フィリップ・K・ディックのレビュー一覧

  • 高い城の男

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    ネタバレ

    初めてフィリップ・K・ディックの作品を読んだ。ストーリーははっきりしている。登場人物の関係性もわかる。緊張感をはらんだシーンも続いて飽きることなく読み進むことができる。度々現れる卦の部分も物語を進める装置としてうまく働いている。ではこの小説全体としてどういう意味なのか?と問われると、うまく答えられる自信はない。
    歴史の逆転する仮説そのものを細かく書き出すことには、例えそれが一つの重要な要素であるとしても、最も大きな意味があるということではないだろう。その小説の中で、その小説のなかの現実とは逆の世界を描いた小説、つまり本当の歴史に近いものが登場人物によって書かれて、読まれているというのはさらに大

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    2021年12月27日
  • 高い城の男

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    原題 The Man in the High Castle

    ”かかる人々は高き者を恐る畏しき者多く途にあり 巴旦杏は花咲くまた蝗もその身に重くその嗜欲は廢る”

    すべては虚しく、
    それでも生きる。

    グランド・ホテル形式で織りなす、
    枢軸国が連合国に勝利した世界の、
    意味の中に無意味な真実を見出す、
    救われないようで救われた人たち。
    …かな?

    それにしても易経とはね。
    決定された未来に一喜一憂し、希望をなんとか(都合よく)読み解こうとするのは、とても人間ぽい。

    「イナゴ身重く横たわる(The Grasshopper Lies Heavy)」という作中作が虚偽の虚偽で、じゃ真実かというとそ

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    2021年12月20日
  • 銀河の壺なおし〔新訳版〕

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    「銀河の壺なおし」…なんだかあまりおもしろそうなタイトルではないなぁと思いつつ手に取りましたが、これがどうした、意外と楽しめました。

    そもそも壺なおしってなんだよ、というところから入りますが、主人公ファーンライトは陶器修理の職人家。しかしながら、陶器がプラスチックにとってかわられた昨今、陶器を修理するひとはどこにもいない。そんな彼のもとに待望の仕事が舞い込む。シリウス星系のグリマングからの巨額オファーは、海底に沈む大聖堂ヘルズカラを引き揚げるというもので…

    相変わらずな設定ですが、展開も明後日な方向に進みます。ただ、どこか象徴的な場面が多く、頭に映像として強く焼き付くシーンもちらほらと。個

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    2021年10月01日
  • ユービック

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    現実が何か分からなくなる作品で、
    ディックらしさが出ている。

    ユービックというスプレーが出てくるのだが、
    ユービックの効果がなんなのか分からない、
    敵も味方もわからない。
    でも面白い。

    途中で出てくるCMの宣伝が、
    ユービックの謎を増やし、
    読んでいる者を混乱させる。

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    2021年06月07日
  • 変種第二号

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    戦争物が多いが、
    オチが面白い作品が多かった。

    表題作品は、
    映画「スクリーマーズ」の原作ということもあり、
    映画と合わせて読んだら、
    さらによかった。

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    2021年05月08日
  • 人間以前 ディック短篇傑作選

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    表題を含む12篇のSF短編を収録した本。
    著者の他の作品と同様かそれ以上に、独特な世界観が繰り広げられている。

    個人的には、8番目の『新世代』が皮肉たっぷりで話の落としどころも意外で面白かった。
    子どもの人格が歪むのは全て親の養育が関係しているため、18歳まではロボットに人間の子どもを育てさせようという社会の話。
    親の身勝手さへの風刺、全て親の養育に原因があるとする理論への風刺、見方によってはどちらとも取れると思われる。

    また、最終作の『シビュラの目』は、最後、
    著者の、自国への祈りにも似た愛が感じられて胸を打った。

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    2021年04月10日
  • 小さな黒い箱 ディック短篇傑作選

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    『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型作を含む11篇の、SF小説の短編集。

    個人的には6作品目の『聖なる戦い』が一番面白くて怖かった。
    SFとホラーは紙一重というのを体現しているような作品だったと思う。

    全作品を通して、「よくこんな設定を思いつくなあ」という舞台設定でありながら、現実をよく反映していたり、未来に起こってしまうかもしれないと思わせたりしてくれるところが好きだった。

