佐々木譲のレビュー一覧

  • エトロフ発緊急電

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    「エトロフ発緊急電」(佐々木譲)
    太平洋戦争の時の日米開戦の真珠湾攻撃前夜の話しでした。今の北方四島の択捉島に帝国海軍が秘密裡に集結してから奇襲攻撃を仕掛けた事は知りませんでした。史実に基づきその前夜の日米の緊迫した情報戦が筋立てですが、登場人物の全てが国家の単純なイデオロギーでは測れない奥行きを持っていて、その背景はまだ私には未消化です。冒険小説やスパイ小説というジャンルに収め切れない重厚な本に出会った気がします。

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    2025年06月29日
  • 秋葉断層

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    27年前の轢き逃げ死亡事故時に現場から消えた腕時計が見つかった。
    ここから警視庁捜査一課の水戸部と、所轄の交通捜査係の柿本が過去の事件を追う。

    エイマックス創業の江間家の長男であった
    和則の遺品から、次々に事件に関わった人間を探していくが、なんとも捜査は進展が見えない状態が続く。
    この捜査の硬直状態がリアルであり、全てが簡単に解決しない結末は改めて現実味を感じる。
    本作の煮え切らない結末のような警察小説も斬新で面白かった。

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    2025年05月25日
  • 北海道警察 11 警官の酒場

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    道警・大通警察署シリーズ第11弾。佐伯・津久井・小島の各チームがそれぞれ別の犯罪捜査の末、最後には1つの事件につながるパターンは今までのシリーズと同じだが、ここまで同じパターンが続くと、どのように繋がっていくのかも楽しみながら読むことができる。最近の本シリーズの中でも圧倒的にスリリングな展開で読書の手を止められないほど面白かった。主人公達も本作のラストで新しい道を歩むことになる。本書は道警シリーズのシーズン1の完結作との事だが、ラストに相応しい面白い物語だった。シーズン2のスタートを期待して待ちたい。
    最近はノンフィクションを読む事が多く、それはそれで面白いが、やっぱりミステリー小説最高!と思った一冊だった。

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    2025年04月04日
  • 北海道警察 11 警官の酒場

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    警官シリーズとりあえずの最終話、いつもの小気味良いストーリー展開で一気に読んでしまいました。最後の津久井さんの決断には拍手を送りたいですね
    また続編が読める日を期待しています

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    2025年03月22日
  • ストックホルムの密使(下)

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    堪能しました。原爆の非を言い立てる人は多いが、原爆が落とされなかったならば、本土決戦、国民皆兵となり原爆どころではない被害が出ていただろう。本作の軍継戦派の言葉を借りれば「2000万人」が兵として戦争に否応なく巻き込まれることになっていた。軍部の継戦派は国体護持などと口では唱えながら、国土を戦場に変え、国民を悉く殺し尽くす「一億玉砕」を祈念していた異常者の群れだった。国民がいない「国体」を護持するとは異常者の発想。

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    2024年12月16日
  • 秋葉断層

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    27年前の秋葉原での轢き逃げ事件が、本当は強盗殺人事件なのではないか。その再捜査を本庁捜査一課特命捜査対策室の刑事と所轄交通課の刑事ペアが追いかける。まるで舞台で密室劇を観ているようなストーリ展開は、証拠を違う視点で洗いなおして無罪判決に導く「十二人の怒れる男」のよう。立件に至らないことで逆に事件全貌を読者に委ねるやり方が非常にうまい余韻を残す。

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    2024年12月12日
  • 左太夫伝

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    理不尽だらけの幕末だけど、国の未来を拓くために力を尽くしながら、まだまだ知られていない英傑が大勢いたんだなぁ。時空を遡って世界旅行に行った気分に。どれだけの資料に当たったんだろう?「日本以上の礼の国・韓国」も「情があった米国」もとんでもない指導者を出し、今や見る影もない…

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    2024年12月08日
  • 北海道警察 11 警官の酒場

