あらすじ
観測台から見下ろしていた見学者たちを、突然の災厄が襲った。陽子ビーム加速器が暴走し、60億ヴォルトの陽子ビームが無秩序に放射され、一瞬で観測台を焼き尽くしたのだ! たまたまその場にいた8人は、台が消滅したためにチェンバーの床へと投げ出された。やがて見学者のひとり、ジャック・ハミルトンは、病院で意識を取り戻す。だがその世界は、彼の知る現実世界とは、ほんの少し違っていた……鬼才の幻の名品登場!
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Posted by ブクログ
著者自身の言葉として、「非現実に対するわたしの不安はこの作品から始まっている。」と解説の最後に引用されています。つまり、後の作品群のいわゆる”ディック感覚”と呼ばれる最初の作品ということができるでしょう。
とはいえ、今まで読んだディック作品の中では、わかりやすくてとても面白かったです。仮想現実や多元世界に興味がある人にはツボでしょうね。ラストも、考え方によってはループ物を想起させますが、いい終わり方でした。
内容に少し触れると、人それぞれが思い描く世界観がリアルに体現できたら…ということですが、それが自分の世界観ではなく、誰かのものだとしたら…という感じ。例えるなら、読書嫌いな人の思考にとらえられ、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』のような世界に放り込まれたら、ここの人たちは発狂ものですよね?しかもそこから別の世界に行けば、そこはそこで別の他人にとって心地よい世界だなんて悪夢ですね。それにしても、よくこんなストーリーを思いつくものだと感心したのでした。
あらすじ:
ジャックは、妻と楽しみにしていた陽子ビーム加速器の見学会に行く予定でした。しかし、直前に上司から呼び出され、妻が共産主義者であると嫌疑をかけられ、会社をクビになります。情報の出所は、同僚で会社の保安係のマクフィーフ。彼は罪滅ぼしに、二人を見学会に車で送ってゆき、自身も見学することに。しかし、そこに居合わせた他の見学者とあわせた8人が、陽子ビームの放射事故に巻き込まれてしまいます。そして、ジャックが病院で目覚めたとき、そこは彼の知っている世界とは何かが違っているのでした……。
注意:猫好きな人へ。一部残酷なシーンあり。
Posted by ブクログ
陽子ビームの事故により、別の世界に行ってしまった人たちの話。
別の世界ではなく、他の人たちの意識化の世界で、困難に立ち向かう。
最初からテンポよく面白かった。
Posted by ブクログ
ディックの出世作となる初期長編。
目に見えている現実が崩れていくような、ホラーじみた感覚から読者を引きずり込んでいく作風はこの時点ですでに強烈だ。主人公が目的を達するために戦いを挑む、全体としてはつかみやすいストーリー展開。ワクワクのピークはタイトル回収のところまで、中盤以降はイメージを奔放にぶちまけたような描写が続き、やりたい放題感に少し笑ってしまった。
読んでいて思い出した映画は『インセプション』。ラストの不安感は様式美?
Posted by ブクログ
陽子ビーム偏向装置が暴発し、ガイドや見学に来ていた8人が事故に巻き込まれる。意識を失い、気付いたら世界が何だかおかしい。それは8人のうちの誰かの精神世界に入り込んでしまったためだった。現実に戻るために色々な世界を彷徨うことになる。8人が協力したり敵対したり、人間関係の変化が面白い。ディックお得意の畳み掛ける様な世界変化が楽しめる。
Posted by ブクログ
意外にも良心的な結末にちょっとビックリ(…ハッピーエンドですよね?)。
先日読んだ「発狂した宇宙」と並び多元宇宙の金字塔と評される本書です。どちらも現実と異なる世界に迷い込み、四苦八苦するという点では同じですが、「発狂した宇宙」における多元宇宙が無限にある宇宙のひとつだとすると、こちらは極端な考え方をする誰かの意識(しかも複数)に迷い込みます。また、「発狂した宇宙」で訪れる宇宙がSFオタクの空想ものだとすると、こちらは現実の主義主張の地続きの異世界が舞台。だから甲乙つくわけではありませんが、楽観的に読み進められた発狂した宇宙に対し、不安と疑心がつきまとう本書でした。
読み終わって改めて思うことは、ディックの作品ってやっかいだなぁということ。大雑把に物語を掴むことはできるのですが、細かなところで「なんでこんな展開?」と思うことが多くて、腑に落ちない。表面の物語に隠れたメッセージの存在を察知するのですが、どうも要領を得ない。まぁ単に読解力がないと言われればそこまでですが、やっかいだなぁと思うことしばしば。短編は解りやすいんですけどね。とはいえ、こんな悶々とすることも含めて、ディックの作品に漂う魅力は間違いなくて、だから周期的に彼の作品を読みたくなるんですねぇ。
Posted by ブクログ
ディックの小説の中でも好きな作品になった。
時に難解な(というか破綻している(そしてそれが魅力だったりする))他作品とは一線を画し、物語は分かりやすく、SFとしての魅力も十二分な世界観である。
事故にあった人々の理想世界に転移していくのだが、それぞれが思う理想郷がいかに他者にとってのディストピアとなるのか、そこに宗教や共産主義、はたまた人種差別などの要素をシニカルに描くあたりがディックらしい。
最後は後日譚の様相であるが、果たして現実に戻ったのか。よほど大きな事故にあったであろう当事者たちが元の元気な姿になるとは思えない。やはりこの世界は誰かの夢の中?