山本周五郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
初めての山本周五郎、堪能できた。
田沼意次の政治を善しとして、逆に白河侯、松平定信を復古を目指す悪として描き出している点に特徴がある本作。
しかし、青山信二郎と河合(のち藤代)保之助を主人公(だと僕は解したい)として物語は進んでいく。この二人は「その子」という女性に人生を翻弄され、はじめは信二郎と「その子」が愛人関係にあったのだが、保之助が「その子」の婿に来たことにより、関係が引き裂かれてしまう。
保之助が藤代、つまり「その子」の家に婿に来たのは、田沼を糾弾するためであった。しかし、調べれば調べるほど、田沼の政治は良い政策ばかり。保之助は裏切りを決意する。
「その子」は自由奔放な性格で、いやなことはしない、という女性である。保之助という良人がありながら、浮気を重ね、それが保之助を苦しめることになる。
信二郎は、戯作家として、田沼を糾弾する小説を書いて大ヒットした。
この3人が核となって、物語は進んでいく。それぞれの人物の結末というか顛末についてはみなさんに読んでもらうことにして、一つだけ書いておきたい。
信二郎は、「その子」が保之助を迎えることになったとき、「その子」に言った。「自分の好ましいように生きる勇気がなければ、人間に生まれてきた甲斐がない」と。
それを物語の最後で再認識し、信二郎が「その子」を褒め称えている場面は山本周五郎作品の魅力を結集したところであろう。
田沼を核とした政治小説かと思ったが、これは人間ドラマである。 -
Posted by ブクログ
「さぶ」に続いて周五郎の作品は二作目です。
以前レビューを書いた「さぶ」が長編だったのに対し、こちらは短編集です。
面白かった。
うん、イヤ本当に面白かった。
何が面白かったんだ、って話ですが、本当に小説としてすごく面白かったんです。
なんだろう、うまい、とでも言えばよいのでしょうか。
何か文句のつけようがない、というか。
小説家の「うまさ」にも色々あると思います。
山本周五郎を評しては良く、ヒューマニズム、という言葉が使われるのを見るのですが、
その本質というか、根っこの部分がまず本当に面白い。人間の色んな感情、心の機微とでも言うのでしょうか、そこに共感したり、引き込まれたり。
そしてそれだけじゃなくて技術もすごい、と感じました。
武家物も町人物も、そして時代も自由自在。
滑稽物もそうでないシリアスな(それこそヒューマニズム的な)物も含まれてて。
三人称を基本としながら、一人称の手紙文を中心に据えてみたり、短編の立て方も多彩。
昔読んだ小説はこれと組み方が一緒だったんだな、とまぁそれが周五郎が発明したものなのか、もっと昔に誰かが発明したものなのかは分かりませんが、こういうプロットの立て方なんかも技なんだななどと、なるほどと思うとこがたくさんありました。
個別には、どれも面白かったので難しいですが、考えをめぐらせたのは「城中の霜」
幕末、その嵐のような時代の中で、切腹を命じられ志半ばで果てた志士、橋本佐内。
死に際、散り際の美学が強調される日本においてその死の意味を、苦しみを、客観的にそして想像的に描いたのはすごい。しかもそれが戦前の作品。
きっと混沌とした時代状況の中で体制や大衆に対する意見表明としての意味も持つんだろうなぁ。小説家ってのもホントにすごい職業だ。
表題作でもある「日日平安」は雰囲気も明るく、最後の主人公の葛藤なんかは非常に人間的で、とても面白かったのですが、今これを書くのに他の人のレビューを読んで愕然としました。
映画「椿三十朗」ってこれを映画化したものだったのですね。
主演の彼に負うべき責めが全くないのは重々分かっているのです。