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    このシリーズは安定感があり、読んでいて作品世界の中に浸れます。
    ぜひ、今後も何作も継続してほしいです。
    ・登場人物のキャラクターの造形がいい。
    ・ほのかに舞台である北海道という風土を感じることができる
    ・シリーズ作品の中で時系列的に社会の変化を感じる

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    2024年12月08日
  • 北海道警察10 樹林の罠

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     コロナ禍による規制が緩和されたばかりの札幌で起きた交通事故。駆けつけた機捜の津久井卓巡査部長は事件性を疑い捜査を開始する。
     一方、法律事務所荒らしを調べていた三課遊軍の佐伯宏一警部補と新宮昌樹巡査は、この事件の根が意外に深いことを知り……。

     『北海道警大通署』シリーズ10作目。
              ◇
     札幌の中心部にあるショッピングモールの地下駐車場。買い物を終えた桂木陽一が、エスカレーターから少し離れた場所に停めた自家用車の運転席ドアを開けた瞬間だった。
     背骨を折られたような強い衝撃を感じた桂木は、さらに突き飛ばされて車の中に倒れ込んだ。続いて倒されたシートから桂木の身体は後部座席へと引きずり込まれ足下の隙間に寝かされた。
     後部席に乗り込んできた男が桂木の身体を足で踏みつけにする。痛みを感じるが身体は痺れていて動けない。「おとなしくしてろ」という男の声とともに車が発進した。

     同じ頃、帰り支度をしていた小島百合に班長から呼び出しがあった。駅前交番で9歳の女児が保護されている。父親に会うため旭川から1人で出てきたらしいが父親の居場所も連絡先も知らないと話しているという。すぐに行って事情を聞いてきてほしいとのことだった。了解の旨を伝えて百合は署を出た。
     駅前交番に着いた百合がパイプ椅子に座っておとなしくしている女児に近づき声を掛けたところ……。( 第1章 ) ※全5章。

          * * * * *

     百合が旭川からきた女児の対応に奔走していた頃、拉致されたあと道路沿いで解放された桂木は、身体に残っていたスタンガンの痺れのためによろけたところを後ろからきたトラックにはねられ死亡しました。
     連絡を受けた機捜の津久井が現場に急行。トラックの運転手からの聴き取りとドライブレコーダーの映像から事件性を疑った津久井は、さっそく捜査を開始します。

     翌朝、住宅街にある弁護士の住宅兼事務所が何者かに荒らされたという通報が3課に入りました。
     事件の対応を任された佐伯と新宮は、綿密な現場検証と聴き取りを行い、この弁護士事務所を訪ねるはずだった人物が桂木陽一であることを突き止めます。

     こうして、それぞれの担当事件の捜査を行う津久井と佐伯が、やがて1つの大きな犯罪へと立ち向かうことになっていきます。
     さらに捜査の突破口となるのが百合が関わった旭川の女児の一件と、まさにシリーズのファンにはたまらない展開でした。

     ファンなので、「そんなにうまくことが運ぶのはおかしい」なんて野暮な文句はつけません。ただただ、チーム佐伯の活躍が読みたいだけなのです。その意味では、満足のいく仕上がりの作品でした。
     本作で特に感心したのが新宮の有能ぶりです。さすがに佐伯の捜査を直に学んでいるだけあって驚くほど優れた捜査官になっています。「もう味噌っかすなんて言わせない!」
     そんな新宮の声が聞こえてきそうで、うれしく読むことができました。


     ただ本作には、少し気がかりなところが3点ありました。

     1点目は、佐伯の父親の容態です。
     父親の認知症はかなり進行してきました。介護に当たる佐伯の負担は増すばかり。展開が気になります。

     2点目は、ブラックバードのマスターである安田に元気がないことです。
     コロナ禍がかなりこたえているようで、店を畳みそうな弱気な安田の発言には胸が痛みます。「チーム佐伯」の出発点となったジャズバー・ブラックバード。どうか廃業しないでくださいと祈るばかりです。

