フィリップ・K・ディックのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「まるで、この世界の鏡像だ」と思った。
退廃的な世界で、どこか神話的な雰囲気もあり、哲学的にも考えさせる。ずっと疑心暗鬼だし、合理的な解決はしない世界だし、
それなのに、どうしても美しいところが。
あまり叙情的ではない文章なのに、
その冷たさの中に、温かさも切なさも感じられて不思議な体験だった。
「8人の脱走アンドロイドとそれを捕まえる警官を書いたSFだよ」と言ってしまえばそれで終わりだけど、
このアクション風のプロットを基に「私たちの世界とは」「人間とは」という現実的なテーマに取り組んでいる気がした。
また、SFと言うだけあって突飛な設定なのに、読者が置いていかれないような共感性もあり……。
現実世界と近い距離にこのSF世界が寄り添ってくれる気がして、後味がたまらない。
「なにもかも真実さ。これまでにあらゆる人間の考えたなにもかもが真実なんだ。」という台詞は、これから抱きしめて生きたい。
(明晰夢で長年悩んでいる私には、あまりにも刺さって泣いてしまった。こういう言葉が欲しかった。)
とにかく、初めて読むSFがこの小説で良かった。
心に残るこの読書体験は、これから私の中で発酵していくと思う。
パンみたいに膨らんできたらもう1回読む。 -
Posted by ブクログ
この小説の根本となるSF要素が二つある。
まずは人間は死後、冷凍保存の安息所に預けられて「半生者」になり、遺族と脳波と交流できるようになっている。半生者の脳波が消えた時が完全な死になる。
もう一つは、超能力者たち(未来予測者、心を読む)が公に存在していること。企業が超能力者を雇ってライバル会社との競争に使ったりする。そしてそんな超能力に反作用を及ぼす反能力者である「不活性者」もいる。
ジョー・チップは、超能力者たちから企業や人々を守る(個人情報を守るとか、ライバル企業の超能力を無力化するとか)会社の技師だ。ある時社長のグレン・ランシターは、月を舞台にした大きな仕事の依頼を受けて、11人の不活性者とジョーを連れて月に行く。
しかし敵対勢力の攻撃を受け、ランシターは瀕死となる。ジョーたちは安息所にランシターを運んで半生状態にしようとするが、脳波の確認はできても対話はできなかった。彼は「死んだ」のだ。
この物語を進める合間に、「ユービック」という食品の、車の、ひげそりクリームの、コマーシャルが入る。それぞれの商品は「ユービックは説明書をよく守って使えば完璧」を謳う。
そしてジョーや11人の不活性者も、月で攻撃を受けてから身の回りに奇妙な現象が起こるようになる。タバコが萎びれている、飲食物はとっくに消費期限切れ、花が枯れる、動物が老化で死ぬ、という退行現象。そしてコインがずっと昔のものになっていて使えない、エレベーターが昔の上下昇降機に変わるなどの時代逆行が起きるのだ。そしてこの退行は、11人の不活性者にも急速な老化現象として見舞われる。
状況の確認と対策を考えるジョーに、死んだランスターの声が聞こえるようになる。それによると「わたしは生きている。死んだのはお前たちだ。」
ジョーは、ランシターの声が語っていた退行を止める「ユービック」というものを入手しようとする。ここで、小説に差し込まれていたユービックCMは「退行を止めるためにユービックを手に入れよう。しかしここは半生者の世界だから、このようなCMでアピールしている」ということが分かりました(間違っているかもしれない)
だが本当に自分たちは死んでいるのか?やはり自分たちは生きていて死んだのはランスターなのでは?とも疑う。
そうするうちにジョーの周りの物はどんどん古びていく。
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退行(食べ物がカサカサになる)と時代逆行現象(エレベーターが旧式に変わる)の原因は?
ジョー達の敵は何者なのか?
