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壺なおしを職業とするジョーのもとに、シリウス星系から奇妙な依頼が届いた。ディック的モチーフに溢れた幻の長篇、待望の新訳版
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Posted by ブクログ
“父親は壺なおし(ポット・ヒーラー)だった。そして彼も、壺なおしを仕事にしている。”と、印象的な書き出しではじまる原題もそのままズバリ『Galactic Pot-Healer』。 映画スターウォーズ顔負けの多種多様な宇宙人がでてくる、彼独特の虚構世界を描いたSF小説でしたが、タイトル同様にディック特...続きを読む有の笑える箇所も多くて読みやすい作品。ディック好きなら読んで損はないと思います。 あらすじ: 腕利きの陶器修復職人であるジョー・ファーンライトは、荒廃した管理社会と化した地球で7か月も仕事の依頼がない失業状態にありました。陶器はプラスチック製に取って代わられ、父から受け継いだ職人技を振うこともできず、妻には離婚され自ら命をたつことを考える毎日。救いは仲間とする、東京や神戸のコンピュータに接続して興じる言葉遊びのゲームでしたが、それすら虚しく感じ、将来に何の目的も希望も持てなくなってしまいました。 そんなある日、”壺なおし求む。謝礼保証”という仕事のオファーが届きます。メッセージの発信主は、シリウス星系のグリマングという謎の人物。依頼内容は、海底に水没した大聖堂の引き揚げに伴う遺物の修復でした。ジョーは半信半疑ながらも地球を離れ、シリウス星系に旅立ちます。そこでは、さまざまな種族や異なる技能を持つ宇宙人たちが招かれており、恋仲になったマリ・ヨヘスらと共に大聖堂の引き揚げに取り組みます……。 感想としては、笑える箇所が多々ありますが、9章がいいですね。失敗を恐れる集められた仲間たちを、グリマングが教え諭す場面や、他の恒星系の宇宙人が、ゲーテ『ファウスト』を論じている場面、江戸っ子言葉を喋る自律ロボットのウィリスの登場などがあり、これ以降で物語が本格的に動き出します。物語の終盤では、大聖堂引き揚げの成否より、ジョーが自分が自分であることの意味を知り、自らの再生への第一歩を踏み出していく様子がいいなと思いました。そのラストですが、恋仲になった女性の行動を含めて、仲間達の選択には「えっ?」となりましたが、さらに最後の一行には驚きましたね。宇宙一の壺なおしの鑑定眼から見ると当然の結末だと思いましたが、解説の旧訳サンリオ版との訳の違いに感心しました。新訳の方が正解でしょうね。 その解説では、アーシュラ・K・ル・グィンが気に入ってくれたとか、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアが、冒頭の書き出しから数ページ読んだところで、このままでは自分の原稿の締め切りに間に合わなくなると、自分宛に郵便物として出して手元から遠ざけた話しや、ロジャー・ゼラズニイがディック長篇ベスト3に数えていることなど書かれていて興味深かったです。 正誤(初版) P15の3行目およびP286の8行目 『陽はまた昇る』→『日はまた昇る』 ※ヘミングウェイの小説タイトル。”新潮も岩波も集英社も”日”ですし、何より同じ出版社のハヤカワepi文庫が”日”なので。 P106の1行目 まずまず現代的な都市の輪郭が ↓ まず現代的な都市の輪郭が
「銀河の壺なおし」…なんだかあまりおもしろそうなタイトルではないなぁと思いつつ手に取りましたが、これがどうした、意外と楽しめました。 そもそも壺なおしってなんだよ、というところから入りますが、主人公ファーンライトは陶器修理の職人家。しかしながら、陶器がプラスチックにとってかわられた昨今、陶器を修理...続きを読むするひとはどこにもいない。そんな彼のもとに待望の仕事が舞い込む。シリウス星系のグリマングからの巨額オファーは、海底に沈む大聖堂ヘルズカラを引き揚げるというもので… 相変わらずな設定ですが、展開も明後日な方向に進みます。ただ、どこか象徴的な場面が多く、頭に映像として強く焼き付くシーンもちらほらと。個人的には、プラウマンズ・プラネットの海中での出来事とその後のグリマングの死闘あたりは特に印象深い。また、ぐいぐいと引き込まれるテンポのよい展開はなにかのアトラクションに乗っているよう。最後もたぶん前向き(?)な終わり方でしたし、総じて楽しめた作品でした。