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    2021年04月10日
  • 偶然世界

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    ディック27歳のSF長編第一作。権力者がくじびき機械のランダム性によって決められるという設定を皮切りに、テレパシー、最終戦争、植民惑星、管理階級社会、人造人間、など、この時期からすでに世界観ががっつり作り込まれていて、読者を引きずり込むディックらしさが感じられる。ただ、得体のしれない不安感を誘うところや、現実崩壊感覚などはまだ強くはなく、刺客ペリグの設定と手に汗握るアクション的な攻防が最大の見所だと思う。近年大ヒットしたあの3D映画を思い出した人も多いだろう。この小説が1955年発表のものであることに驚く。未知の世界へ宇宙船でたどり着いた果てに聞こえる最後の言葉は、若かりしディックの前向きな心

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    2021年03月30日
  • アジャストメント ディック短篇傑作選

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    映画「アジャストメント」「クローン」の原作短篇を収録した短篇傑作選。現実と虚構の狭間をスリリングに描くディックらしい筆致は短篇でも変わらず。いささかシュールだったり、ブラックユーモア的な、ラストがスッキリしない作品も多かったが、そこは好みの問題で、どれも設定が秀逸で引き込まれるのはさすが。映画化された「アジャストメント」と「にせもの」のサスペンス感が面白く、映像化したくなるのもわかる。個人的にはやはり後半の「父祖の信仰」「電気蟻」「凍った旅」がお気に入り。とくに「凍った旅」。主人公の、すべてをネガティブな解釈に捻じ曲げてしまう神経症的な陰キャっぷりには(どこか共感しつつ)笑ってしまった。夢を繰

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    2021年03月29日
  • 火星のタイム・スリップ

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    精神分裂病が引き起こす、時間感覚の崩壊。ディック作品おなじみ現実崩壊感の別バージョンな感じ。序盤では描写される火星開拓の行き詰まりがリアルに感じられて面白い。中盤は火星の住民たちと分裂病患者をとりまく人間ドラマが印象的。終盤でタイムスリップがキーとなって物語を飛躍させ、SFらしい驚きの感動を与えてくれる。ディックで一番好きという声が多いようで、確かに他の長編に比べて読みやすかったと思う。ギミックが難しくなく、人物の感情の流れもわかりやすいからだろうか。個人的に自閉症や神経症に縁があるので、そのあたりの著述も興味深かった。

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    2021年03月26日
  • シミュラクラ〔新訳版〕

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    タイムトラベルとパラレルワールドをはじめとして、模造人間(シミュラクラ)、小型宇宙船、火星移住、架空歴史、管理社会、ミュータント、超能力、未来戦争、などなど、SFガジェットてんこ盛りの長編。数十人の登場人物に、主人公級の人物が何人もいて、それぞれに絡み合いながらプロットが駆動していく。要素が多すぎて目が回る上に、物語がどこに向かっているのか戸惑ってしまうが、その中でもディック作品共通のテーマ性は感じられ、キャラクターに魅力もありテンポも良いので、面白く一気に読み進めることができた。終盤のたたみかけるような展開にもワクワクしたものの、まとまらずに突き放されるので読後感はややモヤモヤ。ここから想像

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    2021年03月16日
  • ティモシー・アーチャーの転生〔新訳版〕

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    〈ヴァリス〉三部作の第三弾。
    とはいえ、前二作とのストーリー上のつながりはなく、共通するのはそのテーマ性。これまでに引きずってきた神学談義や神秘体験などのオカルト妄想に決着をつけた作品である。
    小賢しいが常識的な感覚を持ったインテリ女性の一人称による語りが、「そっち系の話を信じる人」の実態を暴き出す。
    形而上学的な論議など役に立たない、地に足をつけて現実を直視せよ、即物的、具体的な行動に幸せはある、というような話になってしまうが、ある意味で過去作を否定することで前に進もうとしたディック最晩年の決意が汲み取れる。
    読み方によってはどっちにも解釈できるのでは?と思える書き方がされているのがタイトル

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    2021年02月13日
  • ザップ・ガン

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    マンガ的な雰囲気のB級SF。
    トランスで新型兵器のアイディアを手に入れる兵器ファッション・デザイナーが、究極兵器“ザップ・ガン”の開発を目指すというぶっとんだ設定。SFアイディアのてんこ盛り+ディックおなじみのドラッグや社会描写などがあるが、前半部分が読みにくく、全体的にまとまりがない印象。
    とはいえ、後半以降はテンポよくストーリーが展開し、美少女ヒロイン&メカもの的な面白さがあってかなり楽しめた。映画化よりもアニメ化してほしい、そんなノリの作品。世界観的にゲーム化もいけそう。シリアスな本編に直接絡まない、明らかにお笑い担当でしかないキャラもいて新鮮。読後感が良い!

