Posted by ブクログ
2018年02月03日
高校から引き篭もり、読書と執筆の中に身を置き、果てに芥川賞を受賞する著者。捻くれてそうで、常識人ぽくない所が面白そうではないか。本来、作家稼業は生き様が詩的であって欲しいものだ。そして確かに、彼の書く純文学には詩的な魅力があった。
しかし、主張は一本、生業の奴隷になるなと。自分を押し殺し、思考停止...続きを読む、ただ働くだけ、主客転倒に仕事や道具に使われてたまるか、と。少し、ズレているか。奴隷とはある種の状態だが、人は、カロリーを得るために自由を交換する社会性生物なのだから、一時的な「奴隷状態」などは飯を食うためには必ず経験する事だ。それはつまり、肉体の限界や根源的な欲望に対し、それこそ、精神との主客転倒状態が、生理現象では避けられない事だからだ。シンプルに言うと、我々は生きながらに奴隷であるという事になるが、少なくとも現代は肉体的には拘束され続ける訳ではなく、欲望の奴隷という事だ。だから、生業の奴隷の方は、これは手段なのであって、彼の主張は少し言葉の選びがズレていると感じてしまう。奴隷になるなというよりも、単純に、自らの意思を捨てず、自分が何をしているかは理解しとけ、程度の事だろう。その上で、自殺しないで逃げろと。
まあ、この事はあまり大きな問題ではない。後半割かれる読書論が、非常に的を射ており、共感できた。それだけでも、読んで良かったかなと。