関口英子のレビュー一覧
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わたしの国においては、自由は少数の人にしか許されない贅沢品。
アンナ・ポリトコフスカヤが殺されたのはプーチンの誕生日だった。ロシアを代表するリベラル紙「ノーヴァヤ・ガゼータ」の記者アンナは、死の間際まで、第二次チェチェン戦争や、プーチン政権下のロシアにおける汚職や犯罪、「沈黙の掟」についてペンを執りつづけた。最後まで言論の自由、人間の尊厳のために戦った彼女の娘が生前を綴る。
― 1991年8月のクーデターに続いてソ連が崩壊し、ロシアが独立した。わたしの両親はふたりとも、ソ連の崩壊以前から反体制派で、共産党政権には、つねに厳しい目を向けていた。家では、ソビエト連邦内での暮らしの細ごまとした例 -
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原著1951年発表。
私が高校生の頃、アルベルト・モラヴィアの作品がハヤカワ文庫NVで何冊もラインナップされていたが、今は全部絶版で、邦訳は光文社古典新訳文庫の2冊以外は古書で入手するしかないようだ。1990年に物故するまでは20世紀の巨匠として賞賛されていたのに、死後は本国イタリアにおいてすらほとんど忘れられている作家。
本作もなかなかに重厚な小説である。人間の心の機微にぐっと入ってゆく描写は緻密で見事。描写がそのように濃厚であるため、ストーリーは波乱のある「面白い」話なのに、ゆっくりとずっしりとした時間が流れてゆくような小説「時間」が呈示される。そのため多忙な情報化社会の現在から見る -
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おもしろい
「竜退治」が特にいい
この話の恐ろしさは竜を殺した人間に与えられる罰(死)ではなく
むしろ罰を受けずに済んでしまうこと
竜の叫びに対して沈黙で返す世界に向けられていると思った
未知の存在を徹底的に狩り尽くしてしまう人間の習性はこの地上の支配者としてふさわしくそしてとても醜い
列車とか行進とか、何かを目指して走り続けている話が多い
しかしそれらはすべて進路を間違えていて、今どこにいるのかさえわからない
このままでは目的地に辿り着かない、でも引き返すことも止まることもできない
そういう不安が強い人だったんだなブッツァーティは
「聖者たち」もよかった。
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友人からオススメされたショートムービー「ザ・シンプルインタビュー」を見て心を掴まれた!スーツに蝶ネクタイ姿で就職活動するジョヴァンニ。アタッシュケースを開けたらぬいぐるみが出てきて笑い、家でうたた寝しているお母さんに毛布を掛けてあげる優しさに涙。ジョヴァンニはダウン症だ。ジャコモは、待望の弟が思っていたのと違っていたことに戸惑い、思春期になると親友にさえ弟の存在を隠すようになる。しかし、そんな兄の思いとは関係なく、好奇心に満ちた、楽しいことでいっぱいのジョヴァンニの世界はキラキラ輝いて魅力的で、周りの人を笑顔にする。やがてありのままで良いと気付き自由になったジャコモ。「一人ひとりの内側にかけが
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ジャコモはダウン症の弟ジョバンニと出会わないなんて残念だと言う。ジョバンニには周りを笑顔にする特別な力がある。ジョバンニといると毎日が違って楽しくなる。ただ、ジャコモはそう思えない時も経験していた。しかし、家族や友達の大きな愛によってジョバンニは見守られ、さらに学校などの社会的な関わりも区別されることなく過ごすことで、大切なものを見落とさなかった。
日本ではそもそもハンディキャップを持つ人と過ごす機会が少なく、ここまで明るくユーモアたっぷりに描かれる姿に驚いた。多くの人に読んで欲しい作品。映画も見たい。
ジャコモの描く草食のティラノサウルスがかわいい。ジャコモの優しさを感じる。
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アンナ・ポリトコフスカヤ
ロシアにおいてプーチンのチェチェン紛争を取材し、プーチンを痛烈に批判していた女性ジャーナリスト。
80年代、ソ連のペレストロイカの進む中でジャーナリストとなったアンナは、ソ連が崩壊し、ゴルバチョフ、そしてエリツィンへと引き継がれた民主化の動きが、プーチンの登場によって、国民の不満を封殺しながら徐々に引き戻されていく中で、危機感を感じ、第二次チェチェン紛争では命の危険に晒されながらチェチェンに潜入して、ロシア国内には明らかにされていないロシア軍の蛮行と政府の欺瞞を暴いてきた。
それは、ロシア国内においてさえ、彼女を危険に晒す生き方だった。
