フィリップ・K・ディックのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
パーマーエルドリッチの次はこちらを。
序盤から引き込まれて一気に読んでしまった。
ディックファンと言いながらまだ数冊しか読めていない新参者の私。
1番好きな作品は変わらずユービックなんだけど、もしSFに慣れていない友人にディック作品をどれか一つ勧めるとしたら、絶対これを選ぶ。
サイエンス感満載な用語は全然出てこないし、日常的な雰囲気の中にディックが紛れ込んでくる感じ、ぜひぜひSF処女たちにおすすめしたい。
それにしてもそう、まさに私が好きな類のお話だよ、こういうお話をもっともっと読みたいんだー!
あと映画好きなら誰もが知るあの映画の発想って、もしかしてこの本から着想を得たのか…?
なんだかんだでまだ観れていないので、これを機にそろそろ観よう。
-
Posted by ブクログ
フィリップ・ディックはいくつか長編を読んだことありますが短編は初めてです。長編は面白いんだけどよくわからないことも多いのですが、短編では言いたいことが直接的に書かれて分かりやすいです。
なにかの本のあとがきでフィリップ・ディックが小説を書く理由として「この世界では生きられない自分の愛する人たちが生きられる世界を作る。本来なら自分を現実に合わせるが自分はそれができない。それがSFを書くっていうこと」といっていたのと、自身の生活やら小説テーマが社会に抵抗するところもあるので、反抗的な印象があったのですが、この短編を読むと平和や人間の自由をのぞみ、やりすぎた管理を批判する当たり前の感覚でした。。
『トータル・リコール』
気弱で平凡なクウェールは、毎晩火星へ行く夢を見ていた。自分は火星特別秘密捜査官なんだ!…という妄想が膨れすぎているようだ。
この物語では、人の脳に記憶を植え付けることができる。そこでクウェールは記憶植え付けを請け負うリコール社に行って、火星旅行の記憶を入れてもらうことにした。平凡でつまらない人生のほんのちょっとした刺激だ。
しかしリコール社の植え付けは失敗した。それどころかクウェールの深層心理から、隠されていた記憶を呼び戻してしまった。
呼び戻された記憶によると、クウェールは本当に火星特別秘密捜査官で暗殺業なども手掛けていたのだ!
クウェールがが記憶を戻したことは捜査官たちに知られて、殺し屋を差し向けてくる。
追手から逃げる方法は体が覚えていた。クウェールは「争いはやめよう。もう一度俺に記憶を植え付けて、火星のことは忘れさせてくれないか」と提案する。
そしてまたリコール社に行くと…。
==シュワルツェネッガーの映画は昔見たことあり、この後火星に行ってアクションします。原作はある意味中二病が全部叶った!って感じが楽しかったです 笑
『出口はどこかへの入口』
平凡なサラリーマン生活を送るバイブルマンは、宇宙最高の大学への入学をスカウトされた。(大学の名前は「大学」。唯一無二のThe大学って感じか)
ここに入れば就職は引く手あまた。自分の送ってきた学ぶ機会もなくつまらない人生を変えられるのか。
入学者たちは「大学」の初日に極秘情報の守秘義務に付いて聞かされる。それはあるエネルギー開発システムだった。
バイブルマンは、たまたま自分が受けた退屈な講義の中に、そのエネルギー開発に関わる設計図を見つけてしまう。
バイブルマンは手に入れた設計図を追う扱うかを逡巡する。「大学」にいるためには機密事項を守らなければならない。しかしこのエネルギー設計図は公表すれば多くの人たちが助かり、このまま秘密にしていたら一部の人たちの富を独占を許すことになる。
社会のために公表するか?しかしその場合自分は逮捕されるだろう。
お金のためにどこかの企業に売る?それもすぐに自分だとバレるだろう。
素直に大学に差し出すか?
決断の時が迫る。
==フィリップ・ディックだったらやらないだろうなーという決断だった。
『地球防衛軍』
8年前のアメリカとロシアの戦争で地表は放射能まみれになり、人々は地下に潜った。地上の戦争や放射線除去は、ロボットたちが地下からの人間の指示に従って行っている。
人間は地下で戦争を指示し、ロボットたちが地上で代理戦争をしているということ。いびつだ(-_-;)
しかし最近ロボットの様子がおかしい。もしかして地上ではもう放射能の影響は無くなっているのではないか?
