【感想・ネタバレ】船に乗れ! III 合奏協奏曲のレビュー

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再び音楽が流れ始めました。

2022年07月15日

2巻目で一瞬鳴り止んだ音楽が再び流れ始めました。人生とは何かを問いかけられる最終巻でした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年10月19日

 これは、音楽の小説というより哲学の小説だった。第1巻を読んでいるときは、音楽がテーマの十代くらいが対象のほのぼの青春小説だと思っていたが、いえいえ、私のように大人になってから何年も過ぎた者の胸にずっしりくる作品だった。
 
 主人公のサトルは通っている音楽高校で一年生の時には「学校で一番チェロが上...続きを読む手い」と言われていたが、二年生のある時の事件を境に、チェロを弾くことが楽しくなくなってしまった。そしてまた、自分には思っていたほど才能がなかったことを悟り、「チェロを辞める」ことを決心する。サトルはプライドの高い人間なので、チェロを続けるかぎりはソリストや有名なオーケストラのチェリストにならなければ意味がないとその時は思っていたのだ。
 決意を伝えた周りの大人のなかで、一番理解があったのは、サトルがチェリストになるように先回りして線路をひいてきた、新生学園大学学長でもある、お祖父様だった。「食うために腕を上げていった芸術家が一番好きだ。モーツァルトはどうして山のように名曲を残していると思う。いい曲を仕上げなきゃ、次の注文が来なかったからさ。精一杯いいものを書かなきゃならなかったんだ、生活のために。……芸術は芸術家が気ままに作ったもんなんかじゃないんだ。家賃のために、お上の機嫌をそこねないために、次の仕事に困らないように、切羽詰って作られたんだ。しかもそんな苦労は、ほらこの音楽からはこれっぽっちも聴こえてこやしねえ。」と音楽を辞めたところでその何倍も苦労するであろうサトルに花向けの言葉を送った。サトルはお金だけではなく、家族の愛情にも恵まれていた。
 上の音大(新生学園大学)には進まず、普通大学を受験すると決めても、高校卒業までの音楽活動は全うする。文化祭での三年生ばかりの小編成オーケストラなど、団結して練習、演奏する中で、一年生の時からの音楽科での友情を再確認する。

 その中で、再び現れた南枝里子(サトルの元恋人でサトルが二年生の時、留学から帰ったあと、突然退学してしまった)は、サトルへの手紙の中で、望まない妊娠、結婚をしてしまったが生まれてくる赤ちゃんが幸せでいるために、いまの家族への愛情を一番大切にしているということを書いてきた。
 枝里子も数カ月の間に大人になってしまったのだ。そして枝里子は枝里子の道徳によって生きていた。

 この小説の1巻で、「合奏は皆でお互いの音を聞き、一つの音楽を作り上げる音楽だが、協奏は一人一人のソリストが相手より前に出ようと競いあう演奏だ。」というようなことが書かれていた。ではこの「合奏協奏曲」という副題がついているこの三巻は、調和しながらも各ソリストが個性を出して凌ぎあう演奏ということなのか。それが、ニーチェの「道徳の地球にも、その正反対に立っている人がいる!」という言葉に通じるということなのか。    ニーチェは私には難しいのだが、音楽の世界と哲学と青春と人生を結び付け、それを繊細なサトルに語らせた重厚感のある魅力的な小説だった。

 



 

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Posted by ブクログ 2022年10月31日

日出処の天子を思い出しながら読んでしまったよ伊藤慧くん…
哲学の先生も人間味溢れる先生で非常に良かった。
音楽と青春と恋愛と友情と、夢と自意識と現実と挫折と、永遠の問い。

永遠に揺られ続ける終着点を見出せない全ての人のための物語。

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Posted by ブクログ 2017年02月14日

完結編。
だが、何かがスッキリと解決したわけでもないのだ。

「船に乗れ!」
誰かからそう叱咤されなくても、誰もが人生という船に乗って、いや、乗せられているのではないか。
そして、現在の、これを書いている津島サトルは、
「船に乗ることは乗っているのです。でも僕は、櫂を無くしてしまった」
そう言ってい...続きを読むるようだ。

くたびれた大人になった、津島はしかし、高校の三年間を眩しそうに目を細めて見ている。
書き切ったところで、告白を終えたところで、少しもすっきりしないと言っているが、彼は音楽と和解しつつある。

