あらすじ
一つ年上の幼馴染、千種と付き合う十七歳の遠馬は、父と父の女の琴子と暮らしていた。セックスのときに琴子を殴る父と自分は違うと、自らに言い聞かせる遠馬だったが、やがて内から沸きあがる衝動に戸惑いつつも、次第にそれを抑えきれなくなって─。川辺の田舎町を舞台に起こる、逃げ場のない血と性の問題。第146回芥川賞受賞作。文庫化にあたり、瀬戸内寂聴氏との対談を収録。ほか「第三紀層の魚」併録。
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取り残され、時に一気に流される
取り残され、時に一気に流される。
細かい様々なものが、
忘れも見逃されもせずに
入れ替わり短いセンテンスで
点描される。
嫌なこともあるが強く求めてもいる、
制御できない闇に慄き、
未熟で頭が悪いとも言えるが、
明日に繋がる愛と命は応援されてもいる。
性暴力「ダメ。ゼッタイ」の話
三本立て。芥川賞受賞の表題作「共喰い」は、冗談混じりで言うと性暴力「ダメ。ゼッタイ」の話。読後、性暴力の衝動を抑え切れない人はどうすれば良いのか思案してみたが、金持ちになって風俗で発散するか、偶然の神秘的強烈体験を経て性暴力衝動が消えるか、それともいっぺん死ぬしかなさそう😱「第三期層の魚」は小学生心裡の妙を描く。同趣の作品としては、道尾秀介の直木賞受賞作「月と蟹」の方があるあるを感じた🤔「作者と瀬戸内寂聴の対談」は面白い。二人の源氏物語評や石原慎太郎評が見所。瀬戸内がナイスキャラだ🤣
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間違いなく出会った作品の中で一番記憶に残っている。短編ながら深い。文字の形をした登場人物が紙の上で繰り広げるドラマ。方言や、土地柄、主人公。入り込みずらい設定だと思うがスッと身体の中に入ってくる。
刃物のような作品だ。我が生涯の問題作。
進んで薦める事はないが、間違いなく手に取って欲しい作品。
Posted by ブクログ
頂き本。共喰いの意味がハッとさせられる。父親のようにはなるまいと遠馬がやはり同じような感覚を覚えた瞬間。恋人の千種に首をしめたり、やらないとは自信がなくなっていく様子。実母の仁子さんが最後にとった行動は、やはり母そのものに思えた。
Posted by ブクログ
読み始めから、暴力性と、閉じた世界の閉塞感が心地悪かったが、生き生きとした会話のせいか、いつの間にか引き込まれていた。
「共喰い」とは、遠馬と父親の関係であろう。
そしてそこに、生命力に溢れ泥にまみれた、ヌメヌメとうごめく鰻が重なる。
遠馬は父を、暴力を否定しつつ、自分の中にもそれがうごめいていることを感じ、自分自身をも否定し、しかし否定しきれない。父の呪縛を超えなければ、自分の生は否定される。
言い換えればこれは、伝統的な「父親殺し」の物語でもあるのだろうか。
しかし遠馬は、自らの手で父を殺すことができなかった。
殺したのは、仁子。これはおそらく、神のメタファーだろう。遠馬の父親と社で出会ったこと、毎日お参りをしていること、遠馬の父を殺したあと川面に浮かんでいるように見えたこと、別れた後はじめて橋を渡り遠馬の父を殺し、止まっていた生理がはじまったことなどから、そう思われる。
とすると、これは父親殺しの物語ではなく、神による鬼退治の物語なのか。
神は、乱暴だが偏見のない心を持つ鬼を夫としたが、その子が鬼の子であることに気付き、夫と別れて橋を渡った。
ある時、鬼が生きていると、鬼の子が生きていけないことに気付いた神は、再び橋を渡って戻り、鬼を殺したのだ。
鬼の子である遠馬は、いずれはやはり、鬼になってしまうのか。
いや、遠馬は父と違って、鰻を食べなかった。
神の言いつけを守り、共喰いしなかったのだ。
Posted by ブクログ
著者のネットでのインタビューを見て、著書を読んでみたくなった。
情景と、人物の描写が浮かぶ。
主人公、17歳の篠崎遠馬は
生みの親である母は、魚屋を一人で生計をたてている。
近所だが一緒に住まず、たまに訪問するような間柄
父と再婚相手の義母と暮らす。
父は、暴力を伴う性癖があり実母にも義母も同じことをしてきた。
自分の中にもその衝動を感じ彼女の千種に暴力をふるってしまうことに戸惑う。
倫理とか、そういうのを超えた暴力性が男性の性の表現かもしれない。
少しわからなったのは、女性達がどう思っていたのかだ。