そして、2006年10月7日、 -
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テレビで紹介されていた映画が面白そうだなと思っていたところ、原作本があったので読んでみました。
ジャコモと特別な弟、ジョバンニを中心に、家族や友人との生活を、飾ることなく等身大で綴られていました。ジャコモがジョバンニについて、苦悩や葛藤を抱える中で、家族や友人との関わりを通して成長する姿がとても爽やかで、優しい気持ちになれるお話でした。
共感したフレーズはたくさんあるのですが、3つ挙げるとしたら、
・兄弟を愛するということは、愛すべき誰かを選ぶことではなく、ふと気づいたら自分で選んだわけではない誰がが隣にいて、その人をそのまま愛すること
・作者は僕たち自身のはずだ。そして、僕らの物語がど -
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『タタール人の砂漠』で有名なイタリアの作家であり画家でもあるブッツァーティの短編集。『タタール人の砂漠』と同様、幻想的と評される作風で不条理さや不安感、安定のなさ、不思議、奇跡などを描く。それは現実的ではないがゆえに逆説的にリアリティをともなっている。本人はカフカ的と呼ばれることを嫌がっていたようだけれど、作風的にはカフカのようで、この世の何ともならなさを描くことに卓越している。
映画監督フェリーニとの映画制作も構想されていたようだけれど、実現はしなかったとのこと。フェリーニの作風も夢や幻想に仮託しながら無意識や奇跡などを描くものであり、親和性はあると思われるだけに実現しなかったのが残念。同時 -
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4K版「暗殺の森」が公開された。残念ながら劇場へは足を運べないが、原作を読み返したうえで改めてDVDを鑑賞することにした
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マルチェッロは少年の頃から自分のなかに潜む異常性に恐れ慄いていた。そして13歳の時に決定的な出来事が起きる。彼に性的な興味を抱き誘いをかけてきた男を銃で撃ち殺したのだ。以降、周りと同化することで普通になれると固く信じ、そうなるよう努めながら大人へと成長したマルチェッロにとって、当時のイタリアを席巻していたファシスト党の政治要員として働くのはある意味必然だった。そんな彼に向けて、党の上層部よりひとつの指令が下される
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方程式を理解すれば、物理学の美しい世界とやらが見られるのね。そうですかそうですか、という話ではない。物理学はちょっと…と苦手意識たっぷりでも突き放されることなくわかりやすく面白いエピソードにどんどんページをめくってしまう。その面白いと思う好奇心についても、物理学として最終章で語られている。宇宙の話は言わずがな面白い、時間と熱の関係など日常で考えたことなどなかったけれど、これからは頭の片隅で意識してしまうであろう。最初に触れる物理学の入口がこうだったら、もっと早くに違う世界が見えていたんだろうな。これを期に少しず物理学に触れていこうと思う。
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幼少期に殺人を犯してしまい「普通」であることに取り憑かれた男の話。
サイコパスな人になり暗殺任務をこなす話みたいな頭で読んだのですが、そうではなかった。
見知らぬ男から性的な悪戯を受けそうになり殺してしまったことをきっかけに人生の全てを「普通」になろうと意識をして全てを決めるようになったマルチェッロ
「真の愛を求めている」のに、婚約者からの愛には応えずただ冷静に分析し続ける。婚約者の愛を肯定したり打ち消したり波があるまま暗殺対象の調査任務も新婚旅行の裏で進めていく。
やっと救いを見つけたかと思いきや、旅行中の暗殺対象の妻への恋…彼女に一目惚れだった人物を重ねて嫌悪されながらも「愛して欲しい -
Posted by ブクログ
ネタバレ友達に「ルシア・ベルリンにちょっと似ている」と教えてもらった作家で読んでみたんだけど、確かに後半の狂気と死、悲惨な運命をからからしたユーモアで書いていくあたりはちょっと似ているかも。面白かった。好きなのは「使徒書簡朗誦係」「フローラ夫人とその娘婿のポンツァ氏」あたり。何が狂っているのか、おかしいのは何なのか、分からない。でも、悲惨を滑稽にすり替え、何が正しいのかとか、正しくあることに意味なんてないだろう?と言わんばかりの堂々とした書きぶりは好感を持ってしまう。
最後の解説によると作者自身の人生も恵まれた生まれながら相当残酷な目にあっており、そこからこの作品群の凄みが生まれてくるのだなあと思った