【感想・ネタバレ】世界でいちばん美しいのレビュー

あらすじ

若き天才音楽家せった君の三十年の人生。

雪踏文彦。ひとは、みな、彼のことを親しみを込めて「せった君」と呼ぶ。語り手である作家・島崎哲も、親友である彼をそう呼んだ。小学校ではじめて出会い、いつもどこかぼんやりしているようだったせった君は、幼少期から音楽の英才教育を受けていた島崎が嫉妬してしまうほどの才能を持っていた。
中学、高校と違う学校に通ったふたりは、あまり頻繁に会うこともなくなったが、大きな挫折をしたばかりの島崎を、ある日、偶然、目の前に現れたせった君のことばが救ってくれる。やがて、再び意気投合したふたりは、彼がピアノを弾いている一風変わったパブレストランで行動をともにするようになった。
音楽のことしか、ほとんど考えていないせった君だったが、やがて恋をして、彼がつくる音楽にも変化が見られ始めた。そんなある日、彼らの前に、妙な男がちらつくようになった。彼は、せった君の彼女・小海が以前、付き合っていた男だった。そして、事件は起こった――。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

帯の「最後の瞬間、彼はピアノを弾いていた。」に引き付けられ手にした本。後ろを見ると、「余力をまったく残さず書きました。これ以上のものは、書けなかったと思います。」という藤谷氏のサイン入りの言葉。
今年、「船に乗れ!」を読んで感動した記憶がよみがえり、もう、買うしかないでしょ!と即購入。
早速読んでみたら、なにこれ~!せった君の友人、作家の島崎哲って、「船に乗れ!」の津島サトルじゃん。おまけにピアノの北島先生まで出てくるし~。もう、「船に乗れ!」の前日譚、後日譚といったところ。
相変わらずサトルは肥大した自意識に悩まされているが、せった君という友達がいたから、音楽の道を外れても、まっとうに生きて来たんだなあ~。

「世界で一番美しい」というタイトルが何を指しているかは、作品を読むと、切なさや哀しみとともに胸にストンと落ちてくる。
ーー美しい人間とは、人を美しくする人間のことだ・・・
この作品を読んで、私も少しは美しい心になれたかな~

最後の数頁でうるうるきていたが、ラスト1行で我慢できなかった。

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2016年12月04日

Posted by ブクログ

音楽に纏わる小説は、知りたくて決して解ることのできない厳しいような苦しいような側面を垣間見せる。絞り出すように書かれた随所に息を詰めながら、また、せった君の口調や折々精一杯に考えた末のことばに沁み入りながら読ませていただいた。
美しい、とは圧倒的にその世界に集中していること、それは羨みとか妬みを完全に超えてただそこにある姿。生き方。
自分たちの生きた、ということが、尊い実りではなくても、大地へ落ち滲みていく一滴の雨であるように、虚しいところから目を背けないまま、美しいもの、幸福、思いやりを創造しようとするおこないが生の本質、との言葉に、思わず背を正し、深く息を吸う。
印象的なエピソード「五十の者から生まれたばかりの者へ、ずっと受け渡されてきた」一本の棒を念頭に、明日もまた。

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2022年01月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

せった君と島崎哲は幼馴染であった。
せった君は音楽家、ピアニストであり作曲家、大いなる才能の持ち主。野心や、現世的な欲とはあくまで無縁で、ただ音楽と戯れ、音楽と共にあった人。
そんな彼を間近で見続けた島崎哲。せった君の音楽仲間で、最後まで彼の理解者。
けむりに魅入られ、自己正当化をとことん進めた挙げ句に破滅へ走った不協和音の津々見勘太郎はせった君を火事で消してしまう。
島崎哲と津々見勘太郎はどこか似ている。何者かになれる、ならねばならぬという青臭い思い込み。しかし、島崎が津々見にならなかったのは、幼い頃からそばにせった君がいたからだと考えられる。せった君という素直で音楽のことばかり考えるまっすぐで美しい人間の姿を見続けたからこそ、島崎は道を外れることなく成長した。
2019/06/18 13:39

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2021年06月04日

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