お母さんにしても、琴子さんにしても、暴力を振るわれていてもお父さんのことが好きだったから一緒にいたのか。生活のためなのか。
最後に、琴子さんが逃げ、お父さんの暴力性が千種に向かった。
そのことを知った母は、覚悟を決めたようにお父さんを義手で殺害したのだ。
この結末をみると、女性達は耐えていたということなのか。
最後に収録されていた、瀬戸内寂聴さんとの対談が面白かった。
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女を殴る父と、同じ目をした、俺。
川辺の町で暮らす17歳の少年。セックスの時に暴力を振るうという父親の習性を受け継いでいることを自覚し、懼れ、おののく…。逃げ場のない、濃密な血と性の物語。第146回芥川賞受賞作。
映画化もされ好評だったらしい。
芥川賞受賞時の物言いにも賛否両論出たようで
なんとなく、世間を騒がせる作家さんのようですね。
この作品は、読みやすい。
しかし非常にダークな人間模様を表しており
なんともやるせない、親子の関係性、情、血縁の悩ましさなどを鬱々と描いている。
Posted by ブクログ
共喰い
とても面白かった。だが、難しかった。「時間」についての軸が捉えきれなかった感がある。
父を必要以上には悪く書いていない所がいいなと思った。
第三紀層の魚
読みやすかった。面白かった。
最後に釣り上げたのがチヌでなくコチなのは良いと思ったのだが、なぜチヌでなくコチを「第三期層の魚」にしたのかはわからなかった。
Posted by ブクログ
純文学というカテゴリを初めて知りました。なるほど、たしかに娯楽というよりは芸術に近い作品なのだな、と感じました。対談に私小説は書かないとありましたが、体験や経験なしで、遠馬の性衝動をあそこまで生々しく書き上げる腕に驚嘆しました。
Posted by ブクログ
血は争えないよなって
色んなものが川に流れていく表現が良かった
ずっとずっと雨だなって感じ
第三紀層の魚の方が好き
気づいたらぼろぼろ泣いてた
Posted by ブクログ
純文学を感じた。
共喰いは私にはまだわからないところも多かったが、第三紀層の魚は、(すこしありがちなストーリーにも感じたが)読みやすく面白かった。
巻末の対談も良かった。
Posted by ブクログ
嫌悪する父親と同じ血が流れていることに苦悩し、抗えない衝動に葛藤する主人公。細かな描写が主人公の心理を丁寧に表現する。重苦しい雰囲気だがまさにこれぞ純文学。今の時代、貴重な作家だと思う。
Posted by ブクログ
仁子さんが親父を殺すシーンの濁流の描写が凄まじい表現力で引き込まれた。ここのシーン、自分の脳内で浮かんだアニメとも実写ともつかない映像が印象的で、今後どんな媒体で映像化されてもこの文章を読んだ時の感動は超えられないだろうなと思った。でも実写映画もあるみたいだから観てみようかな。
第三紀層の魚も良かった。
この人の作品初めて読んだけど、なんか2作ともむき出しの田舎と少年の夏って感じで好きだな。こうやって書くとさわやかな雰囲気になるけど、夏特有のムワムワとした湿気が常に纏わりついていて薄暗い印象。文体もなんというかイマドキな感じじゃなくて格好いい。ちょっと渋いというか、芥川賞ってこういうのが取るよなあって感じ。芥川賞の作品大して読んでないけど。
ラストの瀬戸内寂聴との対談読んだら源氏物語読みたくなった。
Posted by ブクログ
理性と本能、思春期の急激な変貌、遺伝子と拒絶。父親の忌避すべき類似性を己から感じ取った主人公の葛藤と苦悩が淡々とした筆致で表現されている。
繊細な情景描写も多く、読む者を灰色の田舎町へ無理矢理引き込んでいく。
独特な文体であるが違和感はなく、読後は余韻に浸ることができる。
しかし、芥川賞である表題作よりも、共に収録されている短編「第三紀層の魚」の方が個人的には良い。釣りにまったく興味の無い私でも涙腺が多少緩んだ。
幼い少年と死にゆく曽祖父との交流がなんとも切ない。血のつながりが全てではないと少年の成長と経験、戸惑いを通し、流れ込む。
こちらも淡々とした情景描写に、芥川賞を獲った奇才ぶりを存分に発揮した文体で表現している。
Posted by ブクログ