==地上の様子の美しいこと。読んでいても嬉しくなる。しかしそんな地上の様子を見て「では今こそ戦争を進めて敵を壊滅させるチャンス!!」と決意する人間にはがっくり。
ロボットが自分で判断し、人間の予測不能なことをしたら?というのはSFのお約束ごとですが、大体は人間をロボットが支配するような方向になります。しかしこちらのロボットはなんと素晴らしい!人間からの命令の範囲で、人間を傷つけず、自分たちロボットが何をするのが一番人間の未来に良いのかを計算し、それを実行する。
素晴らしい!!
だが人間は…。
しかしラストでは、ちゃんと正しい方向に向かおうとする人間の姿も書かれます。
なんといういのかですね、人間はロボットに恥ずかしくない存在でいられるのかな。
『訪問者』
人類の大戦争で地球は放射能に汚染された。その当時の生物は姿を消した。人間は地下に潜り、酸素や食料を生み出す機械に頼って生きている。
だが地上に残った生物たちは、放射能に対応できるように、人間と動物の特徴を持つ姿へと変えて生き延びた。
複眼と触覚を持つ「アリンコ」、カンガルーのような「イダテン」、目がなくて穴を掘る「ミミズ」、ゴツゴツの高身長の「トカゲ」、水性生物「イルカ」
地下でほそぼそと生き延びる人間は、もうこの地球では過去の遺物なのか。このまま消え去るしかないのか。
==もう地球に人間の居場所はない。いつか地表の生物たちは訪問者となった人類を迎えてくれるのか。人間が生き延びる道は見つかったが、故郷は失った。物悲しさの残るお話。
『世界をわが手に』
科学は発達し、宇宙探索は進み、人類の寿命は果てしなく長くなった。
だが宇宙には、人類が友好関係を結べるような生命体を見つけられなかった。長い退屈の生活を余儀なくされた人類は、地球そっくりの惑星で、生命体を進化させる生きた球体「世界球(ワールドクラフト・バブル)」に夢中になっていた。何十年も掛けて、生命の発達を細かく設定し、最高の文明を作り上げる。
だが人類はそれにも飽きかけていた。何十年も手塩にかけ最高の「世界球(ワールドクラフト・バブル)」を叩き壊して狂乱のパーティを繰り広げる。世界球の神である作り手の気まぐれから、絶滅する球のなかの生命たち。
だがそれは、この地球もそうなのではないだろうか…。
『ミスター・スペースシップ』
人類は、他の星の生命体との戦争の連続だった。人類生き残りとしてエンジニアのクレイマーが立てた計画が採用される。それは宇宙船に優れた人間の脳を移植するということだった。その人間の自我はなくなる。だがプログラムでは測れない人間の経験や反射、直感により的の宇宙船の攻撃を交わし、相手を攻撃することができるだろう。
移植する脳の候補として元教授で余命僅かな老人トマスが挙がる。トマス元教授は説明を聞き、設計図をみて、ついには了解した。
トマスの脳は宇宙線に移植される。だが宇宙線は地球からの制御を振り切る。どうやらトマス老教授が移植前にプログラムを書き換えていたのだ。教授の自我を持った最高性能の宇宙船(オールドマン)は何を目論んでいるのか…。
==戦争なんかやめようよ。最初の世代は苦労しかしなくても、何代も掛ければそれを共通認識とする集団ができるよきっと、という、テーマは平和と希望を持ったお話。
『非O(なるおー)』
人間の感情を全く持たない「非O(ナルオー)」と呼ばれる特徴を持つ人間がいる。彼らは、この宇宙のすべてのモノ(オブジェクト)には意味がなく、すべてを統一してエネルギー化する運動「非O理論」を実施することにした。(このあたりは、科学的な説明がされていたがよく分からず(^_^;)
でもさすがに感情のある人間は黙っちゃいないよ。完全に理論的なナルオー計画は、知性よりも感情を爆発させる獣ような大衆によって破壊されるのでした、ちゃんちゃん。
『フード・メーカー』
やましいことがないなら頭の中を覗かれることに抵抗するなんておかしいだろう。
