田中慎弥のレビュー一覧
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「断ったりして気の弱い委員の方が倒れたりしたら、都政が混乱するので。都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」
調べると、彼が芥川賞を受賞したのは2012年。影のある二枚目なルックスと人を食ったようなコメントに痺れた。同時受賞の西村賢太もキャラが立っていて、文壇に盛り上がりを感じた事を思い出す。その後、先に逝ったのは西村賢太。私小説は、同時代では西村の方の専売特許のはず。しかし、田中慎弥もその路線で、年老いた母にすがりながらのデカダンスを語る。
本作は、どこまで実話か、どこまで本音か分からない。登場人物は作家だし、自身の日常を描いているようにも見えるが、見ている世界がぼんやりして -
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表題作は、映画版を観たことがあって、こんな話だったなぁーと思いながら読んだ。あの映画、結構忠実だったんだな。全体的に共感はできない話だけど、母の義手の設定が印象的だった。
2つめの話も同じくバイオレンスな感じなのかと思ったが、意外に教科書に載っているような雰囲気だった。祖父にとっての戦争、日の丸、勲章とは。父親を亡くした少年の話だったので、先に巻末の対談を読んでいたため、著者自身がこういう少年時代を過ごしたのかな、と想像した。でも、対談では実体験を書くことはあまりないようなことが書いてあったので、そうとは限らないのかも。著者が釣りが好きなのは確かだと思うけど。
そして、瀬戸内寂聴との対談。こん -
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十人十色の「孤独論」とあるが、実際に20人近くの知識人、著名人による寄稿の寄せ集めなので、ダイジェストとしての読み応えはあるが、全てが皮層的で浅い。なんだか格言や至言を探し出したり、その言葉の周辺を少しだけ肉付けしたような文章。それでも思考のきっかけを得たり、脳内に連鎖して考えさせられるのだから、読書は面白い。複数人分を読んで、余韻で考えるのが、私自身のオリジナルな「孤独論」というわけだ。
人は、社会的分業をしているために完全な自給自足にはなり得ない。また、直接会話をする相手がいなくても、本や看板など、目に入る日本語は、その集団に帰属している証拠。ゆえに言葉が分からぬ海外での孤独感は一層強ま -
Posted by ブクログ
芥川賞を受賞した「共食い」と「第三紀層の魚」を収録。
共食い、父親が性交を行う時に、相手に暴力を振るうといったある種の性癖を、嫌いながらも自身の中に発見し、恋人に対して同様の行為を行ってしまうということにおいて、自身の中に父親と同様の血が流れていること、それがまるで定めでもあるかのようにも思え、それが何の変哲もない川沿いの田舎でのこととして描いているだけに、よりその凄惨さが浮かび上がる。
単純に父対子というような図式ではなく、いや果たして対立していたのかという疑問もある。また奇妙な親子関係が、描かれてはいないが性癖に影響を与えているのかもしれないとも勝手ながら憶測してしまう。そして描かれ