フィリップ・K・ディックのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
SFとかミステリーとか全ジャンルを含めて考えても、P.K.ディックは私のなかで特異で特別な作家。
彼の場合は、小説という創作物の「出来が良くない」方が、時として「読者としての満足感が得られる」事が多いという、グラフでイメージすれば反比例の曲線を持つ、珍しい作家。
起承転結がうまくいっている作品とか、終盤の締めが鮮やかな作品は、実は、この作家に期待する「禍々しさ」「絶無のカオス感」に乏しかったりする。失敗作でも(むしろ失敗作こそ)価値を生んでしまう、失敗作の至芸とでも云うべきか。
本作は、うまくいっちゃってるサイドの傑作。普段の生活空間が異世界に傾いていく過程が鮮やかで、P.K.=粗雑で上 -
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表題作と『地図にない町』を読んだ。
・表題作:12歳未満の子供は人間とみなされず両親の希望があれば中絶トラックによって回収、処分されてしまう。かつての中絶の概念が拡張され、人間とみなされるかどうかは、産まれてくる前かどうかではなく、代数(高等数学)を扱える年齢以降の世界となっていた。
表題作は後ろの解説を読むと中絶批判の作品として取られることが多いらしいが、全然そんな風には受け取らなかった。人間として人権を与えられる根拠、基準は何かといった普遍的な問いが題材だったと思う。私の考えは本書で扱われた内容とは違うがそれはまた別の機会に。
・地図にない町:ある日駅員に定期を買いに来た男が降車駅として指 -
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ネタバレ「ユービック」とは「ubiquity(いたるところに存在すること、神の遍在)」を基にした造語(同じ語源の言葉としては、IT用語の「ユビキタス」などがあるよう)。作中では、各章の冒頭に「ユービック」の広告が掲載されており、それが車であり、ビールであり、コーヒーであり、鎮痛剤であり、銀行であり、女性用下着でさえあるという不気味なほど万能の商品として、まずは読者へ紹介されている。
物語は、超能力者を狩る反超能力者(「不活性者」)集団が、陰謀に巻き込まれ、現実か幻想か判断のつき難い世界を彷徨うというもの。細部が書き込まれているのに、全体としては白昼夢のように捉えどころのない、ディック独特の世界が描か -
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フィリップ K ディック 「 流れよわが涙と警官は言った 」
近未来SFの面白さもあるが、キーワードは 涙の意味であり、愛のサイクルの物語(愛する→失う→悲しむ→悲しみが去る→また愛する)だと思う。特に ジェイスンとルースレイの愛についての会話は素晴らしい
近未来SFとしての面白さ
*遺伝子操作→優生学→スイックス
*KR3服用者の知覚対象全てが 現実世界から非現実世界へ移行
愛のサイクルの物語
*愛のサイクル=愛する→失う→悲しむ→悲しみが去る→また愛する
*ジェイスンが愛するもの(失ったもの)=自分、人々の記憶
*バックマンが愛するもの(失ったもの)=詩的な美しい世界、ルール→失った -
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質問や命令に対して「ウィリス○○しろ」
というルールを頑なに守ろうとしながら
人間(状況)に合わせて、苛立ちながら妥協したり、
実は□□になる夢を持っていたり、脇役ながら光る。
まさにいま「OKグーグル」で反応する世界を予言。
葛藤があるあたり、当時は違ったかもしれないが
現在からすると風刺・パロディーの様でクスリとする。
で、物語自体は、色とりどりだが
ぶっ飛んだところも少なく、薄味な印象。
何もすることはなく、体制に生かされているだけの
どん底の人間が、何かに必要とされ、そのなかで
他人が敷いたレール:予言に抗い、
自分を見つめなおした先にある再生が
結局のところラスト一文の今回の日本語 -
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Posted by ブクログ
これまで読んだフィリップ・K・ディック作品とは少し毛色が違うものが多かったような印象を受けます。
「妖精の王」はファンタジー要素が強く、珍しくしっかりとハッピーエンド!
「欠陥ビーバー」はビーバーが主人公の作品だし、「父さんもどき」は子供たちが主人公(私の頭の中ではスタンドバイミー的な雰囲気でした。いや、内容は全く違いますが)です。
ほかはいつものPKD作品ぽい、不思議な終わり方やディストピア的作品です。
個人的には「宇宙の死者」が面白かった。
「フォスター、お前はもう死んでいるぞ」は命を金で買う的な時代。主人公はいささか過敏というか過激な気もするが、周りの状況と自分の置かれた環境を考えるとあ -
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なんか話が複雑で追いかけるのがしんどかった。フレッドとアークターが混じっていくとことか、カウンセリングの場面とか、何がおきてるかさっぱりわかんなかった。
後半のどんでん返しはなかなかショッキングでよかった。中盤がだれていて読み続けるのがしんどかったけど、終盤のあたりは展開が早くてテンポがよかった。
ドナの悲しみが深くうかがえるし、上司の気遣いもまた同様に悲しい。
そして、ラストシーンは本当に鮮やかだったなー。青い花、混濁した意識の中でふと思い出したともだち、誰なのか具体的にはもうわからなくなってしまったけど覚えている。フレッドとしてのかりそめの生活が、実は彼にとっては本物だったという。 -
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Posted by ブクログ
デッィクに慣れてきたのかそれともそういう本なのか、いつになく話の筋がすっきり見える本だった。そのぶんグラグラ感は少なかったけど夢中で読んだ。やっぱりディック面白い!自分がある日存在しない世界に飛んでしまった男の物語。冒頭プルーストのくだりでにやり/人間何が起こるかわからないし理屈通りには動かない/<日常>にいる限り人は共通ルールに則っているが<日常の外>の存在はルール通りにはならない/悲しみは私と失ったものをつなげてくれるもの/恐怖は憎悪や嫉妬より始末が悪い/たまたま目に留まっただけで完全な白紙に歯戻せない理不尽/Mr.バックマンが死んだのは2017年
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Posted by ブクログ
この話、すごく回りくどい。悪い意味ではないです。
ユービックという、アイテムとしては微妙な位置づけのものが、一番初めの章からずっと、怪しげな、けど、世に溢れている広告の形で、姿を変えながら登場している。話と絡んでくるのはずっと後で、それは多くの先人たちが力を尽くして作り出した、主人公が生き延びるための力として出てくる。まさに「遍在する神」。
そして、2つの力、っていうのも面白い。人々を食べて創造世界を保とうとするジョリーは、世界を1つのものに統合していく力で、人々を生かそうとし、そして自らも次の生へと向かうエラは、世界を多様化させようとする力。(なのかな?)でも、ユービックはそのどちらの力にも