久坂部羊のレビュー一覧
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長生きはそんなにいいことばかりじゃないよと、悲惨な事例や老人の嘆きがこれでもかというほど紹介される。著者は、老人医療に携わる現役の医師だ。医者の口から、「医療によって無理矢理生かされることは、本人のためにならない」という言葉が聞かれようとは。
アンチエイジングや「スーパー老人」報道に批判的なことなど、著者は現代の欲望肯定主義や、若さを追い求める風潮に違和感を持っている。医師として多くの老人、多くの死を看てきたことも大きいだろうが、同時に、父親が仏教や道教に造詣が深いことや本書でも兼好や良寛を引いていることからして、著者自身が東洋的な死生観に共感を持つ素地があるんだろうという気もする。その意味で、少なくとも我が日本では、本書のような考え方が庶民の間に復活することは、存外たやすいのではあるまいか。
医師の中で著者のような考え方を持つ者がどれくらいの割合でいるのかは、知らない。だがゆくゆくは多数派になるんじゃないか。そうなってほしい。著者のような医師となら、治療方針についてスムーズに相互理解が図れる気がする。自分の「死に時」を看てもらいたいと思うのだ。 -
Posted by ブクログ
大学病院の現実と世間の意識のギャップを的確に著していると思う。
世間の認識を変えることが必要であるという主張にも説得力がある。
医局が崩壊していること、医療がいまや崖っぷちの状況であること。
ジャーナリズムとして客観的によく書き切ったと思う。
オレは理学部出身だけど医学部の一部の連中とは特に気が合ったんで、3年4年の頃には毎週のようにスキーや飲みに行ったもんだ。
しかし、自分が病気にかかったら、彼らだけには診て欲しくないと思ったものだった。
どこも実態は似たようなもんなんだろうけどね。
オレが付き合ってた連中(10人くらいか)が特にバカ揃いだったこともあるけど…
(2008/5/6) -
Posted by ブクログ
同じ自由が認められながら、なぜ今までは日本の医療はまがりなりにもやってこられたのか。それは端的に言えば、医師と時代そのものにモラルがあったからであろう。自由に任せていても、医学生は自分の能力に応じた科を選び、必要とされる場所で勤務し、節度をもって開業していた。医学部がそれほど多くなく、優秀なものが医師になり、世間から尊敬される分、それに見合う責務を果たしていた。
時代のモラルが低下したことも大きい。ルールさえ守れば何をしてもいいという風潮、少しでも自分が得をすることが要領のよい生き方とされ、若者はそのための情報収集に奔走している。
診療にすぐれた医師を優遇せよ
良い医療が優遇されれば、医師は水が低きに流れるごとく良い医療に向かう。しかし今、良い医療を行おうとすれば、医師の私生活が破壊されかねない状況になっている。 -
Posted by ブクログ
短編集ではあるものの、主な登場人物(医療者側)は一貫していてとても読みやすかった。
私は在宅医療の現場も、少ないながら実際に見た経験がある。あとがきで作者が「在宅医療で診た患者をモデルにした」と語っていたが、本当にどの話にもリアリティを感じて面白かった。
病院とは違って在宅は「生活の場」であるとよく言われる。実際その通りで、たくさんの患者が入院していて、ある程度の制限がある病院に対し、患者と家族の意思や価値感が大きく反映されるのが在宅医療である。本作でもその色は濃く映し出されていて、特に「アロエのチカラ」では顕著であるように感じた。そんなまさかと思いたいが、ああいった患者家族もいるだろうな、と感じた。病院ではないのだから当事者の気持ちを尊重するべきではあるが、かといってどこまで許容するかというのは難しい話だ。病気を治すため、楽にするため、安全に生活してもらうため。「正解」を知っている、あるいは自分の中の「正解」を信じている医療者は、どうしても患者と家族を思うように動かしたくなってしまう。しかし、それが果たして当事者のためになるのか、そもそもそれは「正解」なのか。同じ病気でも、きっと「正解」は患者によって違うだろうし、同じ患者でも時と場合によって変わってくるだろうし、元から「正解」なんてないかもしれない。在宅医療で「正解」を導き出すのは、病院でのそれよりも難しいのではないかと感じた。在宅での生活を支える医師や看護師へのリスペクトが強まる作品だった。 -
Posted by ブクログ
2026年5月に映画化された作品で、刊行は2003年。
映画は未視聴なんですけど、文庫版の原作を読んだうえで言わせてもらうと、これ映像化して大丈夫?
ただ調べてみるとpg12らしいので、きっと色々配慮されているのでしょうが、どんな感じになってるのか気になります。
脳梗塞などで麻痺してしまって使い物にならなくなった腕や脚を切り落とす。
デイケア施設の院長である主人公、漆原糾が、この画期的な治療法を実践し、過酷なリハビリや親族からの虐待などに苦しむ患者たちを救っていく介護医療系ドラマ……の皮を被ったサイコミステリー。
新書みたいな構成で廃用身切断の意義とデイケアの日常を描くソフトタッチな前半から急転直下、後半からはがらっと作風が変わって、胸糞の悪くなる展開に呆然としました。
介護の現場を知っている者と知らない者との間にある確執、マスメディアの影響力、日本の介護の未来というちょっと重めのテーマを随所にちりばめながら、徐々に漆原糾という医師の人間性が明らかになっていきます。
作中で麻痺した手足のことを廃用身と言っていますが、これは造語でして、正式な医学用語では廃用肢というらしいです。
結末を知っている身からすれば、この作品のタイトルが廃用肢ではなく廃用身であることに、本当に戦慄を覚えます。
ちなみにちょっとグロくて汚い描写が多くて、それが読みやすいうえにリアルに書かれております。
耐性があってよかった……と切に思いました。