ある地域の事故の後に突如生まれ出した精神感応者(テレパス)たちは、政府に雇われ、不満分子たちをあぶり出していた。だがそんなテレパスたちに抵抗する人達もいる。中心にいるのは、精神を読まれなくする頭環(フード)を作る「フードメーカー」と呼ばれる伝説のような人物。
だが厳しい捜査により、フードメーカーもテレパスに捕まってしまった。抵抗一味が根こそぎになりそうな時に、フードメーカーは自分が知った重大な秘密を暴露する。
それは政府に多大な権力を与えられた精神感応者たちを絶望させるには十分な情報だったのだ。
『吊されたよそ者』
地下室の作業を終えたロイスは、街路樹に吊るされた死体を見つけて仰天する。
しかし近所の人達は誰もその死体に反応しない。それどころかロイスは騒動を起こしたとして警察に連行される。違和感を覚えたロイスは危うくパトカーから飛び降りる。
そして市庁舎で目撃してしまったのだ。町の人々が、人間の姿から不気味な昆虫の姿に変わっていく様子を。どうやら自分が地下室にいた間に、この町はエイリアンに乗っ取られてしまったらしい…。
==この冒頭、SF映画の冒頭のようでないか!しかしこれは短編だよ、どう始末するの?…と思ったら、まあ短編ならこうなるよね…な結果に。
これを原作に長編映画作ったらこの短編の終盤から全く違った展開に持っていけそうだなあ。
『マイノリティ・リポート』
未来に起きる犯罪を3人の予知能力者(プレコグ)により予知させて、まだ犯していない罪で犯人予定者を収容所にいれる。このシステムが確立され30年、殺人はなくなった。
だがある日、システム考案者で司法省長官のアンダートンは目を疑った。殺人者として自分の名前が予告されたのだ。被害者は会ったこともない人物だ。
誰かが自分をはめようとしているのか?それとも自分が構築した犯罪予防システムは間違いだったのか?
==未来が分かったことにより、人々の行動が変わったら、その未来はなかったことになるのか?
複数の未来統治者が見た未来が違ったら、どれを採用する?
SFジレンマというか哲学、そして考案者の初老の男が割と頑張るアクション的なものもありました。
トム・クルーズの映画は見ました。映画では殺人容疑を掛けられるのは若者なのでアクションしたり組織悪を暴露する物語でした。
こちらの原作では、殺人容疑をかけられるのがシステム考案者で責任者の初老の男なので、結末は全く逆でしたね。その初老の男が自分の作ったシステムに固執しながらも、体を張ってアクションとか銃撃とかする原作も十分面白かったです。
…しかし未来余地の矛盾に関する科学的・哲学的考察はちょいと理解できず(^_^;)(映画ではこのあたりが「組織悪」のように単純化されていた) -
Posted by ブクログ
中盤以降、継ぎ目なくスムーズに描写される、現実と虚構の絡み合う混沌とした世界に目眩がしそうでした。
地球は温暖化が進み、ニューヨークでは摂氏82℃を記録するほどの過酷な環境。地球滅亡に備えるために、人々は国連によって火星などの外惑星に強制移住させられはじめていました。しかし、移住した人々を待っているのは、不毛な土地を開墾する退屈な日々。唯一の楽しみは、ドラック「キャンD」を使ってパーキー・パット人形を介在して体現する幻想世界に溺れることでした。
そんなある日、プロキシマ星系から星間実業家のパーマー・エルドリッチが、新種のドラック「チューZ」を携えて太陽系に帰還します。パーキー・パット人形と「キャンD」を独占販売しているP.P.レイアウト社の社長レオ・ビュレロは、市場を駆逐されかねない事態に恐れを抱き、社の予知能力者(プレコグ)であるバーニイ・メイヤスンとその助手ロニにパーマー・エルドリッチの居場所を探らせて、自ら敵地に乗り込みます……。