     そして3点目は、成長著しい新宮の今後です。
     佐伯に心酔する新宮はまだまだ佐伯について勉強したいようですが、やはり無意識に活躍の場を求めているところが描かれていました。そしてそのことに佐伯が気づいたという描写もありました。新宮が抜けると淋しい。どうなっていくのでしょうか。

     ともあれ、物語の佳境を迎えたように映るシリーズ10作目。存分に楽しめる内容です。  
    ( ところで札幌のボッタクリ飲食店は、小規模なのを含めるとかなり多いとか。大好きな都市だけに少し残念です。 )

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    2024年09月30日
  • 戸惑いの捜査線 警察小説アンソロジー

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    7人の作家さんのアンソロジー。

    色々な部署の話で、とても新鮮で面白かった。
    ルームシェアの話が1番好きだったので、もしシリーズ化などしていれば読みたいと思った。

    オススメです。

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    2024年09月11日
  • 北海道警察 11 警官の酒場

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    道警シリーズの最新巻が出ていた事を昨日知り、即日入手。
    いつもながら同時並行で複数のストーリーが進んでいき一つの場面に収束していく展開で、職人技を見ているようだ。
    佐伯と小島の関係にも変化があり嬉しい。
    シリーズ区切りとの事だが、早く続編お願いします!

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    2024年09月09日
  • 夜にその名を呼べば

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    途中から止まらなくなり、かなりの厚さだけど一気読みしてしまった。ミステリーかつソフト公安モノ。
    スパイ嫌疑のかかる人物宛の手紙を抜き取る「法外処置郵便物」の処置、実際にあるのかも…と想像するのも楽しい。

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    2024年09月08日
  • 左太夫伝

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    仙台藩の玉虫佐太夫はその才を認められ、アメリカ訪問の使節団として共和国としての国の在り方を目の当たりにし、儒教的な価値観の江戸幕府の官吏の硬直した態度に疑念を抱く。
    彼が接したアメリカ人の情に厚く人間性溢れる姿は、封建的な江戸時代との比較を描いていて興味深い。
    儒教の礼法に対する疑問、有効性、形だけで情のない礼法が社会を歪めている日本の開国と攘夷。
    幕末の歴史的な流れは知っているのだが、この小説で佐太夫の目から見せてくれた「物語」は興味深く、英才をもっても抗えなかった時代の流れの無情を痛感させられた。