迫力のあるお話。こうゆう感覚は映像化したいって思うクリエイター多いと思います。目に見えない、狂気、性(さが)、自己中心的卑しさ。程度はここまででなくとも共感しちゃう部分はあると思うんだよね。こんな人ばっかりだったら社会が変になりそうだから、ある程度までね。こうゆう感情をシーンとして情景として描かれています。凄い迫力なので私は映像が浮かびます。惹き込まれました。
Posted by ブクログ
共喰い
独特の文体が 怪しい雰囲気をつくる。
サカナのにおいが 漂っている。
カタツムリが ゆっくりと歩いている。
怪しい文体にもかかわらず 凶暴な勢いがある。
登場人物の 抱えている闇は大きい。
昭和63年のころ。
篠垣遠馬は 17歳。高校生。
つきあっているのが 会田千種 18歳。
生みの母親は 魚屋で仁子。60歳。
戦争で 右腕の手首が先からなかった。
10歳年下の父親 円。
暴力を振るうことで仁子とわかれた。
決して美人というわけではないが胸と尻が大きい琴子
35歳が 父親と一緒に住んでいる。
登場人物の設定自体も ぐにゃぐにゃしている。
川が割れ目だと言う表現に、川の表情の乏しさを感じる。
そんな川でも ウナギが釣れる。
そのうなぎを白焼きとして,おろし生姜をたっぷりのせて、
醤油で食べる父親のたくましさがある。
父親と息子の関係は 遠くなく 近い。
精神的な成長がなく、幼いのかもしれない。
父親の中に流れる獰猛な血が 息子の中にも流れている。
息子は その血にあらがいながら,その血に目覚める。
こんな父親は たまらないなぁ。
どうしようもない 男たちを とりかこむ
けなげで、どっしりしたオンナたち。仁子、琴子、千種。
第3紀層の魚
共喰い のなかにある。
ひーおじいちゃん/曾御祖父 と
ひ孫との心の交流 というべきかな。
ひーおじいちゃんは、勲七等の勲章をもらったが、
それを子どもに与えて,なくしてしまった。
おじいちゃんは 自殺し
お父さんは 警察にはいったが,死んだ。
ひ孫/信道は、小学4年生。
魚釣りが好きな少年で チヌ をつろうとするが、
なかなかつることができない。
ひーおじいちゃんは 病気で 寝たきりとなり、
徐々に弱っていく。
お母さんは かしわうどんの仕事をしていて,
東京の店長 になるので、引っ越しをすると言う。
なぜか、おばあちゃんを 郷里/山口に残していく
のが さびしいと 思った。
郷里を離れる まえに 釣りに行ったら
大きな魚が ひっかかった。
チヌが つれたと思ったが、
大きな季節外れのコチだった。
少年の中に 揺れ動く 感情が
のびのびしていて よかった。
対談 瀬戸内寂聴。
源氏物語をめぐっての 話題のやり取りが。
天皇 と その周辺の 恋物語。
日本人で最初に物語になったのが 恋物語とは。
Posted by ブクログ
何とも言えない。あまり響かず。主人公以下、登場人物の行動がよく理解できず。悪いやつならもっと荒んでいるのが自然で行動だけおかしくて、思考が大人しくそこがよく理解できなかった。悪い人の思考パターンを作者は知らないのかと感じた。それとも知った上でリアリティ無視でメルヘンチックに人物造形したのか?いずれにせよ面白い試みとは思えなかった。田中慎弥本人はめちゃくちゃ面白いのにな。
Posted by ブクログ
女性が文学上で羽織らされる理想像の形にもかなり色々あるな...と感じた。海や川になにか大きなものを感じているのか、決して綺麗なものでは無いと描写する一方で心の拠り所になっているのが2作とも共通している感じがする。
個人的には最後の瀬戸内寂聴さんとの対談が一番面白かった。源氏物語の話が読めて満足。
Posted by ブクログ
この方の作品「切れた鎖」を読んで、全く理解出来たかったのですが、こちらは芥川賞受賞作品との事で、もう一度挑戦。無事に読めました。クセのある文章ですが今回は読めたので、ほかの作品も読みたくなりました。
Posted by ブクログ
表題作は、映画版を観たことがあって、こんな話だったなぁーと思いながら読んだ。あの映画、結構忠実だったんだな。全体的に共感はできない話だけど、母の義手の設定が印象的だった。
2つめの話も同じくバイオレンスな感じなのかと思ったが、意外に教科書に載っているような雰囲気だった。祖父にとっての戦争、日の丸、勲章とは。父親を亡くした少年の話だったので、先に巻末の対談を読んでいたため、著者自身がこういう少年時代を過ごしたのかな、と想像した。でも、対談では実体験を書くことはあまりないようなことが書いてあったので、そうとは限らないのかも。著者が釣りが好きなのは確かだと思うけど。
