関口英子のレビュー一覧

  • 失われた手稿譜 ヴィヴァルディをめぐる物語

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    ~ お借りした単行本の感想(2021年) ~

    ヴィヴァルディが亡くなった。残された手稿譜は時の流れに埋もれてしまう。その重要性を知らないものの手にあったり、大切に保管されていたり大事な人の記念の銘を冠されたり。その楽譜が世に出た時、関わった人のみが知る履歴は埋もれてしまったのだろう。不完全ながらも大まかな来歴が見えた時、苦労を重ねた関係者は天国でほっとしているのか、少し悔しく思っているのか……

    最後の関係者はジェンティーリ、イタリア人種ではないため教職を追われ、多くのユダヤ人のように逃亡生活に入る。その時目にした新聞には「ヴィヴァルディの楽譜発見」の記事。発見者とされるのは……
    それで

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    2025年10月27日
  • すごい物理学入門

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    たった150ページとは思えないくらい内容が濃かった。それぞれの章はほぼエッセイくらいであり、相対性理論や量子力学から見える世界観がなぜそうなのかを細かく詰めている余地はない、いわば結論と結論から見える世界の広がりに特化した本だが、表現が巧みで好奇心をくすぐる書き方になっている。センスオブワンダーのお手本。

    入門レベルの話とはいえ読者を思考に促すことにかけては手を抜いておらず、時間は客観的には存在しない、熱があるところに時間は発生する、といった一見突飛もないフレーズから、時間、自我、自由といった物理学の哲学的な側面まで目配せしているため読んでいて頭の柔らかい部分がものすごく刺激される。

    世界

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    2025年10月24日
  • オリーヴァ・デナーロ

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    ネタバレ

    とても良かった。特にエンディング。

    「女は水差しだから、割った人のところにもらわれていくものなの、と母さんは言う。」という冒頭からしびれた。

    男である弟は気にせず、人と話し、外に出かけ、好きなことができる。一方女性は、こうあるべきと言う制限をつけられ、頭が良いことが必ずしも良いことではない。

    償い婚に、1981年まで本当にあった刑法など、現代を生きる一女性としては、頭に来る話だ。

    ケーキ屋さんでオリーヴァが言った言葉が少しばかり心を軽くしてくれた。

    「20年前、あなたが私に無理矢理持たせようとしたものを、自分の稼いだお金で買いに来たの。私が何を手に入れたかですって?選択する自由を手に

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    2025年08月22日
  • 命をつないだ路面電車

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    12歳のユダヤ人の少年の体験をもとにした児童書。
    「何としても生き延びて欲しい……」
    そんな母の切なる願いと、路面電車の車掌さんたちの善意が少年の命を救う。

    ユダヤ人の彼を匿うということは、本当の意味で命を懸けた人助けであり、誰にでも出来ることじゃない。
    とっさに少年を救うために行動した人たちは称賛に値すると思う。

    『小さなことでもいい。ひとりひとりが自分にできることをするべきなんだ。』

    少年の心には、きっとあの日の車掌さんの言葉がずっと心に在り続けていたのだろうと思います。
    どんな時も他者を思いやり、自分に出来ることをする。誰もがそんな風に行動できたら、きっと世界は今よりもよくなるのに

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    2025年07月24日
  • 神を見た犬

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    幻想と寓話の短編集。ブッツァーティの長年の短編から主要な作品を集め色々なスタイルが感じ取れるようにしたという。
    不安と恐怖を幻想を元に語る。かなり映像的な文章。イタリア文学界では著名。『タタール人の砂漠』が代表作で既読。『七階』は劇として上演され大きな評判を呼び映画化もされたという。画家として漫画やイラストも書たらしい。児童文学も書いていて翻訳されている。
    規律の厳しい軍隊の憧れ、大自然の恐怖と何もかも包み込むその厳しさ、不条理と不安と恐怖などが構成要素にある。神・聖者が語られることも多くキリスト教文化圏の影響をかなり感じる。
    イタリア幻想文学はなかなかよい。役者はロダーリの翻訳者で訳文はかな

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    2025年07月16日
  • 神を見た犬

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    イタリア20世紀の短編集。幻想小説。
     天地創造からはじまり、ちょっとした不安を徐々に増幅され、ついに飲み込まれてしまう様を病院、科学者、村、神といった要素でもって、最後まで緊張感を持って語りかけてくる。
     この短編には現実ではない要素がたくさんある。神様、悪魔、病気の程度で階をわける病院、バカでかい戦艦などなど。でも、なぜだか、不思議なくらいに頭の中にはっきりと情景が浮かぶ。
    アインシュタインと悪魔が夜の街灯に照らされながら、2人きりで話す様子(アインシュタインの約束)や、
    幻の戦艦を現実の戦艦が倒す様子(戦艦《死》)、
    見たことはないのに、なぜか読後もその光景が脳裏に焼きついている。