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    2024年08月29日
  • 左太夫伝

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    「近刊」の情報の中で本書を知り、題名の一部に在る「左太夫」に注目した。「玉虫左太夫」(たまむしさだゆう)という人物のことであろうかと思った。そして登場した本を入手した。思ったとおり、「玉虫左太夫」という人物の物語であった。
    一般的には知名度が高くもないかもしれないが、激動の幕末を駆け抜けた、なかなかに傑出した人物であった。その人生を追い掛けるような感で、この「左太夫」が視点人物となる形で物語が展開する。読み始めると、頁を繰る手が停め難くなってしまう。
    題名の一部に在る「左太夫」に注目したというのは、「玉虫左太夫」という名が記憶に残っているからだ。戊辰戦争の奥州の戦いでは、「何としても!」という勢いで会津松平家を討つとする新政府側に対し、罪に問うというならそれを容れるとする会津松平家を攻撃して戦禍を撒き散らすことも無益であると、奥州の大名家が戦わずに“問題”の収束を図ろうとした。そういう中で「奥羽越列藩同盟」が登場した。奥羽越で最大の大名は仙台を本拠地とする伊達家であり、仙台伊達家が「奥羽越列藩同盟」の代表幹事的な存在となった。そしてその家中の士であった玉虫左太夫は、抜擢されて事務局長的な仕事を担うのだ。戊辰戦争の後、奥州の敗れた側となった大名家では、戦時に責任在る立場であった者が「責め」を負って切腹するというようなことになったが、仙台伊達家に在ってはこの玉虫左太夫が切腹することとなったのだった。
    幕末期の会津松平家の経過というような事等に興味を覚え、色々な本を読み漁っていた中で「奥羽越列藩同盟」の経過を知り、関係の仕事に携わった「玉虫左太夫」という名を記憶したが、この人物に関して明るいという程のことでもなかった訳で、興味津々でこの『左太夫伝』を紐解いた。
    玉虫左太夫は戊辰戦争の際の「奥羽越列藩同盟」に関連して重要な役目を担うことになったが、仙台伊達家の中で重要な役目を担うような、家老や何かの要職を担う家中では相対的に高い位置の家柄の出ということでもない。大名家の家中の武士達については、本拠地の城下町やその他の領内で様々な行政上の役目を担う官吏として代々活動しているか、受継がれた技能によって一定の仕事をしているという人達が主流だ。殊に仙台伊達家のような大きな規模の大名家であれば、主君と言葉を交わす機会等は生涯に数える程の場面が在るか如何かで、普通はそんな場面は考え難い。更に「あれが御殿様」と見て顔が判る位の位置で姿をハッキリ視る機会も在るか否かという感じであったようだ。玉虫左太夫はそういう「普通」の武士の家の出である。一族の中に城下町仙台の町奉行を務めたという人が在って、作中「町奉行を務められた玉虫様の御一族?」というやり取りが一寸出ているが、そういう「行政上の役目を担う官吏」として活動していた武士の家の出であったのだ。
    武士の家では、兄弟の順で家を継ぐ権利が在る。兄が家で受継ぐ色々なモノを引継ぐ。兄に不都合―早く亡くなってしまうようなこと―でも在れば、弟が代わる。代わる必要が無い場合、弟は他家へ養子に出る。何らかの技芸でも在れば、その技芸を活かして独自に分家のようなモノを起すような感じになる場合も在ろうが、そうでもなければ「厄介叔父」等と呼ばれ、一族の居候的な位置で生きるような感じになる。玉虫左太夫は5人の兄達が在る末っ子であった。そういうことも在って、学問で身が立つようになりたいというようなことを漠然と願ったかもしれない。本作の物語は勇八という幼名で呼ばれた玉虫左太夫が所謂“藩校”の養賢堂に学び始めるというような頃から起こっている。
    兄弟の末っ子である玉虫左太夫は婿養子に出ることになった。養子に出た家の娘と、兄妹というように暮らしたが、やがてその娘が妻になる。そして若い夫妻に娘が産れるのだが、その時に妻は他界してしまった。そして周囲の勧めも在って、養子先との縁を解き、玉虫左太夫は江戸に出て活動をするということになる訳だ。
    江戸へ出た玉虫左太夫は学問の世界に身を投じて活動する。やがてペリーが来航するような時期になった。師であった林大学頭は幕府の外交顧問というようなことでの活動が多忙となり、その補佐役を務めることになった。そうした仕事に携わったことが契機で、玉虫左太夫は自身の考え方に影響を及ぼすような、貴重な経験を重ねて行くこととなり、それが注目され、仙台伊達家の藩校の教授ということになって色々な活動を展開することになるのだ。
