あらすじ
21世紀なかば、ヨーロッパ・アメリカ合衆国の実権を握る大統領夫人ニコラは、時間移送機を使いゲーリング元帥を呼び寄せるが……
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Posted by ブクログ
ディックらしい虚実を取り混ぜたストーリー展開や、面白くて笑える場面も多々あって、とても楽しめました。
しかしながら、ストーリーにいろんな要素を詰め込み過ぎなため、読み終えた後に、その後が気になる人が何人かいて少しモヤモヤした気分が残りましたけどね。
あらすじ:
21世紀も半ば過ぎ、世界は二極化されていた。その一方であるヨーロッパ・アメリカ合衆国(USEA)では、ファースト・レディの地位が大統領より高い母権制をとっており、彼女(ニコル・ティポドー)は絶大な権力を持っていた。ある日、マクファーソン法が施行され、一人の精神分析医を除いて診断が禁止され、精神疾患はすべて薬剤治療とするように決まってしまいました。それは、念動力でピアノを演奏するリヒャルト・コングロシアンが必ずその精神分析医のエゴン・スパーブを訪れて治療にあたらせるためでした。一方で、その念動力で演奏した音楽を録音するため、ナット・フリーガーは、音楽会社であるEMEの社長命令によって社員を率いて、コングロシアンが夏の避暑地として滞在しているとの情報を得た場所に向かいます。そこは、核戦争の後遺症でネアンデルタール人として退行進化したチュッパーたちの住む、雨林地帯でした。また別の動きとして、政府公認の巨大企業でシミュラクラ製造会社の社員、ヴィンス・ストライクロックと哀れなほどちっぽけなシミュラクラ製造会社に勤める兄のチック(チャールズ)・ストライクロックと弟の妻ジュリーの関係や、ジャグ演奏家のイアン・ダンカンとルーニー・ルーク社長の元で超小型違法宇宙船ジャロピーを販売しているアル・ミラーによるホワイトハウスでの演奏、あるいは、NP長官ワイルダー・ペンブローク、宗教団体〈ヨブの息子たち〉のリーダーであるベルトルト・ゴルツなど様々な思惑が絡み合っていきます。そんな中、ニコルはタイムトラベルが可能なフォン・レッシンガー装置を使い、第三帝国からゲーリングを呼び寄せ、恐ろしい計画を実行しようと動きだしました……。
もう、何がなんだかわからないですよね。それでも、SF的なガジェットや超能力が出てきたり、タイムトラベル装置やパラレルワールドの存在を元にしたストーリーは、ディックらしい笑える場面もあってとても楽しめました(P39のディックの結婚観やP128の女性観など)。しかし、複数の場所で起こるプロットが、ごちゃごちゃと複雑に絡み合って展開されていき、終盤に話しがまとまっていくストーリーは、怒涛のように展開されて読み応えがあっただけに、終わり方が中途半端な感も否めないです。
ディックは自身のドラッグ体験から、虚構と現実の曖昧な世界を描くことが多いですが、本作では模造品(シミュラクラ)として権力者の偽物を登場させ「真実とは何か」を問いかけることにより、情報操作される社会の危険性を描こうとしたストーリーは、よく考えられているなと感心しましたが、もう少しスッキリさせて欲しかったですね。例えば、ヘルマン・ゲーリングの話しは必要だったのかとか。ドイツ語がたくさんでてくるので、最初から必然事項だったのかもしれないけど。
あと、固有名詞の人物がやたら多く登場するのが、複雑なプロットに輪をかけてわかりづらくしています。黒いポジトロンの裏表紙に登場人物が書かれているのは『宇宙の眼』と本作のみですからね。その『宇宙の眼』は12人ですが、本作は26人(実際は54人+名無し数人)。その多さがわかろうというものです。
名無しといえば“隣の家族“の会話が面白かったです。
正誤(初版)
P6の13行目:
デリカドに火をつけると
↓
デルガドに火をつけると
※葉巻のブランド。
Posted by ブクログ
タイムトラベルとパラレルワールドをはじめとして、模造人間(シミュラクラ)、小型宇宙船、火星移住、架空歴史、管理社会、ミュータント、超能力、未来戦争、などなど、SFガジェットてんこ盛りの長編。数十人の登場人物に、主人公級の人物が何人もいて、それぞれに絡み合いながらプロットが駆動していく。要素が多すぎて目が回る上に、物語がどこに向かっているのか戸惑ってしまうが、その中でもディック作品共通のテーマ性は感じられ、キャラクターに魅力もありテンポも良いので、面白く一気に読み進めることができた。終盤のたたみかけるような展開にもワクワクしたものの、まとまらずに突き放されるので読後感はややモヤモヤ。ここから想像力を広げられる余地が大きいのをどうとるかで評価が分かれそうだ。そこも含めて、SFの面白さを堪能できる一冊。
Posted by ブクログ
フィリップ・K・ディック作品!
ジャケ買いではなく、シミュラクラという響きを聞いたことあったからのタイトル買い。
途中じゃん!?って感じで終わった。
登場人物が多すぎて全然把握できない。
そもそもストーリーも把握しにくい。それがディック流っぽくはあるが。
半分くらい読み進めてようやくなんとかわかってきた、気がしてくるという感じだった。
ある意味地味なブレードランナーって感じかもしれない。
そもそも、シミュラクラそのものが全然出てこない。
映像で見てもたぶん理解できないと思う。
が、おもしろくなくはなかった。不思議。
Posted by ブクログ
ディックにしては珍しい(?)群像劇。登場人物が20人を超える多さで、かつ場面の転換も多いので、途中でどういう展開かよくわからなくなることがしばしば。
世界設定がワルシャワを中心とする共産主義体制とヨーロッパ・アメリカ合衆国(USEA)に二極化された社会であったり、タイムトラベル装置でナチスのゲーリング元帥を呼び出す展開、模造人間(シミュラクラ)や火星生物の登場、…などなど、おもしろそうな要素で溢れているにも関わらず、これらがうまく物語に溶け込んでいない印象(結局、ゲーリングはなんで召喚したのか?笑)。
最後は尻すぼみ、というか投げっぱなしで終わったし、これまで読んできたディックの長篇小説の中でもとりわけ場当たり感の強い作品でした。