分かっているのですが、それでも周五郎がユーモラスに人間像の真実を描き出す作家であるならば、映画を見る気がおきないどころかその事実を知っただけで多少げんなりとしてしまった、というわたくしの感情もまた悲しくも隠すことのできないユーモラスな真実なのです。 -
Posted by ブクログ
私にとって一昨年11月以来久しぶりの山本周五郎氏の小説。読み始めからもう山本氏の世界引き込まれてしまいます。11編の短編どれをとってみても珠玉いえる。男同士の友情を描く『三年目』や『秋の駕籠』などは『さぶ』を髣髴させる話だ。
驚いたのは表題作『人情裏長屋』だ。めっぽう腕のたつ浪人・松村信兵衛は裏長屋住まい。金の入り用があると「取手呉兵衛」と名乗って道場破りをして金を稼ぐ。あっ、これは今から三十数年前、私がまだ中学生か高校生の頃にテレビでやっていた時代劇『ぶらり信兵衛道場破り』ではないか。高橋英樹が主演、信兵衛役でした。普段は贅沢をせずこつこつと仕事をしてつましい生活をしている信兵衛が、困っている他人を助けるためにまとまった金が入り用になると道場破りに出かける。信兵衛はめっぽう剣が立つので道場の門弟をつぎつぎ薙ぎ倒してしまう。いよいよ道場主との手合わせという段になって、最初は力の差を見せつけ道場主を追い詰めるのだが、そこで勝ってしまわず道場主がいまにも「参った!」という寸前になって逆に信兵衛が「参った!!」と言ってわざと負けてやり、あとで袖の下を頂戴するという筋書きであった。そうか、山本周五郎氏の小説がベースになっていたのか。三十数年たって初めて知りました。そういえばそんな浪人・信兵衛に岡惚れするおぶんちゃん役の武原英子の可愛かったこと。なんとも微笑ましく味わい深い時代劇でした。YouTubeで検索すれば少し視ることが出来るようだが、DVDは無いのかな。是非もう一度視たいものです。
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Posted by ブクログ
6年ぐらい前に友人から薦められた。今年の始め、本屋でふとそのことを思い出して探してみたらあったので買ってきた。
表題作の「おごそかな渇き」を一番最初に読んだ。書きかけで絶筆となった作品。テーマが深くそれだけに残念だった。
西洋文学に深くはまり込んでいた自分にとって、日本が舞台の小説は、特に古びた日本の背景は、何となく受け付けなくて、「おごそかな〜」以外はずっと手をつけずに机の上に置きっぱなしにしていた。ある折に、ふと読み始めた所ぐいぐいとひきつけられて、忙しい仕事のあいまに少しずつ読み進めながら気付いたら読み終わってしまった。ものすごく良かった!
近代化が進むそれ以前の日本。人の心、言葉が今よりもずっと重みがあった時代。言葉にしてしまうと心が決まり、環境がそのように動き出す。自分のする事に責任を強く意識していた時代。今よりもずっとずっと人の心が単純で深い時代があった。そんな時代に生きたことがない自分だが、この小説に懐かしさを感じるのは、今も昔も変わらずに人の心にある純粋な思いが現れているからだろう。
「かあちゃん」「鶴は帰らぬ」「あだこ」がよかった。「紅梅月毛」「しょうしょう十三年」も良かった。他の作品も良かった。山本周五郎、大好きになった。
08/7/29 -
Posted by ブクログ
大衆小説を扱っている色々な雑誌に掲載された短編を集めたものです
内容がすばらしいです。特に文章が巧妙だったり、ストーリーに意外性があったりする訳ではありませんが、非常に好意の持てるキャラクターと人間味あふれるストーリーに惹かれます。「惹き付けられる」といった強い感じではなく、ふわふわと、「あぁ、うまそうな匂いだなー」みたいな(解かりにくいかなあ...)
実際の世の中に、この本の中に出てくるような人はそういないとは思いますが、別に作者は楽観的な、または安易な考えからそのような人物を登場させたのではなく、そこに彼の希望やメッセージを託したものだと、僕は思いました