あらすじ
名もなき天才音楽家の軌跡と奇跡。
昭和初期、瀬名ニコデモは、ある裕福な実業家のもとに生まれ落ちた。眉目秀麗、神童の名を恣にし、父親の方針でパリへと留学をする。時は第二次開戦前夜、音楽の道に己の生涯を捧げようとするニコデモは、伝手を頼って、評判の音楽家の門を叩く。彼女から滋養のようにして吸収した音楽の知識は比肩するものなし、との域に達するものの、なぜか自らの手で作曲することができなかった。そこには、日本を立つ前の小旅行で遭遇した、ある奇怪な出来事が影響していた。
物語は、その後、騙り手を変えながら、現代まで続いていく。そして、にわかには信じがたいような、ある不思議なことが起こる。
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Posted by ブクログ
旅先で迷子になった少年と出会った男ニコデモ、少年を北海道小樽まで連れていく途中に聴いた少年の「花よ、花咲けよ、花は花咲くもんだなし」という歌。小樽で少年を見失ったニコデモが途方に暮れてこの歌を口ずさんだ時、物語のスイッチが入る。
ニコデモに小樽に連れてきもらった少年鈴木正太郎は、北海道開拓に来た家族と出会うも、その開拓生活は厳しく、彼の異母兄弟が死に瀕した時、あの歌を口ずさむ。
ニコデモと鈴木正太郎の物語は、日本がまだ戦争に勝っていたころに始まり、現代まで連綿と続く。彼らと関わる人々のつながりが編みこまれ織り込まれ、不思議な物語を生み出していく。
こういう展開の小説好き。非常に読み易い文体ながら、含有するテーマは深い。できれば巻末に(ここ重要、最初じゃアカンのよ)人物相関図を付けて欲しかった。
Posted by ブクログ
タイトルの意味わからん、なんだこれ・・・ファンタジーか、
こりゃ、挫折するね・・・の読み始めに対し、
途中からグイグイ引き込まれる。
今、遅まきながら「ニコデモ」をウィキで調べ、
小説の展開が腑に落ちた次第。
当初は、主人公のこの名前に違和感があったのだけれど・・・
そういうことだったのね。
そうと知らず手に取ったけれど、ひとつの大河小説だったのだと、
胸が熱くなる。
藤谷作品としては、今までにない異色の作品ではないかな。
それでも、必ず、通奏低音のように音楽が語られているところが
藤谷さんらしくて、いい。
ちょうど今ドビュッシーの「レントより遅く」を練習中で、
パリのけだるい雰囲気の出てくる、あのあたりが
ぐっと来た。
Posted by ブクログ
一曲の素朴な歌を通して繋がる運命のおはなし。
おはなし、と言いたくなるような童話のような文章だった。ニコデモの数奇な運命に最後はほろりとした。ほんとうの善行は語られることのないもの、という一行は今の承認欲求で溢れかえった現代に一滴の讃頌をもたらしそう。日本的キリスト教の解釈っぽい側面もあるのかな。そう思ったら、弟子の書取りによる聖書っぽい体裁のような気がしてきたな。日本の聖フランスチェスコの奇跡。
Posted by ブクログ
大人の寓話です。
人知れず天才音楽家が歩んできた戦前戦中戦後の歴史。魔法のような歌と悪魔。
色々な事が絡まり合うのが好きなのは藤谷さんの毎度の好みだと思います。ちょっとわかりにくいけど面白いとは思う。