    本作の中では、玉虫左太夫の経験というのが物語の重要な部分を占めていると思う。箱館奉行の巡察に従って現在の北海道とサハリンということになる蝦夷地を巡ったということが在った。その時の縁で、1860年の幕府の使節に従って米国渡航を経験して注目されるのだ。これらを通じて、蝦夷地と呼ばれた地域の可能性を見出し、米国で触れた体制、世情、新技術、人々の暮らしを通じて新たな国造りを夢見るようになって行く訳である。
    玉虫左太夫という人物は、詩人や歌人というような感でもなく、観たことや聴いたことを要領良く丁寧な文章に纏めて綴り、内容に関心を寄せた人達に関連事項を説くということを得意としていた。その能力が高く評価され、仙台伊達家の当主であった伊達慶邦が抜擢し、当時の不穏な情勢を巡る情報収集や分析に携わることとなって行く。
    北海道内に住んで居て、サハリンに関しても承知しているという関係で、この玉虫左太夫が巡った蝦夷地という辺りはかなり愉しく読むこととなった。同行者の1人として登場する「佐賀の島」は、明治の初めに開拓の仕事に携わる島義勇であろうし、アイヌとの付き合い方に苦言を呈する松浦武四郎とも出会うが、この人物も北海道の歴史ではよく知られる。蝦夷地に関し、豊かな資源を利用して、豊かな地域を創る可能性が満ちた場所であると玉虫左太夫は思うようになるのである。
    米国渡航に関してだが、使節団の中で主流を占めたのは条約文書に纏わる役目だけを行えば善いというような考え方、米国側が「御覧頂くか?」と申し出たことを歓迎しないような雰囲気で、玉虫左太夫は臍を噛む。後から、使節団の幹部であった小栗豊後守も似たような感覚を持っていたことが判る。勝手が違い過ぎる様子に当惑し、疲れてしまうというような人達が見受けられた中、玉虫左太夫はその「違い」の中から様々な事柄を見出そうと考えを巡らせ続けるのである。
    作者は幕末期を背景とした物語を何作も綴っている。榎本武揚の闘いが描かれる『武揚伝』、ペリー来航時に「話しをさせろ!」と現場で奮戦して箱館で散る中島三郎助が描かれる『くろふね』、新しい技術を積極的に容れて新たな概念での統治体制を築いて行こうとした江川英達が描かれる『英達伝』が在る。“時代”を乗り越えて“未来”を創ることを夢見て、必ずしもその想いを遂げられずに終始してしまったが、懸命に生きた男達が在った。そんな系譜に、この玉虫左太夫の『左太夫伝』が加わった。
    所謂“時代モノ”については、色々な読み方、愉しみ方が在ると思う。そういう一つだと思うが、作中の主人公が懸命に生きながら考えている様々な事が「現在?」というように想いが巡る場合が在る。
    玉虫左太夫は、ペリー来航の際の対応を手伝ったことで出会った「米国」を実際に訪ね、日本国内で重んじられていたような儒教の“礼”を基礎とするような秩序と無縁な世界を、太平洋を渡る航海に際しての艦の士官達と水兵達の様子から始まって、街の様や大統領官邸の様子に至る迄で目撃し、中に入って色々と経験する。そして共和政体の下で、誰もが自由に安心して生きられる“情”に溢れる様子が指向されていると強く感じる。そういう社会を支えるのが様々な技術で、そうした技術に支えられる産業なのだと観る。
    近年の色々な様子を思う中、「玉虫左太夫の夢」が150年余りの時間を経て「実現?」と思いながら読後の余韻に浸った。「共和政体の下で、誰もが自由に安心して生きられる“情”に溢れる様子が、優れた技術に基づく産業に支えられる」というような様子が「玉虫左太夫の夢」なのだと思うが、如何であろう。玉虫左太夫は「夢」を共有出来そうな榎本武揚との共闘を思い描いて、果たせずに散ってしまった。本作の物語は、何か「考える材料」になりそうだ。
    この作者のファン、また作者による幕末期の物語の読者としては、例えば蝦夷地の旅の仲間であった「佐賀の島」、米国渡航の復路で立場の違いを度外視して話し掛けて来たので語らった小栗豊後守というような人達の物語が読みたいというようなことを思った。
    必ずしも知名度が高いのでもないが、当時の多くの人が全く知らなかった様子に触れ、持ち前の文章力を駆使してそれを伝えようとし、揺れ動く時代の大きな渦の中に消えた玉虫左太夫の物語は興味深く、多くの人に薦めたい。何処かに、この人の事績を紹介する展示の様なモノが登場しても好い筈だというようなことも思った。

