藤谷治のレビュー一覧
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タイトルの意味わからん、なんだこれ・・・ファンタジーか、
こりゃ、挫折するね・・・の読み始めに対し、
途中からグイグイ引き込まれる。
今、遅まきながら「ニコデモ」をウィキで調べ、
小説の展開が腑に落ちた次第。
当初は、主人公のこの名前に違和感があったのだけれど・・・
そういうことだったのね。
そうと知らず手に取ったけれど、ひとつの大河小説だったのだと、
胸が熱くなる。
藤谷作品としては、今までにない異色の作品ではないかな。
それでも、必ず、通奏低音のように音楽が語られているところが
藤谷さんらしくて、いい。
ちょうど今ドビュッシーの「レントより遅く」を練習中で、
パリのけだるい雰囲気の -
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音楽に纏わる小説は、知りたくて決して解ることのできない厳しいような苦しいような側面を垣間見せる。絞り出すように書かれた随所に息を詰めながら、また、せった君の口調や折々精一杯に考えた末のことばに沁み入りながら読ませていただいた。
美しい、とは圧倒的にその世界に集中していること、それは羨みとか妬みを完全に超えてただそこにある姿。生き方。
自分たちの生きた、ということが、尊い実りではなくても、大地へ落ち滲みていく一滴の雨であるように、虚しいところから目を背けないまま、美しいもの、幸福、思いやりを創造しようとするおこないが生の本質、との言葉に、思わず背を正し、深く息を吸う。
印象的なエピソード「五十の -
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音楽高校の青春小説。
主人公の津島サトルは音楽一家の息子。一家の敷いたレールに乗り、チェリストを目指し、東京芸術大学附属高校を受験するが、失敗し祖父が学長を務める私立の音大の附属高校へ進む。
ちょっと身近にはいない、雲の上の存在。でも、音楽高校には音楽高校の青春がある。
サトルも友人ももちろん「上手い」と言われたくて日々個人練習に励む。昼休みなどの時間も惜しんで。
しかし、音楽高校の活動はソロとしての練習のみではなく、合奏の練習も厳しい。毎年、音楽科全員によるオーケストラの発表がある。殆どの学生がピアノ専攻なので、メンバーのいないパートはピアノの専攻の学生が副専攻として、弾いたことの -
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ネタバレ「船に乗れ!」が代表作の藤谷治の新作。どの小説も自分も音大志望だった作者の「音楽観」が覗き見られて楽しいです。
これは3.11当日の夜に錦糸町のトリフォニーホールで演奏されたマーラーの「交響曲第5番」を主題に、4人の観客と1人の演奏家のを描いたオムニバスのような作品。このコンサートは2012年にNHKでドキュメンタリーになったほど有名なもので、「音楽の力」か「不謹慎」かで(演奏家個人にとっても)今でも評価が分かれるようです。
小説の方は多彩な人物の描写がちょっととっちらかってたり、藤谷治の特徴でもある「描写のバラツキ」があったりしますが、安心して読めます。僕が好きなのはコンサート終了後す -
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完結編。
だが、何かがスッキリと解決したわけでもないのだ。
「船に乗れ!」
誰かからそう叱咤されなくても、誰もが人生という船に乗って、いや、乗せられているのではないか。
そして、現在の、これを書いている津島サトルは、
「船に乗ることは乗っているのです。でも僕は、櫂を無くしてしまった」
そう言っているようだ。
くたびれた大人になった、津島はしかし、高校の三年間を眩しそうに目を細めて見ている。
書き切ったところで、告白を終えたところで、少しもすっきりしないと言っているが、彼は音楽と和解しつつある。
ひとつ。
私は、南枝里子という女が許しがたい。
誰もが悩み、思い通りにならない人生にどこかで折 -
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ネタバレ東日本大震災が起こった日、東京フィルがそれでもコンサートを強行したという事実をもとに、再構成した小説です。
さまざまな立場の人間の群像劇になっており、それらはすべてフィクション。
ただし、だからと言って嘘はないんだと思う。
色々なバックグラウンドを持つ人々、音楽というものに対する知識も感じ方も関わり方も違う。
未曾有の大災害に対して何を考えたかも違う。
何かドラマティックなことが起こったわけでもないし、
災害に対する音楽の力を強調する作品でもない。
ただ、あの日、東京にいたみんなが多分感じたことを、キャラクタを通じて描いています。
それは、罪悪感であったり、東北の現状を知りながら自分のこ