半藤一利のレビュー一覧
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"一定の史観で書かれている歴史は歴史ではない"を体現している。相反する意見でも、2つの意見を理解し、噛み砕いた説明をした上で半藤さん自身の意見を述べている。偏った歴史観で通史を知りたくなかったので、個人的にありがたかった。講義調子で話が展開していくため、頭にスッと入ってくる。
戦後篇は半藤さんが社会の一員として生きてきたからか、言葉に魂が感じられる。その上、実体験から来る個人の感覚、感情が現実のものとして伝わる。
度々、『戦争は儲かる』という文言が出てくるのが印象的。朝鮮戦争の特需でとんでもない上昇気流に乗った日本経済は、多くの犠牲の上で成り立っているという事実から目を背けてはならないと感じた。
改めて歴史は多くの学びを我々に与えてくれる。通史を知ることで、1つの出来事を複層的に見られる。1つの出来事を追うことと、通史を学ぶことの往復が学びに深みを与える。 -
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ネタバレ「草枕」読後、もう少し漱石さんに入り込んでみようと思い、本書を手に取ってみた。これは半藤氏の漱石話に特化したエッセイで、買った当初もチラチラとつまみ読みをしていたが、途中で「やっぱり漱石の作品を読んでみてから楽しもう」という考えがよぎり、それから書棚に「積読」となっていた本だ。ちょうど、「草枕」を読み終わったばかりなので、絶好のタイミングと思い再度手に取った。
著者の半藤一利氏は、その奥様(末利子さん)が、夏目漱石のお孫さん(漱石の長女・筆子さんの娘さん)という、漱石とは非常に密な関係にある作家ゆえ、漱石の作品については相当にお詳しい。しかも、「歴史探偵」との異名を持たれているほど、歴史(特に昭和史)にはお詳しいだけでなく、その探偵としての推理・探求力が抜群に魅力的な方だ。
本書では、漱石の代表作をいくつも取り上げ、その小説に出てくる文章の背景にはなにがあるのか、その謎解きの数々がエッセイとして綴られている。その他、木曜会のエピソードを初めとする数々のエピソードや、漱石と付き合いのあった文人たちとの会話の様子の紹介、漱石という人の49年の人生とその人となりが暴き出されていく。
全ての探求が面白く、これを読むとまた、再び漱石の作品をイチから読みたい気分になってくるが、今回は特に「草枕」に関する記述について、興味深かったところをちょこっと触れてみたいと思う。
最初のほうに、「『草枕』は俳句的小説である」という漱石の自解が紹介される。「草枕」の発表は1906年(明治39年)で、漱石39歳の時の作品だが、それまでの若き日に俳句づくりに傾倒していて、松山・熊本時代には1500句あまり詠んでいたという。
この俳句を小説にとりこんで、ただ本文の中にいくつかの俳句が出てくるというのではなく、文章全体に、過去に作った俳句を隠し味として盛り込み、「美を生命とする俳句的小説」を書こうとしたというのが、探偵の推理だった。実際にその隠し味の種明かしもされているので、その通りだと思う。
もう一つ、後半で紹介されていた裏話は、これまた半藤探偵ならではの非常にマニアックなエピソードだった。「草枕」発表の1906年は、まさしく日露戦争終結の翌年であった。
この頃の日本は、亡命者も含めたくさんの中国人留学生を受け入れており、その中には「日本を手本にして新国家を建設しよう」と考える孫文をはじめとした、のちの辛亥革命の担い手たちが数多くいた。そして日本人にも、そういう中国の若者たちの活動を一生懸命応援する人たちがいた。
そういう中国の革命同志たちの面倒をよく見、自宅までも活動拠点として開放していたくらいのすごい日本人に宮崎滔天という人がおり、その奥さんのお姉さん(義理の姉)に前田卓子(つなこ)さんという人がいて、その卓子さんも「革命おばさん」と呼ばれながら、一生懸命応援活動に取り組んでいた。
その前田卓子さんこそは、実は漱石が熊本時代によく遊びにいっていた熊本の前田温泉の別邸・小天温泉の主人の娘で、漱石自身は前田卓子さんの消息を知り、すかさず温泉通いのシーンを小説に取り込んで、前田卓子さんを小説のヒロイン・那美さんとして描いたのだと、つまり「草枕」の魅力的なヒロイン・那美さんのモデルになったのがこの前田卓子さんだったと探偵は突き止めている。
「草枕」から全然話はそれてしまうが、歴史探偵の異名をとる半藤氏は、この宮崎滔天氏や前田卓子さんの活動を称賛する反面、この時に日本政府が開始した「中国人排斥、留学生を取りしまる法律の制定」などを「お粗末」と述べていた。のちに孫文によって中華民国ができたときには、日本人への感謝などはなくなってしまっていただろうと。
民衆どうしの温かい交流を政府がぶっ壊す・・・何か、ごくごく最近目の当たりにしている情勢と似てはいないかな?(個人的感想)。 -
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ネタバレ大事件の前には、かならずいくつかの小事件がある。
歴史の転換は、突如始まるものではない。
226事件が、のちの政府首脳の判断に落とした影。
陸軍内部のメンツだったり、予算どりだったり、内部事情を国家的大判断の優先的検討事項にしてしまったり。
信賞必罰が徹底されず、大損害を出した司令官が、威勢のいいことを言うことで(中身は伴わないまま)出世したり。
のモンハンで火力不足は十分認知されていたはずなのに、それがあいまいなまま、より大きな戦争に突入していく…
なんとなくの流れで、ずるずると悪い方へ悪い方へ、流れてしまった1939-1945年。マスコミも煽っていて、はじめは(40年代前半は)戦争だ、日本の勝利だ、と国民皆が思っていたという。。。それが、兵力火力の依拠するところもないから、文字通り坂道を転がり落ちるように悪い方へと。