この後、「チューZ」を服用して見せられる混沌とした幻覚の世界が、なんだか悪夢そのものという感じで描かれるのですが、比べると「キャンD」の方は天国かな。終盤は、徐々にパーマー・エルドリッチが世界に偏在して広まっていくところが不気味でした。
ただ、最後まで読んで最初のレオ・ビュレロの言葉に戻ると、それでも希望が持てる物語として読むことができて良かったです。これは、解説でディックが「最初のパラグラフこそが小説で、あとは付け足しの、全てのいきさつのフラッシュバックに過ぎない」というようなことを書いてあったので、戻って読みなおして感じたことなんですけどね。
万人向けではないですが、何作かディック作品を読んだ人にはおすすめかな。 -
Posted by ブクログ
フィリップ・K・ディックで一番人気とも言われる本作。まだ全作品を読んでませんが、自分も読んだディック作品の中ではNo.1だと思いました。
あらすじ
1992年、企業が超能力者を雇う一方、その勢力に対抗する不活性者(超能力を無効化する者)を派遣する会社が存在する時代。主人公は、反エスパー派遣会社「ランシター合作会社」の主任測定技師のジョー(ジョーゼフ)・チップ。彼は、社長のグレン・ランシターから、ある企業の月面支社が大規模なエスパー潜入の疑いがあるとの依頼を聞き、社長と選りすぐりの不活性者11人と共に月面に向かいます…とこれ以上書くとネタバレになってしまいますね。
『偶然世界』にも出てきた、人の心を読む”覗き屋(ティープ)”などの超能力者たち。それらに対するアンチテレパスなどの不活性者や、時を逆行して過去を変えれる能力を持った謎の女性。死後まもない冷凍した人体と会話ができる”半生者”。ドアを開けて外出するだけで金がいる世界観などなど…道具立てもさることながら、ストーリーも起伏のあるミステリ仕立てで、とてもワクワクドキドキして面白かったです。
ちなみに、ディックの存命中は、あまり売れていなくて、お金に苦労していたせいか、主人公の名前はチップ。電気羊が『ブレードランナー』として映画が完成したのは、著者の死後ですからね。お金のかかるドアと、時間遡行したときのドアの話しのありように苦笑い。ほんとにお金に困っていたんだなと同情もしました。
ところで、ディックは、人によって合う合わないが激しい作家だと思いますが、シュレーディンガーの猫や量子論、あるいはスピリチュアル系なんかに興味がある人には会うと思います。例えば、映画の『マトリックス』を見て、あーそういう世界、アリかもしれないよね〜と思える人とかね。そういう人には、特におすすめです。
正誤 24刷
P233の16-17行目
“オーディオラ”ラジオに視線を移した。
↓
“オーディオ”ラジオに視線を移した。 -
Posted by ブクログ
クローズドサークル・ミステリというと、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を思い出しますが、それをディックがSFでやっているのが面白かったです。
あらすじ:
目的を告げられずに、未開の辺境惑星デルマク・Oに集められた14名の男女(男8女5+遅れて男1が参加)。その使命を伝えるはずのテープを再生すると、テープは勝手に消去されてしまいます。そして、誰もが着陸後は二度と飛び立てないノーザーという乗り物できていたことが判明。通信手段も持ち合わせていないことがわかるにいたり、機械とも生物とも分からない生物がいるこの奇妙な惑星に、完全に孤立してしまったことに気付きます。
そんな状況の中、集められたメンバーが一人また一人と謎の死を遂げていきます……。