ジョーが生きているのか、ランスターが生きているのか、それとも両方死んでいるのか。
謎、謎、謎、全てが謎というミステリーとして話を追っていったら、死者と生者の区別や隔たりとは何なのか、脳波だけ活動している死者の感じる世界とはどのようなものなのか、人は世界とどのように繋がるのか、精神での戦いとはどのようなものか… -
Posted by ブクログ
作品を発表年順に読むディック祭り再開。高校の頃ディックは薬でラリっている作家だと誤解させた元凶がこの作品で、二の足を踏んでたのだけど、ひとりディック祭りでは避けて通れない。覚悟して読んでみると・・・すごい!いや確かに薬による幻覚症状を描いてはいるけれどそれだけではない。それだけではないけれど、何がどうすごいのかということを言葉にするのは難しい。まだ興奮していてこの作品から自分が何を得たのか?今後どう変わるのか?なんて考えが全くまとまらない。ハアハア
徴用制度によって強制的に火星や辺境の惑星開拓のために移住させられた人々は、日々の生活の苦しさを紛らすためにパーキー・パッドという人形セットに薬を併用して没入して現実逃避をしている世界。そこにプロクシマ星系の探査から宇宙飛行士が戻ってきて冥王星に不時着する・・・この薬を非合法に製造・販売する企業の販売予測をする予知能力者と深宇宙から帰還した宇宙飛行士、火星の開拓者が絡んでどのようなストーリー展開になるのか?小市民のオジには全く想像もつかない。異常な世界だけでは読者はキョトンとして終わるのだけれど、そこは真の幻視者ディック!人間の不安感やポンコツな愛情表現、尽きることのない欲望といった痛いところをつく描写を中心にもってくるからいつまでも古びない。
アルテミス計画とか火星への移住計画だとかこんな展開になったら地獄だね。 -
Posted by ブクログ
小川哲作品をきっかけにSF熱が再燃中。
ディックは『電気羊』を読むのに半年もかかったので敬遠していたけど、短編集は難しくなくて読みやすかった。
『火星年代記』を読んで、自分は「人間の愚かさ」を描いたSFが好きなんだと気づいて選んだ作品。
人間の「自分たちは賢い」「世界の中心は人間だ」という思い上がりに、ディックは容赦なくバッサリと斬り込む。
ブラッドベリの『火星年代記』では、切なさや哀しさも感じたけど、ディックはもっと冷徹で一切情けをかけない感じに思った。
その容赦のない感じの皮肉なオチも結構好き。
『訪問者』が特に好きだった。
地球は人間のためだけにあるものではないとずっと思っていたので、この作品の視点にとても共感した。「奢るなよ、人間」と思った。
『吊るされたよそ者』
怖い話を聞かされた時のようにゾッとする話。
『ミスター・スペースシップ』
いろんな意味でぶっ飛んでいて驚いた。
ディック作品は、内容はもちろんだけど表紙のデザインも大好き。
シリーズを本棚に並べて楽しみたくなる。
長編は難しそうなので、まずは短編集から読みたい。
Audibleにて。 -
Posted by ブクログ
ホバート位相と名付けられた時間逆流現象のため、人は墓場から復活して子宮に還る。
そんな世界で死者の再生と売却を生業とするヘルメスは教祖をめぐる争いに巻き込まれるが……。
私的に設定が好きすぎてたまらない作品。
会ったら「さようなら」で別れるときは「こんにちは」
人は食べ物を「食べる」のではなく「戻す」
時間が逆に進む世界というだけでもゾクゾクするのに、こんな世界だからか作中のキャラの倫理観がまぁまぁ終わっている(笑)全てがチグハグ、それが面白い。
私、初ディックなんだけど、これ好き。
あと、単純に装丁が好きすぎる。カッコ良すぎる。ハヤカワ文庫のディックの文庫本、どの作品も装丁がめちゃくちゃオシャレなんだけど、これなんで??背表紙も黒だし。集めたくなる〜!!(笑)
