秩序のある世界」しか知らないんだなと、自分のナイーブさ(日本語のナイーブじゃなくて、英語の意味のナイーブ)と混乱の世界との大きな隔たりを思って気が遠くなった。
子供みたいな感想で申し訳ないけれど。
学校を卒業して働き始めたとき、「ああ、社会というのは学校みたいに1+1=2っていう明快な答えがないんだなぁ」とため息が出たが、この本を読んでいると、私の暮らしている場所は、やっぱりだいたい「1+1=2」が普通に通用している世界だと思った。
向こう側の世界(たとえばパレスチナとか)から見れば、私の人生は、さまざまな理不尽からは信じられないくらいに無縁でいる。
そのことを強く実感させられた。
なんと幸せなことかと。
ところで、サッチャー。
有名人のエピソードって、話す人や場面によって、人物像が全然違ってたりするものだけれど、サッチャーって、誰が語っても、誰の回想録を見ても、いつもキャラが全然ブレないところ、ちょっと笑ってしまった。 -
Posted by ブクログ
ホンモノのノワールがやって来た。古いフレンチ・ノワールの世界が、現代に帰ってきた。そういう小説の時間をもたらしてくれる作品である。
70年代のアメリカン・ニューシネマのフィルムの傷を想定しながら読む。暗闇に潜んで見上げていた傷だらけのスクリーン。暗くくすんだカラー。映画館内に漂う煙草のにおい。小便臭いコンクリート打ちっぱなしの廊下の匂い。しかしスクリーンの向こうには、野望を持つ男と女のしゅっとした切れの良さがある。銃口と硝煙。カーブの向こうを見据えるドライバーの冷徹な眼差し。
それらは大抵。美しい犯罪ストーリーだった。生と死、疑わしい愛、安全さに欠ける大金、それらがやり取りされていた。魅せられるが、脆過ぎる。ぎりぎりの展開。破滅か生存かを賭けて、犯罪、裏切り、脱出や生存の可否を、いつも秤にかけていた。
本書は、南部の田舎町のトレーラーハウスに生活する黒人の一家の物語である。ビターの効いたホームドラマと言って言えないこともない。主人公ボーレガードは自動車修理工場を営むが、競争相手の出現で破産を目の前にしている。目の前には、過去からやって来た犯罪という餌がぶら下がり、彼は家族のため、敢えて餌に喰らいつく。危険だが、それしかもう道はない。追いつめられた状況劇。
うまい話には裏がある。裏切りに満ちた犯罪者たちの個性ある顔ぶれ。ボーレガードの運転技術が凄まじい。自動車を知り尽くしているゆえ、犯罪に用いる車に関しては整備も運転も100%引き受ける。路上のアクションを主体にした小説作品はそう多くないだろう。ギャビン・ライアル以来、あまりお目にかかっていないかもしれない。
一人一人の書き分けも素晴らしい。癖のある男と女。ボーレガードの家族と彼らの長年の仕事仲間。こちら側の人間たち。愛と友情。一方では悪玉が列をなす。こわもての狂犬たち。裏切り者たち。ひとつの犯罪仕事をきかっけに、次々と組織間の衝突が巻き起こり連鎖する。一人一人、順番にこの世とおさらばをしてゆく。いとも簡単に。静と動を絡み合わせたクライム小説。銃と、暴力と、カーチェイス。
こう書いてみると単純に見えるかもしれないが、前半部は少し長めの導火線であり、静である。だが爆発物に近づいているのはわかる仕掛けだ。とりわけボーレガードと家族たちは追い込まれてゆく。かつて失踪し、この世から消滅してしまった父の物語。いなくなった父から引き継いだ愛車ダスターへのこだわりが、夫婦間の平和を切り裂く。子供たちを切り裂く。実はこの前半によって後半の物語にも厚みが出る。
家族。消えた父。育ちゆく息子たち。彼らに迫る危険な奴ら。家族を生き延びさせるために、ボーレガードが何をしなくていけないのか。
大一番の賭けに出る男たちの、知略の勝負を描いて圧倒するクライムの傑作が登場した。この作家の今後が楽しみだ。そのくらい活きのいい一冊である。