田中慎弥のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレニート主人公のクズっぷりが伺える祖母との会話シーン。異常に長い独白が身も蓋もない。ページを捲る毎に、祖母は遮ることもなく延々とこれを聞かされているのかと、ふと我に返る。
小説というより漫談に近い独白が数十ページにも渡って気付いたら誰も居なくなって終わる。
「冷たい水の羊」はいじめに遭う中学生の真夫が独自の理論でいじめを認めないことでなんとか生きる葛藤を描いている作品。故にいじめだと断定して心配してくる水原を敵視し、さらには殺意と性欲の対象にして憎悪を向けてしまう。
各々の登場人物が自分の考えや心情を相手に向けているが、決してそれがお互いに交わることなく自己完結している。それぞれが、双方にとって、あくまで自身に関係の無いテリトリーの脇役として登場している。
目に映る景色の表現が詩的で豊かな感じが、内向的でその人物の心情や関心にスポットが当たっているようで没入しやすい。
そのせいか、ラストパートで鳥居の前まで来た時に決意を決めて実行したのかと驚いたが、それもこれも妄想で、何気ないいつも通りの日常が始まるところで終わる。
ハッピーエンドと言って良いのか、決意を決めたものの、運命なのか、水原は家族と共に救急車に連れられ、一人で死のうと思って移動するも、かえって頭の中は安堵感で満たされ、高揚感と妄想で十分決意の意味など皆無になっている。
こうして読んでみると、真夫は別に家庭環境や周囲に恵まれないわけでも、不登校を決めるわけでもなく、普通に周囲の人に接してもらい、北上らに目をつけられていることを除けば特段希望がないわけではないように思えてくる。それは真夫自身が向ける情景にも感じ取れ、決意の重さに比べれば代わり映えのしない日常の方が余程平和なものだという改心が見受けられる。
水原を見る目が今後どう変わったのやら。 -
Posted by ブクログ
YouTubeのレコメンド機能に流されて、気付けば死ぬほどどうでもいい動画を見ていたり、AIの間違いにイラついて問い詰めたり、最近そういうことが増えて自分やばいなと思ってたけど、まさに情報の奴隷ですね。
特に印象的だったのは、田中さんが引きこもり生活中、親戚の叔父さんにそろそろ働けよ〜的な小言を言われたときに「それはそうだけど、そう言っているこの叔父さんは、川端康成じゃないしな」と思って聞き流していたというエピソード。めっちゃおもしろくて声出して笑ってしまった。川端と比べられる叔父さん不憫。
田中さんは引きこもり中に本に没頭して、結果的に作家になれたからこのエピソードも活きますが、自分の甥が将来ニートになってこんなこと言われたら、なんかひろゆきみたいで嫌だなと思った。 -
Posted by ブクログ
宇宙の起源
宇宙より前から生きているかもしれない鯨の、片方の目には宇宙の過去が。もう片方には宇宙の未来が映っている。綺麗で残酷なお話ですきだった。
揚羽
死んだ女にとまる揚羽と、カーテンレールを見上げる男。これもなんか切なくてすき。
うどんにしよう
わお。
男たち
わらうw金や麻生太郎、太宰治に三島由紀夫が対話してる。内容もおもしろすぎる。
見えないもの
暗闇すぎて悪夢。眼球が無くなったあとの穴に触れてみた、なんて怖い表現だけど、指先が微かに濡れた、ってなんか綺麗だなと思っちゃった。
どれも悪夢みたいな話で、夢と現実の狭間的な話がすきな私には、すきな本だった。 -
Posted by ブクログ
読み始めから、暴力性と、閉じた世界の閉塞感が心地悪かったが、生き生きとした会話のせいか、いつの間にか引き込まれていた。
「共喰い」とは、遠馬と父親の関係であろう。
そしてそこに、生命力に溢れ泥にまみれた、ヌメヌメとうごめく鰻が重なる。
遠馬は父を、暴力を否定しつつ、自分の中にもそれがうごめいていることを感じ、自分自身をも否定し、しかし否定しきれない。父の呪縛を超えなければ、自分の生は否定される。
言い換えればこれは、伝統的な「父親殺し」の物語でもあるのだろうか。
しかし遠馬は、自らの手で父を殺すことができなかった。
殺したのは、仁子。これはおそらく、神のメタファーだろう。遠馬の父親と社で出会ったこと、毎日お参りをしていること、遠馬の父を殺したあと川面に浮かんでいるように見えたこと、別れた後はじめて橋を渡り遠馬の父を殺し、止まっていた生理がはじまったことなどから、そう思われる。
とすると、これは父親殺しの物語ではなく、神による鬼退治の物語なのか。
神は、乱暴だが偏見のない心を持つ鬼を夫としたが、その子が鬼の子であることに気付き、夫と別れて橋を渡った。
ある時、鬼が生きていると、鬼の子が生きていけないことに気付いた神は、再び橋を渡って戻り、鬼を殺したのだ。
鬼の子である遠馬は、いずれはやはり、鬼になってしまうのか。
いや、遠馬は父と違って、鰻を食べなかった。
神の言いつけを守り、共喰いしなかったのだ。 -
Posted by ブクログ
著者のネットでのインタビューを見て、著書を読んでみたくなった。
情景と、人物の描写が浮かぶ。
主人公、17歳の篠崎遠馬は
生みの親である母は、魚屋を一人で生計をたてている。
近所だが一緒に住まず、たまに訪問するような間柄
父と再婚相手の義母と暮らす。
父は、暴力を伴う性癖があり実母にも義母も同じことをしてきた。
自分の中にもその衝動を感じ彼女の千種に暴力をふるってしまうことに戸惑う。
倫理とか、そういうのを超えた暴力性が男性の性の表現かもしれない。
少しわからなったのは、女性達がどう思っていたのかだ。
お母さんにしても、琴子さんにしても、暴力を振るわれていてもお父さんのことが好きだったから一緒にいたのか。生活のためなのか。
最後に、琴子さんが逃げ、お父さんの暴力性が千種に向かった。
そのことを知った母は、覚悟を決めたようにお父さんを義手で殺害したのだ。
この結末をみると、女性達は耐えていたということなのか。
最後に収録されていた、瀬戸内寂聴さんとの対談が面白かった。