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    2021年02月09日
  • 去年を待ちながら〔新訳版〕

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    「いっしょに暮らさなくてはいけない人物と、とてもやっていけないと思うことはある?」
    日々お互いに不満をぶつけ合うしかない、冷え切った夫婦仲。妻が気晴らしに手を出したドラッグによって、とんでもない事態が引き起こされる。
    時は2055年、人類は異星人同士の星間戦争に巻き込まれ、リーグ星人と泥沼の交戦状態にあった……。世界観を理解するまでが読みにくいのはSFにありがちなことだが、ドラッグによってある現象が起こると、そこから物語は加速していき、目が離せなくなる。
    後半は目まぐるしく展開される盛りだくさんのSFガジェット。見所はたくさんあるが、この小説の本質は夫婦のドラマだ。修復不能にまで陥った夫婦の関

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    2021年02月09日
  • 宇宙の眼

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    ディックの出世作となる初期長編。
    目に見えている現実が崩れていくような、ホラーじみた感覚から読者を引きずり込んでいく作風はこの時点ですでに強烈だ。主人公が目的を達するために戦いを挑む、全体としてはつかみやすいストーリー展開。ワクワクのピークはタイトル回収のところまで、中盤以降はイメージを奔放にぶちまけたような描写が続き、やりたい放題感に少し笑ってしまった。
    読んでいて思い出した映画は『インセプション』。ラストの不安感は様式美?

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    2021年02月08日
  • 流れよわが涙、と警官は言った

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    「いったい何が起こっているんだ?」
    主人公を襲う、夢なのか現実なのかわからないサスペンス劇、かと思いきや……?
    「これからどうなる?」というドキドキやハラハラで終盤まで引っ張り、昨今のエンタメに慣れた人にも面白く読める。そして明かされた謎……も良くできているが、この作品の本題はそこではないのだろう。
    真実が明かされた後に描かれる人間の葛藤・ドラマにこそ、その真価がある。愛と涙。心が洗われるようなラストシーン。哀しみは美しくすらあり、最後にはどこか暖かい気持ちが残る。そして迫ってくるタイトルが、あまりにも秀逸だ。

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    2021年02月08日
  • 高い城の男

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    ネタバレ

    舞台は、第二次大戦が史実と異なる結果を迎え、ドイツと日本が戦勝国となった世界。敗戦国アメリカの国民は自尊心を失い、両国との狭間で翻弄されていく。
    舞台設定的には、ifモノの歴史が好きな層に受けそうだし、それだけでワクワクしてしまうが、本質としてこの物語が訴えたかったことは、「今、生きているこの世界こそが真実であり、懸命に、前を向いて生きていくしかない。」(つまりあの時ああだったら、本当はこんなはずじゃなんて考えたところで無駄。)ということだと思う。
    そのメッセージを表現するのに、劇中劇として登場人物たちが虜になる「身重くイナゴ横たわる」という本が大きな役割を果たしている。この本は「もし連合国側

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    2021年10月01日
  • 人間以前 ディック短篇傑作選

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    現代的ファンタジーから古典的なSFまで12+1編を詰め込んだ短編集。冷戦時代のアメリカを痛烈に批判する姿勢を強く感じる。
    描写は飛び飛び&奇想天外な部分もあり若干読みづらいが、尖ったアイデアはどれも秀逸。
    私のベストは『新世代』『ナニー』『フォスター、おまえはもう死んでるぞ』

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    2021年01月20日
  • アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

    購入済み

    人間とは?

    初めは見たことの無い用語に面食らってなかなか読む気が起きなかったけれど、中盤から一気に面白くなり、夢中で読みました。
    人間とアンドロイドの境目とは?単に感情あるなし、だけになるのか?
    結局マーサー教とは何だったのだろうか。
    エンターテイメント性もありつつ考えさせられる小説で、素直に面白かったです!

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    2021年01月03日
  • シミュラクラ〔新訳版〕

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    ネタバレ

    フィリップ・K・ディック作品!
    ジャケ買いではなく、シミュラクラという響きを聞いたことあったからのタイトル買い。

    途中じゃん!?って感じで終わった。

    登場人物が多すぎて全然把握できない。
    そもそもストーリーも把握しにくい。それがディック流っぽくはあるが。
    半分くらい読み進めてようやくなんとかわかってきた、気がしてくるという感じだった。

    ある意味地味なブレードランナーって感じかもしれない。
    そもそも、シミュラクラそのものが全然出てこない。
    映像で見てもたぶん理解できないと思う。

    が、おもしろくなくはなかった。不思議。

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    2020年12月21日