質問や命令に対して「ウィリス○○しろ」 というルールを頑なに守ろうとしながら 人間(状況)に合わせて、苛立ちながら妥協したり、 実は□□になる夢を持っていたり、脇役ながら光る。 まさにいま「OKグーグル」で反応する世界を予言。 葛藤があるあたり、当時は違ったかもしれないが 現在からすると風刺・パロデ...続きを読むィーの様でクスリとする。 で、物語自体は、色とりどりだが ぶっ飛んだところも少なく、薄味な印象。 何もすることはなく、体制に生かされているだけの どん底の人間が、何かに必要とされ、そのなかで 他人が敷いたレール:予言に抗い、 自分を見つめなおした先にある再生が 結局のところラスト一文の今回の日本語訳に 落ち着くのだろう、と私は(解説を読んで)思う。 いや、もしかするとそれすら他言語への翻訳を もういちど元の言語に訳したゲームの結果 でしかないのかもしれない。
楽しい!ある意味ナンセンス。 Wikipediaを見ようとして通信制限にかかるとか、機械翻訳の再翻訳誤謬ゲームもそうだし、OK, Googleって言わないと反応しないAIみたいなのとかなんで’60年代に思いつくのか。しかもそのチョイスが微妙すぎる。
おー、確かにセリフが違うぞ。 旧訳より読みやすく感じたのは、既にストーリーが頭に入っていたからか、自分が年取ったせいなのか、訳者の優劣かは謎。
「久々にディック作品でも読んでみよう」ということで、まだ手に取っていなかった本作をチョイス。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968年)と『ユービック』(1969年)の間に発表された、ディック黄金期の作品。 主人公のジョー・ファーンライトは、陶製の壺を修復することを生業とする職人だが、世の...続きを読む中はプラスチック製品が主流となり、依頼があるのは骨董品のみ。その骨董品もほとんど修復されてしまい、修復依頼は打ち止め状態。失業手当で食いつなぎ、言葉遊びの<ゲーム>に興じて無為な日々を過ごすことに嫌気が差すジョー。そんな彼の元に、グリマングと名乗るものから巨額のオファーが舞い込む。それは、プラウマンズ・プラネットの海底に沈んでいる大聖堂、ヘルズカラを引き揚げるというものであった―――。 「誰からも必要とされていない」という気持ちが募り、生きる意味を見出せなくなった男に舞い込む一大プロジェクト。同じプロジェクトに参加する、様々な星系の人々(人外有)と出会い、超常的なイベントに見舞われながら「自分のやるべきこと」に挑み、自身の存在意義を見出していく。自分の役割を果たしたその先にあるものとは―――。 物語を締め括る最後の一文が、なんとも哀しい・・・。
SF。 ディックはけっこう苦手で、長編を読むのは初めて。 個人的なディックに対するイメージと違って、意外とユニークでコミカルな作品。 シュールな雰囲気とコミカルな雰囲気が混在し、独特の読み心地。 訳者あとがきにもある通り、ラスト一行が色々と解釈出来て、読後感まで不思議な感じ。
タイトルから受ける印象通りの、へんてこりんな世界観。序盤こそディストピア的な管理社会を描いているが、仕事を受けて地球を飛び出し、未知の星へ降り立った後から始まる冒険はSFというよりファンタジー。これは好みが分かれそう。自分はストーリーについては今一つ楽しめなかったものの、部分部分で興味をひかれる要素...続きを読むがちらばっており、全体としては面白かったと思う。 特に面白いのは、英語の小説や映画のタイトルを外国のコンピュータに音声入力して外国語に翻訳させ、それをもう一度コンピュータ英訳したフレーズから、もとのタイトルを当てるゲームが登場すること。少し前までネットの自動翻訳で面白い訳を目にしていた我々の世代には既視感があるが、これを1960年代に考えていたディックの先見性たるや。
話としては少し古さは感じるものの、のびのびしたSFって感じがして楽しめた。 ただ、ディックの原文が問題なのか大森さんの訳なのか、今ひとつのめり込めない話だった。勿論、あくまで僕には合わなかった、という話だけど。 説の引きは凄く上手いのに、数日に分けてちびちび読めるくらい(本当に気に入った本は、...続きを読む勿体ないからと脇に置いても、気になってすぐに続きを読み始めてしまう)にしか惹かれなかった。ただ半ば過ぎた辺りからは、一息に読んだので、面白く感じたんだろうと思う。 展開的には凄く盛り上がってるはずだし、ビジュアルも結構浮かぶんだけど、なんだかこう身に迫ってこない感じ。