とにかく一人目は「えっ?」て感じの突然の死に方でビックリ!「神はいる」という前提の世界観で、犯人は全てを破壊する形相破壊神か、本の裏表紙に14人と書かれていたから、まだ来ていない14人目の人物か、それとも謎の生命体の仕業なのか……と最初はいろいろ考えましたが、読み進めてみると、最後はSFらしいまとめ方。人類が宇宙に出て行くと、こういうこともあり得るだろうなと考えさせられました。また、目次にあたる、全く本文と無関係な長ったらしい章立てや、「神はいる」という前提の小説で、スピノザやヴォルテールの名前がでてくるなど、遊び心もあって面白かったです。
それにしても、3Dホログラムや3Dプリンタ、ソードアート・オンラインのナーヴギアのようなVRマシンや生成AIなど、よく1970年に考えついていたなと感心しました。個人的には,適当に開いたページが、その時の指針を啓示する、作中の「スペクトフスキーの書」がアナログちっくで好きですね。
正誤(初版)
P26の5-6行目
配送係はは疑わしそうににらんだ。
↓
配送係は疑わしそうににらんだ。 -
Posted by ブクログ
著者自身の言葉として、「非現実に対するわたしの不安はこの作品から始まっている。」と解説の最後に引用されています。つまり、後の作品群のいわゆる”ディック感覚”と呼ばれる最初の作品ということができるでしょう。
とはいえ、今まで読んだディック作品の中では、わかりやすくてとても面白かったです。仮想現実や多元世界に興味がある人にはツボでしょうね。ラストも、考え方によってはループ物を想起させますが、いい終わり方でした。
内容に少し触れると、人それぞれが思い描く世界観がリアルに体現できたら…ということですが、それが自分の世界観ではなく、誰かのものだとしたら…という感じ。例えるなら、読書嫌いな人の思考にとらえられ、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』のような世界に放り込まれたら、ここの人たちは発狂ものですよね?しかもそこから別の世界に行けば、そこはそこで別の他人にとって心地よい世界だなんて悪夢ですね。それにしても、よくこんなストーリーを思いつくものだと感心したのでした。
あらすじ:
ジャックは、妻と楽しみにしていた陽子ビーム加速器の見学会に行く予定でした。しかし、直前に上司から呼び出され、妻が共産主義者であると嫌疑をかけられ、会社をクビになります。情報の出所は、同僚で会社の保安係のマクフィーフ。彼は罪滅ぼしに、二人を見学会に車で送ってゆき、自身も見学することに。しかし、そこに居合わせた他の見学者とあわせた8人が、陽子ビームの放射事故に巻き込まれてしまいます。そして、ジャックが病院で目覚めたとき、そこは彼の知っている世界とは何かが違っているのでした……。
注意:猫好きな人へ。一部残酷なシーンあり。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ非常に読みやすい!
ディック長編の入門書としてもおすすめかもしれない作品。
実は「逆まわりの世界」を読み始めたんだけど、
内容は絶対好きなやつなのに、2〜3日経っても全然読み進められず、、
それでそちらを諦めて、次に本棚から手に取ったのがこちら。
とっても読みやすくてあっという間に読んでしまった。
面白いのが、読み手のドキドキの対象(語彙力ほしい…)がある時点でガラリと変わること。
最初、パラレルワールド的な展開に直面して「やっほー私の大好物!!」となったと思いきや、
なんとその真相は非常にアッサリと解決されてしまう。笑
でもそこで何故か全然落胆(期待外れ感)はなくて、
その後は凄いスピードで物語の方向が変化していく。
私にとってはそのからくり(?)自体がもう想定外すぎてかなり衝撃的。
しかもこんな凄いSF仕掛けを思いついたのに、それをさらりと解放してそれで終わりっていうところが、ディックの天才要素を体現している気がして感無量。
(だってもし私がこんな仕掛け思いついたら、これをテーマに掘り下げて掘り下げて、長編一冊描きたくなるもの!!普通はそうだよね?)