誰かが止められなかったのか。
政策決定の渦中だと、ある意味内輪の議論に覆われるのかもしれない。せめて自分は中立的なものの見方をしたいと思う。
昭和天皇の、玉音放送前、8/9午後の御前会議の言葉に、図らずも朝の通勤電車で涙があふれてしまった。
閣議メンバー以下は、決められない。そんな状態の中で、天皇陛下が、各々の立場に寄り添いつつも、最後は日本という国を、子々孫々にのこすべき、という立場からの決断。ある意味無私。
…これ以上国民を塗炭の苦しみに陥れ、文化を破壊し、世界人類の不幸を招くのは、私の欲していないところである。私の任務は祖先から受け継いだ日本という国を子孫につたえることである。今となっては、一人でも多くの国民に生き残ってもらって、その人たちに将来ふたたび立上ってもらうほか道はない。
もちろん、忠勇なる軍隊を武装解除し、また、昨日まで忠勤を励んでくれたものを戦争犯罪人として処罰するのは、情において忍び難いものがある。しかし、今日はしのびがたきをしのばねばならぬときと思う…私は涙をのんで外相に賛成する。」 -
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戦時下に発せられた名言、そして、むしろ許しがたい言葉にこそ、日本人が忘れてはいけない教訓が詰まっている。
なかでも強く印象に残ったのが、「バスに乗り遅れるな」という言葉。
当時、ドイツ軍がヨーロッパで快進撃を続けるなか、今こそ日本もこの勢いに乗るべきだという空気を象徴したスローガンだった。
戦時下の日本において、なんと日本人は熱狂したことか。そして一度燃え上がった熱狂は、それ自体がまるで正しさであるかのように力を持ち、人々を引っ張り、押し流していく。
みんなが同じ方向を向いていると、自分だけ立ち止まるのは難しい。バスが出てしまう!と言われれば、行き先を確かめる前に飛び乗りたくなる。でも、本当にそのバスに乗るべきなのか。そもそも、どこへ向かうバスなのか。
国民的な熱狂に流されてはいけない。時の勢いに駆り立てられてはいけない。
東京大空襲を経験し、命からがら生き延び、その後、昭和史を研究し続けた半藤一利さん。
90歳を迎えた彼が最後に伝え遺そうとした本作。
繰り返し読み返そうと思う。
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まさに、知の巨人と言われるお二人の対談。令和の年間は、確かに日本では戦争がない時代ではあったが、海外に目を向けてみると大きな変化があり、その一方日本の経済力は明らかに低下し、日本人が自信を喪失し続けた時代でもあった。それに輪をかけるように、災害や、また私たちの心の中に重い影を落とした宗教の問題、オウム真理教の事件などが立て続けに起こった時代でもあった。
読み進めていても、明らかにその時の記憶が甦り、その時代背景を筆者らが解説されることで、今までに知らなかった事実や解釈を理解することができた。最後に語られていた正しく歴史を理解することの重要さを改めて感じた。 -
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知らなければいけないこと、薄っすら知ってたけどそういうことなのかと色々知識が深まりました。
特に二二六事件の内容はとても興味深かったです。
昭和史には切り離せない天皇のこと、憲法第九条も、今こそ知らなければならないと。
まずは歴史をちゃんと知ること、それが政治判断政治参加にもなっていくことを実感しました。
❶昭和金融恐慌
❷二二六事件
❸大政翼賛会と三国同盟
❹東京裁判と戦後改革
❺憲法第九条
❻日本初のヌードショー
❼金閣寺焼失とヘルシンキオリンピック挑戦
❽第五福竜丸事件とゴジラ
❾高度経済成長と事件
⑩東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件 -
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ネタバレ戦後から現代にかけてぼんやりと把握してる程度の知識を改めたいと思い、本書を読みました。原則事実ベースではあるものの著者の主観で書かれているため"その時代の感情”を知ることができました。
読み始めはその当時の軍人も政治家も誰もが、自分の命がかかっている場面でさえ、天皇の身柄がどうなってしまうのかに全神経を集中させていることが正直不思議だったのですが、最後のこぼればなしの章で伏線回収されました。公式に発表されてることではないようなので著者の予想の域をでないのですが、確かな根拠を元に書かれていたので、説得力がありました。学校では習わなかった歴史観を一気に注入して衝撃を受けているため、まだ自分の中で整理がしきれていないのですが、世の中のことを学び続けて行く上で、この本の歴史観を軸にしたいと思っています。 -
Posted by ブクログ
今更読んだが、非常に良かった。さすが半藤さん。幅広い記述(局所的な戦闘から独ソの交渉まで)を自由自在に行き来しながら、月ごとにイベントを辿る形式は頭に入りやすかった。淡々としすぎず、ときに半藤さんの抑えきれない怒りが記述されているのも良かった。
特に印象的な箇所 (p363):
「ドイツ国防軍の将星のほとんどが、長いあいだのヒトラーへの阿諛追従や無抵抗従順になれきってしまっており、まともな判断力を喪失していたかのように思われる。強力な独裁者のもとでは良識や常識は不必要であり、必要なのはいつでも保身のための判断停止という手続きなのである。」
政治家や官僚に対しても同じことが言える国が、多くあるように思う。