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    2024年08月24日
  • 降るがいい

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    佐々木譲『降るがいい』河出文庫。

    13編収録の様々な人びとの人生模様を描いたサスペンス短編集。1編1編の扉に。佐々木譲による短編の内容を連想させるモノクロ写真を収録されている。

    流石はベテラン作家、人生の機微を知っているようだ。1つ1つの短編に味わいがあり、丁寧に噛み締めながら読みたい短編ばかりである。


    『降るがいい』。表題作。人生を左右するような濃密な時間をさらっと描いてみせる手腕に驚く。誰に恨む訳でなく、世の中の全てを恨むような男の最後の台詞がタイトルになっている。御用納めの日、雪が降りしきる中、加藤孝志は最後のメールを送って来てから何度電話しても、着信拒否する相手の居所を探る。相手の姿は2軒目に入ったワインバーのカウンターにあった。

    『迷い街』。誰にも一度だけしか見たことのない忘れられない景色がある。二度と出会えない景色を追い求めることは人生に於いて意味があるのだろうか。主人公のわたしはイタリアのホテルの5階にあるレストランで吉川冬樹という老人に話し掛けられる。吉川は3年前にスケッチ旅行でこの街を訪れ、その時に見たトラットリアの中庭の景色が忘れられず、その中庭を探しているのだと言う。

    『不在の百合』。人生に巡って来たチャンスを物に出来るか否かでその後の人生が決まる場合がある。チャンスを逃したから、その後に悪い人生が待ち受けるのかと言えば決してそうではない。新宿三丁目の小さな劇場で初日だという演劇が突如休演になる。主役を務める女優の大塚百合が倒れたのだ。4年後、その演劇で脚本を担当した新井透は女優を引退した大塚百合と偶然出会い、その時に起きたことの真相を知らされる。

    『隠したこと』。人間の縁とは思わぬ形で思わぬ結果をもたらせることがある。主人公は何を隠していたのか気になりながら、読み進める。ある日、安藤章一は同じ業界で働く清水真知子が亡くなったことを彼女のアドレスから送られたショートメールで知らされる。彼女とは9ヶ月前に飲んだのが最後だった。

    『反復』。仕事の同僚や幼馴染、趣味で知り合った友人とどう付き合うのが正解か。友人や知り合いと言えど、他人に過ぎない。少なくとも金銭的な支援をするのなら、それなりの人物でないと嫌な関係になりそうだ。森田秀一のかつての部下の二宮淳史はなかなか再就職先が決まらず、貧困に喘いでいた。森田は何度か金銭的な支援をするが、二宮は就職先に妥協することもなく、再び新しい女性と同棲しようとしていた。そんな二宮に森田は……

    『リコレクション』。こちらも仕事の同僚同士の話なのだが、納得のいく支援の仕方であろう。新井裕也は肝臓の病気で写真家を引退し、生活保護を受けて暮らす佐久間潔のために佐久間が撮り貯めた写真からセレクトし、写真集にまとめてネットに公開することを思い付く。

    『時差もなく』。同僚が退社するということは何度も味わった。様々な理由があって退社するのだが、殆どの理由は仕事や会社、或いは上司が嫌になったからだ。あの時、もう少し当人の気持ちに寄り添ってあげれば、退社しなかったのだろうかと考える時がある。村井裕一は、30年前に一緒に働いていた有能な森歩美という女性からSNSで連絡を受ける。歩美は当時の有笠という上司から虐められ、やむなく退社したのだ。村井もその4ヶ月後に退社した。30年という時差を埋める歩美の連絡に過去の思いに馳せる村井だった。

    『ショッピングモールで』。最後の最後にオチがある。人間というのは簡単には変わることが出来ないのだろう。人間はそういう弱さを抱えているからこそ、苦悩するのだろう。かつて働いていた会社の社長が主催する会場に参加した緒方淳平。会社を円満退社して独立した淳平は何度か社長夫人である谷藤麻由美の相談に乗っていた。恩義のある社長にそれがバレるのではないかと気に掛かる淳平。