ブレードランナーから入った私は、スイックス→six→セブンって並びを見てネクサスシックスやん!って興奮したのも思い出。
あとがきを読んで初めて、「あ〜たしかにタヴァナーは一度も涙流してなかったかもなあ」とは思ったけど、“愛”についての深い描写についてはあまりピンとこなかったかなあ。
もし結婚したり子供ができたりして、“最愛の人”という存在ができた時には、また違う感動が得られるのかもしれないな。 -
Posted by ブクログ
「我々が見ているこの世界は、本当に現実なんだろうか?」というテーマを、映画のマトリックスが仮想現実を描いたような表現方法で描いているかと思ったら、1959年に発刊された本書で描いた方法は、正直ぶっ飛んでいて驚きました。また、ジャンルはSFですが、まるで良質なミステリー小説を読んでいるようで、とても楽しむことができました。以下あらすじ。
主人公のレイグル・ガムは、新聞の懸賞クイズ〈火星人はどこへ?〉で2年間勝ち続けているチャンピオン。彼は、他の人が外に働きに出かけているときに、一日中懸賞の研究と回答に費やす日々を送っていました。そのような暮らしを続けているうちに、ときどき自分が見ている世界に違和感を感じたり、自分が自分ではない感覚を覚えるようになります。
ある日、妹夫婦の息子のサミーが、廃墟になっている空き地から古い電話帳と雑誌、紙切れを拾ってきます(このP90のやりとりが面白い)。掲載されている電話番号はどこも繋がらず、雑誌のグラビアは有名女優らしいが名前がわからない。なんとなく既視感があれども、どうしても思い出せない。何か陰謀めいたものを感じた彼は、町を出る決意をしますが、ことごとく失敗します。
そんな時、妹の夫ヴィックと協力して町から出ることに成功しますが、そこで彼らが見た世界とは…というお話し。
覚え書き
車のタッカー(映画『タッカー』で有名)。
小説ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』、ハリエット・ビーチャー・ストウ『アンクル・トムの小屋』、ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』。女優マリリン・モンロー。 -
Posted by ブクログ
ジョン・タウランドの『流れよ、わが涙』(涙のパヴァーヌ)をタイトルに持つ本作。作中にも触れられていて、ディックはクラシック音楽が好きなんですね。
ある朝、男が目を覚ましたら誰も自分を覚えていない…国家データバンクからも記録が消失した”存在しない男”になっていた。男の名は、ジェイスン・タヴァナー。一般人ならいざ知らず、彼は歌手であり司会も務める、三千万人の視聴者に愛されるマルチタレント。誰もが知っているはずなのに、かつての愛人まで知らないと言う。そして、管理社会であるこの世界で必須のIDカード(身分証明書)も無い…あるのは大量の現金だけだった。
彼は、何が起きているのか確かめるためにも、偽造でもいいからIDカードの入手に迫られ、偽造ID製造を生業にしている女性に接触します。しかし、その女性の精神異常に翻弄されて、その後は警察に目をつけられることに。警察でも彼の記録は確認できないでいましたが、フェリックス・バックマン警察本部長だけは”ジェイスン・タヴァナーは実在している”と考え動き出します。
という話しなのですが、後半は視点がタヴァナーからバックマンに移ったり、パラレルワールドかと思ったらそうではなかったり、と全体的に説明不足ながらも意外性のあるストーリーで楽しめました。それは、ひとえに解説が秀逸なこともあるのだけれど。例えば、タヴァナーとルースとの愛についての会話のやり取り(この場面、結構好きです)で、なぜタヴァナーがあれほどドライな応対だったのかとか、エンディング間際のバックマンの大袈裟過ぎなのではと思われた行動などが理解できて良かったです。
※読んだのは、黒背景の表紙がポジトロンの文庫です。
正誤 15刷
P263の8行目:
なっったように思えた
↓
なったように思えた -
Posted by ブクログ
電気羊だけがディックじゃない!と思わせる一作。
1964年発刊。その30年後の1994年の火星が舞台。そこには人類が植民していますが、まだ社会基盤が脆弱なために水不足に悩まされていたり、闇取引が横行している世界。他に、人類と共通の祖先である原住民のブリークマンがいたり、ある種の精神疾患を持つ人間は未来を見る事ができるという設定がされています。
