あらすじ
第146回芥川賞受賞後初の小説集にして著者初の掌篇集。1600字の読み切りで展開される37篇は、〈生老病死〉〈結婚・離婚〉〈殺人・自死〉など日常に潜む狂気をも描く、怖ろしく、あり得なく、しかも美しい田中ワールド。あとがきには著者自身の告白もあり、フィクションの醍醐味に満ちた一冊!
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不思議な触り心地のする、黒と黄が印象的なカバー。装釘もどことなく妖しく美しい本文を想像させる。
本書は田中慎弥氏が毎日新聞西部本社版に2008年から2012年の1月まで連載していた掌編小説を編んだ物である。
新聞連載のため、時事を取り込んだ作品も多い。
例えば《扉の向こうの革命》《感謝》などは震災を取り扱い、《男たち》では作者曰く『当時の政治状況を拝借』して氏が芥川賞のスピーチで言及した都知事や、乱読した作家たちが時代を超えて雑談に勤しむ姿が描かれる。《客の男》には当時プロ入り後間もなかったであろう、例の「王子」と思しき人物も登場する。
『共喰い』に見られる地方色の強い濁ったストーリーが特徴的だと思われる作家だが、この本では様々なモチーフから物語を創り出していく氏の姿勢を感じ、新たな魅力に触れることが出来るのではないだろうか。
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ゼミの課題図書でした。
手に取ったときの印象は「随分と短いな」ということ、それとカバーのするりとしたちょっと変わった感触。指紋がつきやすそうだなぁ、と。
読んでみての感想というか、読みながらの感想になるのですが。
タイトル通り「掌編小説」が「陳列」されている、全体としてそんな雰囲気の本でした。
好きな話とかを一つ一つ書き連ねるのも大変そうなので、大まかに思ったことを。
まず登場人物にほぼ名前がついていないことが気になりました。
もちろん「男たち(一幕)」は別ね。
なぜだろうか。
この掌編が毎日新聞に連載されていたものだと知って、あぁと思いました。
新聞に載っている記事ってノンフィクションじゃないですか。
それでも、自分の日常とは少しかけ離れた事件が記事になっているわけで。
そんな記事を見ながら、考える。
「なるほどそんなことがあったのか」
この時、新聞を読む人は別に事件現場に心を馳せているわけじゃなくて、心は自分の中に置いたままで目の前の文字を追いながら事件に向き合う。
そんな新聞記事を読む姿勢と同じように、読めるように名前がついてないのかな、と。名前がつくと、いっきにフィクションくさくなるので。
小説を読むときって、主人公の生きがいをなぞる内に、感情がシンクロしたり、一緒に憤ったりすると思うんだけど、この作品にはそれがない。なんせ短いから、その暇がない。
じゃあ作者は読者に対して登場人物をどう表現しているのかというと、シンクロさせるのではなく、真正面に対座させている。『鏡の向こう』みたいなそんな雰囲気。
読者は話の外側にいられるから、取り立てて何か冒険があるわけではない話でも「おお、これは面白い」と読み切った瞬間に思う。読み切った瞬間っていうのは、つまり話のテーマを把握した瞬間と同じことである。
それぞれの話の本当に簡素、質素?な描写が個人的には大好きです。
文章自体に捻りが効いているわけじゃない。
だからこそ、トスッと一文が突き刺さる瞬間がある。
夾竹桃の「人々の無言を蝉の声が埋めた。」っていう表現とか、特に好き。
課題で呼んだ本ですけど、これは買って良かったな~~と思いました。
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ちょっと毒有りのキャライメージの田中さんだからではないですが、初ものは短編からいってみました。
私的には怖い、面白いといったところの他とてもきれいでわかりやすい文面という感じで好感度大です。
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昨年の芥川賞で話題をかっさらった田中氏の掌編小説集。
とかく風刺みたいなものを書かせるとこの人光るなぁ…と。個人的には「男たち(一幕)」がフフっと笑えるために好きだったり。どれもたった3~4ページしかないのに、どこか「えっ?!」と思うような終わり方をしているので、読んでいていろいろな引っ掛かりを覚える。でも、それがこの小説集の良さなんじゃないかなー、と私個人は思います。
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どの話も先が読めず、どうなるんだ?と進むがあっという間に終わっちゃうショートストーリー。いくつか怖い!と心に響く物もあり、何度読んでも心に残らない作品あり。ほかにはどんな文章を書くのだろう?