    『遺影』。仲の良い長年の同級生仲間に生じた亀裂の正体。イヤミスのような雰囲気もあるサスペンスフルな短編である。ステージ4の癌で亡くなった哲郎の大学時代の同級生、星野智恵美。智恵美の夫の裕二もまた同級生で、同級生仲間で裕二を慰める会が開かれる。

    『分別上手』。結末を招いたのは主人公の江上寿美子の意趣返しなのか。寿美子の過去を思えば、そういう荒業に出たのも理解出来る。75歳になっても生活のためにビルの掃除を仕事にする江上寿美子は担当のビルに住む三井田という男に会う度に挨拶をするが、無視されてばかりだった。ある日、寿美子は三井田が若い女性と共にエレベーターを降り、出勤するところに遭遇する。

    『褒章と罰』。男女の仲というのはなかなか難しく、一筋縄では読み切れない。高校の同級生、藤堂秀一の藍綬褒章受章を祝う会に出席した大野英樹。藤堂は高校時代に英樹が付き合っていた理恵を奪った男だった。理恵が亡くなると藤堂は浮気相手と再婚した。

    『三月の雪』。雰囲気が良い。主人公の千晶の嫌な過去がクラシックギターの音色で消されていく。雪の降る三月の夜。千晶が切盛りするバーには開店から誰一人として客は来なかった。そこに突然、ギターを弾かせて欲しいと青年がやって来る。思い掛けず、店内で始まるクラシックギターのライブ。

    『終わる日々』。家族の縁は消えることはない。北海道に住む父親と長い間疎遠だった中島敏夫は父親がウイルス性の肺炎で長くはないという連絡を妹からもらい、病院に駆け付ける。複雑な家庭の事情で苦労していた父親。敏夫は父親と会話し、父親の思いを知って長年のわだかまりが消えて行く。

    定価858円
    ★★★★★

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    2025年01月12日
  • 北海道警察 11 警官の酒場

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    相変わらずのモジュール。ミステリ的には大した話ではないけど、相変わらず読ませます。今後の新展開に期待。

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    2024年04月19日
  • 北海道警察 11 警官の酒場

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    道警シリーズ11作にしてシーズン1完結編(らしい)。道警大通警察署の盗犯係佐伯と新宮はスマホの盗難事件を追い、少年係の小島はスマホのひったくり事件を追う。それぞれの事件は闇バイトによる殺人強盗事件へと収斂していく。津久井が警官を辞めてジャズピアニスト奈津美と、佐伯が父を施設に預け小島と元サヤに?一区切りの1冊。

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    2024年03月18日
  • 沈黙法廷(新潮文庫)

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    黙秘で守られるものが、この裁判の有罪判決以上に重大なものだということがありますか?
    全てがこの一言に集約されている気がする。

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    2024年03月17日
  • 武揚伝 決定版(下)

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    結局のところ開陽丸が戦艦大和と同じように一度もその能力を発揮することなく沈んでしまったことが函館における惨敗の最大の要因だったということか。
    共和国建立の夢は敗れたとはいえ、健明がその後の明治政府において彼の見識とヨーロッパて学んだ知識を幅広く分野で役立てたという事実が救いです。
    国の正史は常に勝者側の都合の良いように記録されるのが世の常とはいえ、これまでの通説と本書における薩長の卑劣さのギャップは非常に大きいので、改めて薩摩側から見た作品も読んでみたいと思う。
    とはいえ、幕末から明治にかけての日本には歴史上の有名人以外にも世の中を変えたいと本気で思い行動した人がたくさんいたことを知る素晴らしい作品でした。

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    2024年01月01日
  • エトロフ発緊急電

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    太平洋戦争開戦を巡る諜報活動の話。択捉島の取材なんてできなかったと思うが、リアルな描写に引き込まれる。佐々木譲さんの主人公は皆すごい能力を持っているのに恵まれない境遇で何処か諦念感漂う人が多い。
    NHKドラマの「エトロフ遥かなり」見たいな…

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    2023年12月15日