山本周五郎のレビュー一覧

  • 寝ぼけ署長

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    ネタバレ

    発表当初、覆面作家として書かれたというのが面白いな、と思って読み始めた。
    時代ものではない作品は珍しいが、やはり、山本周五郎は好き。虐げられる者、弱い立場の者たちへの視線が優しい。
    なかでも屈指なのが「十目十指」だ。貧しく、慎ましく生きている夫婦が、周囲の山の手の奥様方から無実のそしりを受けたが、実は、彼らのほうに否があったという。
    なんだか、山本周五郎の作品を読むと、自分の中の姿勢を正される気がする。

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    2018年06月29日
  • 松風の門

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    45年前に出された13編から成る山本周五郎の短編集。昭和15年から39年にかけて編まれた武家物 町人物とバラエティーに富む内容です。時代小説はいつまでも色褪せないので その意味では作り手にとっても取り組み易いジャンルかも知れないけど力量の問われる分野でもありますね、日本人の琴線に触れることが多いジャンルだけに。山本周五郎は安定の作り手でした。

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    2018年06月01日
  • 山彦乙女

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    山本周五郎の先祖は武田家の遺臣であったとのこと。
    武田家再興を狙う一族の密かな動きを探索する江戸幕府の役人、そして柳沢吉保と綱吉のこと、秘密めいた会合、秘密めいた美人姉妹のこと、また、山彦乙女の中でも重要な舞台に使われる武田八幡の風景、主人公安倍半之助と花世とのやりとり、山本周五郎のロマン味あふれる作品でした。

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    2018年04月04日
  • ながい坂(下)

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    ネタバレ

    主人公が城内の密かなクーデターから逃れ、様々な職業に身をやつし、荒れ野での生活に耐え、表舞台に返り咲くまでが描かれる。堰堤を作る、という大志が実行されるところの手前で、あえて物語は終わっている。
    上巻の感想に主人公の性格の誠実さ、と書いたけれど、全編を通してみると清濁併せ呑む人物になっていく姿が書かれていたように思う。物語としては面白かったが、時代柄か、各人物像、特に女性の描き方にはもどかしさも残るところ。

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    2018年03月16日
  • ながい坂(上)

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    ネタバレ

    平侍の子として生まれた主人公が立身出世し、荒れ野を潤すための大堰堤を造ることを志す、という筋の時代小説。タイトルが示すとおり困難が続くけれど、主人公の誠実な性格と、時折、年月を飛ばして描くことから来るテンポの良さで、読みすすめやすい。

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    2018年03月15日
  • さぶ

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    栄二の人間的成長をとおして、
    人間関係の難しさと、自分次第で良くも悪くもできることを教えてくれる、人間物語。

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    2018年02月11日
  • 正雪記(下)

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    油井正雪の乱として授業で習う慶安の変は、教科書的にいうと、大量発生した浪人対策を怠る幕府に対する反抗ということになる。3代将軍徳川家光の時代までの武断政治により改易された藩からは主家を失った浪人が大量に発生、徳川幕府体制をより確固たるものにしたい松平伊豆守信綱はこれを利用し、浪人が果てるのを待つ政策を遂行。これに対し、油井正雪は浪人による徳川幕府の転覆をはかったが、事前に計画が漏れて、実際には乱にはならなかったという事案である。

    教科書では油井正雪が実際何者であったかはほとんど触れられず、浪人を大量動員した測った計画を重く見た政府徳川幕府が、家光の死後、文治政治に展開していくという歴史の流れ

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    2018年02月02日
  • 赤ひげ診療譚

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    映画にもなった作品です。貧しい庶民の苦しさと富裕層の豪奢な生活のコントラストが、医者の目を通して克明に浮き彫りにされます。心に響く作品です。

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    2018年01月26日
  • 山本周五郎中短篇秀作選集 5 発つ

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    「雨あがる」
    同名のあの映画が山本周五郎の原作だったのか。「・・・他人を押徐けず他人の席を奪わず、貧しいけれど真実な方に混じって、機械さえあればみんなに喜びや望みをお与えなさる、・・・」

    「扇野」
    おけいさん、尊敬します!

    「鵜」
    いつも喧嘩ばかりし、江戸から国許へ謹慎となった布施半三郎。謹慎となった身で、毎日川へ釣りに行ってしまう。ある日その川の上流から、女がなにも身にまとわず流れてくる。その日から、ひっそりと二人は会い始める・・・。

    山本周五郎は雑誌の記事で知り、この選集で初めて読みました。江戸時代の町衆の人情や、侍や殿様として生きる姿、様々な階級の女の生活、そして恋情。

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    2017年12月23日
  • つゆのひぬま

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    昭和二十年初頭から三十年初頭にかけての周五郎の作品集です。
    周五郎さんが大きく脱皮するのが二七年頃といわれていますので、それを挟んだ数年になります。幾つかの作品は脱皮前とは言うものの、その中でも優秀な作品が選ばれているのでしょう、全体としての質は高く感じられます。
    とはいえ、やはり後ろに行くほど、例えば”水たたき”などの作品は、構成も複雑で、物語としての深みは増すようです。