ディック、これから読んで行こ〜( *´艸`) -
Posted by ブクログ
ネタバレディック、アンドロイド〜と、高い城の男読んで、あれ全然好きじゃないかもと思って敬遠していたのだけど、ユービックは面白かったし、短編集なら読めるかもと思って手に取ったら、めちゃ面白かった笑。もしかしたら今読み直したら面白いかもと思ったり。。とりあえず次は、トータルリコール読もうっと
ディック感といわれる現実と非現実の間で自分がわからなくなる感覚、普通にゾワっと怖いのだけど、ホラーの怖さがスッとやみつきになるような、そんな感覚もある。
それから久しぶりにイーガンを読みたくなった。
アジャストメントも面白かったし、ウーヴ身重く横たわるも面白かったし、にせもの・電気蟻も面白かったし、…
ウーヴ:ウーヴ食べたら船長がウーヴになってて怖…とぞっとした
にせもの・電気蟻:普段人間として生きていた自分が、実はアンドロイドと言われたら?の二作。にせもの、の方では図らずも最後それを証明してしまうというエンド…で、電気蟻は自分のことを調べて最後「彼はそれを見、そして理解した。もう手遅れだ、とさとった。テープは通り過ぎてしまった。神さま、お助けください。テープが、おれの計算よりも速いスピードで、巻きとりをはじめたんだ。そして、とうとういまー」(p350)と間に合わずに終わる、というエンド。最後それさえも人間側が企んでいたというのが、気持ち悪かったというか悲しかったな。
にせものの方で、…「ぼくはオーラムだ」と、またくりかえす。「本人がいうんだからまちがいない。証明できないだけなんだ」(p.104)という時の切なさが半端なかったな…私もそうだし、皆そうじゃんというね。この二作は特に好きだったけど、イーガンを読みたくなった二作でもある。
おお!ブローベルとなりて、は戦争を皮肉った作品として面白かった。結局なりたくない相手の姿に変わったカップルの話。
父祖の信仰も、SFらしいというか、1984ぽさもあり、でも正体が異世界生物だっていうのはとんでも話として、グロテスクな話として楽しみました。そしてそれはこの現実も証明できないしね…
「これが永久につづけばいいのに」と彼はいった。
「つづいたわ」タニアが答えた。「時間の外側で。海みたいに果てしがなかった。カンブリア紀のわたしたち、陸に上がってくる前のわたしたちは、こんなふうだったのよ。太古の原始の海。こうしているときだけ、わたしたちはあの時代へ帰れるのよ。だから、こうすることがとても大きな意味をもつんだわ。あの時代のわたしたちは、まだ離ればなれじゃなかった。大きなゼリーの塊だったのよ。ときどき浜辺に打ち上げられてくる、あのクラゲみたいに」(p.312)
電気蟻、一番好きだったかも。
「きみも実在してないんだ」彼はサラに言った。「きみはわたしの現実テープの上にある、刺激因子の一つにすぎないんだ。ふさぐことのできるパンチ孔の一つなんだよ。きみはほかの現実テープの中にも存在しているのかな、それとも、客観的現実の中に存在しているのかな?」彼にはわからない。想像がつかない。おそらくさらも知らないだろう。おそらく彼女は、おびただしい現実テープの中に存在しているんだ。おそらく、これれまでに製造されたあらゆる現実テープの中に。「もし、わたしがテープを切断すれば」と彼はいった。「きみはどこにも存在し、どこにも存在しなくなる。この宇宙の中のすべてのものとおなじように。すくなくとも、わたしの知るかぎりにおいては」(p.347) -
Posted by ブクログ
”PKD”ことフィリップ・K・ディックの短編、面白いっ!
