あらすじ
星間戦争のさなか、人工臓器移植医エリックは、国連事務総長の主治医モリナーリに任命されるが……。ディック中期の傑作、新訳版。
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Posted by ブクログ
異星人(リーグ星人/リリスター星人)、人工臓器、時間を移動できる謎のドラッグや、独裁者や…とにかくモチーフが詰め込んであって、読んでいて楽しい。これぞ、ディック作品に求めているものなんだよなーと思う。
ストーリーラインは2つ。
1つは、ディック自身の当時の奥さん(3人目のアン。浪費家だったというけど…圧倒的にディックの方がおかしいし、、)との状況を表していて、つまり、先行きが良くないことが明らかな夫婦関係をどうするのか?という葛藤。
もう1つは、人類が侵略されてしまいそうな状況。
ものすごく個人的なお話と、人類の存亡がかかった大きいお話が並行して進む。
最後、主人公はドラッグで脳がやられてしまって介護が必要な妻…しかも関係は劣悪…に対してどうするべきかをアンドロイド(厳密には自律機構というもので…違うけどまぁ一旦)に尋ねる。機械の答えは、自分なら離婚はしないと。その理由は
人生はそういうふうに構築された現実設定で構成されているから。彼女を見捨てるというのは、そういう現実に耐えられないというに等しいから。独特のもっと優しい条件を与えてもらわないとダメだというに等しいから。
とのこと…
主人公のエリックは、確かにその通り。妻と別れずにいようと思うと答える。機械は、素晴らしいですね。あなたは良い人ですねと返し、エリックはありがとうと答えて妻の元へ向かう。
実際には、主人公は結局どうしたのか、までは描かれてはいない。ちなみに、アンとディックは離婚した。
要は人生をあるがままに受け入れて耐えなさい、良い人でいなさいというド正論をぶつけてくる機械。無性の愛(アガペー)、人生の苦難を受容すること。つまり、キリスト教的な回答に思える。
エリックが無機物から神託を得た…人間性を機械によって与えられた、とまでは読みすぎてるのかな?
怪しいドラッグ、発達した未来の文明、キーキーやかましくて感情をコントロールできない女。翻弄されまくった主人公の決意。意味ありげに出てきた割に特に解説されないあれこれ。ディックらしい内容。だから好き。
まぁ、わたしなら即離婚。
Posted by ブクログ
「いっしょに暮らさなくてはいけない人物と、とてもやっていけないと思うことはある?」
日々お互いに不満をぶつけ合うしかない、冷え切った夫婦仲。妻が気晴らしに手を出したドラッグによって、とんでもない事態が引き起こされる。
時は2055年、人類は異星人同士の星間戦争に巻き込まれ、リーグ星人と泥沼の交戦状態にあった……。世界観を理解するまでが読みにくいのはSFにありがちなことだが、ドラッグによってある現象が起こると、そこから物語は加速していき、目が離せなくなる。
後半は目まぐるしく展開される盛りだくさんのSFガジェット。見所はたくさんあるが、この小説の本質は夫婦のドラマだ。修復不能にまで陥った夫婦の関係にどう結末をつけるのか。星間戦争のはざまで奮闘するも、予想外の展開に翻弄される主人公が最後に出した決断に感動。
伏線か?と思われるものやネタが回収しきれずに終わったのが惜しい部分もあるが、十分にお腹がふくれる一冊だ。
Posted by ブクログ
当時のディックの奥さんが作品に影響を与えてるらしい作品。それをこんな面白い話に仕立てるんだからすごい。ちなみに途中で登場人物がこんがらがりましたが…
Posted by ブクログ
異星間同士の戦争に巻き込まれ、リーグ星人と泥沼の交戦状態にあった人類。そんな人類の独裁的指導者モリナーリの主治医となったエリックは、妻キャシーに騙されて新型のドラッグJJ-180を飲んでしまう。ドラッグを飲んだエリックの意識は遠く1年後の未来に飛ばされ…
物語の展開が継ぎ接ぎ的な印象だったり、回収されない伏線があったりと、正直腑に落ちないところもある本書ですが(むしろディックらしい?)、訳者あとがきで詳しく解説されており、理解の助けになりました。リーグ星人との異星間戦争という大きな動きに隠れて、エリックと妻キャシーとのとてもプライベートな問題に焦点をあてた本書。あらためて考えてみると、本書のような登場人物のプライベートな問題を物語の芯に据えた作品は、ディックのこれまで読んだ作品のなかでもあまり思いつきませんでした(読み足りないだけでしょうが…)。それだけ離婚寸前の状況が苦しかったのか、と愚察してしまうところですが、現実のディックと本書で示されるラストの示唆が対照的であることは、どうにも気になるところ。「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」でディックが示したような前向きさが本書でも表現されたのか、あるいは、現実逃避を本書で図ったのか。凡人には理解の及ぶところではありません。