田中慎弥のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ仁子さんが親父を殺すシーンの濁流の描写が凄まじい表現力で引き込まれた。ここのシーン、自分の脳内で浮かんだアニメとも実写ともつかない映像が印象的で、今後どんな媒体で映像化されてもこの文章を読んだ時の感動は超えられないだろうなと思った。でも実写映画もあるみたいだから観てみようかな。
第三紀層の魚も良かった。
この人の作品初めて読んだけど、なんか2作ともむき出しの田舎と少年の夏って感じで好きだな。こうやって書くとさわやかな雰囲気になるけど、夏特有のムワムワとした湿気が常に纏わりついていて薄暗い印象。文体もなんというかイマドキな感じじゃなくて格好いい。ちょっと渋いというか、芥川賞ってこういうのが取るよ -
Posted by ブクログ
理性と本能、思春期の急激な変貌、遺伝子と拒絶。父親の忌避すべき類似性を己から感じ取った主人公の葛藤と苦悩が淡々とした筆致で表現されている。
繊細な情景描写も多く、読む者を灰色の田舎町へ無理矢理引き込んでいく。
独特な文体であるが違和感はなく、読後は余韻に浸ることができる。
しかし、芥川賞である表題作よりも、共に収録されている短編「第三紀層の魚」の方が個人的には良い。釣りにまったく興味の無い私でも涙腺が多少緩んだ。
幼い少年と死にゆく曽祖父との交流がなんとも切ない。血のつながりが全てではないと少年の成長と経験、戸惑いを通し、流れ込む。
こちらも淡々とした情景描写に、芥川賞を獲った奇才ぶりを存分に -
Posted by ブクログ
【図書準備室】
主人公がずっと喋っていくスタイルの文章。序盤のリズミカルな、小気味良い口調が読んでいて楽しかった。子供の頃、倒錯的な強迫観念を抱いた経験が多かれ少なかれ誰にでもあるのではないだろうか。大人になり世の中のことがわかってくるにつれ、それが無知ゆえの取るに足らない思い込みであることに気付く。しかし、大人になればまた別の強迫観念に縛られながら生きている自分がいる。人生が続く以上、この枠組みの外へは決して逃れられないのだと思った。
【冷たい水の羊】
自分がいじめられていると思わなければいじめは存在しない、という論理で真夫は自分を騙す。いじめを辛いと感じるような心理描写は全く出てこない、