そして、瀬戸内寂聴との対談。こんなに謙虚で、『源氏物語』とか読む人だったんだなぁと思って、「もらっといてやる」が話題となった芥川賞の受賞会見をYouTubeで見てみたら、やはり感じが悪くて面白かった。
Posted by ブクログ
第146回芥川賞受賞の表題作と『第三紀層の魚』、瀬戸内寂聴との対談を収録。『共喰い』は性と暴力が目立つというか本筋ではあるんだけど、『第三紀層の魚』と合わせて親子や家族関係におけるつながりやしがらみ、愛情と呪いが描かれている作品。特に『共喰い』で避けえぬ呪い的に描かれていたものが『第三紀層の魚』の主人公はサラッとそこから自由な視点を持っていつつ、繋がりのあたたかみや喪失感が対比的に描かれていて面白かったし、瀬戸内寂聴との対談テーマが家族や性愛のドロっとした古典であるところの『源氏物語』なのも含めて一冊としての完成度が良い。
Posted by ブクログ
共喰いは、ひたすらに欲がぶちまけられた、純文学らしい作品だった。なんというか、時代が変わったんだなぁ、良い世の中に向かってるんだなぁということを強く感じられるお話。
第三紀層の魚、こっちがとても刺さった。なんでこんな子供のときの気持ちをクリアに描けるんだろう。思い出して胸が苦しくなった。
Posted by ブクログ
共喰いと第三紀層の魚の2編が入っており他のレビュアーも書かれていたが、私も第三紀層の魚の方が好みであった。
第三紀層の魚
田舎町で、祖母や曾祖父などと共に生きた少年の成長譚であるが、じいちゃんや、ばあちゃんがいた人ならわかる気持ちが非常に共感を得る。身近な人の死、そしてそれが悲しいことなのかどうかすら、わからない少年時代。鬱屈とした昭和の空気感は
逆に読んでいて新鮮であった。
Posted by ブクログ
美しい文体に引き込まれて著者の世界観にとっぷり浸りながら読み進める面白さがあった。
迫力ある表題作と対を成すように、
優しく情緒溢れる第三紀層の魚が良かった。
Posted by ブクログ
芥川賞を受賞した「共食い」と「第三紀層の魚」を収録。
共食い、父親が性交を行う時に、相手に暴力を振るうといったある種の性癖を、嫌いながらも自身の中に発見し、恋人に対して同様の行為を行ってしまうということにおいて、自身の中に父親と同様の血が流れていること、それがまるで定めでもあるかのようにも思え、それが何の変哲もない川沿いの田舎でのこととして描いているだけに、よりその凄惨さが浮かび上がる。
単純に父対子というような図式ではなく、いや果たして対立していたのかという疑問もある。また奇妙な親子関係が、描かれてはいないが性癖に影響を与えているのかもしれないとも勝手ながら憶測してしまう。そして描かれる女性は何処か閉塞している土地と分かっているものの、そこから抜け出せないところが感じられた。読む者にとっては少し耐えられないところもあるかもしれないが、確実に読み応えはある。
Posted by ブクログ
正直がんばって読んだ。まさに芥川賞と思えるような心理描写の重さや救いがたい物語に気持ち強くないとやられる。受賞時の記者会見での「貰っといてやる」や「とっとと終えましょう」的な発言が記憶に残っていていざ作品を読むとボコボコにされる感じだ。多作ではないけれどなんか力がある作家さんだなぁ。
Posted by ブクログ
川沿いの田舎町にへばりつく様に生きる人々の描写が生々しいのだ。
生々しいのだが、父親が複雑でリアルな像を結ばない。僕の想像力の限界だ。
映画を観ると光石研さんが軽やかに演じていた。あぁ、これだ、これが正解だと思った。
ようやく父親が実体を得たけれど、読後感が著しく悪いので再読する気はしません。
Posted by ブクログ
「共喰い」:閉塞感というか、心も身体もまわりのコミュニティも、色々な意味での狭さからくる息苦しさやどうしようもない衝動をみっちり感じた。
「第三紀層の魚」:葛藤とか寂しさとかを抱えながらうまれる、分かりやすくはないのにどこか安定感のあるやさしさの描き方がうまかった。
最後の対談でも触れられてたけど、どっちの物語も、登場する女性たちの魅力や皮肉のこもっていない包容力みたいなのは男性の作者だからこそ生み出せる描写なのかなあと思った。まともに一文一文噛み締めて読んでいくと体力が持たなくなりそうな感じがあった。