ただ、話が本格的に動き出すまでが遅くて、ちゃんと完結するのか不安に思っていたら、後半ぐいぐいと話をまとめあげていたところは好きだった。その辺の話とか展開としては好きなんだけど、やっぱり読んでいて興奮とかはしなかったんだよなぁ。 現実との繋がりを感じさせるタイプのSFではなくて、全体的に話の規模は大きく、小さなものに着目している場合でも、そこから哲学的な方向に話が発展していく。そういう話を中心として展開し始める辺りから、ぐんぐん面白くなってはいった。ガジェットや世界設定でなく、テーマとしてアンドロイドが好きなら、気にいるかも。 のめり込めなかった原因の一つが会話文で、お互いの話を聞こうとしていないのか、かなりの箇所で、唐突だったり噛み合っていない印象を受けた。 それから、訳者も指摘しているけど、現行の技術を彷彿とさせる設定が登場するのには、非常に感銘を受けた。読んでいて、これってあれっぽいな、と思う技術が結構出て来る。また、描かれる地球の設定も、はっきりとは見えてこないものの、どことなく退廃的で、好きな人は好きかも。 感想を書いていて思ったのは、作中の設定を地の文で詳らかにするってことを、ディックはあんまりやってないのかも、ていうこと。アンドロイド、高い城を読んだのは随分前になるし、漠然と思ったので実際は的外れなのかも知れないけれど、冒頭の地球の生活とかは特に、出てきた事象については作中におけるシチュエーションでしか知ることができず、その全容をあんまり掴むことができない気がした。語り手が、その状況に置かれた一個人であると言う前提からするとそれは凄く正しい書き方なんだと思うけど、なんだか個人的にはもやもやした。
翻訳ミステリ札幌読書会に初めて参加させて頂く機会を得たのだが、最初の課題本が何とこれ。ミステリでもなければ、ディックの代表作品でもなく、どちらかと言えばゲテモノ扱いされる異色作。 初めて会う方ばかりだったが、ぼくのテーブルにはロバート・クレイスの翻訳者である高橋恭美子さんや、ヒギンズの大ファン...続きを読む氏でありながら何故かディックにも詳しい方がおひとりいて、この作品の位置づけを教えて頂けた。 どちらかと言えば、傑作を二つ三つものにした後の疲労回復のために肩の力を抜いて書いた作者のお遊び的作品なのではないか、という辺りで、多くの読者の感覚は落ち着いたのだが、まさに自由気ままに浮かび上がるイマジネーションを主人公である壺なおしのジョー・ファーンライトを軸に、展開して遊び抜いた、一言でいえばおもちゃ箱のような一冊である。 しかしディックのことだから、ともすれば深淵な意味合いが込められた奥行きのある哲学的書物であるということも考えられなくはない、という見方もあながち空想的と言い切れない。どうも怪しげなスタンスに立つ難物の作品であるようである、少なくともディックの研究家にとっては。 しかし、ぼく自身SFから十代で足を洗い、その後現実や歴史に即した人間の内部に迫る小説を好んで読んできた経緯もあって、ディック作品も初である。映画『ブレイドランナー』信者ではあるが、あれの原作者がディックということくらいしか持ち合わせない知識で、あの映画自体もぼくはハードボイルドとして観たという主観が強く、本作のような銀河の果てに出かける冒険譚というのは、極めて異色の読書経験なのである。 前段が極端な管理社会の中で生きる意味を失うジョーの虚無的な日々が描かれる。思考まで他人に読み取られ、歩行速度まで監視され警告される、度の超えた管理社会。そこは2046年のクリーブランド。作品が書かれたのが1969年だから、77年後の想像された地球である。 そこから自分の生きる意味を見つける冒険の機会を得て、壺なおしという極めて専門的な技術を持つ職人のジョーは、地球を後にして遥かな星の海洋から神殿を引き揚げるという大作業に集められた者たちと行動を共にする。異星では、仲間となる異質な生命体たちや、ロボット、雇用主たる巨大な変容体生命グリマングなどと出会ってゆく。 ロボットとの奇妙で滑稽な会話や、仲間のクールで奇妙な女性との恋愛、仲間たちとの対立や迷いなどの末に、大団円を迎える大冒険の果てに待つのは、何と……。 SFというジャンル故に産み出せる、とても奇妙な小説。これが半世紀ぶりに読むSF作品として相応しいか否かはともかく、ここまであらゆる理解を拒む、あるいはあらゆる自由理解を受容する作品を選んだ読書会主催者の発想にこそ拍手を送りたい。
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