【感想・ネタバレ】同調者のレビュー

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Posted by ブクログ

イタリアの作家モラヴィアの長編。日本ではベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』の原作といった方がああ、という方は多いのではないだろうか。
映画とは若干の異動はあるものの、骨格は同じでムッソリーニ政権下のイタリアにおいて秘密警察だったマルチェッロを主人公とした小説。
人と異なることを恐れて政権に同調すること、普通であることを求めてファシストとなったマルチェッロが亡命活動家の暗殺命令を受けてからのフランス・パリへの紀行、イタリアへの帰国、ファシズム政権の崩壊に至る中での彼の心の動き、変わらなさを主人公の内面を反映したような第三者の視点から描く。
淡々とした筆致でサスペンス的な展開もあるのでどんどん読めてしまうが、映像的でエロチックな評価などが目を見張る。数多くの映画監督が彼の小説を映画化していて、日本語訳がもはや手に入りにくいことが残念。今回を契機に色々と復刊されることを願う。特にゴダールが映画化した『軽蔑』は池澤夏樹編集のシリーズに入っているようなので、ぜひ読んでみたい。
映画監督のパゾリーニが友人だったというのも初めて知った。ますます興味深い作家である。

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2024年02月28日

Posted by ブクログ

4K版「暗殺の森」が公開された。残念ながら劇場へは足を運べないが、原作を読み返したうえで改めてDVDを鑑賞することにした
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マルチェッロは少年の頃から自分のなかに潜む異常性に恐れ慄いていた。そして13歳の時に決定的な出来事が起きる。彼に性的な興味を抱き誘いをかけてきた男を銃で撃ち殺したのだ。以降、周りと同化することで普通になれると固く信じ、そうなるよう努めながら大人へと成長したマルチェッロにとって、当時のイタリアを席巻していたファシスト党の政治要員として働くのはある意味必然だった。そんな彼に向けて、党の上層部よりひとつの指令が下される
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ベルトルッチが細部に至るまでこだわりぬいた「暗殺の森」の美しさは誰もが認めるところだが、この物語の本質を理解するには、映画だけでは十分でなく、三人称を用いて主人公マルチェッロの心理を丹念に記した小説に目を通さねばなるまい。特に少年期を描いたプロローグと彼が不惑間近の年齢になったエピローグ(それぞれ三章構成)はマルチェッロの人物像を把握するに当たり重要だ

己の犯した大罪によってピュアな魂は穢されたと思い込み、背負わされた重荷から自らを解放するべく必死に普通さを追い求めてきたマルチェッロが、人は誰しもいつしか純真さを失うものであり、それが普通なんだと悟らされる終盤の描写は「同調者」のストーリーを象徴するシーンと言え、非常に印象深い

何をもって普通とし、何をもって正常とするかの判断基準には曖昧さが伴う。マルチェッロは長いものへ巻かれることがその答えだと信じて疑わなかったが、ではもし大きな勢力の方向性自体が間違っていた場合、唯々諾々とそれらに染まる行為は果たしてノーマルと呼べるのか。決して難解な筋書きではないが、主人公の思考を通して作者の意図を汲む必要がある

映画のハイライトとなる暗殺の場面だが、小説ではマルチェッロはその現場に居合わせておらず、概要を新聞記事と諜報員オルランドの話で知るに過ぎない。またラストについてもベルトルッチの意向で大きく改変されている。従って、本作における映画と小説の関係性は謂わば「二卵性双生児」的な間柄と捉えるのが適切だろう。ただ個人的には小説のエンディングの方が腑に落ちるし、全体の流れを見ても結びとしてはこちらが相応しく感じられる

巻末の解説によれば、この話を執筆したモラヴィアに対し、ファシズムを否定していないとの理由で一部の評論家たちは批判を浴びせたそうだ。だがこれはファシズムを直接的に扱ったポリティカルな作品ではなく、日和見主義の男の生きザマを描いたドラマであり、あくまでもファシズム自体はその背景と考えれば、モラヴィアの筆こそが正しかった、そういう気がする

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2023年11月19日

Posted by ブクログ

幼少期に殺人を犯してしまい「普通」であることに取り憑かれた男の話。
サイコパスな人になり暗殺任務をこなす話みたいな頭で読んだのですが、そうではなかった。

見知らぬ男から性的な悪戯を受けそうになり殺してしまったことをきっかけに人生の全てを「普通」になろうと意識をして全てを決めるようになったマルチェッ

「真の愛を求めている」のに、婚約者からの愛には応えずただ冷静に分析し続ける。婚約者の愛を肯定したり打ち消したり波があるまま暗殺対象の調査任務も新婚旅行の裏で進めていく。
やっと救いを見つけたかと思いきや、旅行中の暗殺対象の妻への恋…彼女に一目惚れだった人物を重ねて嫌悪されながらも「愛して欲しい」と思いをぶつけていく(最低)
本人は気づいてないがその様が自分を苦しめている過去の小児性愛者の求愛の姿にも重なり、側から見ると「信じているもの」も「救い」も可哀想なくらい滑稽に見えてしまう。
「普通」と言うものがあると信じて、ずっと合わさることのない座標を探している。

やがて信じていたものが崩れ去り、自分を呪っていたものも幻想だと解ったときに全てが間違っていて全てが正しくありのままで良くて、滑稽に見えてても真剣で信じたものを貫いたり。(真剣なほどそう見えるものなのかも)呪っているものも幻想と思えれば幸福なのかなと考えさせられた。

タイトルの意味
主人公の中では野心のない農夫のように何も考えずに日々を過ごすことは許せないのに、自身は体制の中で思想を持たずに暗殺の仕事に関わり"意味のあること"と言い聞かせて"流されていく"姿のことと理解した。(解説を読む前)

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2023年06月28日

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