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    2025年05月12日
  • 猫とともに去りぬ

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    粒ぞろいの16篇。どれもシュールなんだけど、なぜかシュールには感じられない。あまりのテンポのよさに吞み込まれ、不思議だと感じている暇がない。
    「箱入りの世界」と「ヴェネツィアを救え」は、カスケード反応風な展開がおもしろい。配達があまりに速過ぎる「チヴィタヴェッキアの郵便配達員」もいい。「ヴェネツィアを救え」の冒頭には、東京大学のワレハシルゾウ教授(!?)も登場する。
    ロダーリ版シンデレラも、ロダーリ流マカロニ・ウエスタンも、ロダーリ風味の「鏡よ鏡」もある。クスッと笑える。どれも毒のないのがいい。

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    2025年05月03日
  • 戻ってきた娘

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    ネタバレ

    13年間も実の娘として育てた後、物を返品するかのように、娘を極貧の実家族へ戻すなんて、、、13年間の愛情や愛着はどこへ消えるのか。主人公が新しい環境で、実の親兄弟から厄介者のように扱われる様は読んでいて心が痛む。実母も「戻ってきた娘」をどう扱って良いかわからない。無邪気で、まっすぐで、時には頼りになる妹アドリアーナの優しさ賢さには胸を打たれる。彼女の存在に、主人公「わたし」だけじゃなく私自身も救われた気がする。姉妹のその後を描いた続編もあるようなので、翻訳本が出れば読んでみたい。

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    2025年04月10日
  • 同調者

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    ネタバレ

    『軽蔑』『薔薇とハナムグリ』『視る男』『豹女』の次に読む。

    面白かった。
    むかし、映画化したのもわかる。映画化しそうなストーリーだから。ただ、映画とは異なるところもあるようだ。(映画は観てない)

    自分が異常ではないかと悩み、普通であることを確かめる人生。
    しかし、それは、結局のところ、リーノを殺していようがいまいが、同じ人生を歩んでしまうとわかる。純真さは誰だって失われる。

    リーナとの関係が強引すぎる。
    マルチェッロのやり方ってほとんどセクハラなんだけど。冷たくされて嫌がられてるのに、よくこんな行動できるなぁと。
    ジュリアの愛人時代の体験もひどい。脅しとレイプである。


    [プロローグ]

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    2025年04月01日
  • オリーヴァ・デナーロ

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    イタリアってとても宗教に深い国で、その延長線上に生活がある。日本人にはなかなか理解に苦しむところは多い。そんな欧州を教えてくれる一冊。

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    2025年03月22日
  • 「幸せの列車」に乗せられた少年

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    普段は高校の国語教師をしている、イタリアの女性作家による小説。本作はイタリア版本屋大賞に選ばれるなど、33言語に翻訳されて刊行されています。そのためか、文章は平易で読みやすかったですが、ところどころ心に刺さる場面もありました。

    あらすじ
    第二次世界大戦後のイタリアで、南部の貧困家庭の子供たちを、比較的暮らしの安定していた北部の家庭に送り届ける”幸せの列車”が運行されていました。そんな時、ナポリに母と二人で暮らしていたアメリーゴも、7歳のときにこの列車に乗せられて、モデナの裕福な家庭に預けられることになります……。

    “幸せの列車”に乗る前と後の世界の対比が、ある意味残酷ですね。食べるのに何も

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    2025年01月15日
  • すごい物理学入門

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    以前、本書の著者であるカルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』に非常に感銘を受け、他の著作も読んでみたいと思っていたので、物理学についての入門書である本書なら気軽に読み進められそうだと思い購入。

    『時間は存在しない』もそうだったように、本書を読み始めてまず感じるのは、その文体の読みやすさである。
    相対性理論や量子力学も含めた最新物理学について、7つの章(講義)に分け、どんな読者でも理解できるように優しく(時には詩的に)語りかけてくるのだ。
    巻末の訳者あとがきにもあるように、本書は2015年にイタリアの出版界のベストセラーランキングにおいて(科学書カテゴリではなく)総合1位を獲得したというのも

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    2025年01月10日
  • 古代ローマ帝国 1万5000キロの旅

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    ネタバレ

    この本は文句なしにすごく面白かった!トラヤヌス帝時代のローマ帝国にて一枚の硬貨が人の手から手へと渡って「旅行」する様子を小説風に追いながら、当時の風俗や法制度、人々の生活などをつぶさに観察していく。国境の要塞、船旅、首都ローマのにぎわい、国際色豊かな植民市、戦争や戦車競技、産業、商業、奴隷労働、食事、ロマンス…。話題は尽きない。そして何より文章がうまいのだ。スリル満点の戦車レースや戦闘の部分は思わず手に汗握って読みふけってしまったし、男と女の出会いにはどきどきするし、当時の様々なお土産品の解説なんかは想像が膨らんで実際に手に取ってみたくなる。
    発掘調査や碑文などの膨大な研究結果をこのような読み

