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Posted by ブクログ
「地図にない町」を含むファンタジー色の少し強い短編集。ファンタジー色が強いとは言っても、日常に感じた違和感に対して自分が狂っているのでは?と疑問を抱かせる描き方はディックそのものです。足元から揺らいでしまう不安感がたまらないです。
風変わりなところでは「妖精の王」、「欠陥ビーバー」(冴えないビーバーが主人公の寓話なのです!)。印象的なのは「宇宙の死者」急速冷凍された遺体が半生者となっているという設定など「ユービック』に通じる不気味なものがあります。子供の教育を扱ったものや、人工妊娠中絶を扱って炎上した表題作など、作品に現代が追いついてきた感がある作品集です。コロナで隔絶された日常をディックが経験したらどんな作品を著したでしょうか?
Posted by ブクログ
表題作と『地図にない町』を読んだ。
・表題作:12歳未満の子供は人間とみなされず両親の希望があれば中絶トラックによって回収、処分されてしまう。かつての中絶の概念が拡張され、人間とみなされるかどうかは、産まれてくる前かどうかではなく、代数(高等数学)を扱える年齢以降の世界となっていた。
表題作は後ろの解説を読むと中絶批判の作品として取られることが多いらしいが、全然そんな風には受け取らなかった。人間として人権を与えられる根拠、基準は何かといった普遍的な問いが題材だったと思う。私の考えは本書で扱われた内容とは違うがそれはまた別の機会に。
・地図にない町:ある日駅員に定期を買いに来た男が降車駅として指定した駅は存在しない駅だった。駅員がそれを説明しても、男はそんなはずは無いと強弁するが、地図を見せられ駅が存在しないことが示された瞬間、男は忽然と姿を消してしまう。
最近映画『メッセージ』を観たばかりだったので、似た主題を感じた。記載したような導入部がキャッチーで面白かった。
Posted by ブクログ
これまで読んだフィリップ・K・ディック作品とは少し毛色が違うものが多かったような印象を受けます。
「妖精の王」はファンタジー要素が強く、珍しくしっかりとハッピーエンド!
「欠陥ビーバー」はビーバーが主人公の作品だし、「父さんもどき」は子供たちが主人公(私の頭の中ではスタンドバイミー的な雰囲気でした。いや、内容は全く違いますが)です。
ほかはいつものPKD作品ぽい、不思議な終わり方やディストピア的作品です。
個人的には「宇宙の死者」が面白かった。
「フォスター、お前はもう死んでいるぞ」は命を金で買う的な時代。主人公はいささか過敏というか過激な気もするが、周りの状況と自分の置かれた環境を考えるとああいう気持ちになってしまうのも分かる。
「人間以前」は誰が人間であるということを決めるのか?というひとつの問いが示されている。内容的に中絶問題の関係者から抗議もあったようですが…。
ところであの終わりはどういうことなんでしょうかね。
Posted by ブクログ
久しぶりのF.K.ディック。短編集。
しかもPSYCHO-PASSを読んだ後での「シビュラの目」はなかなか運命的な出会いと言わざるをえない。
「地図にない町」は三崎亜記を彷彿とさせるテーマ。地図にない町に住んでいるという乗客から、世界の境目が次第に揺らいでゆく。
「新世代」「ナニー」のような、ロボットを用いたシニカルなSFも面白い。
子供の教育を完全にロボットに任せ、それが最善と信じて疑わない社会。そんなバカな、と当時の読者が思った以上にはリアルに近付いている。
またタイトル「人間以前」も衝撃的。
人口増加率をゼロにするためにとられた積極策。それが12歳以下の魂のない子供を「人間以前」と見なし、不必要の烙印を押された者は、収容所で殺されてしまうというもの。
このストーリーが非常に恐ろしいのだが、「人間以前」と「どう判断するのか?」という線引きへの問いかけは我々の喉元に突き付けられる。
ディックの発想、ユニークさ、ヤバすぎる。
一冊を終えると、また次に、と手を出したくなるからまた厄介である。
そして、もう次に買う作品は決めている。
Posted by ブクログ
表題作が興味深いのだが、巻末収録短編のタイトルが「シビュラの目」である…
私はSFを完全に誤解していたなぁ、だから手を出さなかったんだろう、SFは全てにおいて「無機質なもの」と思い込んでいた。人間の在り方も科学的に進んでしまう事で精査され、人間味が薄れ、設定の奇抜さを楽しむもんだと思い込んでた。設定の奇抜さで競う、と言うのはBLにもある側面だ。
収録作の『ナニー』に差し掛かっているが、ほぼ球体のアンドロイド家政婦ロボットの話。旧式は新式と対決すると、性能の差、と言う絶対値を打ち破る事は出来ない。人間の様に「火事場のクソ力」なんてものはスペックになければ出すことが出来ない。旧式のロボットは修理するより買い換えた方が安いと言うのに何故人間は「修理してでも直してくれ」と思ってしまうのか。機械が機能として行った事でしかないのに、それにたいして感情を生み出してしまうのか。機械を通して人間が人間であるが故の人間味を表現できるのがSFと言うジャンルかもしれん。旧式は新式に勝てない、と言うスペック差を凌駕しトム・フィールズ家のナニー(ロボット)は新式と闘って勝ち、自身もボロボロになってしまった訳だが、トムは新型に買い換えた方が安いと散々言われても愛着のあるロボットを修理に出すがトム自身はなぜ自分の家のナニーが壊れかけているのかの本当の理由を知るのは後になってからだが、旧式なのに新式に勝てたのがナニー自身に(家を守らねば)を言う使命感があったのか、と思い、その部分で私の好きなアンドロイドものじゃねぇか、となったのだが、その辺はスルーの着地点だった(笑)俺ん家のナニーを傷つけたやつは許せない、これは俺の家のナニーなのだ、だからおいそれと新品と取り換えるなんて出来ない、と言う気持ちは「役に立ってくれる機械」に対する愛着なのだが、その愛着が高じるとこういう結末になる訳だ…人間って愚かで可愛い生き物だと言う事もSFには書いてあるなぁ。
ホラーありSFありダーク・ファンタジーあり、実にバラエティ豊かな短編集だ。『宇宙の死者』を読んでるんだが、死んでからも「半生期」が残っていて冷凍保存された遺体にプラグを繋いで精神活動が呼び出せるとか、設定が面白い。
「新世代」、無論SFであるが、子供の成長に悪影響を及ぼすのは幼少期の環境・親との関係であるとされ、生まれた直後から教育機関で子供は育てる人間には接触させず、アンドロイドが子供の成長に携わる。9歳になるまで絶対に親は子供と接触してはならない、会う時は許可申請、そして開拓者精神でたたき上げで生きて来た主人公が子供の初めて会った後、子供は親(つまり生身の人間)が実験動物と同じ匂いがする、と言う…どちらが幸せなんだろう…ディック自身、親がきちんと愛情を注ぎ親の責務として子供を育てない人間がいると言う現実に対し憤りを抱いているからこう言う作品を書いたんじゃなかろうかと思うが、人間が人間に触れないで人間として育つ筈がなかろう、と思うよ。
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