これを書いている現在、1994年からちょうど30年経っていますが、いまだに火星に人類が足跡を残していないのが面白いですね。
あらすじは、修理屋を営むミスター・イーのもと、雇われているジャック・ボーレンは、依頼のあるままにヘリコプターで飛び馳せる毎日。ある日、依頼元の酪農場に修理に向かう途中、国連の保護対象である原住民ブリークマンの遭難を知らされます。現場に急行すると、同じく知らせを聞いた火星で絶対的な権力を持つ水利組合長アーニー・コットと出会い、口論を経つつも技術力を買われたジャックはイーとの雇用契約を買い取られて、アーニーの下で働くことに。実はアーニーには、ある秘密の計画があり、ジャックは思わぬ事件に巻き込まれて行きます…
タイトルにタイム・スリップと付いていますが、一般的に想像するものとは異なり、精神疾患者との時間認識の差異を利用して表現しています。そのため、途中でループしているような感覚や現実が崩壊していくような不思議な感覚を覚えます。いろいろな登場人物たちが出てきますが、それらがラストに向かって収斂していく後半は読み応えがあり、ラストのオチも好きですね。
ただ、こういう世界はリアルでは体験したくないです。健常者との時間感覚の差から、他人の喋っている言葉が理解できず「ガブル、ガブル、ガブル」としか聞こえないなんてね…
ところで、作中にブルーノ・ワルター指揮『モーツァルト:交響曲第40番ト短調』が出てきて、久しぶりに第25番とのカップリングCDを聴いています。ディックも好きだったんだなと思いつつ、彼が聴いていたのはレコードだったと思うと羨ましい限りです。
正誤 14刷
P62の8行目:
そうことが
↓
そういうことが -
Posted by ブクログ
2024年になっても新鮮な読み心地と生々しい迫力を備えている。時代を超えて読み継がれるとともに、実現可能な時代になりつつあることの恐怖も沸き起こる短編集。以下は個々の作品の備忘録
・トータルリコール
経験の記憶を販売する会社で記憶の植え付け施術失敗と思いきや、政府の要人というか機密を持っている重要参考人的な立場だった人の話。映画も見てみたい
・地球防衛軍
人類が始めた戦争を、人類が作ったAIで代理戦争をさせるも人間より遥か上の知能を持ったAIによって管理下に置かれていたことに気が付く愚かな人間の話。
・訪問者
核戦争後、人間が住めなくなった地球で生き延びるために細々と息をしている様を描いた作品。地球も生きていて、人間が滅びるのも地球の歴史の一部になり得る。人間が最後の地球の支配者だなんて考えは傲慢…。
・世界をわが手に
ラスト数行で察してしまう世界の真実と創造者。破壊衝動に限らず「本能的欲求・衝動」と括ってしまうが、それは理解を簡素化するための言葉だった。溜まったエネルギーの発出。何かを使役したい、力を持ちたい、強さを自覚したい。神になりたい。残酷な世界の成り立ちは残酷な人間のエネルギー衝動によるものだったかもしれない。
・フードメーカー
頭の中を他人から読まれてしまう恐怖。政府に対して不都合な思想ややましいことがあれば即刻逮捕。まさにディストピア!
-
Posted by ブクログ
ネタバレ無茶苦茶面白い。この作品も多大な影響を与えたと思われるが、物語の内容通り他が退行していったのに対し、これはまさにユービックを吹き付けたかのように今読んでも普遍的な輝きを放っている。
世界観やテーマ、基本設定は電気羊と通ずる部分があるものの、ベクトルはかなり違う。
構成も電気羊が変則的な印象があったのに対し、こちらは割とストレートなテンポ感で伏線も直線的に回収して行く。とにかくラストに至るまでの全体の流れの構築力は完璧で――たとえ曖昧な部分や未解決の謎を多く残していたとしても――牽引力が弱まることはない。
序盤こそ何がなんだか判らず説明不足だと感じたのだが、背景とキャラが頭に入るまで読み込むと(ここが非常に重要)とたんに映像的に読めてくる。
場面がある→考える→行動する→セリフを言う、この一連の基本的な流れがスムーズなので、勝手に映像的になるのだ。その映像は読んだ人各々違うだろうが、そこが他のコンテンツが絶対に到達できない文章の長所で、それを存分に生かした作りだ。
