あらすじ
2011年3月11日、とある演奏会が開かれようとしていた。演目はマーラーの交響曲第5番。しかし14時46分、世界の風景が一変する。震災による混乱の中、それぞれ事情を抱えた楽団員や観客らが選んだ行動とは……。実話を基に人と音楽の関わりを見つめる長編。
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Posted by ブクログ
「船に乗れ!」が代表作の藤谷治の新作。どの小説も自分も音大志望だった作者の「音楽観」が覗き見られて楽しいです。
これは3.11当日の夜に錦糸町のトリフォニーホールで演奏されたマーラーの「交響曲第5番」を主題に、4人の観客と1人の演奏家のを描いたオムニバスのような作品。このコンサートは2012年にNHKでドキュメンタリーになったほど有名なもので、「音楽の力」か「不謹慎」かで(演奏家個人にとっても)今でも評価が分かれるようです。
小説の方は多彩な人物の描写がちょっととっちらかってたり、藤谷治の特徴でもある「描写のバラツキ」があったりしますが、安心して読めます。僕が好きなのはコンサート終了後すぐ、GFに会いに入間まで歩き出す楽団員のパートかな。
クラシック好きでなくても楽しめます。おすすめ。
Posted by ブクログ
東日本大震災が起こった日、東京フィルがそれでもコンサートを強行したという事実をもとに、再構成した小説です。
さまざまな立場の人間の群像劇になっており、それらはすべてフィクション。
ただし、だからと言って嘘はないんだと思う。
色々なバックグラウンドを持つ人々、音楽というものに対する知識も感じ方も関わり方も違う。
未曾有の大災害に対して何を考えたかも違う。
何かドラマティックなことが起こったわけでもないし、
災害に対する音楽の力を強調する作品でもない。
ただ、あの日、東京にいたみんなが多分感じたことを、キャラクタを通じて描いています。
それは、罪悪感であったり、東北の現状を知りながら自分のことしか考えられない身勝手さであったり、非日常への戸惑いであったり。もちろん、それぞれの感じ方で。
そして、そこに音楽がたまたまあったというお話なんだろうと思います。
大きな理由はなく、人間が人間であるために、音楽がそこにあった。それを描きたかったのかなと思いました。
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あの日、本当ならいつものように過ぎて行くはずの日常が、現実とは思えないほど一瞬で消えさった。その3月11日に実際に行われたマーラーの第5番の演奏会をもとにして生まれた物語。
演奏会をめぐる、登場人物それぞれのエピソードが時間を追いながら平行して語られる。今までの人生で抱えてきたもの、震災による混乱、先の見えない不安が入り混じった中での音楽の思考は、マーラーの音楽が彼らに何かしらの光をもたらしたと感じるものだった。
再読する時は、音楽と一緒にぜひ読みたい。
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311の夜、錦糸町でコンサートが開かれた事実を元にしたフィクション。
あまりの当たり前の日常さに、「あの日」は普通に過ごすことができなかった自分のことを思い出してしまう。そしてそれでも普通に日常をたんたんと過ごす登場人物たちを読むことで、どこか心が落ち着くところがある。
311ということで感動を求めて読む人には肩すかしかもしれないけれど、この日常をたんたんと読ませる構成力と描写力はものすごい。
青年団の舞台を見たときと感覚が似ているような気がする。
Posted by ブクログ
"あの日"って2011年3月11日だったのですね。事前知識全くなしにタイトルだけで購入したので知りませんでした。また、著者は"船に乗れ"の人だったのも読み始めて知りました。随分と前に読みましたが良い印象を持っています。
でも、この本は読むんじゃなかった。読んで後悔、嫌なことを思い出させられました。
ダニエルハーディング指揮の新日本フィルが、当日、マーラー5番のコンサートを決行したのはもちろん知っていました。NHKの特集番組も見ました。あの瞬間、私は新国立劇場でオペラを聴いていました。始まって45分で中断、打ち切りになってしまいました。17時くらいまでロビーで待機した後、下北沢の自宅まで歩いて帰りました。
東日本大震災と東京電力の原発爆発は日本政府の戦後の数々の嘘を暴露してしまいました。あの出来事により私のこの国への信頼は全て消えてしまいました。この国を覆い尽くす同調圧力や盲目的な国民性も明らかにしました。今でも一番嫌いな言葉は"絆"です。あれから15年になりますが、その思いは強まるばかりで確信になっています。驚くべきことに、今でもこの国は本当に全く何も変わっていません。これはもう喜劇と思うしかないと諦めています。
最後に、クラシック音楽を趣味として長年聴いていますがクラシックジャンル以外も含めて音楽はとても素晴らしい芸術だと思います。ですが、あまり意味など考え過ぎずに音に浸るだけで十分なのではないかと思います。その意味で第五章の曲の解説の様な部分は私には邪魔でした。ストーリーや描写など、全体としても小説としてこの本はほとんど評価できません。
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2011年3月11日、東日本大震災の起きた日。
その日の夜に行われたオーケストラのコンサートと、そこへ赴いた何人かについて、描かれている。
全然知らなかったけど、実際にコンサートが行われ、賛否両論あったそうだ。
明確にどちらということでもなく、「こんなときに音楽なんて」という気持ちも、「今こそ音楽を」という気持ちも、両方感じるような気がする。
コンサートをやったということは、そこで演奏した人も(僅かとはいえ)聴きに行った人もいるわけで、そういう人たちの思いを少し感じられる。
登場人物たちが少しだけ関わるのも、ちょっといい。すずさんが好きだったな。
Posted by ブクログ
3.11の日の夜に行われたクラシックコンサートの、観客や出演者、関係者の物語。マーラー五番という大曲の、それぞれの捉え方は異なるけれど、底辺はつながっている感じがしました。すず婆さんの、生き方好きです。周りが不幸だと言っても、本人は全く幸せに考え、今が一番充実していると感じている生き方は素晴らしい。堀くんもツーショット撮れて良かったね〜。
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オケについて、マラ5について、フィクションとは思えないほどのリアル感のある描写。複数の登場人物たちがマラ5を通して間接的に繋がる話で、それぞれの関係は希薄なので淡々と進んでいく感じ。フィクション要素(ご都合主義)を増やして、もう少しドラマチックに持っていってもよかったのでは?
Posted by ブクログ
2011年3月11日の大震災の当日,すみだトリフォニーホールでダニエル・ハーディングの指揮でマーラーの交響曲5番のコンサートが開かれた.その事実を下敷きにした小説.
いろいろな背景を持つ男女が,その日にコンサートホールにきて,音楽を聴きながら,あるいは演奏しながら,それぞれ,いろいろなことを考えるという話.
みんな悩んでいるのはわかるが,ちょっと思索的すぎるのではないか.地震の後だから仕方ないのかな.
読みながら,あの日のことをいろいろ思い出した.ときどきこういう風に思い出すのは大事だな.ほんとうに様々な感情にとらわれた日であった.
Posted by ブクログ
あの日、とは1911年3月11日、あの震災の日のこと。
新日フィル、ダニエル・ハーディングによるマーラー5番の演奏会が予定通り開催された。その事実に基にした小説。
芸術とは、音楽とは、そしてあの日、忘れられないこと、人間のはかなさを、考えさせられた。