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    2024年09月10日
  • 神を見た犬

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    イタリアが生んだ奇才の作家ブッツァーティが書く不可思議なお話を集めた短編集。

    テーマは多岐に渡るが、全てにキリスト教的世界観が通底にある感じがして日本のホラーや怪異とは全く違うのが面白い。
    特に聖人が出てくる話が多く、さすがカトリックの中心であるお国柄だと思った。
    どの話も面白いが
     ・アインシュタインとの約束
     ・七階
     ・神を見た犬
     ・呪われた背広
     ・秘密兵器
     ・天国からの転落
     ・驕らぬ心

    はとても面白く、教訓めいたものがあった。

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    2024年04月05日
  • 同調者

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    イタリアの作家モラヴィアの長編。日本ではベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』の原作といった方がああ、という方は多いのではないだろうか。
    映画とは若干の異動はあるものの、骨格は同じでムッソリーニ政権下のイタリアにおいて秘密警察だったマルチェッロを主人公とした小説。
    人と異なることを恐れて政権に同調すること、普通であることを求めてファシストとなったマルチェッロが亡命活動家の暗殺命令を受けてからのフランス・パリへの紀行、イタリアへの帰国、ファシズム政権の崩壊に至る中での彼の心の動き、変わらなさを主人公の内面を反映したような第三者の視点から描く。
    淡々とした筆致でサスペンス的な展開もあるのでどんどん

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    2024年02月28日
  • 弟は僕のヒーロー

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    ジョバンニの日常、一人一人に違った挨拶をしていること、ぬいぐるみとの対話、音楽が大好きで身体全体で感じ表現していること、などなど、家族の愛の中で様々な葛藤の末、愛おしくなっていく様子が丁寧に描かれていてとてもすてきだった。
    心に染みる言葉がたくさん。
    困ったことを言う奴に対して、アイロニーでかわすという方法は理想的。その手法を身に付けたい。

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    2024年02月25日
  • 神を見た犬

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    新聞記事のような癖のない文章でつづられた幻想的な短編小説集。傑作選ということで、どれもこれも印象深い作品ばかり。スイスイ読めて鮮明なイメージが残る不思議な作風だ。表題作の「神を見た犬」では、椅子の下に置いたパンの描写だけで色々思わせて涙が出た。これ含めて、昔ながらのキリスト教徒の精神世界を感じさせる作品が多くて興味深かった。

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    2024年01月22日
  • 猫とともに去りぬ

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     児童文学のような文体であり、非現実的なストーリーはまさに童話でありファンタジーである。ただその中にはさまざまな社会批判や人生の矛盾が描かれているのが面白い。
     濃厚なアイロニーを通して描かれる短編小説集だ。ファンタジーのフレームに入っているので平気でリアルを超えることができる。たとえば猫になったり、魚になったり、神々や宇宙人と交流することも可能なのだ。
     ただ、そういう不思議な世界を描いているように見えて、実は現実社会が抱えている様々な問題を描いているといえる。社会の描き方は微細さを追求するだけではなく、虚構を使ってその本質を照射する方法もあるということを再認識した。

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    2024年01月09日
  • 「幸せの列車」に乗せられた少年

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    ネタバレ

    第二次世界大戦後のイタリア。南部の貧しい子どもたちを北部の豊かな家庭に預けるプロジェクト「幸せの列車」。時代の厳しさや暗さを打ち消すくらい主人公の少年が可愛らしく魅力的でぐんぐん惹き込まれた。多くの子どもたちと同様に列車に乗り込み、北部で新しい家族と夢のような時間を過ごした後、一度は南部に戻り母との生活を再開させるが、家を飛び出し北部の家族の元に戻ってしまう少年。40年後、母の訃報を知り実家を訪ねるところからは、懺悔と償いだろうか。翻弄された人生があまりに酷で切ない。救いは、母親が彼が去った後、一人ではなかったということか。

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    2023年05月05日
  • すごい物理学入門

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    相対性理論や量子力学などが描く世界は、私達が日常ありありと感じている世界とは途方もなくかけ離れている!それが高校時代に理科・数学に挫折した文系人間の私が得た本書の感想。
    一般相対性理論の視点では、空間は不動の入れ物ではなく、動いている巨大な軟体動物の中に私たちは蹲っているようなもので、それが縮んだり曲がったりしているそうである。一方、量子力学的な視点では、あらゆる場は、細かな粒子状の構造になっており、物理的空間も量子でできているという。そして近年ではこの一般相対性理論と量子力学を統合しようとする試みとしてループ量子重力理論が提唱されているという。この理論によると、もはや空間の量子というものは存

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    2023年04月15日