いくつか使い慣れない見慣れない語句があって、最近「文学」読んでなかったし・・・と自分を省みた
Posted by ブクログ
初めて田中作品を読むのに短編だったらいいだろうと思って借りた。すごくよかったのでここのレビューを見て意外だった。とはいえ内容は覚えてない・・・。
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第146回芥川賞はニュースにかなり取り上げられたのを覚えているだろうか。「共喰い」で受賞した田中慎弥さんの会見が非常に話題になり、また受賞スピーチでも一言で終わり、インターネットだけではなく、各メディアで大きく取り上げられた。その結果「共喰い」は大ヒットし、作家としての知名度が大幅に上がった。
もともと2008年に川端康成文学賞、三島由紀夫賞を受賞しており、何回も芥川賞候補になっているので、力はかなりある作家である。なんでもそうだが、実際に受賞した人は記憶に残るが、それ以外はすぐに人々に忘れ去られてしまう。会見及びスピーチで世間的にかなりイメージが作られてしまったが、王様のブランチや他のインタビューではもっと穏やかな表情を見せる。もちろん皮肉屋ではあるものの。
本書は2008年から毎日新聞西部本社版文化面で連載中の作品をまとめたものである。1編の分量は3ページと読みやすい。下書きも含めて一日で書いているそうだ。語り口も設定もそれぞれ異なる37の小説で構成されている。タイトルは愛読していた川端康成の「掌の小説」からオマージュされている、「掌」とエンターテイメントの「ショー」の意味を込めて「掌劇場」だ。
本書を読んでみると、著者がブラックユーモアたっぷりに、様々な角度で物語を描くことが得意ということがわかる。ミステリー、日常、フィクションと一冊にあらゆる形式が詰まっているのでお勧めだ。小説が苦手って思っている人が読んでみて、じょじょに短編小説、長編小説と手を伸ばしていけるきっかけになる一冊かもしれない。
Posted by ブクログ
難しい。今の私に解釈は。
しかし美しい。
そよ風に吹かれながらさらっとよみたい感じ。
空にみたものでは、なぜか涙が流れました。
全編通して、あぁ、田中さんは温かい人なんだろうなぁって印象を受けた。
偏見?
でも好きー笑
Posted by ブクログ
新聞への連載用ということでか、これまでのものと比べれば格段に読みやすい。視点を変え品を変え、個性的で味わい深い37編が並ぶ。いずれも結末への期待感にそそられながら、するする読める。但し結末はない。ぶつ切り多すぎで、思わず「えっ終わりっ」を連発。気持ち悪さを残しながらも不思議な想像をかきたててくれた。
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3ページほどのぴりっとした作品が並んでいる。初めて作品を読んだけど、丁寧な文体が印象的だった。ごう慢な感じはどこにもない。物を決して一面的に見ない視線は厳しくて温かい、じゃないかな。震災について書いた4作品が特に好き。やっぱり、目線は低く、事実を等身大で受け止めたことを言葉にしている。
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毎日新聞に掲載したショートショート集。一話3ページだから本当に短い。 毒がある内容や、時事ネタ、意味不明まで様々。
あとがきの、「私は図らずも、小説という絵空事に命を懸けてしまっています。命を縮めて得た糧で、また命を延ばす、この掌編集も、その結果であり、過程です。」 がしっかりブンガクしているようで、何か良かった。
Posted by ブクログ
他の多くの方と同様、私も芥川賞の受賞インタビューで著者のことを知り、それで受賞作を読んでみた。
この掌篇集は、2008年10月から2012年1月まで、毎日新聞西部本社版に連載されたもの。
一篇が3頁前後、不思議でちょっと不穏な、ときにユーモラスな、そしてリリカルな掌篇が並ぶ。
私は存外、この本の全体が好きになってしまった。
「存外」というのは誉め言葉で、芥川賞受賞作から想像していたよりも、遥かに様々な色合いの、遥かに様々な想いを掻き立てられて、そしてそれが楽しかったのだ。
