田中慎弥のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
【図書準備室】
主人公がずっと喋っていくスタイルの文章。序盤のリズミカルな、小気味良い口調が読んでいて楽しかった。子供の頃、倒錯的な強迫観念を抱いた経験が多かれ少なかれ誰にでもあるのではないだろうか。大人になり世の中のことがわかってくるにつれ、それが無知ゆえの取るに足らない思い込みであることに気付く。しかし、大人になればまた別の強迫観念に縛られながら生きている自分がいる。人生が続く以上、この枠組みの外へは決して逃れられないのだと思った。
【冷たい水の羊】
自分がいじめられていると思わなければいじめは存在しない、という論理で真夫は自分を騙す。いじめを辛いと感じるような心理描写は全く出てこない、そんな真夫の強がりの論理は積まれ崩されを繰り返し先鋭化されていく。唯一の救いの可能性である水原里子の存在が真夫の積み上げた論理を揺るがす。二人で生きるという選択肢は選びようがなく、倒錯した心理は水原との心中を企てる。思えば誰もが真夫のように意識的に、または無意識的に自前の論理を拵えて生活しているのではないだろうか。その論理は自分を守るかも知れないし、殺すかもしれない。良くも悪くも自分の論理を崩してくれる存在が実は人生にとっては大切なのだ。