ひとつ。
私は、南枝里子という女が許しがたい。
誰もが悩み、思い通りにならない人生にどこかで折り合いをつけて行く中で、この人物だけは、やりたいことをやり切って、自分の価値観の狭い世界の中で「正しい者」になったような顔で退場して行ったのだ。
しかも、イタチの最後っ屁みたいに、「サトルくんがみんな壊した」とか言って。

最終章の解説は、私の好きな作家の一人である、宮下奈都さんだ。
しかし、そこで「サトルはいけすかない」と書かれていて、ちょっと目が覚めた気分になった。
そうか、いけすかないやつだったのか…
そういえば、最初のほうで少しそう感じたかもしれないが、自分にはほとんどその思いが無かった。
ほとんどサトルを息子のように思って読んでいたのかもしれない。
バカな子ほど可愛い。
音楽に挫折しようが、会社を四回辞めようが、生きていてくれればいいのだ。
南に嫌悪感しか感じないのは、可愛い息子を苦しめ抜いたからだろう。

しかし、サトルがダメ人間の方に属している事くらいはわかる。

でも、もう一度言う。
サトルは音楽と和解しつつあるのだ。
そして、人生は良くも悪くもない、そんなものだ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2016年08月26日

青春特有の、何者にもなれるという期待と、結局何にもなれない現実。

平凡な大人になったサトルの過去の回想。
どこまでも肥大した自意識が痛い。
もっと楽に生きられるのに…
サトルは音楽に対して真摯で、誠実だった。
南は強く、
千佳は思いやりに溢れ、
伊藤くんは潔い。

ブランデンブルグ協奏曲が、ジュピ...続きを読むターが聴こえてくる。
音楽が輝きを与え、哲学が深みを与え、この作品を力強く、美しい青春小説にしている✨

私たちもまた、船に乗っているのだろうか…

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Posted by ブクログ 2021年01月09日

音楽学校を出て音楽家になるのは一握り。
これを一般の人はどれだけ知っているだろうか。
普通の音大だけではなく芸大や桐朋の一流でもある話です。

この本のテーマはブランデンの5番。
演奏会って一期一会なのでそういうのもありかなと思う。
逆に譜面は一生残るのでサトルに届いた譜面は今でもあるでしょう。

...続きを読む最後に「船に乗れ!」の題名の理由が出てきます。

「音楽は趣味の方が良いのよ、一生続けられる趣味よ」
「仕事にしないほうがいいのよ、楽しめないから」
と昔自分の師匠が言った言葉をこの本を読んで思い出しました。

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Posted by ブクログ 2020年12月27日

向き合うことも、認めることも、許すことも、
今はできないかもしれない。

(以下抜粋)
○僕には先生の言葉より、その前の一瞬の沈黙のほうがはるかに重要だった。(P.20)
○僕に限らず、自分が懸命にやっていたことを、新参者がさらに器用に、そして熱心にやっているのをまのあたりにすれば、ショックを受け、...続きを読む無力感を覚えることは誰にでもあることだ。(P.37)
○「オーケストラに出られないんですか、って訊いたんです」(P.45)
○本当になりたいものになるには、僕はあまりに不徹底で、卑怯だ。なまけもので才能のかけもない、情けない人間なんだ。(P.153)

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Posted by ブクログ 2016年06月27日

高三の秋。サトルはチェロを辞めることを決意する。
これだけ音楽の美しさと喜びを知っている人が音楽から離れられるのかとも思うが、十八歳の主人公には0か100かの答えしかなかったのかも。
ミニコンに南を参加させたことは理解できないけれど、妊娠発覚後から彼女がとった行動はとうてい高校二年生の女子ができるも...続きを読むのではないので強い人だと思う。
祖父、佐伯先生、脇を固める人が良かった。そして金窪先生との再会。タイトルは先生がくれたニーチェの言葉から。
分かってはいたけれど、主人公がさえない中年になっていたことを少なからず残念に思う気持ちがあったのは、それが甚だしく現実的だったからに他ならない。
ポプラ文庫版ではサトルと伊藤の27年後を描いた短編が収録されていたみたいだけれど、小学館文庫にはなかった...

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