どうして世のSFファンはこれを先に勧めてくれなかったんですか!笑
現時点での「2026年ベスト本」候補作です(人*´∀`)
以前「電気羊」を読みましたが、あちらは正直半ば意地になって読み通したところがあったのに比べ、本書は面白くて一気読み。
出会いのきっかけは書店でたまたま見かけたことで、「トータル・リコールとマイノリティ・リポートってディック原作だったんだ〜」くらいの気持ちで手に取りました(なお映画は未鑑賞。「ペイチェック」は観ました)。
全体の雰囲気としては、星新一をもっと重たくした感じでしょうか。
監視社会、死の灰が降る核戦争後の世界……など、共通する要素はあるものの、それぞれ設定も読後感も異なっていて、ワクワクしながら読み進めました。
「地球防衛軍」には実際の世の中もこうなってほしいとしみじみ思いましたし、SFファンには低評価で編者からさえも「だれがどう見ても成功作とはいいがたい」と言われてしまった「ミスター・スペースシップ」も私は好き!
個人的に、罪のない老人がむざむざ命を散らすシーンがほんとうに苦手なので、どうかそうなりませんように……とハラハラしましたが(^^;
「バカSF」呼ばわりされる結末ですが、遠い遠い惑星で、第一世代を見守り続けてやがて役目を終える、鋼鉄の体に宿った老教授を想像して勝手にグッときてしまいました。そういう設定に弱いのよ。。
ラストが切ない「訪問者」も良かったな〜。
そんな中、白眉の出来と感じたのが「世界をわが手に」。
途中で「もしかして……」と予想がつくものの、自分の認知している世界を揺さぶられる感覚(ディック感覚)にはゾワゾワきてしまいました。
わりとどのお話も、おかしいのは語り手なのか世界なのか判断がつかないものが多く、最後の1ページ、最後の1行まで気が抜けない緊迫感がなんともクセになりました。
彼の短編集はハヤカワからオシャレな装丁でたくさん出ているようなので、ぜひまた読んでみたいです! -
Posted by ブクログ
ネタバレ悲しいけど、前向きな話。映画も大好き。
作者/訳者後書きにあるように、ディック自身の体験をもとに描かれたアンチドラッグ小説。SF要素といえば、着用者の姿がわからなくなる「スクランブル・スーツ」くらいだけど、話の本筋にはそんなに関係がない。
新型で強力な麻薬「物質D」の潜入捜査官である主人公が、薬中仲間と暮らしながら…その暮らしにどっぷり溶け込みながら、要はジャンキーと捜査官の二つの顔を持つ生活をしていく過程で
自分で自分を監視することになり、自分が誰なのか?が曖昧になっていく。Dにハマったことによって、カオスはどんどん深まってしまい、最後は脳が焼けこげて収容所に入れられる。
自分がなんの仕事をしていたのか?自分は誰か?もわからずに、ただ単純作業をこなすだけ。
ディックが、若い友人たちがドラックによってめちゃくちゃになっていく姿に心を痛めていたことが伝わる。
主人公、、ボブ・アークターは何もかも失ってしまうわけだけど、最後に掴む青い花は希望のメタファーなんじゃないかなと思った。どんな状況下に置かれても、まぁそんなもんよと受け入れきらないで、足掻こうとするディック作品の主人公らしさが大好き。 -
Posted by ブクログ
『マイノリティ・リポート』
映画を観たあとだと、驚くほど別物の物語。
犯罪予防局長官のアンダートンが主人公。
3人の予知能力者が未来に起きる犯罪を観ると、自動的に犯人の名前がカードに書かれて提出される。
犯罪予防局は、これから起きる犯罪を捜査し犯人を逮捕する。
犯罪者はまだ何もやっていない。
だから被害者も何も奪われない。
理想のようなシステムに、社会から重大犯罪は消失した。
ある日、カードを受け取った主人公は愕然とする。
カードに書かれたのは「ジョン・A・アンダートン」、本人。
短編の分量で、未来予知の矛盾を突くシンプルな物語。
まさしく未来は一つではない。
選択とは、未来を選ぶことに他ならない。