スティーヴン・キングのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
スティーヴン・キングは「悪夢のような話」が本当にうまい。
日常生活に、カチッと悪夢スイッチが入る瞬間。
あるいは、気づいたら悪夢に浸食されていることに気づく瞬間。
現実(リアル)の生活や登場人物自身のリアリティがあってこそ生きる、その怖さ。
でも、ただ怖いだけじゃないところがこの人の小説の面白さです。
列車の脱線事故で田舍の駅に取り残された乗客たち。デイヴィットは婚約者のウィラを探しに町へ向かう――「ウィラ」
子どもを亡くしたエミリーはランニングに没頭するようになる。夫と離れて訪れたオフシーズンのリゾート地でも走り続ける。そこでふと目撃したのは――「ジンジャーブレッド・ガール」
老年にさしかかった夫婦。ある朝ジャネットは夫の口から昨夜見た夢の話を聞かされる――「ハーヴィーの夢」
小説家であり英語の講師をしているダイクストラは、ある晩トイレに行こうと立ち寄ったパーキングエリアで切迫した事態に遭遇する――「パーキングエリア」
肥満気味の商業イラストレーター、シフキッツは、医者からの忠告を受け、エアロバイクでの運動を始めた。ダイエットは順調に進んだのだが――「エアロバイク」
NYのアパートメントで暮らすスコットの家に、見覚えのある物たちが突如出現する――「彼らが残したもの」
NY近郊のハイスクールを卒業した日、ジャニスはボーイフレンドのバディの家にいた。そこで目にしたものは――「卒業の午後」
中編短編織り交ぜての7編。9.11の同時多発テロにまつわる話も。
キングの巧さといろいろな怖さ、面白さが楽しめるので、長編に手が出ないでいる人におすすめかもしれない。
個人的には、「ジンジャーブレッド・ガール」の怖さと面白さが、群を抜くと思うのです。これぞキング!だと。 -
Posted by ブクログ
大好きなキングの短編集です。7編収録。大好きなキングがあの「9.11」を題材にしているなんて、それだけでどんなものか心躍らせて読み始めました。
「ジンジャーブレッド・ガール」
ローズマダー的な怖さ。追われる恐怖、逃げる女性。すごい緊迫感で次々読み止まらなかった。
「ハーヴィーの夢」 、「パーキングエリア」、「卒業の午後」
世にも奇妙な的な。しかし描写が緻密。
「エアロバイク」
すごくドキドキした。自分の体という工事現場でカロリーと糞の処理に働く4人の男たち。画家の想像の産物にすぎないはずだった彼らは、「ダイエット」によって自分たちの仕事を奪う「体の持ち主」に憤りを感じ始めていた。
絵が動く、自分が自分に殺される。現実か夢かわからなくなっていく構成が良い。
「彼らが残したもの」
9.11を偶然回避した男。しかし彼の部屋にはなぜか死んだ同僚たちのデスクにおかれた”遺品”が現れ…
アメリカに大きな衝撃を与えた9月11日のテロ。少し怖く、ミステリアスに、しかし暖かく短編にまとめているのは素晴らしいと思う。いいエンディングだった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ正直微妙な話も含まれてる短編集だが中編「ジンジャーブレッド・ガール」はガチ。
幼い娘を亡くした痛手から立ち直れない女は、ある日ふと走ることに興味を持つ。何の脈絡もない行為ではあったが「取り憑かれたように」走り始めた。倒れるまで走る彼女を夫は理解できない。
夫婦は「冷却期間」を設けることとなり、エミリーは父親の別荘がある島へ移った。
普通に予想される展開としては、人々と触れ合い心の交流を果たすうちに傷が癒え、人生と前向きに付き合っていく決意を固めたところで夫と和解して終わりだろうが、そこはキング御大。まったくこちらの期待どおりにならない。
エミリーは頭のイカれた殺人鬼に遭遇する。死体を発見してしまったのだ。一度は彼に捕まったエミリーだったが隙を見て逃げる。そして彼女は走る、走る、走る。なぜ走るのか。これまで自分でも分からない衝動に突き動かされてきた彼女は、今度はハッキリと「生きるために」走る。その中でエミリーは再生していく。その姿が実に感動的。
小難しい哲学や宗教、通り一遍の感傷的なスタイルに用はない。エミリーはガムテープを剥がし、肉切り包丁を振り回し、椅子の肘掛けで男を殴打するのだ。そして追いかけてくる男を振り切るため走る。そうした具体的でサスペンスフルな行動の積み重ねがエミリーを再生させる。
説明してしまえば1行で終わることを1ページ、2ページかけて語り尽くさねば気が済まないキング御大の執拗な描写も今回は冴え渡っている。 -
Posted by ブクログ
ひたすらに具象を積み重ねた質実な行間からしっかりとみずみずしい感傷が立ち上がる。今、自分はこの本と、とても人間的な何かを分かち合っているという思い。
『ジンジャーブレッド・ガール』では筆力は最高潮に達する。非常にスピード感のある緊迫した文章に、「読んでいる」意識がすっかり飛んでいたほどだ。それにしてもまるで現在の自分の体験を実況しているかのような、具体的描写のうまさはすさまじい。私が文字を追う速度と、描かれている事件が進行するシンクロニシティも絶妙だ。この中編を読んだあとはしばらくの間、自分の些細な行動を頭の中で詳細に実況してしまう癖がついてしまった。
ストーリー的には、どの作品も起承転結があいまいで、完結した印象をあえて排除している。その代わり、ある人物のある状況を、深層までも克明に浮かび上がらせようと試みているようで、個人的には好きな作風だ。しみじみした筆致が胸を打つ『彼らが遺したもの』、ナンセンスで可笑しい『エアロバイク』、得も言われぬ不安の予感を的確に文字に置き換えた『ハーヴィーの夢』、さすが巨匠とうなずく粒ぞろい。 -
Posted by ブクログ
分冊短編集の後半。「N」★★★ラヴクラフトにも通じる、別の次元からの侵入してくる物と強迫神経症的に精神が壊れて行く過程をからめた恐怖。他人と共有する事ができず自分で抱え込むことで問題はどんどんふくらんでくる。これって早めに誰かを巻き込んでいたら問題そのものが成立しないのでは???でも、逆にタイミングを外してしまうことは日常的によくあることか・・・おそろしい「魔性の猫」★★ストレートに恐ろし〜猫「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」★★★★9.11の影響を受けたと思わせる飛行機事故が生み出した切なくも不気味なお話。親しい者の死と直面した時の感情の切り出しかたが見事です。「聾唖者」★★★公金横領の上、不倫相手の男と逃げた妻を持つ冴えない中年男をいったい誰が救ってくれるのか?「アヤーナ」★★受け継がれて行く奇跡の力。これも映画にピッタリか。「どんづまりの窮地」★★★★悪趣味大好きキング全開。食事しながら読んでしまい大失敗。う〜ん、こんな窮地にだけは追いつめられたくない。簡易トイレがこんな恐ろしい場所に変わるとは・・・使うたびに思い出してしまうのだろうか・・・昔「恐怖新聞」って漫画を読んで夜トイレに行けなくなった事を思い出してしまった。いやだなぁおまけに解説として「今日の早川さん 特別出張版」がついています。もちろんホラー大好き帆掛さんと早川さんの掛け合い。楽しい。喫茶店での一コマで壁にかけてある絵がキングの長編「悪霊の島」のカバー画なのにも気づいたぞ。