翻訳でいうのもなんだが、意外とこれができない作品は多く、そのような細かい部分が差に表れてくるのだろう。
導入のエスパーvs不活性者の対決というエンタメ的な構図だけでがぜん興味を魅かれたのだが、この鉄板設定をほとんど捨てたことが凄いし、面白さのピークで更に捻りを入れてくる展開力はやはり稀代の作家だと思わずにいられない。
設定は今読むとテンプレ的な要素で構成されていて、個人的に不活性者が一堂に介したシーンが最初のハイライトだったが、作者はそのようなテンプレを一瞬見せて絶妙なポイントに外す。このズレが異様な面白さを発生させている。音楽でいうグルーヴみたいなものだ。ラストで壮大な場所へ行くのかと思いきや、そこかとか、このタイミングであの人物が来るのかなど――地味な日常感を維持したまま超越的な世界へ連れて行くセンスも良い。階段を登攀するだけでこれほど盛り上げられるのはJGバラードか著者ぐらいしかいないと思われる。
途中から不安定要素が強まっていくが、話を崩すことなく混乱状態(主に精神的な)を分かり易くすっきり伝えている。だから唐突感がなく、人物と同調しながら自然に深刻さが伝搬してくる。ポイントはそのような絶望の最中でもユーモアがあるところで、乗り物がどんどん古くなっていくところなど完全に笑わせに来ている。著者の発言や写真を見るとシリアスな印象を受けるが、おそらく自分が想像したような人物ではないだろう。
電気羊は確信めいたものがあったのだが、内部的なものは、それこそ形而上学的なものは全く分からず隠されているのかすらわからない。しかしストレートなエンタメの裡に確実に何かがあるという予感はある。しかも物語の本筋は困惑せずごく自然に明解に読める。ここが最も素晴らしいと思う部分だ。物語自体はグチャグチャにならずあくまでストレートだ。
あとがきを読んでも、著者は普段から複雑な思考を張り巡らしていると思われる。
簡単な結論を冗長で複雑にする作品は数多い。しかし込み入った感覚的な話をシンプルなエンタメに変換できる人は希少だ。
某作家がアートとエンタメは両立出来ないと書いていたが、この作品は境界線が見えないほど融合していると思う。
例えるなら近寄ると物凄い書き込んでいる精密な絵画などではなく、見た目はシンプルで単純だが内部はどうなっているのか、どうやって作ったのか分からないピラミッドのようなイメージだ。
個人的解釈になるがテーマ的には著者の一般的に考えて悲観的な世界観が出ていると思う。内容も二律背反的であり、何が正しいのか断定できない。エスパーと反エスパー、エスパーは個人を侵害するCIAのような組織にも見えるが、良識機関も名前通りにも皮肉にも見える。不必要な社会制度、無駄な義務への怒りも垣間見える。著者はこの世界は間違いであると思っているのか。
PKディックは我々は死んでいると言っているがどういう意味だろうか?
死んだように生きるとか死んだ方がマシという次元ではないらしい。我々は死んでいるのだ。
実は自分も同じようなことを以前から考えていた(実際は全然外れてるかもしれないが)。人々はそれを誤魔化して生きていると。だから日々情報を更新するために、倦怠を消し去るために消費する。だからユービックは新商品なのだろう。精神の安定剤としての。
一方でユービックは神の偏在だという。そう、神や仏もどこにでもいる。特別な事情がないと気付かないだけだ。そのため肝心のユービックでさえも不確かな消費物になっている。
それでは作中、唯一不変で正しいものはなんだろうか?
それが冒頭の森なのだろう。一番最初に重要な回答が書いてある。意図は分からない文章の意味がラストまでの物語全体から鮮明ではなくぼんやりとだが浮き出て現れる。この構築力こそが凄い。
比較的調子がよかった年代のアメリカでこの鋭い視点は異常だ。余計なお世話だが、本作のテーマ性は日本と親和性が高いと思うが、このような作家がなぜ本邦から登場しないのだろう?不思議だ。
読み返したが分からなかった疑問点をいくつか挙げると
・ ルナ爆殺の首謀者
・ 失踪事件の真相
・ パットの正体
・ ホリスやミックは関与していたのか
・ メリポーニはどこへ行ったのか
・ 予知夢の意味
以上などは謎のまま放置したとしか読めなかった。しかし、なんとなく全てを詳細に描いても駄目な気がする。不完全なのに完全。そういう不思議な魅力が本作品にはある。