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    2017年10月30日
  • 四日のあやめ

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    武家もの中心の構成です。
    印象に残るのは”契りきぬ””四日のあやめ”あたりです。
    そして”燕”。僅かなページに様々な場面を埋め込み、発散した感もありますがそれでも読ませるのは、流石に周五郎円熟期の作品です。
    周五郎、連続5作。まだまだ続けられそうですが、このあたりで終わりにしましょう。

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    2017年10月30日
  • 深川安楽亭

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    初期作品から、周五郎の最後の完成作品である「桝落し」まで満遍なく収集された短編集です。全体の出来は中の上くらいでしょうか。
    こうして初期から後期までの作品を並べられると、山本周五郎が成長しつづけた昨夏であると良く判ります。一つの作品を読むと、それが何時頃書かれたものなのか、想像がつくようになります。初期の作品群には、やや修身的な色合い、説教臭さのある作品が集められています。これらの作品は直線的で、底が浅い感じがします(後期に比べてですけど)。それに比べ後半の作品は、流石に重厚感があります。ただ暗い色調なのが残念なのですが。

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    2017年10月30日
  • 寝ぼけ署長

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    ま「赤ひげ」の現代版とでも言いましょうか。
    主人公は警察署長。所長室でいつも居眠り。貧民を愛し、権力の横暴を憎む。
    実は、読み始めて直ぐにガクッと来た。こんなんミステリーじゃない。稚拙で我田引水のトリック。やっぱり周五郎の現代mの野には手を出すのじゃ無かったって。
    でも読み進むうちに、やっぱり周五郎なんですよね。かなり青臭いけど、人情味に溢れて。古臭さは否めないけど、なんかホッとする小説を読めました。そんなこんなで星4つです。

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    2017年10月30日
  • 赤ひげ診療譚

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    17年秋にBSプレミアムで船越英一郎、中村蒼でドラマ化。赤ひげって話は前から知ってたけど、読んだのは初めてで、赤ひげが主役と云うより登の成長物語って初めて知った。

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    2017年10月22日
  • 栄花物語

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    山本作品はどれも面白い。この時代にはその子のような存在が武家の娘としていたのか?
    何にしても人間を生き生きと描写する山本作品は素晴らしい。

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    2017年08月23日
  • おさん

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    文章の巧みさが流石です。
    特に『偸盗』の文章が秀逸です
    一人称で語られている物語が、まるで上質な狂言をみているように思われてきました。
    『青竹』、『饒舌り過ぎる』もしみじみと心に染み入りました

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    2017年07月17日
  • あとのない仮名

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    表題の「あとのない仮名」の印象が強くて他を忘れる。

    周五郎作品は主人公に辛く当たって最後に解放するというカタルシスのようなものを用意していることがわりと多いのですが、この作品はそうしたポイントがない。

    世に拗ねた主人公であることは珍しくないけれど、その拗ね方に隙がない。一定の境地に達した完成された諦観を持っていてその拗ね方に、寂しさと不安を感じる。

    この作品は周五郎の最晩年の作品らしい。
    最晩年の作品として他に「おごそかな渇き」も読んだけど、あれもざわっとする読後感の強い作品だった。

    あれだけ労働讃歌のような作品を多く残している周五郎の最晩年の作品で、そこへの諦観をこれだけ鮮やかに描く

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    2017年06月05日
  • 一人ならじ

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    テッパンでおもしろい山本周五郎大先生の短編集のうちの一冊.
    今回は「黙々と働く名の知れぬ市井の人が如何に偉いか」という話が多かった気がするが,充実しているのは戦後に書かれた後半の「柘榴」「青嵐」「おばな沢」「茶摘は八十八夜から始まる」の4編だ.

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    2017年04月09日
  • ながい坂(下)

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    読み終わってうん、そうだね「長い坂」だったね。と思う。
    主人公「三浦主水正(もんどのしょう)」が階級は低いが、志を胸に幼少の頃から学問に励み、周りからも認められ、藩の中で自分の役割を大きくして行く話。
    最初はシーンの切替が多く登場人物が覚えられないのと、淡々と下積み話で読みづらいが、藩の仕事に携わってからはぐいぐい話に引き込まれる。しかし、つらい時期の話も長く、志高く生きるのは強い我慢が必要だよなとか、私も今のプロジェクトがうまく行っていないので、耐え忍ぶ時を共感する。
    本著者は派手に良いという感じではなく、物語を積み上げ後半しみじみいいねと思わせる系話を書くのだねぇ。ラストも良かった。

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    2017年04月04日
  • 栄花物語

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    『樅の木は残った』と言い、どうしてそこまで体制維持に腐心するのか理解できない面は否定できないが、本当に愚劣な、もとい正確を期せば「犬」のように世に阿る人間への怒りがこの作家を支える骨の一つかと。田沼意次を軸に据えるというのは余程性根が座っていないと出来ない芸当、かつ締め方も苦渋に満ちていて、この作家はどこまでも底を見つめ続けていると思われ。

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    2017年02月25日