「あとがき」で著者は、「命を縮めて得た糧で、また命を延ばす。」と記すが、たしかにこれは、著者の内面の何かを削って書かれたものだと感じる。
見事な矜恃も感じられる。
遅ればせながら、他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
共喰い(に関しての他人の感想)のイメージから濃くてどにょりとしてるのかなと思ってたけど、そうでもなかった。
どれもほんの1枚程度の短編でサクサク読めてしまった。
現実と村上さん的境界線上の話(ファンタジー寄り)から、日常と非日常の話まで。
個人的には うどんにしよう、雨の牢獄、リレー、四丁目十番地、意志の力、悪魔、会話の中身、竹やぶ あたりが好きだな。(多)
いきなりいきなりな言葉が出てきたりして思わず何度も何度も読み返してみたりした。どん!と出して放置!みたいなのすごくいい。不穏な空気が一気にブワッと溢れてきてそれ以後は全て白く見ることができないw
日常と非日常に関しては小さいことなら自分にもよくあるよね。仕事でやらかす前と後とか。さすがに殺す前と後とか死ぬ前と後とかそんな経験はないけど。
ブンガクにありがちな、何かの比喩的な話は難しくてよくわからない。怪物 とか宇宙の起源とか。
でもなんでだろう、書いてることは普通のことなのに、何が書きたかったんだろう?って裏に何かあるのかと疑い、裏の裏の裏を見すぎてこれはコメディか?って感じるのが不思議だ。
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仕方がないので最後の手段に出ることにした。死を遠ざける最も有効な、限りなく情けない方法は、死の準備をすること以外にない。私は真新しい原稿用紙を取り出すと、遺書に手をつけた。死ぬまで書き終わることのない、長い道のりの始まりだった。
(P.92)
Posted by ブクログ
「共食い」挑戦前の、田中慎弥慣らし第2弾。
ひとつひとつがとても短い話なので、気が抜けませんでした。
面白い話と、理解できない話との差がありました。
でもこれは、私の読解力のせいだと思われます…。
「これからもそうだ。」や、インタビューを読んだときも思いましたが、
田中慎弥さんの発する言葉や文章を読むと、ときどきぐっと魅きつけられことがあります。
Posted by ブクログ
1篇がとても短くてさらりと読めてしまう。
不思議な話だなぁとぼんやり思う話と、ものすごく怖いと思う話があった。
怖いと思わなかった話はただ単に私がその物語の中に隠れている毒に気づいていないだけて、全部怖い話なのではないかと想像する。
特に怖かったのは「怪物」。ぞっとする怖さ。
「願望と遺書」はちょっと笑ってしまった。(笑っている場合ではないほど切羽詰まった話なんだけど)
本当にこんな精神状態になったら自殺する前に頭がおかしくなると思う。
でもその必死さが滑稽でもある。
そんな不思議で、(私の場合は)たまにぞくっとする掌篇集。
田中慎弥さんの長編も読んでみたいなと思う。
Posted by ブクログ
装幀がいい。でもこれ本棚に普通に差しといていいのかな。
いわゆるショートショート。でも星新一みたいな感じはしない。起伏やオチが弱いからだけど、それがマイナスかというとそうでもない。
淡々とさざめく海を眺めている。あー綺麗だなぁと月並みな感想をもつと、一匹の魚が跳ねる。次の瞬間にはなにごともない海なのだが、読者は遅れて気づく。その魚のグロテスクさに。みたいな。
なんでもないような話だけどピリッと皮肉が効いてたり。そんなものにニヤッとして楽しむ小説。
Posted by ブクログ
何気ない日常を描いたような文中に「何故そこにそれが?」という怖いことが…。でも一篇一篇は本当に掌編。良い小説とは長さに関係なく書けるものなんだなと思いました。
Posted by ブクログ
王様のブランチで紹介され、読んでみました。新聞に掲載されていたもので、どれも超短編です。政治家の対談?「男達(一幕)」とか、震災以後に書いたものは原発を題材にしており、毒のある作品が多いです。